キング視点

キング視点


 まだエッチなのは無いです。カイドウさんが脱走した後の話から始まります。いつかキンカイとノイカイをしたい!

 ちょっと失恋的でキングがずーっと話しています。ノイさんが冷たいのはキングをライバル視しているから、という設定ですが、活かせるかは知りません。このスレに上げるにはちょっとカイドウさんが少ないんですけど、それでも良いよという方はどうぞ!




「回収した物資は仕分けして表に数と名前を記入しろ!」

「「へい!」」


 港に停まった大きな船から、箱やら武器やらを持った船員がぞろぞろと歩く。

 指示をあらかた出し終えた黒ずくめの男は、その様子に満足そうに頷き島の中心へと飛び去った。黒ずくめの男、キングはカイドウに任された仕事を完璧にこなすべく、港に留まらず仮拠点とした島を飛び回る。


 今回は制圧した新しい島の整備をカイドウさんに任された。カイドウさんの右腕になってからずっと一緒に過ごしてきたが、最近は1人で仕事を任されることが多い。キングは一人前として認められていたようで嬉しい反面、心細さも少し感じていた。しかし、弱い部分を見せるよりも強い部分をキングは見てほしかったから何も言わない。

 それが、強さだと思うから。


 当のカイドウさんはいつものように「少し出かける」と酒を持って空の上に飛んでいってしまった。ここら一帯の海域は把握して敵になり得る存在も居ないと踏んだのだろう。カイドウさんは観察眼も優れている。流石だ。


 心配はしていない。いつも通りに帰ってくる。カイドウさんに勝てるやつなんて僅かしかいない。いたとしても、直ぐに起きて帰ってくる。これまでのように。


 キングはそう思っていたのだが、カイドウは一向に帰ってこなかった。


 キングは部下に仕事を振り分けきって、資材を精査する傍ら、カイドウが降り立つ確率が高い広場が見える高台に陣取っていた。

 しかし空が茜色になっても、来たのは白黒の服を着た丸男だけ。


「カイドウさん…遅いな」

「もう日が暮れるってのにな」

「今日は焼き魚なんだが…能無しがいるから嫌気が差したんじゃないか?」

「んだとー!?テメェはいつも一言余計なんだよクソガキ!まあ、1日くらい帰らねぇ日もあっただろ?そんなヤキモキしてんじゃねぇって」

「してない」

「…ふーん?」


 クイーンは貧乏ゆすりみたいに羽をはためかせているキングを見た。


「黙れハゲメガネ!!」

「何も言ってねーよ!!ハゲじゃねェし!!」


 日も沈みだす頃、海王類を捌いて焼いて、他にも季節の果物やらチーズやらが並べられた広場。各々固まって食事を楽しむのを横目に、キングは今は居ない大きな背中を思いながら海王類の塩焼きを口に運んだ。カイドウさんは酒に合う料理が好みのようだからと、いつからか定番に成りつつある塩気の濃い味付け。それがいつもよりしょっぱいような、薄味のような気がした。


 その頃クイーンは下っ端と踊っていた。


 朝になる。キングは太陽が姿を見せぬまま空だけ明るくなって世界が数分間、透き通るような青に染まる瞬間が好きだった。そこにカイドウさんも居れば完璧だったが、居ない。電伝虫も部屋に置き去りにされているのを確認したので連絡手段も絶望的だった。


「カイドウさんまだ帰ってこないのか…」

「もうそろそろ腹減ってんじゃ…いや飲まず食わずで三日三晩暴れまわってたことあったらしいしな」

「カイドウさんは最強なんだ。おれらの想像の遥か先を行くのは当然。能無しだから無駄なことを考えるのか?」

「生意気極まりねぇなぁおい!カイドウさんが最強なのは分かってるっての!」

「ふん」


 今日は特に何も予定がなかったので部下をしごいた。こんな弱さで百獣海賊団だと胸を張られても困る。捕らえたやつらへの拷問も忘れない。カイドウさんのことを考えて意識が少しとんでいたのか、今日は少しやり過ぎてしまった。へなちょこばかりなのが悪い。


