カラコロ、コロリ。(4)

カラコロ、コロリ。(4)

飴コロ。

正史世界に来たぞー!!

やっと書けた!!


注意!!

※グロ表現あります。

※自…を匂わせる感じの表現あります。

※相変わらずifローさん可哀想。

※長いよ。あと最後いろいろ不鮮明だよ。敢えてだけど。

※早くうpしたくて推敲が甘い可能性あり!!後からサイレント修正するよ。


※素敵だと思う概念たっぷり。

※ソラの内容を若干捏造してます。

特撮ヒーローごった煮系の冒険&英雄譚と解釈してますので。


『ロー、ロー…ほら、起きろ。着いたぞ…』


懐かしい、誰かの声。

それに連れて意識が浮上した。


「う……」


ザザァン…ザザァン…


潮のにおい。波の音。

ゆっくりと目を開ける。

差し込んでくる光に目を細め、ゆっくりと馴染ませて。

足元が少し温い。力、抜ける…。


『いけねぇ!!海水に触れたら力抜けちまう…!!』


声と共に波の音が僅かに遠くなった。………うごける。


スゥ、と息をした。

身体に酸素が巡り、感覚が戻る。

緊張が解けて、強張っていた身体が弛緩した。


「ピピピ…移動完了。お疲れ様でした。ヘルメスはエネルギー自主充填の為、スリーブモードに入ります…ぐぅ。」

手のひらの中の球体が、チカチカと点滅している。

「ぐぅ…ぐぅ…ピチューン………ブツッ」

人間みたいな機械音声。

お前、寝るのかよ。そういやソラにもそんなのがいたな。機械言葉で喋るジェルマやソラのサポートメカ。

コミカルなやり取りは、いつもラミと笑って見てた。

思わずフッと笑みがこぼれる。


自分の状態を確認した。

背中にサラサラとした砂の感触。ジンワリとした熱を持っている。海か。そして砂浜。


目の前にはまっさらな青空。

雲一つ無い快晴。雲、一つ。

あの夜叉の糸が届く事はない。

それだけの事に酷く安堵する。

「………ハハ…にげた…逃げられたんだな…」

じわりと視界がぼやけた。

ふー…っと一呼吸。全身に今あるだけの力を込めて、身体を起こす。

「フゥ…フゥ…はぁ…」

自覚したら今更になって震えが来た。大丈夫…大丈夫…ここにアイツはいない…。

「鬼哭…」

窮地を救ってくれた愛刀。最後に聞こえた声と音。アイツは、もう…。

「ごめんな…ありがとう…」


そういえば、さっきから聞こえるこの声って……


『よし……ツは………んがあずか……ウォワ!?』


ゴボゴボ…

何かが泡立つ様な音がした。

と同時にスリープモードに入った筈の球体が赤い光を点灯させている。


「ビビビッ!!不審なプログラム接触を検知。攻撃のち逃避を実行します。」


『わっ!!イテッ!!このポ……ツ…イテ…ッ!!』


「逃避、逃避。物理的に逃避…。」


バチバチと火花の様なモノをスパークさせていたかと思えば、とてつもない速さで転がり始めた。いや、あれは…飛んでる!?嘘だろ?


「あっ、オイ…!!」


予想外の動きに反応が遅れ、能力を使う前に見失ってしまった。あそこまで自立して動くとは…。

とんでもないテクノロジーを備えたメカだ。見失ったらマズイ気がする。


「待てよ…ゲホッ…ハァ、ハァ…Room…!!」


ブゥ…ンと青白いドームを展開する。

気絶していたお陰で、少し体力は戻ったらしい。

島の広さは分からないので、広大な範囲を覆うことは出来ないが、あのサイズの球体なら何とか…

(っ、あった…!!)

