カルマヌ導入

カルマヌ導入


(最近カルセドさんが夜な夜な辛そうな声を上げている…大丈夫だろうか)


 鉱山から出てクオンツの里を目指してはや一ヶ月、二週間ほど前からカルセドの唸り声が続いていた。マヌルが心配しても「大丈夫だ」というだけで悩みを話してはくれない。


(やっぱり僕って頼りないんだなぁ…)

  

 そんな中、ちょうどよく山小屋を見つけた。というのもクオンツの抜け道は山道を最大三ヶ月も通ることになるため、定期的に休憩と補給を兼ねた極々簡素な小屋が建てられているのだ。


「今日はここで休みましょうか」


「今回のは中々でかいな」


 その小屋の作りは他と違わず簡素だが、これまでのものよりいくらか大きいものであった。なんとベッドが三つもあり、久しぶりに一人で広く寝られることを二人は喜んだ。


 その夜


「っ…くっ…くそっ…」


 すっかり寝入っていたマヌルはカルセドの声で目が覚めた。どうやら苦しんでいるらしい。


「…っ!カルセドさん!」


 素早く起きてカルセドのベッドへ目線を移す――


「なっ!マヌル!?」


「え…カルセドさん…?」


 そこには下を脱ぎ、仰向けのまま自分の尻に指を入れようとしてマヌケな姿を晒したカルセドがいた。


「くっ…こんなところ見られるなんて」


「あっもしかしてお尻になにかあったんですか!?」


 顔を赤くして恥ずかしがるカルセドだが、マヌルはそれよりもカルセドの体調が心配だった……が、 


「違ぇよ!」


 この状況に激しく動揺していたカルセドは思わず突っ込んでしまう。


「違うんですか!?」


 マヌルは驚愕する。それをみてカルセドは(しまった!)という顔をするが、後の祭りであった。


「……でも、最近カルセドさんが苦しんでいたこととなにか関係あるんですよね」


「……」


「教えて下さい、僕、カルセドさんが心配なんです」


 マヌルの真剣な顔を見て一抹の罪悪感を覚えたカルセドは意を決して口を開いた。


「笑うなよ…?」


「はい」


「……溜まってんだよ」


「はい?」


「その……俺のアレが石になっちまったから…」


「あぁ!」


 マヌルはポンと手を打つ。彼もそれなりの年齢の男であるからにはそういった知識は人並みに持っている。


「……そ、それは……失礼しました」


「お前ぇが見てない内に済ませようとは思ったんだが……見られちまうとはよ……」


 カルセドは脱力して天を仰ぐ。恥ずかしいやら情けないやらで性欲もどこかへ吹き飛んでしまった。


「……」


「……」


 気まずい沈黙が流れていた。少しして、マヌルが覚悟を決めたように口を開く。


「あの……お、お手伝い……しますよ」


「はぁ!?」


 カルセドは衝撃を受け飛び起きてマヌルを見やる。


「その……実は鉱山までの行き道で今後の身の振り方を考え無きゃって思って色んな仕事について調べてみたんですよ……」


「…」


「僕にも就けそうな、それでいて旅を続けられる仕事って少なくて……その中にあったのが」


 "男娼"その言葉がマヌルの口から述べられる。この世界でも珍しいことではない。魔族との戦争が続く地域では、戦場の癒し手としてメジャーな所すらある。


「男の人同士でもそんなことするっていうのは驚きましたけど……こんな僕でもカルセドさんの役に立てるなら!」


「待て待て!一旦落ち着け!」


 言葉が止まらないマヌルをカルセドは静止する。彼の置かれた立場からしたら確かにその選択肢も視野に入れる必要はあるだろう。

 マヌルのように小柄で中性的な見た目なら恐らくその道でも食いっぱぐれることもない……がそれとこれとは全く違う話である。


「悪いが流石にそんな事はできん」


「やっぱり僕みたいなのとは寝れませんよね…」


「いやっ…そういうことじゃ…」


 マヌルの表情が沈んでいく。別に彼はカルセドをそういう目で見ているわけでも、そっちの気があるわけでもない。

 しかし、広義の意味で"信用している仲間からの拒絶"という大きな地雷を踏み抜く形になってしまったのだ。


「〜〜っ!わかったよ!」


「…!」


「受け入れてやる…その代わり!絶対ぇ他の奴らには言うなよ!」


「勿論です!」


 初めはマヌルがカルセドを癒やす提案だったはずが、いつの間にかこんな展開になってしまっていた。




「僕の方、準備できました」


「おう、こっちもだ」


 そういってお互い産まれたままの姿で同じベッドに入り………………

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