 血が付いた手を燃やす。洗うよりよっぽど早い。…カイドウさんは今、どうしているのだろう。


 帰ってくるなら空からだろうと、島で一番高い山の上に来てみた。今日はすこし天気が悪い。ここから降りなきゃ指示もだせないが、降りたくない。

 キングは暫く、何をするでもなく空を見上げていた。


「カイドウさん…」

「お~!こんなとこでサボってたのかよキング!散々探し回る羽目になったじゃねェかよ…ずっとここにいたのか?」

「…」

「山頂は寒ぃだろ…ルナーリアは燃えてるから平気なのか?」

「……」

「……はー。お前は、カイドウさんの右腕なんだろ?」

「っ」

「だったら、ちゃんとカイドウさんが戻ってくるまでの留守を守らなきゃいけねーだろ。まあ、お子ちゃまでバブちゃんなキングくんには厳しいようならおれ様が代わってやっても」

「無駄口叩くな鼓膜が腐る」

「あ~!?急に喋ったら暴言かよ!?可愛げねーなァ!!」


 腹を揺らして怒るクイーンに、キングはそっぽを向きながらボソッと呟いた。


「……その、悪かったな」

「…何だって?声が小さくて聞こえねーなぁ?ん~??」

「…!!!」

「あっっちィ!!!!燃やすな!!!」


 腹が立つ肉達磨を焼きながら思う。そう、おれはカイドウさんの右腕なのだ。最強のカイドウさんの右腕ならば、不足の事態でも完璧に対応してこそだろう。癪に障るが、クイーンの言い分は最もなことだ。ここで弱い所を見せてはならない。

 そんな風にカイドウさんを待っていたら、ついに!カイドウさんが帰ってきた。


 見知らぬ白い龍を連れて。


 夕日と共に、雲を割るように青い龍と白い龍が螺旋を描き、時々重なり合いながら広場に降り立った。しゅるりと人型に戻ったカイドウは辺りを見渡して、飛竜の姿で文字通り飛んできたキングに笑みを浮かべる。


「おうキング!戻るのが遅れて悪かった。おれが留守の間もちゃんとまとめられてるみてェだな」

「いや、そんな…カイドウさんの右腕として当然のことだ」

「ウォロロロロ!!…立派になったな」


 穏やかな慈しむような目で見られて、キングの炎は一層赤くなり、羽がぱさりと音をたてる。そんな分かりやすいキングに小さく笑い、カイドウは集まってきた輩を見渡すと金棒を地面に叩きつけて注目を集めた。


「テメェら!こいつの名前はノイ!新しく入った仲間だ!言葉は理解しているから、不用意なことはするんじゃねェぞ。分かったか!!」

「「「「はい!!」」」」

「よろしくの〜」

「!?」

「ま、マジで喋った…」

「やべぇ…」


 ざわつくその反応を面白がってか、ノイは慄く百獣の元へ近づいては驚かして回った。霞みのように消えたり、分身したりとやり放題だ。


「…いいんですか?カイドウさん」

「…ああ。楽しんでるならまあ良いだろう。怪我もしてないしな。部下が。……まあそんな悪い奴じゃねェから……ちゃんと言い聞かせたし…」

 

 後半は小さな声だったが、何だかんだ言って愉快そうに白い龍を見るカイドウの姿に、キングは言語化出来ないもどかしさを感じた。

 聞けばこのノイというのは野生の龍らしい。悪魔の実じゃなくて、野生。龍ってカイドウさん以外に居たんだ。という驚きよりも何かこう、縄張りに侵入されたような、大事なものが掠め取られてしまっているような焦燥感を感じてキングは首をかしげる。


 よく観察しようにも久しぶりに見たからか、カイドウさんの色気が増したというか、艶があるように見えて。何処を見れば良いのか迷ってしまって、結局視線を反らしてしまう。おれは弱い……。

 よく分からないが取り敢えず、己の気分を逆立てる原因があのノイという白い生き物なのは間違いなかった。


「あ~飯が食いてェ」

「すぐ作らせる。カイドウさんは部屋で休んでてくれ」

「…そうさせてもらおうか」

「カイドウ~!どこ行くんじゃ」

「部屋だ。あの中のな」


 カイドウが指差す先は、ノイが入るならば体を一回りも二回りも削らなければ入れぬ位の入り口。奥にはもっと狭い所もある。きょとんとこちらを見てくる白い龍の顔に、キングは笑いが漏れそうになって顔に力を入れる。あの間抜け面!マスク生活で良かった。そうだ。よく考えればまあ、あの大きさじゃ部屋には入れないから外飼いだろうし。何も気にする必要なんてないじゃないか。


