カラコロ、コロリ(3)
飴コロ。
「はじめましてぼくヘルメス」
「パイセンかっけー!!」
を念頭に、カラコロシリーズの続きでございます。
勢いで仕上げてます!!推敲や展開の甘さ・分かりづらさ注意!!
推敲の甘い所はサイレント修正します。
当初の話から加筆しまくってるのでくっっそ長いです注意。
ifローさんがとっっても頑張ってます。正直ボロボロな彼に鞭打ち過ぎた。ホントすまぬ。
キャンディ要素薄目だよ。他の好き!!って感じた概念もぶっこんであるよ。
ifミンゴが間抜けに見える?ご都合主義と慢心故の油断だから…(震え声)
鳥籠の真下。大理石の床の上。
ぐったりと横たわる己の傍にしゃがみこむドフラミンゴ。その表情は険しい。
「また治してねぇのか。ロー。」
しゃがみこみ、此方を覗き込んでくる。
「死にてぇのか?」
サングラスの奥の目は、理解できぬモノを見るような目をしていて。
お前が其れを言うのかと心中で嘲った。
王の居城。俺を閉じ込める狂った怪鳥の巣。
飛び立てぬ様にと海桜石の枷で常に繋がれて、悪趣味な寵愛という名の拷問凌辱を受ける。
全ては同盟相手の敗北と同時に、捕らわれた事から始まった。
あれからもう、どれだけの時が経ったのか…。ただ、今の俺には始まりが酷く遠い記憶であり。
果てが見えぬこの地獄に、ようやく終わりを見出だせて、胸の内でひっそりと安堵している。
最初は奴を殺そうと画策した事もあった。だけど片腕にされ能力を封じられた負傷者には高いハードルでしかなくて。
止められた後に仕置きだと身体を痛め付けられ、心も散々に踏み躙られた。
全ては愛だと奴は笑う。
カワイイ弟を愛してやるのは、兄である俺の役目だろうと。
俺を弟と呼び、愛しい愛鳥だと愛でて。鋭い蹴りが、重い拳が、数多の糸が、痕をのこす。
身体だけなら、まだ良かった。
クルーの遺体で作られた装飾品を渡される。それに縋る俺が気に食わないと取り上げ、眼前で壊していく。
与えられるモノに思う様な反応をしなければ、逆鱗に触れた俺が悪いのだと、見せしめに数が更新されていく使用人の遺体。悪魔の被害者が増えていく。
いつも、いつも悪夢を見る。拷問の記憶。現実と地続きの苦しみ。お前のせいだと苛んでくるかつて生命を摘まれた人々。その中にクルーや同盟相手もいる時がある。吐かれる怨嗟は受け入れるしかない。全て、事実だから。
降り積もるカラダとココロへの痛みは、やがて反抗心を擂り潰し、ただただ与えられる全てに恐怖するしかない、無力なヒトガタを生み出した。
だからもう死のうと思ったんだ。
そうすれば終われると。
駄目だった。死に至る前に見つかり、治療を施されてまた鳥籠へ繋がれる。家族を…半身を死なせる馬鹿が何処にいるのかと、自死を選ぼうとする度に呪いの如く囁かれて。
耐えきれなくて幼児退行した時もあった。それをいい事にキャンディという新たな呪縛まで与えられて。
珀鉛とドラッグで出来た、甘いキャンディ。
帰りたくなる故郷の味。
身体はキャンディを求め、飢餓感に縛られる。求めたくないのに求めてしまうのが、苦しくて堪らなかった。ストレスによる不眠などで見ていた悪夢と幻覚が、更に深度を上げて酷くなっていく。
そんな俺を嘲る様に、海桜石の枷を外すドフラミンゴ。
「そら、キャンディを思い出すんだろう?ちゃあんと摘出しろよ。」
その言葉をなぞる様に、最初の内は無我夢中で取り除いていた。
自分の中に、また珀鉛がある事が、怖くて、恐ろしくて。
焼けていく故郷や皆が、鮮明に脳裏に浮かんでくるから。
必死に取り除いて、震えていた。
けれど、もう従うつもりは無い。
このままでいれば、終われる。
皆のもとへ行くことが出来る。
その事に、気付けたから。
それからは治療するのを止めた。
見た目だけ其らしくなる様に少量だけ除去して大半は放置する。
体内に蓄積していく死のカウントダウン。
案の定、頻繁に発作が出る様になった。熱と痛みによる意識の混濁。弱りきっている身体へ更に掛かる負荷。隠せなくなっていく肌や髪の白に、忌々しい病の症状だと直ぐに見抜かれて。
