キドキラ (小スカ)

キドキラ (小スカ)

no name

濡れたペットシーツの上でキラーはホテルの天井を仰いだ。長い前髪に顔の半分が隠れてはいるものの、その表情は暗く沈んでいる。

男でも潮を吹くらしいと、子供の頃から変わらず好奇心の強い年下の恋人に押されプレイに付き合ったのが運の尽きだった。否、そもそも27にもなって粗相をしでかす自分が、否、否——。……思考がまとまらないのは先程から聞こえる水音のせいだ。『濡れたままだと気持ち悪ィだろ、風呂いれてくる』と言ってキッドはバスルームへ立った。ドアを開けたままらしい。湯を張る音が嫌でも耳につく。

『や、だめだキッド、みるな』

『だからそれが——』

『やッあッ、あ——』

陰茎を擦るキッドの手を取って離した時にはもう遅かった。薄青のペットシーツはキラーの排泄器を中心に徐々に色を濃くしていく。とっさに脚を閉じても抑えは効かず、結局、腿を汚すことにしかならなかった。

——フラッシュバックにも似た回想を打ち切るように「キラー」と、バスルームから戻ったキッドに声をかけられる。水音はまだ続いていた。

「立てそうか」

「……ああ」

正直なところそんな気力もなかった。が、そのままというわけにもいかない。

キッドの顔を見ないように立ち上がる。濡れて冷えた陰毛が竿に触れ、キラーはひどく情けない気持ちになった。







バスルームは、トイレと向い合せのシンク、そこからフラットに続く花崗岩の床をガラスの仕切りと戸で隔て、広めのスペースとバスタブを設けた作りになっている。キッドのうしろに続いてガラス戸を閉めたところで、キラーは胸中悪態をつくと共に唇を噛んだ。

「キラー、風呂——」どうして。

どうしてそんな時に限ってタイミングがかぶるのか。水栓を閉めたキッドが振り返る。相変わらず、顔は直視できないが。

「あ、いやキッド、その前に……」

「ああ」

何か気づいたようにキッドがキラーの腰を引き寄せる。

「まだ出そうか」

バレた。

一瞬、心臓を鷲掴みにされた気がした。そしてすぐ今度はドッ、ドッ、と、赤いマニキュアを塗った手で撫でられる下腹が、至近距離でささやかれる耳が、全身、心臓になってしまったように脈打つ。

「そ、だから、はなせ……!」膝が震える。うしろへ回り込むキッドに抵抗する力も出ない。「せめてトイレに」

とうとうまともに立っていられない。バスルームに備え付けられた大きな鏡に力無く手をつき、キラーは訴えた。すぐ横に見えるトイレまで何歩もない。それを、恋人に阻止される。

「今さらだろ」

臍のすぐ下から下腹部まで覆う陰毛に絡ませていた指を——「ここで出しちまえよ」耳元で命令すると同時にしっかりと筋肉のついた腹に押し込んだ。

「ひっ……!ぁ、あ」鼓膜から脳にかけて痺れるように、低い声に体を支配される。「ああ、ァ……」

出してしまえばもう止められなかった。さっきだってそうだ、またやってしまった。

鈴口から品のない音を立てて流れ落ちるそれが、鏡も壁も床も汚す。その光景に今すぐ逃げ出してしまいたくなった。が、キラーはうつむいたまま、己の痴態からなぜか目を離せずにいた。


花崗岩のタイルを敷いた床は、排水溝こそあれど本格的な洗い場を想定していないのか傾斜はないに等しいらしい。勢いを失い最後の数滴が落ちる頃には薄い黄色の水たまりが二人の足元にできていた。

「ふ……、ぅぁ、う」

口から洩れた声が羞恥によるものなのか快楽からくるものか、もはや本人にも区別がつかないでいる。

「いっぱい出せたなキラー」

片腕でひどく優しく小麦色の肌を撫でながら褒める恋人の声に、まるでガキか犬じゃねェかと思うものの、不思議と悪い気はしなかった。いやむしろ——

腰に押し付けられた雄の熱い温度を感じながら、頭の奥底では、何か瓦解する音が聞こえていた。

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