 と考えたキングの予想は裏切られ、ノイは瞬く間にカイドウよりも一回りほど大きな人型に変身すると楽しそうにカイドウに飛びついていた。すーはー音がするから見てみると、恐るべきことにカイドウさん髪に顔を突っ込んで匂いを嗅いでいるではないか。カイドウさんの!匂いを!!?


「な、カイドウさんから離れろ!!」

「知らぬ!カイドウ~!き、うぉっ」

「公衆の面前でするなと、言っただろ!!」

 

 伸ばした手を躱され、何やらカイドウの顔に口を寄せようとしたノイは他ならぬカイドウにヘッドロックされながらも、きゃいきゃい喜んでいた。躱された手を見つめながらキングは戦慄する。


 早い。なんだ、あの自然なボディータッチは。馴れ馴れしいにも程がある…噛みつこうとでもしたのか?無礼な。阻止できなかった。不甲斐ない。だが随分とカイドウさんと仲が良さそうだな…。

 おれは、カイドウさんとあんなスキンシップ、したことない。それが妙に気に触ったキングは、苛立ちながら戸惑うというある意味器用なことをしていた。


「……っ」

 

 しばし考えたキングの背中の炎が心なしか黒く、ぐわりと燃え滾る。内心に浮かんだ感情を理解したくなかったが、それは確かに嫉妬だった。カイドウさんは気安い所があるが、あんなことをして許されているのだから相当信頼されているのではないだろうか。ぽっと出のあいつに何故……。

 

 そう考えて、これ以上は右腕が考えることじゃないと思考を止めた。命の恩人であるカイドウさんが連れてきたのだ。ならば右腕たるおれはカイドウさんに従うべき、受け入れるのが筋ってもんじゃないのかと思い、キングは心の沈静化を図り深呼吸をする。


 キングはカイドウさんの右腕として相応しい姿でいることが何より重要だと考えていたのだ。

 

 そんなキングを見つめていた龍の視線に気がつかぬまま、彼の長い1日が始まった。


 

 ノイは食事の時も、報告を聞くときも、兎に角ずっとカイドウさんの側をうろちょろしてはソワソワしていた。実験の成果を見せたいとか何とか言ってクイーンも加わり、最後に明日からの航路も決めて、酒でも飲もうぜ!とカイドウさんが酒を取りに席を外した瞬間。ノイは堪えきれないといった風に口火を切った。


「我とカイドウの関係、気になっとるんじゃろ?」

「はぁ?別に、してないが」

「ふぅん…燃えてるの、名前は?」


 資料をまとめようとかがんだキングをカイドウの人獣型のような形態になったノイが覗き込む。こいつ、今更名前を聞いてきたな。

 そんなにおれは視界に入らなかったのか。こっちは散々お前を無駄に意識して困ってるってのに、とキングはイライラした。

 

「キングだ」

「…キングか…目がな、聞いてきとる。随分我のことを見とったの~?」


 人を食ったような顔をして見つめてくるノイ。カイドウさん…おれ、やっぱりこいつのこと、受け入れられないかもしれない。


 黒ミイラのいつも鋭いマスク越しの眼が、さらに鋭角になっていく。不穏な空気を察したのか、能無しが実験物をおれ達から遠ざける。


 ぴりつき戦闘態勢に入りかけている黒いのに対し、サプライズでも主宰しているかのようなワクワクを滲ませる白いのは嬉しそうに大声を出した。


「我はな、カイドウの番、婿じゃ!!」

 

……つがい?むこ!?