発覚した直後、激しく激昂され「さっさと治せ!!」と切り刻まれた。
酷く焦ったその様は、この地獄が始まってから、初めて見る表情(かお)で。
変なの。お前が俺をこうさせたのに。
おかしくて、おかしくて。
引き攣る顔に口角が上がった事を知る。ハッと乾いた息が漏れた。
それを見た奴には、更に切り刻まれ、足蹴にされたけど。
一方的な執着を傾けてくる身勝手な男。
嗚呼、でもそのお陰で…やっと、皆に逢える…アッチに行ける…。
「チッ…」
忌々しそうに舌打ちをするドフラミンゴ。サングラス越しに、視線が向けられる。
青み掛かった黒髪は濁った白が混ざり、肌のあちこちは斑に白い。
身体中が痛みに蝕まれ、意識は常に朦朧としている。
それこそ、死にかけという言葉か相応しい。そんな、今の俺。
「強情な奴だ。まぁいい。その意地も今日で無意味になる。」
グイ、と左腕を掴まれ、力の入らない身体を無理矢理起こされる。
僅かに動かされるだけでも、痛くて堪らない。思わず小さく呻いた。
「ぐッ…」
「これを見ろ。」
奴の手のひらに収まる球体。
拘束具でも拷問具でもない。
用途の分からない代物。
あれは一体…。
「フッフッフ…知ってるか?ロー。
世界っていうのは、無数に存在している。」
眼前に差し出された球体へ視線を落とす。
「パラレルワールドって奴らしい。
『並行し、平行する世界がこの世にはある。』
かつて一部の科学者達が提唱し、一笑に伏された説だ。だが、数百年前、こいつが古代兵器関係の資料と共に発見された事により、再びその説は脚光を浴びた。…よく消されなかったモンだよなァ。」
表面に金で刻まれる文字『Hermes』
「古代兵器ヘルメス。神の足と呼ばれる代物だ。こいつを使ってお前を治す。」
言葉の意味が分からない。
「まぁ、もっと正確に言えば、治す為の足掛かりってトコだな。」
更に笑みを濃くするドフラミンゴ。
俺を治す?そんな事不可能だ。
そんなの、同じオペオペの実の能力者じゃなきゃ。治療を施さねばならない俺自身がそうなのだから、治すだなんて出来る筈がない。…まさか、
「別の世界のお前に、直々に治させてやるんだよ。」
「は…?」
一瞬、思考が止まった。
「自分以外の珀鉛病の患者がいるだなんて知ったら、さぞ驚くだろうな。」
後から思考が追い付いて、内容を理解し、戦慄する。
「嗚呼。お前は何も心配しなくていい。何処の世界でも、クルーを人質にでも取れば大人しく従うだろう。
手前はそういう男だからなァ?トラファルガー・D・ワーテル・ロー。」
カヒュ、ヒュッ…と呼吸がひきつる。
「況してやよぉく知り尽くした自分の治療だ。実に容易い事だろうよ。」
カチリ。球体の一部に夜叉の指が沈み、音が鳴る。
ピピピ…と機械の動作音の様なモノが聞こえた。
「嗚呼、そうだ。そのままソイツを連れてくるのもアリだなぁ。」
「ザザッ…起動準備中…ザザッ…しばらくお待ち下さい…」
無機質な音声。それがまるで、死刑宣告の様で。
「お前をこうして一年と少しってトコか。フッフッフ。活きのイイ状態からまた躾し直すのも一興…」
実に愉しそうに、夜叉が笑う。
「お前と一緒に繋いでやろうか。そうすりゃ寂しくねぇだろ。」
新しい愛玩具を夢見る怪鳥は、勝手に話を進めていく。
「動作準備中…ザザッ…ゴポポ…異常なプロぐらムをけけ検知…動作処理…しばらく…ゴボッ…お待ち下さい…」
「オイオイ。起動が久しぶり過ぎるのか?チッ…先に試しておくべきだったか。」
ノイズを走らせる機械音声に顔をしかめるドフラミンゴ。ヘルメスの表面に何かが浮かんだ。
「Now roading…」という文言。此れが、溜まったら。
「ゴポッ…異常なプログラム、除去完了。ピピピ…起動完了まで、あと数分になります…」
これが「起動完了」とアナウンスした時、死への足掻きは泡沫と化す。
ダメだ。
コイツと別世界に飛んではいけない。
別の世界の自分やクルーがこの地獄に巻き込まれるなんて…!!