「シャンブルズ…!!」

傍にあった石ころとヘルメスを入れ替えたつもりだった。

「えっ…?うわっ!?」

しかし、咄嗟の事だったので能力の出力と調整が上手くいかなかったらしい。


視界がぶれて景色が変わった。港の様だ。

どうやら俺とヘルメスを入れ替えてしまったらしい。建物の影だったから誰にも見られてなかったけど。


ドジった…能力の調整が出来ないとか、使い始めの頃かよ。あの人じゃあるまいし。

「ハァ…くそ…とにかく、すなはま、に……」

顔を上げて目に入ってきた景色に言葉を失った。


見覚えのある黄色い船体。

ドクンと心臓が跳ねた。

胸の内がふわふわと浮わつく感覚。

覚束ない足取りながらも膝を立て、必死に壁を支えにして。停泊している懐かしい船に目を向けた。


ポーラータング号。俺の…俺達の海賊船。仲間と共に沈められた自由の証。

その傍にいる白いツナギの2人。

名を冠した水生生物の帽子を被っている。…シャチとペンギンだ。

(あ…)

生きてる。悪夢の中の血塗れじゃない。恨めしげな声も出さない。

大切な俺のクルー。

船から降りてきたのは橙のツナギを着た白熊のミンク族。ベポだ。

「それじゃ行ってくるね。」

「ちゃんと夕方までには戻ってこいよ。」

「また説教する羽目になるのはごめんだからな。」

「良さげな医学書があると時間忘れちゃうもんね~。」

「「お前が声かけて連れてこいよ!!」」

「スンマセン…」

「「打たれ弱ッ!!」」

「だって声かけると集中し過ぎててドスの効いた声出すし…」

「気持ちは分かるけど怯むな。あの人のマイペースは野放しにしちゃ駄目な時もあるんだから。」

「そうそう。俺達で誘導しなきゃ駄目な時もあるんだぜ。」

「アイアイ…」

懐かしいやり取り。もう一生聞けないと思っていた。船長である俺を慕い、着いて来てくれる大切な仲間。

息をして、怪我もなく溌剌(はつらつ)としている。

この世界は、あの人の本懐を遂げられた世界なんだ。何もかも上手くいったそんな世界。

「よかった…」

俺が死なせてしまった者が生きて幸せに笑っている世界。

ヘルメスはちゃんと望む場所に連れてきてくれた。

「よかっ…た……」

俺が成せなかった勝利を此処ではきっと掴めている。目を閉じて、そっと見聞色の覇気を巡らせてみたら、他のクルー達の気配もこの島や船の中にあって。


(みんな、生きてる)

それだけの事が、穏やかに胸の内を満たしていった。


キラキラ。キラキラ。

日の光に照らされる優しい世界。


少しでも彼等に触れたくて、フワフワと浮わつく心のままに手を…


「騒がしいぞお前ら。」


聞こえた声に思考が止まった。


黒いシャツに膝上から裾に向けて斑模様の着いたスキニーパンツ。


………この世界の、俺。


「あっキャプテン!!」

「ちょうど良かった。今回は門限守ってくださいよ。コックがうまいおにぎり作るって言ってたんで!!」


声を弾ませるベポとペンギン。


「守らなかったら梅干しオンリーにするよう言い付けてありますから。はい返事は!」

「……わかった。」


シャチの言葉に渋々と言った顔で頷いている。

「俺」じゃない、この世界の「トラファルガー・ロー」。

ここにはアイツが…生きて存在している。


(……)


俺は今、何をしようとした?

手を伸ばそうとしたんだ。仲間に触れたかったから。

もうとっくに先の無い右腕を。

(あ…)