 

「な…は??なんて???」

「あ?……つがい???」

「なんだ?どうしたお前ら」 


 クイーンは脳が理解を拒んでいるのか聞き返し、キングは驚きと混乱で羽が一回り大きくなるし、最悪のタイミングでカイドウさんが酒を手に戻ってきてしまった。この白いのが言ってるのは全部嘘だよな?そう助けを求めるようにカイドウの方に振り返った瞬間、キングの心臓は本当に止まりそうになった。実際に止まったかもしれない。

 

「カイドウ~!キス~!!」

「ンむ!?」

 

「ぁ、ぇ…」

 

 口と口がマウスtoマウス。カイドウさんの唇がノイに歪められている。

 

 ノイとカイドウさんが唇を合わせていたのだ。

 これは、キス、している……!!??

 

 世界から音も色も急速になくなり、一枚の透明な膜にまとわりつかれたような孤独感に包まれる。落ち着け、落ち着くんだ。挨拶がキスの国もあるとカイドウさんが言ってただろう。落ち着け。

 

「~~っんのバカ!!!」

「のわ~!?」


 カイドウはすぐさまノイを投げ飛ばしたが、キングはただ立ちすくむしかなかった。唖然として固まってしまったキングに代わり、クイーンが恐る恐る話を戻す。


「え、カイドウさん婚活してきたんすか」

「…違う!!」

「そうじゃ!!!」

「ち、が、う!!!」

 

 そう言って、ノイの口を閉じさせるカイドウさん。それにじゃれつき叩かれるノイ。その姿はとても気安い間柄のようにキングには見えた。ドキドキと心臓が嫌に早鐘を打つ。おかしい。ルナーリアはどんな環境にも適応する筈なのに。


「いや!カイドウは我の嫁じゃから!」

「ちげェっつってんだろうが!」


 否定ではあった。だが少し考える様子を見せたカイドウの姿に、キングは本格的に己の中のなにかが壊れた気がした。


「……っ…!」

 

 カイドウへの憧れ、感謝、そんな甘やかな感情だと思っていたそれらは只のコーティングで。その中身はキングからすれば非常に認めがたい自分勝手な願いばかりが出てきて、目眩がして座り込んだ。

 なんで、こんなにあの白い龍が憎いのか分かってしまった。おれは、カイドウさんの右腕に指命されておきながら、更に特別な関係になりたかったのだろう。だが、その席は、この生き物に取られてしまった。 

 カイドウさんはもうおれだけのカイドウさんじゃない。

 取られた。寝取られた。寝取られだ……!


 激情のままノイに突撃しようとしたキングは急に動きを止めた。気づいてしまったのだ。

 カイドウと寝たことなんて、ない。ということに。


「……!!」


 キングは自分に怒る資格も泣く程の関係もない。ノイが来てもカイドウの右腕というのは変わらないだろう。つまり自分の領分は犯されていないのだ。自分が勝手にあると思っていた所を取られただけなのだから!

 カイドウさんに向けるこの感情は命の恩人への恩義と忠誠心、憧れ、そんな感情で出来ていると思っていたのに、違った。おれはカイドウさんとキスをするような関係に……。右腕に使命して貰ったのに、おれはカイドウさんと……。キングの脳内はぐるぐるどん詰まりの思考で渦巻いて袋小路に入ってしまった。


「どうしたキング?ノイの言ってることは…あれは、語弊があるというか…あんま気にするな」

「……」


 いつの間にか隣に座っていたカイドウがそう取り繕ってきたが、キングの心は何も晴れない。語弊?気にするな?いつもバサッと言ってくるカイドウさんが言葉を濁しまくっているし、気にならない訳がない。

 キス、してたし……


 だがキングの口から出たのは「分かった」の一言だけだった。

 

 カイドウを困らせることはしたくなかったのだ。

 

 普段の毅然さの欠片もないしょぼくれたキングを、おっさんのキス見せられて萎えたのかな、と思い、カイドウは酒を注いで励まそうとしてみた。が、今のキングには少々毒だった。

 しかしキングはありがたく一気飲みした。カイドウさんが注いでくれた酒を味わうのは当然だから。その時だけは笑っているノイも気にならなかった。



 あれから何日か経ったが、キングは燻っていた。


「き、キングさん…ちょっと、やりすぎじゃないか?」

「……あ?」

「何でもないです!はい!」


 キングは目の前にある原型の一つも残らない程焼き消された船を「初めて気がついた」でも言う風に眺めた。実際意識してここまでやった訳ではなかった。

 

