ギラギラした邂逅

ギラギラした邂逅


「アハハハハハハハハ!アハハハハハハハハ!」

麦わらの一味の歌姫ウタは己の境遇を思って笑っていた。

街ゆく人から白い目で見られてる事も関わらず笑っていた。

歌姫に何が起こったのかは数分前に遡る


新世界を航海中の麦わらの一味は立ち寄った島である話を耳にする。

それは"偉大なる航路"で人気の流浪歌手『アップル・シーナ』がこの島でサプライズライブを秘密裏に行うという話だった。

その話を聞いてライブを観に行きたいと浮き足を立っていたウタだったが、その後の街の散策でルフィが福引でライブの入場チケットを手に入れたのだ。

夕飯のおかずやデザートをお裾分けするから譲って欲しいとウタはルフィに頼み込むが、元よりシーナには興味もなかったルフィはあっさりとチケットを渡し受け取ったウタはここ最近で一番大きな歓喜の悲鳴をあげる。

そうして普段は独特な私服のセンスを持つ彼女だが今回は気合いを入れた装いをしてライブ会場に向かうが会場入り口で事件が起こる。


(もうすぐだ...もうすぐアップル・シーナの生歌が聴けるんだぁ...!)ソワソワ

「次の方チケットの提示をどうぞー」

「あ、はーい」

ウタが入り口でもぎりを行っているスタッフにチケットを手渡そうとしたその時。

パシィッ!

「...えっ?」

ア-ホ-ア-ホ-

何と突如現れた海鳥がウタのチケットを奪っていきそのまま飛び去っていった。

「...はっ!?ちょっ!ちょっと待って!ドロボーーー!!!」


「はぁっ...はぁっ...はぁっ!」

ウタはチケットを持った海鳥を見聞色を頼りに必死な追跡を行う。

「くっそー...!空を飛べればあんな奴あっさり捕まえられるのに!」

だがそれは出来なかった。ライブ会場に向かう前ナミから近くの島に海軍の船が停まってあるのを確認した為目立った行動をするなと口をすっぱくして言われたのだ。

「この...止まれって言ってるでしょおおお!!」

...!ア-!ア-!

ウタの気迫に驚愕したのか海鳥は掴んでいたチケットを手放しチケットはヒラヒラと落ちていく。

「しめた!うおぉぉりゃぁぁぁ!!」

もう二度と離さないといわんばかりにウタは飛び上がって舞い落ちるチケットを掴み取ろうとした...が。

彼女の不幸はまだ終わらなかった。

ビュオオオオォォォォォ!!!

「うっ!?...ブェェッ!」

突如横から強風が吹き抜け驚いたウタはそのまま地面に激突する。

「痛たた...あれ、チケットは?...え!?」

手元にチケットが無かったウタは必死に辺りを見渡したがチケットは小さな焼却炉の入り口に吸い込まれるように...

「待っ...!」

そのまま綺麗に入り込み煙と灰の姿に変わったのだ。

〜〜そして現在

「ふっ...ふへへ...どうせ私は不幸な女ですよぉ...」

ひとしきり笑ったウタは服に付いた土埃を払ってサニー号に戻ろうとしていく。

「もう...帰ろ」トボトボ

「アッ...あのー...」

「へっ?」

誰かに呼び止められたウタはふと振り向くとそこにいたのは黒一色で染まった髪色とコートをたなびかせる美女がいた。

「もし良かったら...これ...差し上げます」

「! これって!」

美女が差し出した手にはシーナのライブチケットがありウタに手渡そうとしていた。

「あの...貴女がチケットを失くしたのを見てしまって...連れが来なくなったので余ったやつで良ければ...その」

しどろもどろでウタに話しかけていた美女であるが会話の途中でウタは美女に抱きつく。

「わぶッ!」

「あびがどう〜!あびがどう〜!」ウォ-ン!!

