カラオケで歌おう
「さーて、食べ物ドリンク揃ったわけだしぃ…歌っていくぞーい!!」
シャンシャンシャン…
鹿紫雲の音頭に合わせ柘植はタンバリン、剣はマラカスを振る。鹿紫雲は早速パッドを操作し曲を選んでいく。剣はカラオケルームの内装が珍しいのかあちこちキョロキョロと見回していた。
「で…鹿紫雲お前歌上手いのか?」
「ふふふ…こう見えて日本のビヨンセ(自称)なのよ、私」
「柘植さんはこういう所には慣れているのか?」
「ちょっと前にダチと来たっきりだな。オレ別に歌うの好きなわけじゃねぇし」
「霧ちゃんは歌ったりとかは?」
「僕は…なんというか、流行りには疎くて。家の稽古で一時期謡曲とかは」
(謡曲…)
「ま、まあ!早速一曲目行っちゃうよ〜!」
マイク片手にノリノリの鹿紫雲。スピーカーからは軽快なサウンドが流れる。
〜♪ 〜♫
「安室か…」
柘植はドリンクを一口。剣はひたすらマラカスを振る…が、若干リズムに乗れていないのか動きがぎこちない。
「『受話器の向こう♪ あなたの声♫ 胸が痛い♪』」
「うおっ…!」
「こ、これは…!!」
曲にはなんの問題もない…問題は鹿紫雲の歌声。そう、鹿紫雲は壊滅的な音痴だったのである。その破壊力はジャイア◯に勝るとも劣らない…事実鹿紫雲の中の新吾郎は悶え苦しんでいた。恐らく彼の人生の中でもここまでの危機はそう無かったに違いない。
「こ、この歌声は…マズイな…!」
「魂が…別の意味で持っていかれそうだ…!!」
サビに近づくにつれ鹿紫雲のテンションはヒートアップ、それに比例して歌声の破壊力も増して行く。2人の精神はもう限界に近かった。
サビは正に暴風のように過ぎ、曲が終わる頃には2人はグロッキー状態だった。当の鹿紫雲本人はスッキリした面持ちだ。
「ふぃ〜。やっぱ思いっきり歌うのって気持ちいいよねぇ。中々カラオケ誘ってもらえなくてさ…。あれ?2人ともどうしたの?大丈夫?」
「誰の、せいだと…」
「なんというか、その、魂が震える感じ、だった…」
「本当!?2人の魂に響いちゃった!?嬉しいなぁ〜…んじゃ、アンコールしちゃおっかなぁ…!」
「「!!」」
2人の顔がみるみる青くなっていく。そんな2人を気にも留めず鹿紫雲はパッドを操作。無情にも2曲目が流れ始めた。
『助けてくれ…』
新吾郎の声は誰にも届かない。唯一の同居人は気持ちよく歌っているので聞こえるはずもない。新吾郎の受難はまだ続きそうだ…。
《続く》