 ノイというあの龍は暇があってもなくてもカイドウさんの周りをうろちょろして回っていた。その姿を見て、キングは己の中に降り積もる苛立ちが日に日に積み重なっていくのをただ眺める他になかった。どうにか発散しようと暴力と火災を振り撒いてみたが、地表を黒く染めるだけでキングの心を洗い流してなどくれない。

 

 カイドウさんは強い人が好きだ。それは自分を誘ってくれたと言う事実と自信の補強となっていた。しかしそれは他の奴らにも適用されると言う事を自分は忘れてしまっていたのではないか。強く、強くあらねばならない。

 

 キングがこんなにも激しているのはノイはバカみたいに強かったからだ。

 カイドウさんに最強を望んだのはおれで、その最強に見合う右腕でなければいけないのはおれなのに。おれは、出来ていない。悔しい。ノイは悔しいほどに強かった。あのカイドウさんを凌ぐほどなのだから、キングに勝てる道理などない。それを一番分かっているのはキングで、一番認めたくないのもキングだった。


 キングは自覚していなかったが、いつも黒いレザーの下に隠した己の白い髪の毛のような体毛をゆらゆらさせて、昼も夜もあの人の隣にいる存在に心が揺らいでいた。自分の種族故に許されないこと、「自分そのままの姿で憧れの人の傍にいられる」ということを見せつけてくるその姿に。

 そして、ノイと一緒にいるとどこか安心したような穏やかな表情を見せるカイドウの姿に。昔のような苛烈に笑う姿に。


 兎に角、こんなふうに思い悩むのは初めてだった。今まではカイドウさんは自分を大事にしてくれたし、空まで付いていけるのは自分だけだったから心配することなどなかったのだ。

 

「……おい」

「……なんじゃ?」

「お前はカイドウさんを…どうしたいんだ」


 ノイがあんまりベタベタとしていて鬱陶しいものだから、カイドウさんが席を外した時に文句を言った。次の瞬間には簡単に組伏せられてしまった。硬い床がノイからの圧力で軋む音がする。まったくもって身動きがとれなかった。


「どうじゃ?これで文句は言えんじゃろう。ここは弱肉強食と聞いたぞ?強い者に従うのが弱い者の宿命…お前は、弱いのぉ」


 ルルル…と鳴る音はいつもよりずっと恐ろしく響く。地を這う虫でも見るみたいに見つめてくる目線に、冷たい痛みの記憶が蘇りかけ、キングは炎を轟々と燃やした。


 ノイは燃えるキングを笑いながら見ていた。


 暫くして、ノイは何事もなかったようにキングを解放すると「もぅちっとは強くなるんじゃぞ~」とほけほけしながら歩き去っていった。その後ろ姿の、なんと不快なことだろうか。キングはマスクの下でギリギリと歯ぎしりする。


 悔しい!悔しい!!言い返せないのが、何より悔しい!!しかも手加減された!おれはカイドウさんの右腕なのに!あんなわけわからん龍にいいようにされて!!こんな時は飲まなきゃやってられない!!!

 そんな訳でいくつかの海賊船を焼いて砕いて沈めたキングは、カイドウとのサシ飲みの時間を勝ち取った。今日は酒をしこたま飲むつもりだ。酒で酔ったことは無いが、場には酔える。


「カイドウさん!うぅ…あのクソジジイ…!~~っ…おれが、弱いばっかりに…!!」

「…ノイにまた何か言われたのか。あいつは年期がちげェんだからよ…お前はまた強くなってるじゃねぇか。見てたぜ?ウォロロロ!!」

「か、カイドウさん…!」


 砂漠で見つけたオアシスを拝むようにキングは目をきらきらさせて、静かに顔を下に向けた。弛んだ頬を見せるのが恥ずかしかったのだ。そんな甘酸っぱいような空気など読まず、扉を容赦なく開けてノイが飛び込んできた。


「なんじゃあ!我の話か!混ぜたまえ~!」

「あっ!てめぇは入ってくんな!ノイ!!」

「我とカイドウは一心同体なんじゃ!!」


 キングは常よりも酔っていた。 


「それを言うならおれだって!カイドウさんとは一蓮托生の比翼連理だ!!」

「おんしに比翼連理は重いじゃろて。我が変わってやるでなぁ」

「何をォ!?」

「やるか~?」


 争いは同レベルの者同士でしか起こらないと言われる。額を押し付け合ってガンを飛ばし合う姿は、ある意味とても仲がよさそうに見えた。だがカイドウは身内同士の喧嘩はそれ程好きではない。特に酒の席では。


