キングがカズラを探そうと決心する話

キングがカズラを探そうと決心する話


ワノ国の鬼ヶ島にて、巨漢の男性2人が酒を酌み交わしている。四皇として悪名高い百獣海賊団総督のカイドウ、そして彼の右腕キングである。

世に悪名を轟かす大海賊である彼らも、親しい者と呑む酒の席では存外穏やかな様子だ。

「そういやよ、キング。パンクハザードでのことなんだが。お前は、あの趣味のわりぃ場所にいた植物みてえな奴を覚えてるか?」

キングは柳眉をピクリと動かした。

キングにとってパンクハザードでの記憶は生涯付き纏う暗いものである。

人としての尊厳を全て奪われて実験体として虐げられていた日々は、簡単に忘れられるものではなかった。今でこそカイドウに出会う幸運に恵まれたことを思えば悪いことだけでもなかったと言えるが、それでもキングの心にどこか暗い影を落としていた。

「あぁ、悪魔の実の複製体だったアイツのことか。ヤツがどうかしたのか?」

カイドウの言う人物には心当たりがある。

実験体として拘束される日々で、施設の職員たちの会話を聞く機会は何度かあり、そのような存在が収容されていたことは知っていた。

ルナーリア族である自分の同胞ではないが、同じ屋根の下で自分と似たような境遇の存在がいることは、当時のキングにとってある種の慰めになっていた。

顔も名前も知らないソレに対して奇妙な同族意識があった。故郷を追われて同胞を失った自分と同じような奴がいると知り、キングは多分、嬉しかった。世界から望まれず、迫害され続け、それでも生き続けている命が近くにいる。

そう思っていたのだ。ベガパンクがソレを引き取り、ソレもベガパンクの庇護を享受していることを聞くまでは。

その事実を知ったときにキングが感じたのは、腹の底から燃え滾るような怒りだった。自分と同じだと懸命に信じていた相手に、手酷い裏切りを突きつけられた気分だった。話したこともない相手に何をそこまで期待していたのかという話だが、子供の癇癪のようなものだったのだろう。

苦い感傷に浸って酒を呷るキング。

そんな己の右腕の様子を見たカイドウは徳利を机の上に置き、昔を振り返るようなしみじみとした口調で続ける。

「今になって思い出したんだが、お前を探しているときにソイツにお前んとこまで道案内されたことがあってよ」

「——————は?」

一瞬、なにを言われたのか理解ができなかった。伝えられた内容に脳が理解を拒む。何とか事実を咀嚼しようと頭を回転させるが、上手く回らない。

「どういうことだ、カイドウさん。アイツは、ベガパンクに引き取られていたはずだ。それなのに…何で…。おれたちが脱出したときに、アイツも施設にいたのか?」

「おう。たしか捕まってるお前が心配で、様子を見に来たとか言ってたな。おれをお前が捕まってるところまで案内したのもおれに解放させるつもりだったんじゃねえのか…っておいキング! 顔色がわりぃが大丈夫か?」

ぎょっとした顔をして気遣わしそうに覗き込んでくる恩人に断りを入れ、その場でお開きにしてもらった。一度に与えられた情報量が多すぎて、処理できない。今は一人になって気持ちの整理をしたかった。

自室でマスクを脱いだキングは頭を抱えながら、思考を巡らせた。名前も顔も知らないままキングが同族意識を抱いていたソイツは、キングを心配して施設に来ていて、カイドウがキングを解放する手助けをしたらしい。

いや、何故?

ソイツがキングを助ける理由なんてない。カイドウのようにキングの強さを見込んで助けてくれた訳でもなく、そのような行動を取ることに何の利益もない。むしろベガパンクに庇護を受けていたソレからすると、ルナーリア族の実験体を解放する手引きをすることは、自分の生命の安全を危ぶむほどリスクのある行為だっただろう。縁もゆかりもない、顔も知らない相手をわざわざ、どうして…。

「……考えても分からねェ」

答えの出ない問題に頭が痛くなってきた。

溜息を大きく吐き出したキングは、この日決心した。

この海のどこにいるのか分からないソイツをいつか絶対に見つけ出す。

そしてどういうつもりだったのか、今どこで何をしているのか、名前は何というのか、その全てを聞いてみせると。

とにかく直接会って話がしたい。


そう決意したは良いものの、情報が全く集まらずにキングが頭を抱えることになるのはまた別の話である。

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