カラコロ、コロリ。(1)
飴コロ。珀鉛キャンディ(シーザーの作ったドラッグと珀鉛を合わせた飴玉)を、幼児退行していた時に食べさせられていたifローさん
そんな彼を洗脳しようとして逆に幼児退行から戻ってきた時の話。
注意!!
※嘔吐とグロ描写あり
※モブ使用人とifローさんがめちょめちょに可哀想
※ifミンゴさんもだいぶ頭天竜人。
「お前の家族は、俺だけだ。」
兄さまの手のひらが、俺のほおに触れる。ゆっくりと、いいきかせる様に。みみもとで、あたまの中へ。紅茶にハチミツを溶かし込むように。どろどろと。どろどろと。
「お前には、俺しかいないのさ…ロー。」
俺しかいない。
ドフィ兄さましか、いない。
おれの…家族…は…
「お前の兄弟は、俺だけだ。」
きょうだい、は……
『にいさま~!!』
ニコニコ笑う小さな子。
ツインテールの女の子。
『父様と母様がね、キャンディくれたの!!兄様も食べようよ!!』
カラコロ、カラコロ。
一緒に舐めた、あまいあじ。
『美味しいね、兄様!!』
かわいい、可愛い…俺の…。
「兄さま、何言ってるの?兄さまだけじゃないよ。俺には、いもうと…が…」
いもうと。
そうだ、妹だ。
たった一人の可愛い妹。
ラミ。
「ッ…!?」
ぶわり。震える。
噴き出す汗が、身体を冷まし、心を醒ます。
流れ込む記憶。かつての自分。
敗北と紅く染まる悲劇の国。
尊さ故に手離したのに、無情に壊されたタカラモノ。
終わりの見えぬ責め苦。
喪ったタカラモノ達への尽きぬ懺悔と愛。
「あ…アア…」
それを忘れ、退行した愚かな自分。
目の前の男から与えられる、おぞましい寵愛。
ヒュッと喉の奥が鳴る。
呼吸の仕方が分からなくなる。
せり上がってくる胃液。
咄嗟に口を押さえたけど、間に合わなかった。
「う゛ェエッ……!!ガハァ…!!」
ゴボリ。ビシャビシャと隙間から溢れる吐瀉物。固形物なんて無い、胃液だけのソレが。
いたいけな少年を思わせる、ひらりとしたドレスシャツを。
緩く締め付けるコルセットを。
黒地の細かい金糸細工入りのレザーパンツを。
ドロドロと汚していく。
「ッ!!あ…ア゛ァアーー!!」
今この瞬間が、ここに至る迄の全てが。おぞましくて堪らない。
「……何だ、ロー。正気に戻っちまったのか。」
スッと表情の消えた目が此方を見ている。自分にも掛かり汚れた筈なのに意にも介していない様だ。
「フッフッフ。折り切れてなかったって事だな。俺もまだまだ甘い…。」
「カヒュッ…あ…う゛ぁアアァ!!」
枷の着いた片腕を振り上げる。
隻腕故か、ドフラミンゴの膝の上にあった身体はその反動でぐらつき、強かに大理石の床に打ち付けられる。
「ガハッ…ぐぅ…!!」
「フッフッフ。大丈夫か?ロー。」
腕を捕まれ引き上げられた。
筋肉の落ちた隻腕はすぐにでも折られてしまいそうな程、か弱く、細く。
ジャラ…と鎖が音を立てる。
首と片腕を繋ぐ海桜石の枷。たったそれだけ。
以前の拘束よりも格段に緩いソレは、朧気な記憶の中にいる自身の今までの無防備さを思い知らされる様で吐き気がする。
「兄さまと呼んでくれるお前は、中々に可愛かったんだがなァ?」
「だまれ!!」
嫌だ。離せ。傍に居たくない。
傷つけられた腱とこの狂人の糸が織り込まれた紐によってキツく締め上げてくるブーツ。
覚束ない足取りでしか歩けぬ脚は、動かすだけでもガタガタ震えて仕方ない。
それでも、先程までこの男を「兄さま」と呼んですり寄っていた事実が、嫌で、嫌で仕方なくて。
再び膝の上に上げられた全身を、必死で動かし抵抗した。
不意にガタンッと音が鳴る。
バタつかせた足が、何かを蹴り上げたらしい。直後、ガシャン!!と更に派手に物が割れる音がした。
反射的にビクリと身体が震える。
「オイオイ。割れちまったじゃねぇか。」
勿体ねぇなぁと男は嗤う。
蹴り上げたのは、サイドテーブル。
その少し先で奴の手のひらに収まりそうな程度のガラスボトルが粉々に粉砕されている。
バラバラと床に散乱したソレ。
窓からの陽光を受けて輝いている。
宝石みたいに、キラキラと。
ざらついた不鮮明な記憶の中にもあった輝き。
「あれ…は…」
「なぁに。お前の大好きなキャンディだよ。美味しい美味しいって喰ってたもんなァ?」
じわり。口に溢れる唾液。
脳裏に甦る、溶ける様な多幸感と飢え。
にいさま、これおいしいね。はくえんのあじがする…。
もっとあるぞ。好きなだけ喰え。
うん!!ありがとう!!