「……っはぁぁぁ…喧嘩するなよなァ…続けんなら、おれぁ外に飲みに行くからよ」

「カイドウさん待ってくれ!これはおれ達なりのコミュニケーションなんだ!!」

「カイドウ!我ら別に喧嘩してない!!ナカヨシ!!」

「片言じゃねェか…調子いいよな、お前ら…」


 眼前に揺れる趣の違う白髪を見ていると何だかおかしくなってきて、カイドウは笑った。そんなカイドウの笑顔を免じて白髪組は休戦することにした。




「……それで、何で戦うことになンだよクソガキ」

「黙れ能無し。考える脳も脂肪で埋まっちまったか?」

「あァ!?んだとコラ!!おれ様のは筋肉だし!脳筋はテメェだろ!!」


 いや、カイドウさん脳なのか?とか、ったく、こんなに装備壊しやがって!などと言うが、面白げにガチャガチャと装備を弄るクイーンに、キングは閉口した。


 カイドウさん脳ではないと否定出来なかったし、この装備もクイーンでなければ作れないことも承知だ。だがムカつく。知ったような顔で眺めてくるサングラスがムカつく。割りたい。


 キングはカイドウと共に、ノイに喧嘩という名の稽古を挑むようになった。強くなるには強い奴と戦うのが一番効率的だと判断したからだ。それにカイドウさんと一緒にいられる。それは最高。


 だが、カイドウさんとノイがドコまでの関係なのかはよく分からなかった。それに思いを伝えることも、身勝手にしか思えなくてキングには出来なかった。カイドウさんが幸せなら、それで良い筈なのだから、と。



 ある晩、キングはカイドウ宛に書類と夜食を持ってきた。前に「そんな給仕みたいなことしなくていい」と言われたが、カイドウさんと過ごす時間が増える事は幸福なことだったし昔からの習慣だったので続けていた。しかし部屋にはカイドウさんの姿はない。出かけているのだろうか。


「のぉの~飯は何なんじゃ?」

「さぁな。だが腹が減ったな」


 廊下からそんな声が聞こえてきた。部屋の持ち主が帰ってきたのだ。夜食を持ってきたとそのまま伝えれば良い。廊下に出て出迎えるのも良いだろう。


 だが、何故だろうか。


 キングは大きく育った体を丸めて炎も消して、柱の影に隠れてしまった。これでは何かやましいことでもあるみたいだ。


 そう自分の心の中で葛藤していると、カイドウは机の上に乗ったまだ暖かい夜食を見て不思議そうに辺りを見渡した。


「……キング、いねぇなァ」

「なんでじゃ?」

「夜食を食べるときはいつも2人なんだ。ほら、皿も2つあるだろ?」

「ふーんそんな理由だったのか。我とカイドウが一緒に食べるように~かと思ったがの?」

「思い上がりも甚だしい」

「…… なんじゃぁカイドウ、今日は冷たいのぉ」

「お前は最近調子にのり過ぎだ」

「いけず~…そんな所もかわいいの♡」


 キングはノイの生意気さに怒ればいいのか、カイドウの言葉に嬉こべばいいのか、そんな気遣いをさせていることに情けなく思えばいいのか分からなくなっていた。


「あっ…くゥ、も、触るな…!もう終わっただろ」

「なんじゃぁカイドウ…あれで終わりと思うとったのか?」

「?」


 なんかカイドウさんのえっちな声が聞こえた気がする。幻聴か?

 

 キングがモダモダしている内に何やら話が進んだようだ。柱から覗くと、そこにはカイドウさんの腹に手を這わせたノイの姿が。


 は?

 

「…お主の体も期待しておるようじゃし、構わんじゃろ?」


 そう言って、ノイはカイドウの顎を指でするりと撫でた。それを振り払うでもなく、見たことがない目の蕩け方をさせたカイドウの姿が、キングの我慢と理性のタガを外した。


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