「ッ…Room!!」
無我夢中で発動した。
火事場の馬鹿力故か、サークルの範囲は広大なもので。
不意を突かれた男が、色ガラスの向こうで目を見張るのが見える。
「シャンブルズッ…!!」
一際つよく気配を感じたナニカと己を、加減を忘れて必死で入れ換えた
。
………
……………
何処かに落ちる身体。ドサッと派手に音を立てて転がる。
「ぐッ…」
能力行使と、体力の無さで震えるのを必死に抑えながら、急いで身体を起こす。
片腕だから、ふらついて不安定だけど。構っていられない。
逃げないと。…何処へ??
今さら、こんな自分が。
…いや。何処へだって、だ。
とにかく今、捕まったら終わる…!!
目線を走らせた。
どうやら屋敷の何処かの部屋へと飛んだらしい。
窓はカーテンで覆われ、暗くて何も見えない。幾度かの瞬き。僅かに隙間から差す光。数秒のちに目が慣れてくる。
「ッ、ウッ…」
悲鳴を挙げそうになり、ヒュッと喉を引き絞った。
それは、己の拷問凌辱の記録。
拘束具、拷問具、趣味の悪い衣装…俺を嬲り、傷付け、弄ぶ為だけに用意されたモノを収めたコレクション部屋。
何れも此れも見覚えのある品ばかりで。今までの痛みと苦しみが脳を過り、全身が震え出す。
「おち、つけ…!!」
駄目だ。こんなところにいたら、折角奮い立たせた心がひしゃげて潰れる。
出口は…!?探して辺りを見渡す。
すると、カーテンの向こうの光とは別の何かが視界に入って。キラリとしたその輝きにハッとする。
光の無い閉ざされた部屋。
なのに、何故かキラキラと輝いている鮮やかな石。
「あ…」
色の着いたダイヤ達。俺の指のサイズに直されたリングやピアス、カフスボタン等へ加工された金剛石。
大切なクルー達の成れの果て。
幾つかは目前で踏み潰されて、亡くなってしまったけれど。
無我夢中で手に取った。
置いていきたくなかったから。
少しだけ気を持ち直す。
手に取った残り少ない遺灰ダイヤ。
大切な俺のクルー達。
「良かった…まだ、あった…」
もう離さない。握りしめた彼等を、ポケットへと収めた。
もう一度辺りを見渡す。
出口へ…いや、駄目だ。ここは屋敷の中。部屋を出たとしてもまた鳥籠に戻される未来しか見えない。
捕まって海桜石の枷を嵌められたらアウト。そのまま並行世界へ連れていかれ、強制的に治療を施されてしまう。別世界のクルーや俺が手を出されない保障が何処にある??
奴の執着は異常だ。
それが別世界にも向けられたら??
先ほどの会話で既にその片鱗が見えている。危険だ。
「トラファルガー・ロー」という存在に対しての執着は、この世界の俺だけで終わらせるべきもの。
だからなお一層、捕まる訳にはいかない。そと、外に出ないと…!!
扉を模した大きな窓。目を凝らしたら小さなテラスらしき床が見えた。
思い切り体当たりし、太陽の下へと躍り出る。
そのまま転がる様に身体を投げ出す。ゲホッと息を吐いた。這いずり、手すりを支えに体勢を直してしゃがみこむ。
「おいロー!!ふざけるな!!出てこいクソガキ!!」
遠くから聞こえる悪魔の声。
ゾクリと背筋が冷えた。
久々に発動した見聞色の覇気が、迫る気配を捉えている。
「ッ…」
このままじゃいけない。
『キャプテーン!!愛してるよー!!』
『ローさん!!大好きです!!恨んだりなんかしませんから!!あんたは生きてくれ!!』
きっとまだ生きて笑っている他の世界の彼等を地獄になんて巻き込めない。
逃げなきゃ…逃げなきゃ…。
そうだ、下に…!!