なんで、俺は彼らが自分のクルーだなんて錯覚したんだろう。


俺のクルーは、もう…


びちゃり

眼前に広がるのは20の遺体。


過るのは、地獄が始まってすぐの頃。


『やめてくれ』

『おねがいします』

『うばわないで』

『なんでもするから』

『いやだ、やだ…やだ…!!ア゛ァア゛アアア……!!』


映像電伝虫で見せつけられたのは「もう既に終わった事」


とうに奪われた後だというのに、映像の中で沈み行く愛船に手を伸ばす。鳥籠の中で慟哭する俺を、愉快だと言わんばかりに観察する夜叉。

『フッフッフ…イイ表情(かお)するじゃねえか、ロー。』

バサリと投げ付けられる沢山の血塗れの帽子とツナギ。ああ…これは。

俺の大切なクルー達の…。

『あぁあ…ッ…』

右腕をこれでもかと伸ばす。

涙が、嗚咽が止まらなくて。

枷の嵌まった手はガチャガチャと耳障りな音を立てる。

しかし鎖とトリカゴに遮られ、触れる事すら叶わない。

『やぁっとひとりになれたなぁ?いいじゃねえか。どうせ会うつもりも無かったんだろう?ビブルカードに気づかなかったのがその証だ。何をそんな悲しむ事がある?』

確かに最初は会うつもりなんて無かった。でもそれは俺がお前と相討ちになるつもりだったから。寧ろ死ぬのは俺の方だった筈で。

麦わら屋達の動きで計画が狂った。

だからこそ自らの手で本懐を遂げようと決意した。…そして、帰ろうって。アイツらとまた、冒険しようって。


『嗚呼そうだ。お前のクルーの断末魔でも聴くか?』


カチリ。青い音貝(トーンダイヤル)。見覚えのある代物。

『クッソ…!!何でこんな事にっ、ゴボッ』

『っハァ…ハァ…ゲホッ…!お前らァ!!死んでも屈するなよ!!』

『オウ!!俺達があんな野郎に屈したらハートの名折れよ!!』

『こちとら死の外科医のクルーなんだ。キャプテンの名前に泥は塗れねえ!!』

『例え勝ち目が無かろうと諦めて堪るか!!ゼェッ、進めェー!!』

ガギンッと金属が擦れて。ヒュンッと風を切って。

ザクリ、ブシュッ、ドサリ。

肉が斬れて、血が噴き出して、誰かが倒れて……アァアアアアッ…!

『いやだ…たのむ…にげてくれ…』

プライドなんていいから。生きて。

そんな願いが過去に届く筈もなく。


『キャプテーン!!愛してるよー!!』

『ローさん!!大好きです!!恨んだりなんかしませんから!!あんたは生きてくれ!!』


ブチッと、乱雑に電源が落とされた。


『あ…ああ……ア…』


茫然自失に陥る俺の目の前で、ぐしゃぐしゃと踏み滲られる大切な遺品。


『やめて…やめてくれ…やめてください…』


愛した者達の尊厳が辱しめられるのを見せ付けられるのは耐え難い苦痛だった。


愛してる。どうか生きて。


恨み辛みなんて一欠片もなく、お前達は息絶えていった。大切なタカラモノ。ちゃんと隠した筈のそれは、無情にも暴かれ、壊されて。何も出来なかった俺の眼前に、無造作に投げ出される。


『全く…実にしぶとい奴らだったよ。お前は死んだって伝えたら多少は動揺したんだがなァ。『そんな筈はない』『キャプテンがお前ごときに屈して殺される訳ないだろ』なんてすぐ立て直して向かって来やがった。海戦なんぞに持ち込ませずに地上で嬲ってやったんだが、余りにも粘るんで腹が立ってな。糸に繋いで、縛って、千切ってやったよ。』


キュルリ、キュルリ。


『ア゛っ!?ウグッ…!!』

伸ばした右腕に糸が幾重にも巻き付いて。


『こぉんな風にな。』


プシッ、ブシュッ、ブチブチ、ゴリッ…。

筋繊維を断ち、骨を締め付け、食い込んで。


『ヴァア゛ア゛ア゛アアアッ!!!』

丁寧に無惨に、ブチリとちぎっていった。


千切られた断面から、紅が噴き出して。彼らの遺品を汚していく。


『あ゛ぁがぁあアアア…ーー!!』


グルン、と瞳が上向いて。

激痛と共に意識がブツリと切れた。


日常となる拷問凌辱の始まりの記憶。



自覚した途端、あちこちがズキズキと痛み出した。

浮わついていた心が現実へと振り落とされる。

「ッ、グゥ…ッ…ハッ、ハァ……」

思い出したかのように苦痛で満ちていく身体に息が上がって。

落とした目線が己を写す。


跡形もない右腕。趣味じゃないフリルの服。息苦しさは締められたコルセットのせい。斜線の入った胸のタトゥーはじくじくと熱を孕み、俺の誇り(ハート)にスカリフィケアが絡み付く。

