キングとスピノが晩酌するだけ
ガチムチダイナレスリング「よお、隣りいいか?」
「構わんぞ」
今晩はカパプテラもアンガもシステゴもいないし、パンクラはご主人と惚気合ってて間に入れる空気じゃないしで仕方なく着流し姿のスピノの隣に腰を下ろした。
こんなんでも一人で飲むよりはまだマシだろう。
瓶からコップにビールを注いで一気に煽る。
「ぷはぁっ!! ……なんだよ、その顔」
「いや、気持ちのいい飲みっぷりだなと思ってな」
「じゃあそんなシケた面してんじゃねえよ全く」
文句を垂れながらコーンと角切りにした鶏肉のかき揚げを食べる。
スピノも日本酒の盃を傾けながら舞茸の天ぷらを摘んでいる。
サクサクと衣が咀嚼される音と酒を飲み下す音だけが続く。
会話がない。
「だあああああ!! そんなに俺と飲む酒がつまんねえのか、ああっ!?」
「気に障ったなら謝る、俺としては十分に楽しんでいるつもりだったのだが……」
「言葉や態度で表現する努力しろよお前はよォ〜!!」
「そうか……ではキング、最近の調子はどうだ?」
「特に不調とか故障とかもねェな、お前は?」
「同じようなものだ」
「そっか」
会話が途切れて再び天ぷらの奏でるサクサクとした音だけがその場を支配する。
「会話下手かっ!!」
「駄目だったか……?」
「お前仕事の時はマイクパフォーマンスとか問題なくできてるだろ! 俺との会話がそんなに面倒か!?」
「そんなことは全くない、キングから話しかけて貰えて俺は嬉しい」
「その顔で嬉しいって言われても全然納得いかねェ〜〜〜ッ!」
腹いせに揚げ春巻きをバリバリと噛み砕く。
中身は枝豆とクリームチーズと角切りベーコンだった。
なかなかに手間のかかった料理を雑に扱ってしまってちょっと反省。
「なんか話題とかねーのかよォ〜」
「そうだな、それでは……この前カパプテラから言われたのだが」
「うんうん」
「何故か俺が皆から性欲解消の手助けだけが取り柄のように思われてる節があると言われてな」
「えっ、自覚ねェの?」
「…………」
「おっ、やっと表情動かしたな」
「……俺としては、そんなこと以外でも頼ってくれていいと思ってるんだが」
「だったらその仏頂面直せよ、そういう迷惑いくらでもかけてもいいような人好きする奴っていうのはパンクラぐらい分かりやすくコロコロ表情変えるもんだぞ」
「お前たちは少しパンクラトプスに甘えすぎだと思うが」
「いいのいいの、あいつ自身そういうの楽しんでるタチなんだし」
「……その幾分かだけでも俺が負担したいのだが」
「負担とかいってる時点で駄目なんだよお前は、絡んで面白みねーじゃん」
「面白み」
「冗談の一つや二つ普段から飛ばしてもっと気さくになれよ、あと受身になり過ぎ」
「それは余計な世話だと言われぬように……」
「別に言われてもいいだろ、断られたとしてもそのときに余計な世話だった以上の意味ねぇんだからよよ」
「それは」
「お前が好きだと思ってる程度にはみんなお前のこと好いてるんだから安心しろよ」
「…………臆病者だな、俺は」
スピノが苦笑して目を眇めながら傾けていた盃が空になったところに、徳利から酒を注いでやる。
代わりに空になったコップを差し出してビールを注がせた。
酒を酌み交わしながら酔いが深まっていく。
「そもそも今の時点でお前ってちょっと頭おかしい扱いだし今更体裁繕う意味とかねーから」
「頭おかしい……」
「とりあえずチ◯コ突っ込んだらなんでも解決するっつーやつ止めろ」
「そこまでは、俺も時と場合を選んで……」
「本当かー?」
「…………成功体験に調子に乗っていたのかも知れないな」
「いつ成功したんだよ、そっからズレてるからお前」
「むぅ……」
バツが悪そうに酒を呷るスピノの姿は仏頂面の癖に感情が透けて見える。
普段からこれくらい分かりやすければいいんだが。
「しっかしご主人の作る飯は美味いな、このネギを豚バラで巻いたやつ山椒効いてて美味いぞ」
「この椎茸の肉詰めを天ぷらにしたものとかキングが好きなんじゃないか?」
「おお、いいじゃん! じゃあこの人参とピーマンはお前にやるから」
「それはキングが嫌いなだけでは」
「助けてスピノ!」
「仕方ない奴だ……」
馬は合わないし、いけ好かないし、いつかヒーヒー言わせて負けを認めさせたい相手ではあるが、晩酌を酌み交わす相手としては悪くないかなと気分良くビールを飲み干しながら思った夕方の一コマであった。