支えにしている手すりの隙間から下を見る。
目に入る光景に絶句した。
「うそ…だろ…」
僅かな土地と回りを覆い尽くす真っ白な雲海。
広がるのは真っ青な空、空、空。
「そらじま…?」
あれは、眉唾物の伝説じゃなかったのか。嘘つきノーランドの言葉は真実だった??
自らが居たのはドレスローザの跡地だと思っていたのに。城ごと移したとでも言うのか。俺を逃がさない為に。改めて、奴の狂気に背筋が凍る。
どうすればいい。仮にここから飛び降りて、下界を目指して雲海の中に飛び込んだとしても。勘付かれ、雲を全て糸に変えられる可能性すらある。
『全く…手こずらせんなよクソガキ。』
以前、逃げきれたら解放してやるという条件で『鬼ごっこ』をさせられた事を思い出した。
あと少し…!!という所で扉や床を糸束に変えられ、骨が軋む程にギチギチと締め上げられた。
『まだここまでの根性があったか。』
『グゥ…、ウゥ…!!クソが…!!』
『まぁ、俺の勝ちな事に変わりは無ぇ。惜しかったなァ?ロー。』
直後、無情にも折砕かれた隻腕と両脚の痛みは、未だ鮮明に刻まれている。カタカタと身体が震えた。
「だめだ…」
何処へ行っても、糸に縛られる未来しか見えてこない。逃げなきゃいけないのに。これじゃあ、どうしようも…
途方に暮れた自分の側に、カシャン…と何かが落ちる音がした。
コロコロと転がってくる其れは、先程奴が意気揚々と俺に見せびらかしていた代物。
「ピピピ…起動準備完了。システム、オールグリーンです。」
ヘルメス…
(神の、足)
陽炎の様な奇妙なナニカを纏う古代兵器が、俺の目の前で止まった。
そうだ、此れを壊せば…。
何故俺の下へ来たのかは分からないが、これはチャンスだ。
手に取り、力を込めてみるが、ブルブルと手が震えるばかりで少しのヒビも入らない。
じゃあRoomで解体を…駄目だ、鬼哭も無い。そもそも此処に飛んだ一回でもう体力が尽きている。今だって必死に奮い立たせて何とかしてるっていうのに。
ゼェゼェ、ヒューヒューと己の呼吸音が煩わしい。
「クソ…どうすれば…」
何かないか。必死に金属を継ぎ接いだ様な球体の表面へと指を滑らせる。カチッと何かのスイッチ音が聞こえた。
瞬間、あっと思う間もなく球体から光が溢れ、ボールの様に俺の身体と回りの空間を包むオーラに変わる。
それは先程、久方ぶりに目にしたRoomの空間を思わせて。
一瞬の出来事に呆気に取られる。
「ようこそ。わたしは神の足、ヘルメス。時空を渡る転移装置です。」
目の前の光景は白いモヤが掛かっていた。フワリと僅かに浮遊感。
ほんの少しだが宙に浮いている。
「起動…した…」
時空転移装置ヘルメス。
俺だけが取り込まれたのだ。
「先程の不正なプログラムは除去されました。人物認証…トラファルガー・D・ワーテル・ロー。搭乗者固定。移動完了まで、退出及び内側からの破壊は出来ません。ご注意下さい。」
ピピピッと球体の回路を極彩色の光が走る。それはオーラの表面にもリンクして表れた。
少しずつ、フワフワと上昇し、テラスから離れていく。
「それでは移動先の座標を。または希望する世界線を登録して下さい。」
やっと事態に頭が追い付いた。
このまま俺は世界を飛べる。
此処から…いなくなれる。
近づいてくる怒りの気配。
悪魔…いや、魔王が迫っている。
恐怖が呼び起こされ、手の中の装置を胸に抱く。
落ち着け…大丈夫だから…。
きぼうする、せかいせん。
「俺は…」
目の前がぼやける。
喉がつかえたけど、震えながらも必死に言葉を絞り出した。
