ガープのストッパー

ガープのストッパー



天竜人事件から2年前────


「お疲れ様です!ルフィ大佐!」


「おう!お疲れ!」


ルフィは今日の仕事を終え、いつものようにウタとミライのところに向かおうとしていた。

そこで何やら騒ぎが起きていることに気づく。


「ミライ!?ミライー!?」


騒ぎの中心にいるのはルフィの大切な妻であるウタだった。

今にも泣き出しそうな顔で娘の名前を叫んでいる。


「ウタ!どうしたんだよ」


「あ・・・・・・ルフィ・・・ミライが・・・ミライがぁ・・・・・・」


ルフィを見たことで安心してしまったのか涙は流していないが顔を真っ青にしてついに崩れ落ちてしまうウタ。

ルフィはウタを落ち着かせようと優しく抱きしめながら背中や頭を優しく撫でる。

そして落ち着いたタイミングを見計らって何が起きたのかを聞く。


「ミライに何かあったのか?」


「・・・・・・少しセンゴク元帥に呼ばれたからミライを置いて話をしてたの。大事な話になるかもしれないからって・・・・・・その話が終わってミライが待ってる場所に行ったら・・・ミライがいなくなってたの・・・・・・」


思わず息を呑むルフィ。

誘拐や監禁など最悪な想像が頭をよぎる。

だがここが海兵たちの総本山であるマリンフォード。そんなことは起きるはずがない・・・本来なら。


「ごめんねルフィ・・・最近何もなかったから油断してた・・・」


「大丈夫だ、おれが絶対に見つける。だからそんな顔すんな」


ルフィたちの敵は海賊だけではない。一部の海兵や民衆までもが彼らの敵と言える存在になっている。若くして出世街道を進む犯罪者の子供である2人は特にひどい扱いを受けていた。

