カルテットデート

カルテットデート

モテパニ作者

奏「ふんふんふ〜ん♪」

南野奏は浮かれていた。

いよいよ憧れの先輩とのデートを明日に控え、今はそれ用の洋服を吟味しているところだ。

奏太『姉ちゃーん今いい?』

奏「どうぞー」

部屋の外からノックとともに弟の声が聞こえる。

奏はとりあえずそれに応えた。

奏太「なあちょっと…ってなにやってんの?」

奏「ふふーん、明日デートだからお洋服決めてるの。ねえ奏太はどれがいいと思う?」

奏太「デートォ!?姉ちゃんが!?…いやははーん、そんな事言いながら響姉ちゃんとってオチだろ?」

奏「響は明日部活の助っ人だから来れないけど?」

奏太「え、マジ?じゃ〜エレン姉ちゃんとだ!どうだ当たりだろ?」

奏「うーん、それも間違ってはいないけど」

奏太「ほらやっぱり!」

勝ち誇った顔をする奏太だが、しかし奏はまったく態度を崩さない。

奏「まあ〜奏太はそう思ってたらいいんじゃない?」

奏太「ぐぬぬ、なんか腹立つ…」

奏「奏太もアコともっといい仲になればわかるんじゃな〜い?」

奏太「なんでそこでアコが出てくんだよ!?」

その日の南野姉弟は珍しく奏太が振り回されていた。

〜〜〜

所変わって調べの館の住居では。

C拓海「明日さ、俺が先に待ち合わせ場所行こうと思う」

エレン「なんで?一緒に行けばいいじゃない」

一緒に住んでいることもあり直接明日の予定を確認しあう二人。

C拓海「デートってそんな感じだろ?待ち合わせ場所で会うまでが始まりっていうか、それに今回は王子たちもいるしな」

今回は二人で完結するわけではないダブルデート、なので必然的に他の二人とも落ち合うため待ち合わせが必須でありその約束はすでにしていた。

なのでC拓海はその待ち合わせに乗っかろうとしていた。

エレン「ふーん、それでなんで拓海が待つ側なの?」

C拓海「俺が要求してる側なんだしエレンが譲る理由もないだろ」

C拓海のデート論。なかなかスマートだが、実はこれはC拓海本人が考えたものではない。

いや本人といえば本人なのだが、本物の拓海本人が考えたものである。

本物の拓海の最愛の相手も同居こそしていないが隣の家同士で一緒に出かけるなら待ち合わせなどいらない関係であり、本物はどうやら待ち合わせに憧れがあるらしい。

本物が別の相手を意識したデートの仕方を参考にするのはどうかと思ったが、C拓海にとって失敗できないイベントだ。

利用できるものは利用させてもらおう。

エレン「…ねえ、ひょっとして本物のあんたってデートの経験とか豊富なの?」

C拓海「ん?いや、相手がデートって意識してるようなおでかけはしてない。俺が知る限りでは」

C拓海が本物の記憶をどれだけ持っているかはC拓海にもわからない。

しかも本物もどこかで生きているのだから、知らない記憶をどんどん更新しているからどうあがいても断言はできなかった。

もしかしたら今は周りが女の子だらけのハーレムという可能性だってある。

エレン「(ふーん相手が意識してるおでかけは、ね。素直じゃないけど律儀なやつよね)」

エレンは知っている。彼は自分に嘘を極力つかない。

しかし誤魔化しをしないわけではない。

それさえわかっていれば言葉の裏を見抜くのはそう難しいことではなかった。

エレンにとっては消したい過去だが、エレンは過去に人を欺き罠に掛けてきた事がある。

だから心理戦については苦手では無かった。

今のエレンしか知らないC拓海はそのあたりの認識が甘いのかもしれなかった。

モヤァ

エレン「?」

その時感じた感情の正体をエレンはまだ知らなかった。

〜〜〜

そして翌日のこと昨日の宣言通りエレンよりも早く出たC拓海。

