キンドレ
キンドレと言えるのかさえ怪しい
ただキングがドレークを拷問しているだけ
痛い描写あり
裏切り者は普通に拷問して殺すけどドレークの苦悶の表情を見るのはやぶさかではないキングっていいよな
暗闇にぽつりと浮く灯りが揺れている。ぐらぐら、ふわふわ。ずっと眩暈がしていた。
右の方から金属の擦れる甲高い音が鳴る。鋭く、赤褐色をした音色が内耳を震わせた。得も言われぬ不快感に思わず鼻に皺が寄る。
その顰めっ面に気づいたのか、目前に屹立する人物が吐息だけで笑った。
「退屈そうな顔だ。足りなかったか」
見え透いた皮肉にドレークの眼光が鋭くなる。その眼力の下では両手が冷たい椅子の肘置きに縛られている。指は爪が剥がされ、骨はもはや粉となり、じくじくと熟れた激痛が痺れと共に蔓延っていた。 先ほどの不愉快な金属音は、ペンチが放られ床に打ち付けられた時のものだった。
「次の拷問を考えるのも楽じゃねェんだがな」
「…、…残念だが、おれは何も吐かねェ」
「──成程」
キングが纏う雰囲気が撓んだのが分かった。堅固なマスクで表情を直接見ることはできないが、どうせ意地の悪い笑みを浮かべているであろうことは想像に容易い。
キングはいくらか離れていた距離をその長い脚の一歩で縮め、ドレークの顎を掴みあげた。人の形をしているとは言えドレークの3倍近くある体格は掌も相応に大きい。ドレークは顎から肩にかけてを拘束されたも同然だった。
ドレークの顔に影を落とし、鼻の先でなんとも愉快そうに歪む両目が恨めしい。凝固した血液のようなそれに高揚を織り交ぜてキングは言う。
「なにか勘違いしているようだが」
「お前が情報を吐かねェからと殺してやるほどおれは優しくない」
汗が頬を滑った。目の前の男の発言は、この状況が永遠に続くことを意味していた。真綿で首を絞めるような暗闇に狼狽するドレークを目敏く感じ取ったのか、今度は声を出してキングが笑う。その振動につられて、キングの顔を覆う堅固なマスクがドレークを嘲笑うように艶めいていた。
「今までの人生が“幸福”だったと気づくのは、本当の“地獄”を味わってからでも遅くねェだろう?」
キングは握っていたドレークの顎から首にかけての圧迫を強めていく。己の手を覆う黒と、血液が鬱滞し徐々に赤く染まる皮膚のコントラストが、キングの目には大層蠱惑的に映った。
「安心しろ お前の父親でさえも可愛く思える日が来る」
なぜそれを、と。問いただそうにも空気が足りない。この男の掌一つで人間は簡単に死ぬのだと、ドレークは肺腑にしみ入って分かった。
足りない空気を求めて横隔膜が引き攣り、酸素の足りない脳が痺れる。意識に靄が広がり、混濁していく。薄ぼんやりとした意識に眼球が上転する瞬間、キングはドレークを開放した。キングの足元に反動で椅子ごと倒れ咳込むドレークを、陸で鰓呼吸を繰り返す魚を見る目つきで観察していた。
「幸いお前の苦痛に歪む顔を見るのは気分がいい…退屈せずに済む。」
嗜虐に塗れた両目の赤に、怪しげな光が揺らいでいた。
「鬼ヶ島で“地獄めぐり”も悪くねェだろう?」
ぐらぐら。ふわふわ。霞む景色とともに、暗闇で揺れるのは希望か、絶望か。