「俺のクルー達が…こんな状態になって、死なせてしまった全ての人が…生きて、自由で、幸せな世界を、見たい…ッ!!」
ボロボロと涙が溢れる。
おれはどうなったっていい。
大切な彼らが、自分に関わったせいで死んでしまった人々が、ただ生きて笑っててくれれば。
それを一目見れたら、もう大丈夫だから。
幸福なまま、ひとりで終わるから。
バァンッ!!と派手に壊れる扉。
サングラス越しにも見える憤怒に満ちた血走る目が、俺の事を捉えた。
「ロォオー!!ふざけるなテメェ!!何処に行くつもりだ!!」
「ッ…!!」
ヒュッと息が詰まる。大丈夫…大丈夫だ。お前なんかに、誰が言うか。
「手前ひとりで居なくなる事を、誰が許した!?戻れ!!ロー!!」
ズンズンと近づいてくる脅威。
「了解。世界線固定。転移までの5カウント開始。」
オーラの表面を走る極彩色の光が、速度を上げてさざ波の様に全体を包み込む。
テラスに魔王が辿り着いた。
「5、」
「もういい。治療は辞めだ。また手前を躾直さなきゃいけねぇ。」
「っ…」
「4、」
「このまま死ぬつもりなら、自分の全ては俺のモンだって理解してから死ね。」
「3、」
ギチギチと糸の張られる音がする。
「強引に転送を止めさせたらブッ壊れるだろうな。貴重な古代兵器だが…まぁ、仕方ねぇ。お前が悪いンだぞロー?」
「いや、だ…」
「2」
魔王の手のひらから、しなりを帯びた糸束の鞭が現れる。
「超過鞭糸(オーバーヒート)…」
「たすけて……」
「1」
「終わりだ。」
「だれかっ…」
その時、魔王の背後から。
音もなく鈍色の銀が飛来して。
振りかざされた腕を貫いた。
「ガッ…!?」
何の気配も感じなかったソレは、深く深く、腕の肉に食い込んで。
突然の不意討ちと激痛に、魔王はヨロリと身体をよろめかせる。
部屋の中に落ちていた数多の白十字が印された鞘。
フワフワとした毛皮で装飾された鍔。
見覚えのある長大な刀身。
陽炎の様なナニカを纏い、魔王の振り上げた腕を貫いた業物。
音もなく、気配もなく。
ドフラミンゴに入った一突き。
ゆらゆらと揺れる陽炎の向こう側。
そこに、いたのは。
「0。転移開始。」
グンッと上へと引っ張られる様な感覚に、しゃがみこんでいた身体が浮き、ぐるりと視界が回る。
強くなる光に、もう目を開けていられない。
遠くに聞こえる夜叉の…鬼の哭き声。バキリという無慈悲な粉砕音。
『どうか、ごぶじで。』
誰とも知れぬ声。でも、俺はその声を知っている。
かつて共にあった愛刀。
「き、こく…」
嗚呼…お前が、俺を…。
『ロー。』
聞き覚えのある誰かの声もして。
でも、全てに疲弊した俺の意識は、そのままズルズルと沈んでいった。
(その日、魔王の手で。)
(一つの大太刀が鉄屑と化した。)
ゴポリ、ゴポリと水に浮かぶ泡沫の音。
『ロー、ロー…』
『大丈夫だからな…』
『刀くんにもお膳立てして貰ったんだ…俺は、何処へだって着いて行ってやるぞ。』
『ひとりになんか、しねぇからな。』
了
(ヘルメスを飛ばし、最後に魔王の腕を貫いたのは、何時も傍らにいた彼です。)
(妖刀が、主を思い、最後に折り砕けた話)
(この妖刀さん、ハートのクルー達を殺す事だったり、様々な殺戮と破壊に悪用されてしまっているので、ifミンゴに対してヘイトMAXだったりします。)
(でも自分が刃を向けたら主に当たり散らすかもしれないし…とか考えてた主大好きな妖刀さん。チャンスとばかりに妖刀パワーをフル活用しました。)
(この話においては珀鉛キャンディ要素が序盤のみでうっすくなってしまったので反省してます。)
(サブタイトル…パイセンかっけーー!!)