その事態を重くみたセンゴクなどの手によって嫌がらせや妨害などは少しずつ減り続けていたがそれでもまだ残っている。

自己嫌悪に陥っているウタを少し強めに抱きしめる。


「うし、行って─────」


ウタから離れ、ミライを探しに行こうとしたその時、


「あー、ルフィ、ウタ、少しいいか」


“大将”青キジに声を掛けられた。


「どうしたんだよクザンの兄ちゃん。今忙しいからあとにしてくれ」


「クザンさん・・・?」


見上げてくる2人に少し気まずそうな表情をして頭を掻く。

そしてその口から衝撃的な言葉が放たれる。


「あー、その・・・ミライはな・・・ガープさんが船に乗せて連れていっちまったんだ・・・言っといてくれって言われたんだが、言うタイミングがなくてな・・・すまん」


「・・・・・・・・・・・・・・・は?」


その声が聞こえてしまった、その表情を見てしまった海兵たちはのちに語った。

あんな顔をした大佐は見たことがない、あんな15歳がいてたまるか、めちゃくちゃ声が低くなっててあれ、これガープ中将でもまずいんじゃないかって本気で思った・・・など


ーーーーー


「どうじゃった?ミライ」


「えと、なんかすごかった」


「ぶわっはっはっはっは!!!そうかすごかったか!!」


任務を終え、帰還する船の上でガープは大声で、ミライははにかむように笑い合う。

当初はウタが心配しないか怒ってないかと不安になっていたミライだったが今では笑顔を見せている。


「すごかったけど・・・いっつもあんなかんじなの?」


「そうじゃのう・・・いや、今回はミライがいたからじいちゃん張り切ってしまったんじゃ!いつもあんなに大はしゃぎはせんわい!」


「そうなんだー」


曾孫に良いところを見せようと張り切りすぎた結果、任務とは関係ない海賊までも沈めたガープ。

これが海賊だから良かったものの民間の船にまで被害が及んでいたら大目玉だ。

そんなことは露知らずミライはガープの話を興味深そうに目を輝かせながら聞く。

ガープはそれが嬉しいのか意気揚々と色んな話をミライに教える。

時々10歳の子供に聞かせるべきではないことまで話そうとするがそれは副官であるボガードが必死で止めていた。


そうやって話をしているうちに船は本部へとたどり着く。

たどり着いた本部でガープとミライは元帥からの呼び出しを受けるのであった。


ーーーーー


「ミライ!!!!」


「わふっ」


元帥室で待っていたのはセンゴクとつる・・・そしてルフィとウタだった。

ウタはミライが入ってくるのを見るや否や身体がブレるほどのスピードでミライを抱きしめた。


「おかあさん、くるしいよ・・・」


「ごめんね・・・目を離しちゃってごめんね・・・」


「あ・・・・・・ごめんなさい・・・かってにひいおじいちゃんについていっちゃって・・・」


「ガープ、こっちに来い」


「なんじゃい、せっかくいい気分で帰ってきたというのに」


ガープが不満を隠さずにセンゴクが座る机の前まで来る。

始まったのはいつものようにセンゴクからの叱責・・・ではなく、


「じいちゃん、正座」


「な、なんじゃル───」


「正座」


「・・・・・・はい」


ガープですら従わざるを得ない雰囲気を纏ったルフィからの叱責だった。


ーーーーー


センゴクとつるは目の前の光景に己の目を疑ってしまった。

それほどまでに目の前で行われていることは衝撃的なことだった。


「あのなじいちゃん・・・ミライを連れて行くのは別にいいんだよ。その時にちゃんとおれかウタにどこに連れて行くのかだとかを教えてくれればおれたちは何も言わねェよ」


「ちゃ、ちゃんとクザンに伝言は頼んでおったぞ!?」


「おれが言いてェのは直接言ってくれってことなんだよ・・・伝言じゃなくて直接な?そうじゃねェと今回みたいなことになるだろ・・・・・・じいちゃんは知らねェだろうけどよ・・・ミライが急に居なくなってウタがすげェ辛そうにしてたんだよ」


「な、なんじゃと!?」


「この際だから思ったことは全部言わせてもらうぞ。大体じいちゃんはな────


あのガープが相手が孫とはいえ比較的大人しく説教を受けているのだ。

今回の行動だけでなく、今までセンゴクたちを悩ませてきていたことまで大人しくルフィから説教を受けている。


「・・・・・・普段ならあの子はガープに抵抗なんてほとんどできないのにねェ・・・やっぱり子が関わると親は強いものだねェ・・・・・・センゴク、泣いてるのかい?」


「くっ・・・・・・ついにガープを抑えることができる者が現れるとは・・・!」


今までの数々の苦労を思い出し、それが報われたことに思わず涙を流すセンゴク。

呆れてはいるがつるもその気持ちは大いにわかるため、決してバカになどはしなかった。


「───じいちゃんはまず自分の立場とかもよく考えて行動してくれよ。そういうのってすっげェめんどくせーだろうけどよ・・・・・・じいちゃんはすげェ海兵なんだからそういうところはしっかりしてくれよ・・・・・・あと───」


「ま、まだあるのか!?」


「当たり前だろ。言っただろ、思ってたこと全部言うって」


そこからさらにルフィによる説教は続いた。


その部屋はあのガープを説教するルフィ、最愛の孫から説教を受け、徐々に煤けて行くガープ、自分の愛娘を抱きしめて離さないウタとなすがままのミライ、感動の涙を流すセンゴクとその背を撫でるおつるというなんともカオスな空間となっていた。


センゴクに用事があり、部屋に入ろうと扉を開けたクザンはしばらく固まったのちにそっと扉を閉じた。


ーーーーー


その日以来ルフィとガープの関係はかなり変わった。

普段ならば何も変わらずルフィはガープには頭が上がらないが、ミライやウタが関わることに関しては立場が一気にひっくり返るようになった。


それによってルフィに対する周りの評価は良くも悪くも一変した。

あの誰も止めることが出来なかったガープにすら臆さず意見する存在として本部に在するほとんどの海兵から一目置かれるようになった。


そして、ルフィ自身にそんな意思は毛頭ないが海軍におけるガープの抑止力・・・ガープのストッパーとして活躍し、いろいろな意味で頼られることになるのであった。


そして・・・・・・


「ひいおじいちゃん!何してるの?」


「ん、ミライか?なにちょっと仕事をしておっただけじゃよ」


「・・・なんかひいおじいちゃんが机に座ってるの見るの新鮮かも?」


「そうかのう?・・・・・・いやそうじゃのう、あんまりこういった仕事はしてなかったからのう」


ガープ本人もまた変わった。

今まではあまり乗り気ではなかった書類仕事なども率先して行うようになり、孫家族の戦闘面以外での手本にもなれるような海兵へと変わろうとしていた。


「わしもお前たちが誇れるようなじいちゃんにならんといけんからのう!」


「?ひいおじいちゃんはいっつもかっこいいよ?」


「そうかそうか!嬉しいことを言ってくれる!よし、今日の分はもう終わりじゃ!!ミライ!ルフィとウタを連れて一緒にどこかへ行くか!!」


「いいの!?」


喜びを隠さずに飛ぶようにガープの手を引き、歩くミライ。

その手を優しく握りながらガープもついて行く。


着いたその場所でどこに行くのか少し揉め、ウタによりルフィとガープが張り倒されることになるのはまた別の話


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