カラコロ、コロリ(2)

カラコロ、コロリ(2)

飴コロ。

大金を積まれてオーダーメイド珀鉛キャンディを作っているifシーザー。

キャンディ絡みでのろけるifミンゴ。


注意

※ifシーザーとifミンゴしかいない。

※やっぱりifローさんは可哀想


※サブタイトル

ドキッ⭐️おのろけ大会

~ドン引きを添えて~




シーザー・クラウンは化学者だ。

この世の有りとあらゆる薬品や化学物質の知識は、基礎として彼の脳に蓄積されており、故にSMILEやシノクニといった恐ろしい化学兵器を生み出せる。

おまけに倫理観は常人に比べると世間のソレからは逸脱気味であり、彼にとってはマウスを用いた試験も、人間を使った実地試験も変わらない。むしろ実用に向けての結果を出す事を思えば、後者の方が断然価値があるとさえ考えている。

世間で言う所の屑や外道という部類の人種だ。

そんな悪魔の化学者シーザーは、自らのラボの応接間にて目の前の男が持ってきた依頼内容に愕然としていた。

「はっ珀鉛ンッ!?マジかよジョーカー…!!」

「フッフッフ。なぁに、お前なら難しい事じゃねぇだろ。シーザー。」

かつて存在した情熱の国と唱われしドレスローザ元国王であり、元七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

裏の世界での別名…ジョーカー。

四皇が一人、カイドウを通じての良きビジネスパートナーである2人。

そんな2人を隔てる机の上にはガラスケースに入った一つの鉱石が鎮座している。

照明の光を受けて輝く白銀は、溜め息が出る程美しい。

嘗て北の海(ノースブルー)に存在した王国「白い町」フレバンス。

其処の一大産業の産物として掘り起こされ、国が滅亡する原因を作った「珀鉛」である。

この鉱物が引き起こす災い…伝染病とされる「珀鉛病」。

肌や髪…全身が白くなり、やがて激痛と共に命の灯を消していく…そんな恐ろしい病気。

それの被害を抑えるべく、近隣諸国によって国境封鎖と迫害が起こり、

対抗して武装蜂起したフレバンスを鎮圧するという名目で、王国は焦土と化した…という。

そんなおぞましい曰く付きの白い悪魔。

伝聞で聞き及び、資料に目を通した事は有ったが、実物に対面するのは初めてになる。

悪魔の化学者は恐る恐る依頼者の顔を伺った。

「シュロロロロ…まあ、確かに?俺様は天才だからなァ。俺のキャンディにこいつを合わせりゃすぐ完成するさ。」

だがよぉ、とあまり乗り気では無さそうな声を漏らしながらシーザーはぼやく。

「俺様に感染症の症状が出たら、手前を恨むぜ?ジョーカー…」

言葉と共に目の前の男に難点を告げる。しかし途中で言葉に詰まった。

「シーザー、手前は化学者だよな?珀鉛の事だって頭ン中入ってる筈だろうが。自分で調べる事もせずに政府の連中が言ってる事鵜呑みにしてんのか?」

ビキリビキリと額と眉間に浮き出る血管。

ドフラミンゴは…ジョーカーは怒りに震えている。

それを理解したシーザーは、慌てて言葉を紡いだ。

「いっいやそうだよな!!その通りだ!!俺は自分で調べもせずに、らしくねぇ事を口走っちまった!!

許してくれジョーカー!!この通りだ…!!」

ガスガスの実で白い気体の塊と化した身体を縮こまらせ、地べたに座して手を付いた。そのまま頭を下げれば、綺麗な土下座の完成だ。


シーザー・クラウンは屑である。

生存する事において、彼にプライドはない。ましてや、相手は己より格上でしかも上司に当たる元七武海。

機嫌を損ねる事に自らの得は存在しない。故に彼は容易く自らの中にあるほんの少しは持ち合わせる誠意と、お前と争う気は無いのだという事をアピールした。

「フン…まぁいい。面上げろ。嘘だと思うんなら手前で調べとけ。お前は優秀だからなァ??直ぐに解るだろうぜ。」

ガラスケース入りの珀鉛を、土下座の体勢でビジネスパートナーの顔色を伺う化学者に放り投げる。

「ウォワ!!とっ、と…!!あ、危ねぇじゃねぇかジョーカー!!さっきの発言は謝っただろ!?勘弁してくれよ…!!」

辛うじて落とさずにキャッチしたシーザーに、依頼主兼上司はフッフッフと底知れぬ笑みを浮かべた。

「頼んだぞシーザー?」

(嗚呼、こりゃ録でもない事に足を突っ込まされた気がするぞ。)