そこには…

王子「やあ、早いね」

C拓海「王子、もう来てたのか?」

待ち合わせまではまだ30分近くあるというのにすでに王子がいたのだ。

C拓海「どうしてこんなに早く?」

王子「大した理由じゃないよ。僕もこういう事は初めてだから楽しみで早く来ちゃっただけ」

王子のその発言はまったく裏を感じさせない。

気遣いではなく自然に相手を待たせない、これだけでも彼が好かれる人物なのがわかる。

C拓海「(こういうスマートさは憧れるな)」

気負いの差があるとはいえこういった余裕は同じ男として羨ましいものだ。

〜〜〜

一方。

エレン「(この調子なら10分前くらいに着くかな)」

拓海から遅れて待ち合わせ場所に向かうエレン。

ギリギリにならないくらいの時間に出て何事もなければ遅れる事はなさそうだ。

そう思いながら歩いていると、焦っているような大きな駆け足が聞こえた。

奏「はぁっ、はぁっ、よかった。間に合いそう…」

エレン「奏?どうしたのよそんなに慌てて」

奏「あ、エレンおはよう…今朝お化粧がなかなか決まらなくて」

エレン「え?化粧なんて普段してないでしょ?」

奏「デートだよ!?しかも初めての!むしろエレンはいつも通り過ぎる!ほらリップだけでも塗ったら?貸してあげるから」

エレン「いや私はそういうのは…」

奏「ほらほら遠慮しないで」

エレン「いやいや遠慮とかじゃなくて」

奏「ほらほら」

エレン「いやいや」

奏「ほらほら」

エレン「いやいや」

〜〜〜

それから約10分後。

エレン「もう!奏のせいで遅れそうじゃない!」

奏「エレンが素直に塗ってればよかったでしょ!」

問答に夢中になったせいですっかり遅れそうになっていた。

走って待ち合わせ場所に向かう。

それでなんとか待ち合わせギリギリの時間に拓海と王子の姿が見える。

奏「ごめんなさい!」

エレン「待った!?」

息を切らして拓海たちの前に現れる二人。

拓海たちは談笑を止めて

C拓海「これは…」

王子「お約束だね」

二人は口を揃えて。

拓王「「今来たとこ」」

見え見えな定型を言った。

〜〜〜

奏「えーそれでは気を取り直しまして、ダブルデートを開始したいと思います。それで最終確認だけど組み合わせは私と王子先輩、エレンと拓海くんでいいよね?」

C拓海「いいのか?」

奏「逆に聞くけど拓海くん私とデートって言われても困るでしょ?」

C拓海「困りはしないけど、エレンの方がいいのは確かだな」

エレン「〜///」

奏「(あら〜)」

C拓海には見えていなかったが、彼の言葉はエレンを赤面させていた。

エレン「段取り決まったんでしょ、なら行きましょ」

そう言ってエレンは先を歩く。

それをC拓海は追いかけ隣に来ると。

エレン「ん」

C拓海「!」

エレンが黙って手を差し出す。

C拓海は驚くも聞き返す事なくその手を握った。

もっとも指と指の間に絡ませるような事はできなかったが。

奏「(も〜あんな事言っておきながらすっかり付き合いたてのカップルだよ〜)」

それを生暖かく見守るのはこの企画の立案者である奏、この光景は奏の思惑通りと言っていい。

まあ少々奏の想定より展開が早いが。

奏「(この様子なら二人はもう大丈夫。なら…)」

王子「僕らも行こうか南野さん」

奏「ひゃ、ひゃい!」

奏が今回この企画を立案した最大の理由、それは王子とのデートだ。

二人の応援をしたいのは嘘ではないが、実際の所エレンと拓海を後押ししたいだけなら奏が発破をかければ事足りる。

事実こうしてセッティングしただけで二人の距離はかなり縮まったのだから。