「ッあ…ア゛ァアアー!!」
カラコロ。カラコロ。
キラキラ。キラキラ。
「故郷の味だ。離れがたい甘さだろう。」
どこに行っても、逃げ出しても、ここにかえりたくなってしまう。
そんな魔法をかけた、あまぁいはくえんキャンディ
「おい。ソイツを拾え。」
俺の介助を任されている奴に、指示を出すドフラミンゴ。
扉の傍に控えていたらしい。
ビクリと身体を震わせてから此方へと駆け寄る。散らばったキャンディを手のひらへかき集め、玉座の前に立った。
「ほぉら。ロー?」
奴の操る糸が一つ、使用人の手の中の黄金の飴に垂らされる。クッと指を引けば、ふわりと一つ宙に浮かんだ。
手に取ったソレの透明な包み紙を、勿体ぶる様にうやうやしく剥がして。
「お前の大好きなキャンディだぞ。」
俺に喰わせようとゆっくりと口許に迫ってくる。
「いや、いやだ!!もう食べたくない…!!いやッ…」
必死に首を振り抗議した。
僅かに白くなりつつある頭髪や皮膚。既視感のある症状が出ている己の身体にゾッとする。これ以上珀鉛を、クスリを摂らされるのは…!!
「ほぉ?そうか。食いたくないか。」
ガタガタと震えながら必死に頷く。
「困ったなぁ。お前の為に態々シーザーに作らせたんだが。」
嘗て壊したSMILEの原料…SADの製造工場の長の名に、彼奴も野放しにされたのかと思考が過り、また絶望の種が芽吹く。
「まぁ、でも仕方ねぇな。可愛い家族が要らねぇと言ってるんだ。無理強いはしねぇさ。」
フッフッフと笑う男。
機嫌が損なわれた様子は無い。
珍しく諦めてくれたらしい。
ほっと気が緩む。
「じゃあ余ったコイツは手前にやろう。」
そう言うドフラミンゴの目線の先には、先程かき集めたキャンディを持つ使用人。
ヒュッと息が詰まる。
コイツ、今なんて。
「中々手塩に込めて作ってるからなぁ。ローも喜んで食った代物だ。味は保証するぞ。……食え。今、この場で。」
スッと表情の無い目で射貫かれる哀れな使用人。カタカタと震え、息も荒くなっている。
当たり前だ。この悪趣味な凌辱をずっと見てきたんだ。俺に与えられていた飴玉の中身だって既知の筈。
こんな、珀鉛とドラッグの塊を、何の関係もない奴に??
「ロー、お前の為のキャンディなんだ。だがなァ、お前が嫌なら仕方がない。…食え。」
無慈悲に下される命令。
キャンディの哀れな贄となる事を命じられた使用人は、一度だけギュッと目を閉じ、震える手でドフラミンゴからキャンディを受け取った。
そのまま、口の中へと。
「ッ………!!ドフィ…っ兄さま…!!」
気が付けば声が出ていた。
ピタリと止まる手。此方へ向く二つの視線。
「ンン…?どうした?ロー。」
悪趣味な男の三日月の笑みが俺を迎える。
「キャンディは、俺のものなんだろ…??」
ガタガタと震える身体はココロの拒絶反応。引き攣る表情(カオ)を無理矢理、笑顔に変えて。
「だったら…全部…俺にちょうだい…?」
先程までの己の様に。
家族の様に、擦り寄って。
悪魔の象徴であるピンクのファーコート。ソレを掴んで、キャンディをねだった。
嗚呼、全て手のひらの上か。
更に大きく裂ける三日月。
「フッフッフ!!嗚呼そうさ!!ロー、お前のモノだからなァ…!!」
愉快で堪らないといった様子の悪魔。
「誰にもやるつもりは無ぇんだよ…!!」
昂る感情のままに横になぎ払われる指。
それに従って、口許にキャンディを持ってきていた使用人の顔が、口から上と下に、別れ…て…。
「え」
それが、最期の言葉。
滲む線が一瞬で太さを増し、ブシャアア…とずれた断面から噴き出す紅へと変わる。
司令塔を失くした身体は力なく膝を折り、硬質な床へゴシャリと無遠慮に叩き付けられた。
「………おおっと、いけねぇ。うっかり殺しちまった。」
本当に想定外だったらしい。けど、1ミリも焦りを感じない声で、己の所業をなぞる嘗て神の一族であった男。
「ッ…!!」
なんで。俺は、ただ。他の人間に俺と同じ目に合って欲しくなかっただけなのに。
拡がっていく血溜まり。
先程まで息のあった身体。
共に紅へと沈んだキャンディ。
もう、声も出ない。
「まぁいいさ。使用人なんて腐る程いる。」
フッフッフと笑いを溢し、血溜まりの中へと飛ばされた糸。
先程、包み紙を剥がされた黄金の飴には、息堪えたばかりの人間の体温を持つ液体が…ベットリとした紅が纏わり付いている。
「さぁ、ロー。お前の大好きな珀鉛キャンディだ。」
それを指で摘まみ、口へと持ってくるドフラミンゴ。
「全部、お前だけのモノさ。ゆっくり味わえ。」
目の前がぼやけてくる。
ジワジワと滲んで、また戻って。
頬に伝う、熱いモノ。
「そうか。泣く程嬉しいか。」
「……うん。うれしいよ…ドフィ…」
カラリ。コロリ。
鉄さびのニオイがするこきょうの味。尊い過去までも穢されていく。
(父様、母様、ラミ…)
無限の地獄とは、此処の事だ。
了
この後、精神的に限界の来たifローさんは気絶→別の使用人を呼んで、死体処理や着替えやらをさせて再び鳥籠の中へ。
目覚めたifローさんの傍らにはキラキラ輝くキャンディボトル。
それを見てガタガタ震え、泣き腫らすifローさん。
後から口枷も着けられて、更に追い込まれて甘味中毒に…という感じ。