悪魔の化学者は内心怯えつつも、依頼を受け入れるのであった。


かつて誘拐した子ども達に与えていた「帰りたくなる」キャンディ。

ラボを逃げ出そうとしても、キャンディが食べたい…戻らないと…という気持ちを興させる。

ドラッグの禁断症状を利用した実に悪趣味で最悪なアイテムだ。


そんなおぞましい飴玉は、シーザーの特製レシピで作成されている。

何度も試作し辿り着いた配合。

そこへとてつもなく甘美で特殊な鉱物「珀鉛」を追加する。

これまた色々と実験し、元のレシピとの融合が進められ。

遂に更なる黄金のレシピへ辿り着いた。

マウスの食い付きが良く、ある程度の個数を食べても症状が重くなりにくいギリギリを攻める配合。

(なお過剰摂取した場合その限りではない。)

誰が見ても「美味しいキャンディ」に見える様、カラフルな着色料で様々に色付けて。

あっという間にシーザー・クラウン特製珀鉛キャンディの完成である。

作り手であるシーザー自身は、うっかり吸ったり皮膚から染み込んだりしない様に、手袋とマスク付きで加工に当たった。

完成したカラフルな飴玉達に透明な包み紙のドレスを与えキャンディボトルへ。蓋をすれば終了だ。


カラコロ、コロリ。


瓶詰めされたキラキラは、その楽しい見目の通りに幼子を引寄せるだろう。

マスクと手袋を外して額の汗を拭うシーザー。

「ふぅ~、やりきった。自信作だぜ。シュロロロロ…。」

やはり自らが思うままの形で完成するのは気分がいい。ウキウキとジョーカーに連絡を入れる。


後にキャンディは「実に旨そうに食ってくれたよ。これからも頼むぜ?」と大金になって返ってきて。(こりゃいい。最高の仕事だ!!)

悪の化学者は味を占めた。


それからは、定期的にドフラミンゴから製作依頼が入る様になる。

嬉々として生産し、ガールズシップでの盛大なもてなしや与えられる享楽へと存分に身を浸す。

シーザー・クラウンは屑であった。


しかし、そんな彼でもふと思う時がある。

この劇物を誰に食べさせているのか。

顔を合わせれば何時も、ドフラミンゴは相手の反応を語ってくる。


カラコロ、カラコロ


「おいしいおいしいって嬉しそうに食ってるよ。フッフッフ…堪んねぇな。」

「お、おう。そうか。良かったな。(そりゃあ中身知らねぇんだからそうなるわな…。悪いヤツだぜジョーカー。)」


カラコロリ


「キャンディの中身が何か分かっちまってショックみたいでなァ。だが、口枷も噛ませてるから、甘さから逃げられねぇんだよ。フッフッフ…悔しそうなのを見るのは気分がイイぞ。」

「お、おお…。(く、口枷??それも珀鉛で出来てるって事か?とんでもねぇ趣味だな、オイ。)」


カラリ、カラカラ


「眠ってるアイツの枕元に置いておくとよ、ウトウトしながら焦点の合わねぇ目でボトルを見てんだよ。

そこから震える手で蓋を開けようとしてなァ。我に帰って絶望すんだ、キャンディを求めちまった…ってな。カワイイやつだよ。いつまでも見ていられる。」

「へ、ヘェ~…寝てる横で見てんのかぁ?」

「フッフッフ…まぁな。添い寝させてやってるってトコだ。」

「へ、ヘェ~…(オイオイ。悪趣味に拍車が掛かってんな??)」


カラコロリ


ご機嫌な様子でキャンディボトルを揺らす雇い主。まるで惚気じゃないかとシーザーは度々感じていた。

聞いている方としては中々な内容に引いていたが。

(オンナだよな。恐らく。)

そういえば、嘗てドレスローザの国王であった頃、王族の女を幹部に引き入れていたと聞く。

まだ生かしておいて、自分のモノとして虐めて愉しんでいるのかもしれない。

しかし己を助けに来た時に、王国は壊滅させたと言っていた事も彼は思い出す。

「皆殺しだ。全て壊した。」

トリカゴで切り刻まれた大地は、それはそれは真っ赤で凄惨なモノであったと…ゾウで己を奪い返したドフラミンゴは語ったのだ。

だったら今、コイツが手元で囲っているのは一体…?