しかしこうして二人きりから人数を増やした事はエレンの緊張を緩和したという点で無駄ではない。

それに少々奏の私情を混ぜたというだけだ。

奏がデートに誘った相手王子正宗、男女問わずの人気者であり奏の片想いの相手。

彼に片想いしている女子は奏が通うアリア中学では珍しくない。

奏のようにオープンな者もいれば秘めている者も当然いるだろう。

彼女の親友響のようにまったく興味が無い者もいるが、むしろそちらが少数派であろう。

しかしそんな立場でありながら彼には恋人がいない、それは前回も語った通り彼がまだ恋愛に興味が無いからだ。

その事実は周りの人間もある程度察している。だからか彼に無理なアプローチを仕掛ける者も少ない。

暖簾に腕押しになりかねないし、下手を打てば好感度を下げてしまう。

それでも王子なら嫌う事は無さそうだが。

そんなわけで彼の周りは休戦に近い状態だが、別に協定を結んでいるわけでは無い。

何もしなければもし彼が恋愛に興味を持った時に何もできずに終わる可能性だってあるのだから。

そういう意味では今回のエレン達を応援するという体で王子をデートに誘う機会は僥倖と言ってよかった。

奏「お、お、王子先輩!わ、私たちも手を…」

王子「そうだね」

奏に促され素直に奏の手を取る王子。

奏「(ふおおお!!!)」

そしてその事態に奏の内心はとても荒ぶっていた。

奏「(手!いや繋いで終わりじゃなくて!逞し!と、とにかく話題を…!)い、いいお天気ですね!」

王子「?そうだね」

奏「(違う!このタイミングで振る話題じゃない!)」

思考がこんがらがって話題を振り絞るも外してしまう。天気の話題は便利だが全能では無いようだ。

しかしこのまま手を繋ぐだけでは王子へのアピールとしては不十分だろう。

事前に決めていた要求を申し出なければ…

奏「(お願い響、私に勇気を貸して!)」

イマジナリー響『奏、ここでやらなきゃ女が廃る』

奏「(うん!ありがとう響!)」

ここにいない親友を空想して己を後押しする奏。

正直なところこのシチュエーションで響が奏の応援をするかと言われたら微妙だが、まあそれは言わぬが花だろう。

奏「お、お、王子先輩!す、少しいいでしょうか!?」

王子「うん、なんだい?」

奏「あ、あの二人は、お互いを名前で呼んでますよね?」

王子「ああ、確かに」

奏「だ、だから…その、こ、このデートの間だけでも、名前で呼んでくれませんか…?」

これが奏の作戦。奏が知る限り王子が名前で呼んでいる異性はせいぜい恩師の娘である響くらいだ。

だから仮でもその関係になれれば距離はぐっと近づく、それが奏の目的だ。

王子「なるほど、いいかもしれないね。それじゃあ奏ちゃん」

奏「(ぐああああ!!!)」キュン!

王子なら申し出を受けてくれるとは思っていたが、しかし呼び方は予想を優に超えてくる。

せいぜいさん付けか、来るとしても呼び捨てだと。

その予想は外れ、きたのはちゃん付け。

これにトキメクなというのは奏には酷な話だ。

しかし奏はトキメキはしても倒れはしない。

奏「(危なかった…プリキュアとしての戦いで心を強くしてなかったらやられてた…)」

それが奏の精神の骨子、プリキュアは簡単には折れない!

奏「あ、ありがとうございます、王子せんぱ…」

王子「違うでしょ。正宗だよ」

奏「(ぐううううっ!)」キュン!!

思いがけない追撃。

いやこちらは流れを考えれば予想できるが、奏にもはやそこまでの余裕は無かった。

奏「ま、正宗、く、………さん」

王子の名前を呼ぶ奏。王子にあやかってくん付けで呼ぼうと思ったが、さすがにそこまではできなかったようだ。

王子「ありがとう、奏ちゃん」

奏「(ぐっ!)」ギュン!!!