「く、苦じい...」



〜〜ライブ会場

「いやぁ〜開始時間に間に合って良かったー!」

「オ...ウオォ...ひ、人混みがすごい...」

「人混みが苦手なの?それでもライブに行こうとするなんて貴女シーナが好きなんだね」

「え、えぇ。アップル・シーナは私の尊敬してる歌手なんで...彼女がいなかったら私は歌手活動をしてないと思います...」

「え、貴女歌手なの!?偶然!私も一応歌手やってるんだ!良かったら後でお互いのTDを交換しない?」

「...!あ、はい。私ので良ければ...」

キャ-!

「あ...」

「見て、ライブが始まる!キャ〜シーナー!!!」


「〜♪〜♬〜!」

「「「「「「ウワァァァァ!!!!」」」」」」


〜〜〜

「ただいまールフィ!」

「お、帰って来たなウタ。ライブ?は楽しかったか?」

「うん!もうほんっっっっっとうにすごかったから!シーナの歌を生で聴けて良かったよ!...それに」

「それに?」

「実はそのライブで私と同じ歌手をやってる人と知り合ってね、その人のTDを貰ったんだけどとても良い曲なの!後でルフィにも聴かせてあげる!」

「へーお前が褒めまくるなんてそいつすげーんだな、何て奴なんだ?」

「えっとね...あっ」

「どうしたウタ?」

「...そういえば名前聞くの忘れてた」


〜〜〜

「...ただいま戻りました艦長」

「おかえりなさいAdoさん、話題の歌手のライブはどうでしたか」

「えぇ、とても充実したライブでした。...それに興味深い方とお会いできましたしね」

「それは...どういう人で?」

「ウタです」

「歌?」

「歌う方じゃありません、人の名前です」

「人の名前?...ま...まさか!?」

「...はい麦わらの一味の歌姫ウタ、彼女もアップル・シーナのライブに訪れていました」

「何という事だ、おい!直ぐに港と周辺海域に警戒網を!」

「無駄ですよ少佐、彼女によればライブが終わり次第直ぐに出発すると言っていました。もうこの辺りに彼らは居ません...」

「Adoさん...何故拘束しなかったんですか?Adoさんなら例え四皇の船員が相手でも」

「...それを実行するなら当然向こうは抵抗してくるでしょう。一般市民が大勢いる中で戦闘すれば死傷者も出てしまう...無関係な犠牲を前提にした戦いを私は好みません」

「そ、それはそうですが...」

「...それに」

「それに?何です?」

「...懸念点として彼女は赤髪のシャンクスの娘だという事です、...もし彼女を捕縛すれば麦わら大船団だけでなく赤髪海賊団もウタ奪還に動く危険性がある事...今の世界情勢から考えて四皇2人を敵に回す事態に発展しかねない状況を私個人が決めれる事ではありません」

「...なるほど。浅はかな発言をしたことを深く反省します」

「いえ...大物海賊は見かけ次第直ぐに対処しようとする艦長の姿勢は間違ってませんよ」

そう言いながら艦内に割り当てられた部屋に戻る女性の背を艦長は敬礼しつつ見送っていく。


部屋に戻ったAdoは【正義】の二文字を抱えたコートを着つつウタとのやり取りを思い出していた。


『すっごい...貴女の歌すごく上手!ううん、ただ上手なだけじゃない。聴いた人をまるで貴女の世界に引き入れちゃう...そんな力を私は感じるよ!』

『私は自分の歌でみんなが自由で幸せに過ごせる新時代を作っていくのが夢なんだ。どれだけ大変な事かは分かってるけど時間をかけながらいつかやり遂げるつもりだよ』


「...聞いてた話と違って案外良い人でしたね」

Adoは本棚の要注意海賊リストの中からウタの手配書を手にする。

"麦わらの一味 歌姫 魔王ウタ"

懸賞金11億489万の高額表記に加え、大胆不敵な笑顔と共に政府,海軍の上層部に伝達されてる古の魔王【トットムジカ】の力を制御したであろう漆黒の指揮者服を身に纏っていた。

「...叶うなら貴女とは敵として出会った方が良かった」

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