(いけねぇ。詮索なんてするモンじゃねぇや。)

彼は思考を終わらせる。

さて今夜も行くか。待ってろガールズシップ!金ならたんまりとある!!


シーザー・クラウンは屑である。

大抵本人やそれ以外の悪意に満ちているモノしか作らない。かつて悪夢を見せられた麦わらやその一味からも忌避された程。だから食べさせる相手の事なんてどうでもいい。

金さえくれれば、彼は何でも作り出す。

シーザー・クラウンは屑である。

……

………

その日、ラボの空気は重苦しく澱みが立ち込めていた。

苛立ちを隠そうともしないドフラミンゴが、声を荒げているからである。

その相手であるシーザーはというと、何とも言えぬ表情(かお)で彼の言葉を聞いていた。


どうやら、キャンディを食べてる相手が発作を発症し死にそうになっているらしい。

そりゃあそうだろ。シーザーは内心一人ごちる。

どれだけ薄く希釈したとしても、死に至る鉱物とクスリを合わせた劇物なのだ。何れはこうなって当然な筈。承知の上での依頼ではなかったのか?

「なんとしても珀鉛病を完治させろ!!」

以前訪れていた時とは全く違う鬼の形相で、とんでもない無理難題をふっかけてくる依頼主兼上司。

怒髪天とは正にこの事。心無しか黒い稲妻が僅かに放たれているような。

ひたすらにシーザーは恐縮し、困惑した。

「以前、現物渡したよなァ??手前なら治す手段くらい見つけてンだろうがシーザー!!」

どうやら目の前の男は、シーザーの化学者としての腕を相当に買ってくれているらしい。

常時なら高笑いし「確かに俺は天才だからな!!」と言い切れる。

しかし、現実とは残酷なモノで。


「ジョーカー…アンタは恩人で大切なビジネスパートナーだ。そりゃあ可能な限り応えてやりてぇよ。」

忌々しい麦わらと死の外科医を下し、此処に戻ってこれたのは、間違いなく目の前の男のお陰だ。

恩を返すべくシーザーは男のオーダーに、自身の中にある僅かな誠意を持って応える必要がある。

「でも無理なんだよ!!珀鉛病を治す方法はオペオペの外科手術しかない!!俺の作る薬で、珀鉛を抜く事は出来ねぇ!!仮にその薬を作れるとしても、レシピを作ってる時間が無ぇんだよ!!」

そう。渡された実物の珀鉛を調べ尽くし、マウスを使って病の様子等も観察した。

そこから導き出される結論は「現時点において薬学療法での珀鉛病に対するアプローチは不可能。」という化学者としては中々痛烈な結果であった。最も、シーザーは化学者であって医者ではない。それが解った所で何の問題もなかった、今までは。