次々とくる必殺ブロー級のトキメキ。

これらを食らいながらも表に最低限しか出さなかった奏はさすが伝説の戦士であった。

〜〜〜

少し歩き街の中で立ち止まる一行。

奏「はぁ〜はぁ〜」

C拓海「(奏のやつなんでもうあんなに疲れてんだ?)」

軽く歩いただけですでに疲労困憊の奏を慮ってというのもあるが、本命はプランの確認だ。

まずはペアで歩きそれから四人が各々持ち寄ったプランを実行。

それがこのダブルデートの計画であった。

C拓海「俺はもうちょっと後がいいな」

王子「じゃあ僕からいいかな?」

最初に名乗りをあげたのは王子だった。

C拓海「俺はさっき言った通りだけど、エレンたちは?」

エレン「まあ、私も別に先がいいって事もないから」

奏「いいですよ〜」

それに対して反対意見も出なかった。

奏は魂が抜けかけているように見えるが。

〜〜〜

王子が提案したのは楽器屋であった。

加音町は音楽の街、音楽に関心を持つ者も多くデートのようなお出かけにも訪れる者もいる。

王子「僕の趣味で申し訳無いけど」

C拓海「いや俺も興味あるし。今は無理だけど自分の楽器もいつか欲しいしな」

あの夜使ったベースはあくまで借りた物。

C拓海が自分の楽器を手に入れるには悲しいが懐事情がそうはさせてくれなかった。

音吉の元で作業の手伝いを始めたC拓海だが、あくまでお手伝い給与などは発生していない。

とはいえ生活費は出してもらっているし、多くはないが自由に使えるお金も貰っている。

だがまあ自分の楽器は今は遠い夢だ。

C拓海「王子はなにか楽器をやってるのか?」

王子「うん。僕はピアノをね」

奏「そうなの!おう…おっほん!正宗さんは王子隊っていううちの学校で大人気の演奏グループのリーダーでピアノを担当してるんだよ!」

王子「そんなリーダーだなんて、名前はそれっぽいけど仕切ってくれてるのは博尺の方だし」

エレン「ちなみに王子隊を指導してるのは響のパパさんよ」

C拓海「へえ、奏と王子が付き合ってるのはそのへんの繋がりもあるからなのか?」

奏「!?」

C拓海は勘違いしていた。

王子と出会ってからそのまま流れでこのダブルデートを提案されたから奏と王子は付き合っているのだろうと。

加えて先程の話、響と奏が親友同士なのは目に見て明らか、その親友の父の教え子と縁があって付き合い始めるのは繋がりとして不自然ではないとおもったからだ。

しかし奏は恋人のように振る舞うつもりでも他人から恋人として認識されるのは予想していなかった。

普通ならそこまで考えがいたって然るべきだが、今の奏は視野が狭かった。

王子「まあそんなところかな」

奏「!!!???」

しかもそれを王子に肯定されるのはなおさらだった。

もっとも王子は変な空気にしないために合わせただけなのだが。

奏「ぷしゅ〜」

王子「おっと、大丈夫かい奏ちゃん?」

ついに限界を迎えた奏を王子が受け止める。

王子「ごめん、僕らはちょっと休んでるよ」

奏「ふにゃ〜…」

腑抜けた奏を連れていく王子、連れて行かれた奏の顔は幸せそうだった。

C拓海「奏のやつどうしたんだ…?」

エレン「まあいろいろあるのよ。それより移動しましょ。ここにある楽器はクラシック系だし、私たち好みのロック系は別の場所よ」

C拓海「ああ、そうだな」

王子達がいなくなったことで自分たちの好きな場所へ向かうエレンたち。

C拓海は立ち去る場にあるピアノやバイオリンを見ながら、

C拓海「(芙羽もこういうの好きそうだな)」

と一瞬思った。

〜〜〜

奏が復活しダブルデートを再開する一行。

次の行き先は。

C拓海「公園か」

緑が多く、広くてのびのびできる公園。

提案したのはエレンだ。

ここを選んだ理由もなんとなく理解する。

C拓海は先程も説明した通り懐が寂しい、おそらくそれを気遣ってだろう。

C拓海「(気使わせちまったな)」

少し申し訳なさを感じながらもエレンに感謝する。

奏「わー猫ちゃーん!」

奏は一匹の猫を見つけて飛びつく。

一度ダウンから復活した影響か、奏はなんだかはっちゃけていた。

そんな高いテンションの奏に初対面の猫は気を許すはずもなく、猫はエレンの近くにやってきた。

エレン「おーどうしたー?こっち来てもご飯は無いわよー」

近づいてきた猫にしゃがんで対応するエレン。

その姿はC拓海をときめかせた。

C拓海「なあ奏、撮影できるもの持ってないか?」

奏「え?持ってないけど」

C拓海「く…」

こんなことなら誰かからカメラを借りておけばと後悔する。

C拓海「(華満みたいにアンテナ強く張っとかねえとな)」

今日の楽しい出来事は記録ではなく記憶に残すと決めたのだった。