見えない背中もシンボル毎剥がされ、焼き潰された。何度も引きずられて擦れた枷の拘束痕は、血が滲み続けて痛々しい。


心臓には悪趣味な直刺しの刺繍。

所有物である証として、あの男のサインが入っている。

他にも、薔薇だの蝶だの、頭蓋骨や内臓の至る所にヤツの刺繍が入る身体。幼くなった俺に「お前を飾ってやろう。」と誘いを掛けたら「うん。ドフィの好きにして。」なんて嬉々として差し出したと聞いた。

震える足は一人で立つ事すら出来ない。足首の後ろは珀鉛のナイフで傷付けられ続けてズタズタ。腱が無傷だった事なんて一度もない。

毎度剥がされる手足の爪。ヤツの糸が一枚一枚ゆっくりと剥がしていく様を「顔を逸らすな」と苦痛と共に見せつけられる。慣れる事なんて出来ず、ろくな力を入れられなくなって。

斑に白い髪に肌。何れ死を呼ぶ忌々しい白は痛みと共に記憶の底にある幸福と地獄を呼び起こす。

嗚呼、痩せたなぁ。ろくに眠れず、マトモなモノを食べられなくなって。筋肉も随分落ちた。簡単に折れて砕けてしまいそうだ。


身体中、何処も畏(かしこ)もあの悪魔の手が入った愛玩人形。

そこかしこに傷が刻まれ消えない痕になり。毎日の様に恐怖と絶望を頭から爪先まで浴びせられ続けた成れの果て。


何で俺は今、手を伸ばそうとした?


(こんな姿…彼奴等には見せられないだろ…)




勝利を手にあの国を発てた世界線。

それはとてもキラキラとした尊い光景だった。

…今、此処にいる自分には、到底似つかわしくない程に。


そこで確かに、俺のタカラモノは生きている。俺のせいで死んだ人々も、きっと生きている。


敗けてしまった俺の居場所なんて何処にも無い。


(それにここは…俺の世界じゃない)


