ギルドに来てからあったこと

ギルドに来てからあったこと

石井萌美

「住人のもえもえと申します。よろしくお願いします」


初対面の冒険者にはこう挨拶する。ギルドに馴染んでいるようにみえるからか、ここに住んで長いんですかと聞かれることもあるが、まだ1年経っていない。 


昨年の9月20日、私はギルドハウス十日町に足を踏み入れた。

度重なるパワハラや会社の寮から出ろと言われたのをきっかけに、退職を考えていた時に、いつかテレビで見たギルドというものを思い出し、見学に行くことにした。ギルドマスターのハルさんに事情を説明し、来年の1月からここに住みたいと言って部屋を見せてもらった。愛さんにヘクサ(カメムシ)は大丈夫か聞かれたり、マーリーさんからケーキを一欠片もらったりした。 2時間ほど滞在し、家に帰ったあとにニュースを見たら十日町情報館の特集をやっていて、私が好きな本の実写版のロケ地だということを知った。


ギルドに住むかどうかは悩んだが、2年前にパワハラで会社に行けなくなり、水のはっていない浴槽で死を考えたときに、こんなことで死にたくないな、好きなことをやってから死にたいと考えたことを思い出した。

どこでも自分の好きなことはできるのかもしれない。でも、楽しいほうがよいのだ。私はギルドハウスが面白そうだと思った。理由はそれで十分だった。


引越しに手間取り、住み始めたのは2月のはじめだったが、豪雪パーティー、十日町雪まつり、津南雪まつり、豪雪JAMの中の豪雪WARなどの手伝いをしていたら、あっという間に時間が過ぎていった。

あまりに寒すぎて、なんでここに来てしまったんだろうと考えた夜もあった。しかし、私はここに来ることを選んだのだ。仕事を辞めたからどこへだって行けた。それでも、ギルドハウス十日町に来たのは自分だ。これから起こる辛いことも楽しいことも自分が選んだ結果だから、何でも納得できると思えた。


ギルドハウスはなんでも受け入れてくれる場所だと思う。いろんな考え方を持つ人間が同じ家で暮らしている不思議な空間だ。

ギルドハウスは誰も否定しない。

私は今までオタクであることで、色々と言われてきた。

母からはオタクをやめて早く結婚しろと言われ、弟からはまだそんなアニメ見てるのと言われた。私を馬鹿にするのはいいけどアニメを馬鹿にするなと思った。

その点、ギルドハウスは私にとって安心安全である。ハルさんもまちこさんもアニメを観るからだ。

まちこさんは漫画が好きで、ギルドにはたくさんの漫画がある。

オタクでも何も言われない。それは私にとってありがたいことだった。

オタクはやめられるものではない。母よ、恨むなら私の名に萌の字を使った父を恨め。


料理をするのが好きかもしれないと気づいたのもギルドに来てからのことだ。13年間スーパーの惣菜、寿司部門で働いていたものの、家ではほとんど自炊をしなかった。

ギルドではお昼と夕ご飯をみんなで食べるので、自分たちで作る。お昼はいるメンバーで作り、夕ご飯は作る人が3人いれば洗い物に回る感じだ。

ギルドにある食材でどんなメニューがいいかをネットで見たり、フィーリングに任せて作るのは、けっこう楽しい。自分の作った料理を食べて、おいしいと言ってくれるのが嬉しかった。

料理が好きなら給食センターで働くのも良いかもしれないと思って求人を探したら、認可こども園の給食調理員の仕事を見つけた。

面接に受かって、11月からそこで働いている。100人以上の給食を作っているので大変だけれど、おいしいお昼ご飯とおやつが食べられるし、とてもいい職場だ。

ギルドに来なければこんなに料理することはなかっただろうし、給食調理の仕事に就くこともなかったかもしれない。自分のやりたい仕事が見つかって本当に良かった。

はなまるオムレツ
ハルさんの誕生日に握ったお寿司



来年も、ゲームをしたり舞台を観に行ったりと趣味を楽しみながら、自分なりに生きて行ければいいなと思う。先のことはわからないけれど、しばらくギルドに住むつもりなので、これを読んだ冒険者がギルドに来た時には、冒頭の台詞でお出迎えしますね。

Report Page