〜〜〜

そしてとうとうC拓海の番がやってくる。

C拓海が選んだ場所は、加音町を一望できる高台だった。

奏「わー、ここ懐かしー」

王子「僕も来るのは久しぶりだ」

そこはそれなりにポピュラーなスポットであり加音町住民ならイベントかなにかで一度は来ていてもおかしくない場所だが。

エレン「私来るの初めて…」

最近住み始めた者なら話は別だ。

C拓海「前にエレンはこの街に来て一年くらいって聞いたからここも新鮮かと思ってな」

エレン「そ、そう///」

奏「(いいよ〜、普段の何気ない会話から相手を考えられるのはポイント高いよ〜)」

一度倒れて復活したからか、奏は余裕が生まれてエレンたちの様子を見守れるようになっていた。

そんな中誰かの腹が鳴る。

奏「!?」

王子「お腹空いたね、お昼はどうしようか?」

昼が近くなったことに加えて高台へ登って来たのもあってつい腹の虫が鳴いてしまう奏、それを王子はすかさずフォローした。

奏「(王子先輩…)」キュンッ

エレン「まあこの辺お店とか無いみたいだし降りるしか…」

C拓海「大丈夫だ。この時間なら」

C拓海が示した方向を見るとキッチンカーがその場を陣取っていた。

奏「ここってキッチンカー来るんだ」

王子「知らなかったなぁ…」

C拓海「毎日来るわけじゃないらしい。特に奏たちが前来たのって小学校のイベントとかだろ?そういう時は需要が無いし、むしろトラブルの元になりかねないからそういう日は避けるらしい」

王子「詳しいね」

C拓海「調べた」

C拓海はデートが決まってから数日めぼしいスポットを自らの足で調べ上げた。

ガイドブックを買う金は無かったし、図書館等利用しようにも戸籍が不確かなのでそれも避けた。

しかし彼は金は無くとも暇ならそれなりにあったのでその場に赴き近くの人間に質問していろいろ知ったのだった。

C拓海「ほい」

エレン「あ…」

先にキッチンカーで注文を済ましエレンの物も買ってしまうC拓海。

エレンも少し面くらうも来たものは仕方ないと受け取る。

王子「はい奏ちゃん」

奏「そ、そんな自分で払いますよ」

王子「まあまあ、カッコつけさせてよ」

そんなこんなでみんなに食べ物が行き渡り再び景色の見える場所へ移る。

C拓海「こういう思い出になりそうな場所には美味しい物を一緒に持ってた方がいい、その方が思い出しやすいから。俺がお世話になった人から教えてもらったことだ」

王子「へえ、素敵な教えだね」

正確に言えば本物の拓海が教えてもらったことだが、事情を知らない王子がいるのでそういうことにしておいた方がいいだろう。

その教えがあったからこんなデートプランを考えられた、"彼女"が喜ぶと思って。

〜〜〜

奏「さーて最後は私のプラン!オシャレなカフェで楽しくおしゃべり!」

昼を終えた一行がやって来たのは奏が選んだ喫茶店だった。

中に入りメニュー等を確認する。

エレン「デザートとかも豊富ねー。奏、これ敵情視察とかも兼ねてない?」

奏「(ぷいっ)」

エレン「(今日の奏私情混ぜ過ぎでしょ…)」

王子「まあまあ、プラン自体にみんな不満はないでしょ?」

C拓海「まあそうだな」

そうして四人は思い思いの注文をする、その中で…

奏「エレンそれでいいの?」

エレン「え?なにかおかしい?」

フルーツパフェを選んだエレンに奏は疑問を投げかけた。

奏「エレンがいいならいいけど…(エレンが気にしてないなら問題ないよね)」

エレン「そう…?」

そんなやりとりがあってしばらく、今日のデートを振り返りながら楽しく談笑し頼んだ品物も無くなりかけたあたりで…

エレン「…」コテン

C拓海「!?エ、エレン!?な、なにが…」

急にエレンがC拓海の肩にもたれかかってきた。

よく見ると顔が少し赤くなっている。

奏「あー、だめだったかぁ」

王子「えっと、黒川さんになにが?」

奏「じつはエレンは…そのー、猫っぽい体質で…」

王子「ね、猫っぽい…?それがあの状態となんの関係が?」

奏「原因はおそらくあのパフェに乗ってたキウイかと、キウイってマタタビの一種だから」

王子「あー…」

つまりは酔ったということだ。

奏が懸念していたのはそこ。

エレンは元々猫の妖精であったが、いろいろあって人間の姿になった。

のだが、正直今のエレンがどういう存在なのかは誰もわかっておらず、どの程度人間でどの程度猫なのかもわからないのだ。

そもそも猫の妖精といってもメイジャーランドという異世界の出身、同じ種族であろうハミィは人間の食べ物をバクバクと食べているのでこちらの猫との差もわからなかったので気になりはしても止められなかったが、どうやらだめだったらしい。