ポツポツと地面に雫が落ちる。

雨か。久しぶりにみたな。にしては俺の顔を伝って落ちていくばかりだ。やけに温いし。


……あ、ちがう。ないてる。

溜まった涙がおちてるんだ。……なく資格なんてないのに。


だって、おれはぜんぶ失くした。

きぼうをつかめなかった罪深い存在なんだから。

おれはもう、ひとりきり。

『キャプテーン!!『なんで来てくれなかったの?』

『ローさん!!『酷いよアンタ。船長の癖にクルーを死なせるんだ。』

ぐしゃり。塗り潰される最後の言葉。…嗚呼、そうだな。俺は、ほんとうに…ひどい船長だよ…

生温い紅の飛沫が、俺を濡らした気がした。


多分、ここが正解なんだ。

正しく物語の紡がれた世界。

皆生きててしあわせになれる場所。


俺はきっと間違ってしまった。

何がいけなかったのか。

心当たりなんて有りすぎて、もう分からないけど。

こんな襤褸切れになった自分なんて。


「お前なんかいらない」

「アタシ達を死なせたやつなんかが、ここにいて許されるとでも?」

「出ていけ」

「出ていけ、早く!!」

「この世界から消えろ!!」



「………ハァ、ハァ…」


罵声に思考が塗り潰される。空っぽになった自分という型に、濁ったナニカが注ぎ込まれ、形を成して。

胸の内が、頭が、全身が痛くて、重い………。


元々、俺がココに来なきゃいけなかった理由は…成さなきゃいけなかった役目はとっくに…。


ふと、目の前の彼の…この世界の俺の顔が此方を向いた。


視認され重なり合う視線。バチッと音が聞こえた気がした。向こうの彼の目は僅かに見開いて。

焦りよりも先に「見つかった」と事実だけが頭に浮かんだ。

「じゃあ逃げなきゃ」とサークルを展開する。

「るーむ」

今の俺が行ける限界まで。

「オイ、待て…!!お前、」

邪魔しちゃ駄目だから。


「キャプテンどうし…え?」

「は?え?ローさん?」

「お前ら何言ってんだよ。キャプテンはここに…え?」

ああ、3人にも見られちまった。

駄目だなぁ。うまく気配を消さなきゃいけなかったのに。

浮かれて手なんか伸ばしたからかなぁ。

「ごめん」

でも大丈夫。

おれはすぐきえるから。

「さよなら」

ふせいかいなんて、ここにはいらない。

「しゃんぶるず」


次に眼前に広がったのは、青く雄大な海だった。


ーーー

ーー


島にある灯台の下。意識を取り戻した砂浜の近くに移動したらしい。人気のない波止場の先端で、力なく膝を折り、身体を丸める。


ザザァン…ザザァン…

潮騒が脳にまで響いてくる。

何をするでもなく、ただ波の音に…潮騒に揺られていた。

…うまく、思考がまとまらない。ただ、さっきの光景が脳裏に焼き付いて消えなくて。

キラキラ。きれいだったなぁ。

手の届かない、もう二度と見られない光景だった。


そういえば、この世界の皆に見られたな。捜しに来られたらどうしよう。

………来るわけないか。

だって信じられないだろ。こんな襤褸切れみたいなのがトラファルガー・ローだなんて。

そもそも平行世界なんて概念、荒唐無稽な話でしかない。

そのお陰でここにいるのは事実だけど。

「…アア」

この世界は俺が望んだ全てがあるのに。俺だけがそこに入れない。

だってこの世界にはちゃんと「俺」がいる。ちゃんと死の外科医でハートの海賊団キャプテンの「トラファルガー・ロー」が。

幸せな世界に、こんな襤褸きれは存在出来ない。異物なのだと解らされた。

逃げたその先の事は何も考えてなかったな…。だからこんな惨めで悲しい気持ちになる。

嗚呼、いや…望んだモノが見られたら、ひとりで終わろうと思ってたんだっけ。

なら、いっか。予定通りだ。

……こんな、みじめになるのは、予定外だったけど。


ヒュウ…と右袖が風に拐われる。

無い筈の腕が痛んだ気がした。


「………とうさま、かあさま、ラミ、みんな…」

とうに喪われてしまった、俺を愛してくれた人達の名をこぼす。名前という欠片にそっと口づけるかの様に。縋り付くかの様に。

「コラさん……」

ドフラミンゴを止めたがってた。ドレスローザを救うんだって。


俺のせいで、全部台無しになった。


コラさん、ごめん。ごめんなさい。

あんたの愛に報いたかった。だから本懐を果たすと誓ったのに。

俺は"D"なんだから、ちゃんとやらなきゃいけなかったのに。

あんたが救いたがってた国は救えず、大切なモノは全部喪った。

謝ったって済む事じゃないけど…でも……。

「ごめんなさい…」

今の無力な俺にはこんな陳腐で下らない言葉しか発せない。

「できそこないで…ごめんなさい…」


ザァ…ザァ…


潮騒が鼓膜の奥に響く。

耳から身体へ伝う振動が、深く臓腑を揺らしている。

弱りきったこの身体じゃあ、波の揺れだけであっという間に折られてしまいそうだ。…いっそ、このまま浚われてしまえば…おれ、終われるのかな…。



「…んで、」

「え…?」

「何でお前が謝るんだよ、ロー。」

……この声。さっきも聞いた。

海から聞こえる懐かしい音。


「お前は何にも悪くないのにッ…!!アイツがッ…ドフラミンゴがお前の全てを奪ったっていうのに…!!自分のせいだなんて、責めるんじゃねぇよ…!!」

「俺は、お前が自由に幸せに生きてくれりゃあ、それで良かったんだ…

!!」

「俺の本懐なんて果たさなくてもッ…お前が幸せであってくれれば、それだけで…!!」


「…………」


ああ…ああ…嗚呼!!