今、この場において、その結論は彼の首をギチギチに締め上げている。


唯一の方法として挙げたオペオペの外科手術は、痛みも出血もなく、患者の体力を下手に損なわせる事もない。

患者の容態下降等を気にする事なく、的確に体内の異物を排除出来るという点において、これほど珀鉛病に効く実は無いのだ。

「トラファルガーはもう居ねぇんだからよ。どっかになってるオペオペの実を、アイツ程度とまではいかなくても、それ位腕の立つ医者に食わせるしかねぇ!!」

ドレスローザを壊滅させた時点で、反旗を翻してきた死の外科医は消えた。ならば再び実を探すしかない。

「お前の傘下の奴使って探させりゃイイ話じゃねぇか…なぁジョーカー!!」

現状を考慮し、必死にシーザーは言葉を紡いだ。彼なら可能だろうと疑わなかったから。

ビキリビキリと額に浮かぶ血管。

ギリギリと食い縛られる歯。

これは不味いと化学者の顔が青ざめた。

覇気の籠った拳でも飛んできそうだという予感。

グッと目を瞑り歯を食い縛る。

己が間違っているとは思っていないが、激昂したドフラミンゴには何を言っても通じないだろうと判断した。

しかし、彼の予想に反して拳は飛んで来ず。襟元を掴んで震えていた手が、乱雑に振り払われた。

予想外の反応によろけるシーザー。


「それが出来りゃ苦労しねぇんだよ。」

クソが、と吐き捨てる様に言葉を溢し、ドフラミンゴは応接間を去った。

ガァン!!と鉄製の扉に黒い拳(覇気を帯びている)を叩き付け退室。轟々とと轟く嵐が去った。


緊張の解けたラボの主はソファーへとへたり込む。

「おっ…おっかねぇ~…」

(あんなにぶちギレたジョーカー見た事無ぇよ…。)

未だに残る怒気の余韻で震えた。


「いやしかし、実際それしか方法無ぇだろ…。」

嵐の様な来訪者が去っていった方を見ながら一人呟く。。

(まあいいや。俺はキャンディ作っただけ。与えていたのは向こうだし、別に俺が悪い訳じゃねぇもんな。)

シーザーは思考を完結させた。

依頼が無くなって、大金が入ってこなくなるのは残念だなと思いながら。

………

…………

それから暫く経ったある日。

プルプルプル。プルプルプル。

連絡用電伝虫が鳴いている。

あれ以来、音沙汰の無かったドフラミンゴからの連絡だ。

シーザーは恐る恐る受話器を取った。

ガチャ。

「俺だ。シーザー。」

「じょ、ジョーカー…久し振りだな。」

その声に不穏な色は滲んでいない。

それどころか、最後に訪れた時とは真逆だ。とてつもなく機嫌がイイ。

「フッフッフ…以前は悪かったな。冷静じゃ無かった。」

「い、イヤ…気にしてねぇよ。アンタの機嫌が直ったんなら、何よりだ。」

まさか謝罪の為だけに連絡してきたのか?あのジョーカーが??

「シーザー。お前言ってたよな?『オペオペの実を食った奴に治させればいい』と。」

「お、おう。言ったな。」

「あン時は不可能に近くてなァ。思わず苛立っちまったんだがよ。何とかなるかもしれねぇンだ。」

ジョーカーは浮かれている。

直感的に察したシーザー。

「そっそうか!!良かったじゃねぇか!!」

最近は惚気が酷く、内心辟易していたが、この頭脳と腕を駆使して依頼をこなせば、たんまりと金が入ってくる。

だからこそジョーカーとの取引を止めるつもりは無い。

「手前が其処に至る迄の切っ掛けをくれた様なモンだからな。感謝してるよ。」

「い、いやぁそれほどでもねぇさ…。」

(俺あの時何て言ったっけ??まぁいいかそんなこと!!)

「時にシーザー、治ったらアイツに褒美をやらなきゃいけねぇんだ。また頼めるか。」

「お、おう分かった!!報酬よろしくなジョーカー!!」

フッフッフと笑う電伝虫の向こうに、了承の意を伝え電伝虫を切る。

またウマイ話が転がり込んできた。

その事に胸を弾ませながら、再び作業に取り掛かるのであった。


カラコロ、コロリ。


シーザー・クラウンは身勝手で屑だ。誰よりも自身が大切で、倫理観も薄い。

己の作るキャンディが、嘗て自身を取引き材料としドフラミンゴに七武海脱退を迫った男の為のモノだと知らなくても、(そもそもビジネスパートナー兼部下でしかない彼が知れる訳もないが。否、知ったら寧ろ更に乗り気になる可能性もある。)返ってくる大金と得られる快楽に思いを馳せながら、今日も嬉々としてその頭脳と手腕を使うのだ。


ガシャン。


「おっとボトルが…別のを持って来ねぇと。」


それがいつか、彼にとって最悪の結末の切っ掛けになるとも知らずに。





(これは甘くて離れがたい地獄の始まりと、訪れる終幕への幕間。)


(解放のドラムは、きっと鳴る。)






この話いる?→いや無くても大丈夫かもしれないけど概念を抽出した時に出てきた場面ではあるんで…(早口)(震え声)


エピソードゼロと次に繋がる布石みたいな役割も兼ねたお話でした。


ドラム鳴るといいな~(他人事)





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