C拓海「お、おい…これどうすれば…」

好きな子がいきなりもたれかかってきてる状況、嬉しいがどうすればいいのかわからない。

奏「うーん、じゃあ会計は私たちが済ませておくからエレンを落ち着ける場所に連れて行ってあげて。どのみち予定は済んで解散するつもりだったし」

C拓海「…悪い、じゃあ任せた」

そう言ってC拓海は財布を置いてエレンを連れて行った。

王子「財布置いていくんだ、律儀だね」

奏「これは私が後で返しておきますね。…さて」

奏と王子は会計を済ませて。

奏「二人を追いかけましょう!正宗さん!」

王子「え…?追いかけるの?解散するつもりだったんじゃ」

奏「このデートの目的はあの二人が上手くいくことですから、せめてそこは見届けたいなって。でも私たちがいたらいい雰囲気になりづらいでしょうからここで解散して後から追いかけようかなー?と。ちょっとハプニングがありましたけど予定通りです」

王子「そうだったんだ」

奏の行動に驚きつつも二人のことが気になるのは王子も同じだったためついて行くことにした。

〜〜〜

エレン「んん…」

しばらくして目を覚ますエレン。

酔ったといっても数切れ程度のキウイ、酩酊はすぐに消えたようだ。

C拓海「起きたか」

エレン「…なにがあったの?私急にぽわぽわして」

C拓海「パフェに乗ってたキウイに酔ったんだと。猫っぽい体質なんだって?」

エレン「知らなかった…私キウイで酔うんだ」

C拓海「まあ知ってたら頼まないか。…それで、どうだった?」

エレン「ん?」

C拓海「今日のデート、楽しかったか?」

エレン「ああ」

最後にちょっとしたハプニングがあったため少し頭から抜け落ちていた。

奏「(あ、いた)」

ちょうどそのタイミングで奏たちも裏にやってくる。

エレン「そうね、すっごく楽しかった。みんなが連れて行ってくれる場所も、その中でのみんなとのお話も、ハプニングもあったけどそれもひっくるめて楽しかった。」

C拓海「そっか…」

エレン「拓海が考えてくれたプランも想像以上だったな。ねえ拓海、今日私拓海に…」

エレンは微笑みながら拓海を見て、

"次の瞬間表情を変えて"

エレン「むかついてたのよ!」

C拓海「え…?」

奏「(えーーー!?)」

〜〜〜

響「エレンたち大丈夫かなー?」

サッカー部の助っ人を終えて部屋でのんびりしている響。

奏から予定は聞いており密かに案じていた。

ハミィ「上手くいってもいかなくてもきっと拓海は大変ニャー」

響「ん?どういうこと?」

ハミィ「セイレーンは繊細で寂しがりだから仲を深めようとする時がいっちばんピリピリして怒りっぽくなるからたぶん今が一番注意しなきゃいけないニャー。ハミィも昔仲良くなり始めの頃のセイレーンをよく怒らせたものニャー」

響「それってハミィがドジだったからってだけじゃないの?」

ハミィ「そんなことないニャ!響だって心当たりあるはずニャ!」

響「そんなこと………あーいや、そーいえば前に」

響は以前奏とともにエレンを本気で怒らせたことがあった。

知らぬことではあったがオバケの類いが苦手な彼女を驚かしてしまった上で茶化したことが理由である。

今思えば敵であった時を除けばあの時ほどエレンを怒らせた事は無いし、あの時は仲良くし始めの頃であった。

響「でもあの時は私と奏も悪かったし、拓海なら大丈夫でしょ」

ハミィ「それもそうかニャ?」

響ハミィ「「あ(ニャ)はははははは!」」

響とハミィはまるで芝居掛かったように高らかに笑った。

〜〜〜

そして一方現実は…

C拓海「な、なにがいけなかったんだ…?」

奏「(そうだよ!私の目から見ても変なとこは無かったはずだよ!)」

突如告げられた不満に動揺を隠せないC拓海。

隠れている奏たちもその理由が理解できなかった。

エレン「そうね、客観的に見てあんたのデートは好みじゃないとかじゃなければケチつけるものではなかったかもね。そして私は楽しかった。けどね拓海、あんたはこのデート誰を喜ばせるために考えたの?」