「アハハ」

とうとう脳が溶けたか!!

「アッハハハハ……!!」


ゲラゲラと箍(たが)が外れた様に笑う。可笑しくて堪らなかった。

全てをかけても遂げられなかった本懐。大切なタカラモノは手のひらから零れ堕ち。自分に関わったせいで喪われていく全てに罪悪感と絶望しかなく。身体も、心も、丁寧に丁寧に壊された。それでも終われない悪夢の中。俺を枷に、鳥籠に繋いで嗤う悪魔。狂ってエゴまみれのあの災厄を他の世界に持ち込みたくないと、必死に逃げたその先で。

望んだ世界を…「もしも」を見て。

より自分自身の罪深さを知り。

何処にも居られない己の歪さに胸が痛んで。

ドン底に落ちた心が、能力者を忌み嫌う筈の海から最愛の人の幻聴を聴く。………嗚呼、どうしようもなく壊れたな。でも、まぁ、いっか。

「ねぇ、コラさん。そこにいるのか?」

問い掛ければ「嗚呼。俺はここにいるぞ、ロー!!」なんて聞こえてきた。

「俺、あんたの声、忘れちまったと思ってたよ」

人はまず、声から忘れゆくと聞く。

でも、聞こえた途端に、鮮やかに脳内で甦った。

「コラさん、おれ、つかれた」

「がんばったよな、おれ」

「他の世界の皆をまきこみたくなくて、ひっしで逃げたんだ」

「うまくいったよ。ちゃんとひとりで別のせかいにこれた」

「だから、ねえ……だきしめてくれよ…」

言葉が溢れる。

大好きな人。あの地獄の日々の中でもあんたの声を聞く事があった。

一度、あんたとアイツを見間違えて…身体がバラバラになるんじゃないかって位に手酷い「躾」を施されたっけ…。


声のする方へ手を伸ばした。

ふと気づくと、身体があの頃に戻ってて。わぁ、なつかしいな。

「ロー…お前が苦しむ必要なんてもう無いんだ。ほら、コラさんが抱き締めてやる!!」

潮騒が鼓膜の奥から脳へと響く。世界に自分だけしか居ない錯覚。

「来い!!ロー!!」

「うん!!」

その時だけ何故か、酷く海面が凪いで見えた。穢れた自分を拒絶せず穏やかに抱き締めてくれそうで、波もないからどこもちくちくしない、風もないから静かに眠れそうな。


いざなう声は懐かしく。

心があの頃に戻る様で。

ザブン!!

波が弾ける音が聞こえた。


手ェつめてぇよ。コラさん。

身体も冷えてる。

ずっと冬島にいたから?

でも、嫌じゃない。


ゆっくりと力が抜けていく。

身体中の痛みも溶けていくみたいで。ちっともかんじない。

……ねむいなぁ。すごく、ねむたい。

ちょっと、つかれたなぁ。


大好きなクルーの、幸せな姿を見て。前に進めた自分もそこにいて。

おれのつかめなかったしあわせが、確かにここにはある。

おれはその中に入る資格なんてないから、ひとりできえようと思ったんだ。

でもさ、もう会えないと思ってたアンタに最後にだきしめてもらえたから、おれ、幸せだよ。


コラさん、コラさん

ハハ、どうしたんだよ。

あわててるのか?

また何かドジった?

