カモメの差し入れ
※擬人化(描写はないけど馬耳と尻尾あります)
※CP要素はないです
「おじいちゃん!」
ステイゴールドの経営するラブホテル、その受付に愛らしい声が響いた。
ともすれば少女のような、ラブホテルに似つかわしくない声と共に現れたのは予想通りの人物だった。
「おう、メロか。差し入れかぁ?」
「えぇ。お母さんが作って持っていって差し上げたら?って。ふふ、今回は手作りのプリンよ!」
「はぁ〜〜〜…可愛い孫娘でじいじは幸せだなぁ」
ニコニコと愛嬌を振りまく少女、否、女性。オルフェーヴルの愛娘にしてステイゴールドの孫娘、メロディーレーンである。
穏やかな春日和だからかセーラー襟のついた軽い素材のワンピースを着込んでいる彼女は、どこから見ても(ラブホテルに入るにしては)異質だった。
「アートさん達の分もあるから、また渡してね。冷蔵庫空いてるかしら」
「待ってな、開けてやるから」
「はぁい」
ところで受付はラブホテルに限らず、どこでも成人向けの高さをしている。大人が立って上半身の半分が見える程度の高さだ。対してメロディーレーンは成人して尚中学生のような身長だった。よっていま、ステイゴールドに見えていたのは愛らしい顔と華奢な肩までだった。
孫というのは身長に関わらず可愛いものだが、こうも小さいとずっと可愛い。しかも大人しくて優しい。暴君ことオルフェーヴルとの違いに遺伝子の神秘を感じざるを得ないステイゴールドだった。自分のことはもちろん棚に上げているが。
受付横の扉を開ける。律儀にも「お邪魔します」と言ってからスタッフルームに入る孫娘を見届け、ステイゴールドはちらりと入り口に目をやった。
「よっ、タイトルホルダー」
「どうも、お祖父様」
「お前のじゃないがな。映画見ていくんだろ?」
「はい。姉さんが見たいと言ってた映画借りてきたので。またあの部屋でお願いします」
「はいよ」
人当たりの良い笑顔を浮かべ、青年、タイトルホルダーが受付に肘をつく。顔立ち自体は姉とは似ていないものの、纏う雰囲気や所作は似ていた。長く二人きりの姉弟だからか、それとも襟裳育ちだからだろうか。覚えのない熊をぼんやりと幻視した。
「なんか失礼な事考えられてるような…」
「いーや全然!」
「おじいちゃん、タイくん、終わったよ」
奥のスタッフルームからメロディーレーンが顔を出す。切り揃えられた艷やかな黒髪がさらりと揺れた。
「手作りのプリンだから日持ちしないの。メモは入れておいたけど、早めに食べてね」
「ちなみに僕は弟なので先に貰いましたが美味しかったですよ」
「なんのマウントだよ」
「あと保冷剤ね、猫ちゃんの形なのよ。おじいちゃん好きでしょ?」
「お、いいねぇ。じゃあお礼にアートが作ったクッキー持って行きな」
「やったぁ!ふふ、タイくん嬉しいね」
可愛らしい袋に包まれたクッキーを両手にメロディーレーンが相好を崩す。小さな手から落ちないよう包む姿を見てステイゴールドは一人満足気に頷いた。
「姉さん、そろそろ人が来るかもしれないから。僕達は部屋に行こう?」
「そうね、長居は良くないもの。じゃあおじいちゃん、夜も頑張ってね」
「おー、映画楽しんでいきな」
ひらりと手を振ると二人も手を振り返した。
十分に癒やされたステイゴールドは、そのうち来るだろう客を迎える為に気合を入れるのだった。