C拓海「!?」

王子「(?)」

事情を知らない王子からしたらなにを言ってるのかわからないが、図星を突かれたC拓海はなにも言えなくなってしまう。

エレン「バレてないと思った?あんたが記憶が戻った時に言ってた名前、あれがあんたの好きな子でしょ?」

C拓海「ああ…そういえば言ってたな…」

まだC拓海の記憶が曖昧な時、その後ゴタゴタがあったがエレンは確かに覚えていた。

王子「品田くん他に好きな子いたんだね」

奏「私も今初めて知りました」

離れた場所で二人はそんな会話をしていた。

エレン「好きな子がいる、それ自体は悪いとは言わないし、私への気持ちが嘘だなんて疑ったりもしない。けどね、私とデートしてる時にそっちを意識してるなら話が別よ」

C拓海「…ッ!」

なにも言えなくなってしまう。

エレンの言ってる事は全て事実、デートの成功だけを意識してより根本的な事を見落としていたのだった。

エレン「いい!私はあんたを見てるんだからあんたも私を見てなさい!それが条件だからね!私のか、彼氏になる…」

C拓海「ああ………うん?」

C拓海は上手くいかなかったと肩を落としていると思わぬ言葉が。

C拓海「エ、エレン?それって…」

エレン「まあ!減点はあったけど全部が悪かったわけじゃないし!さっきも言ったけど楽しかったのはほんとだから!その、いいけど…付き合っても…」

C拓海「エレン…!」

エレン「あ!あともう一つ!エッチなことはまだ全般禁止だから!」

C拓海「え、エッチ…?」

エレン「知ってんのよ!男はそういうの求めるものだって!」

C拓海「あ、ああそうか…エレンと恋人になるのに夢中でそこまで考えてなかった」

エレン「〜〜〜///」

かなり意を決して恥ずかしい事を言ったつもりが空回りしてしまいエレンは赤面する。

C拓海「あ!いや!そうやって先のことを考えるのはいいことだと思うぞ」

エレン「うるさ〜い!とにかくそういうことはまだダメ〜!」

奏「(エレン、かわいい)」

そんなエレンを奏たちも影で微笑ましく見ていた。

C拓海「…まあ、そんなわけでさ、これからよろしくな」

C拓海はそう言って"右手"を差し出す。

エレン「…ん」

エレンはそれに対して"左手"を伸ばした。

お互いの手は握手では無い形で繋がる。

互いの指と指の間を通したいわゆる恋人繋ぎで…

それから数秒、二人はどちらからともなく顔を赤くした。

〜〜〜

王子「よかったね、あの二人上手くいって」

奏「はい!本当に今日はありがとうございました」

王子「僕は特になにもしてないからなぁ」

奏「いいえ、本当に付き合ってくれてありがとうございます」

自分に付き合ってくれて、だ。

今回のダブルデートのきっかけはエレンと拓海の応援のため、しかしそれは建前。

奏はあの放課後エレンから相談を受けた時点で二人が上手くいくと思っていた。

ダブルデートを提案したのは半分以上、否、八割は自分のためだ。

それに付き合ってくれた想い人には感謝しかない。

しかしそれも終わり。

奏「…それじゃあまた、"王子先輩"」

夢の時間は終わりだ。心の中でアピールのためだなんだと主張していたが、彼が自分に靡かないのは薄々わかっていた。

だからこれで満足だ。終わっても悲しくは…

パシッ

王子に背を向けた奏の手が背後から引っ張られた。

その感触には心当たりがある、今日何度も握った王子の手だ。

奏「え…?」

王子「ごめんもうちょっといい?」

奏「ななな、なんでしょう?」

予想外の出来事に面食らう奏。

王子「僕も今日すごく楽しかったよ。終わらせるのが惜しいくらい。だから…またしない?」

奏「ま、またって、でも…」

正式に付き合い始めた二人の邪魔をするのは悪い。

今回利用するような事をしたのにさらにそれを続けるのは…

王子「うん。だからさ、今度は二人で。どうかな?」

奏「?……???…………!?」

奏はその言葉を少しの間理解できなかった、そして理解が追いつくと思考が飛び跳ねた。

王子「ダメ…かな…?」

奏「………いえ!まったくそんな事ありません!!!」

これこそ奏が求めていた展開。

てんぱらず自分の意思を、正確に伝える。

王子「そっか。それじゃあこれからもよろしく、"奏ちゃん"」

奏「は、はい!"正宗さん"!」

何故王子がこの関係の終了を拒んだか、それは王子自身にもまだわからない。

しかし確実に言えるのは、これからの彼らの人間関係は変わっていく。

それがどんな方向になるかまだわからないが…


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