ホントに…あんたはもう……かわら……ない……

「しまった…今の俺は海…!!これじゃあローが溺れちまう!!」

何でそんなあわてて…る…

「誰かーー!!ローを助けてくれェーー!!」

何いってんだよ。

はなさないで。いっしょがいい。

おれをたいせつにおもうのなら、どうかもう、ひとりにしないで。


ブクブク。ブクブク。


ずっと……ずっと………


朧気になっていく意識の底に。

キラキラと輝く光が見えて。


『此処だッ!!早く!キャプテンを…ローさんをッ…!!』

『ローさん!!気をしっかり!!ッ死゛ぬ゛な゛!!』


なんか、懐かしい声だなぁと感じたきり…ふかく、ふかく意識が落ちていった。








ザバッ………



ゲホッ、ゴボッ、ゴホゴホッ…




ヒュウッ…と空気の通る音。

ぼんやりとした意識。

(……コラさん、いなくなっちゃった)

はなさないでって言ったのにな…。


「反応あります!!意識が戻った…!!」

「オイ!!聞こえてるか!?」

ゆらゆらゆれる。だれかが肩を揺すってる。ぼんやりして、よく分からない。……あ、このぼうしは…

「ぺんぎん…しゃち…」

なんだよ、こわいかおしてるなぁ。


「お願い頑張って…!!すぐウチの船に運ぶから!!」

だれかにギューってされて……ああ…この真っ白な毛並みは…

「べぽ」

力の入らない左腕を何とか持ち上げて、オレンジのツナギを握った。


おれはさいごに、めいせきむでもみてるのかな。………きっとそうだ。

じゃなかったら、この幸せな世界の幼なじみに抱きつかれてるなんて事、有り得ないから。……泣くなよ。俺はそこに居るだろ?傍に行ってやれよ……。

おれなんかのこと、気にしなくていいから。

嗚呼…でも、何だか、すごく…

「…………あったけえなぁ…」

あの男以外に、こんな風に抱きしめられたのは久しぶりかもしれない。


「キャプテンも大丈夫?!」

「っ、ハァ…ハァ…平気だ。お前ら、船にいるクルーに救急処置の準備しとけって伝えろ…!!ゲホッ…」


…おれの、こえ。いや、ちがうか。

このせかいの、おれ…。


『ローざん゛…ロォざん゛…』

『よがっだ…よがっだァ…』


キラキラ、キラキラ。

泣いてるみたいな何かの光。

また薄れてく意識の底に、焼き付くみたいに残ってた。


(ごめん、な…こんな、ふせいかいのクルーなんかに、しちまって…)


嗚呼、役目も果たせず終われもしないこんな襤褸切れに、慈悲なんて与えないでください。


『ロォ…ロ゛ォー…ごめんな…本当に、ごめん…ッ』


あの人の泣き声を最後に、また意識が落ちていった。






(こんなふうに思う事自体が亡くなったクルー達への侮辱だという事実には、磨り減った心は気付けない。

全て自分の脳内で自身に対して感じた事が、クルーの姿をした幻覚として現れている)


(キャプテンどうしてるの??→陸上で溺れてます(双子リンクのせい。)4.5で別視点の話として補足しますので)


シーデビルifコラさん

うーみはひろいーなおおきーいなー

久しぶりにハグしちゃお

ザッブンザブンドジな海

キラキラキラリとダイヤモンド


以上の概念を元に書き上げました。

うーん私は詳細書きたがるのをもう少し自重出来ないものか。

不鮮明な部分は後の話で補足します。






追記(2023/2/18)

因みに最初別エンドとして考えてたのはこんな感じ(これを書いた時点で海の悪魔ifコラさんは生まれてない)

勿体ない精神がありますので、プロットのままを掲載しときますね



別エンド

正史世界の自分達を見て、満足して死に場所を探すifローさん。

「ねぇねぇどうしたの。」

「いたいね。さびしいね。」

「こっちへおいでよ。」

「ぼくらがだきしめてあげる。」

「おいで、おいで。悪魔を宿した人の子よ!!」

「海にお還り!!」

呼ばれて脚から少しずつ海に浸していく。

皆、ごめんな。ありがとう。

愛してる。

トプン。

その日、世界の異物が海に抱かれた。


これの名残で怪異に魅入られるifローさん概念が思い浮かんだ所は正直ある


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