カミキヒカルは2児のパパ (有馬かな、加入)

カミキヒカルは2児のパパ (有馬かな、加入)




───陽東高校


4月になり、新しい生活が始まる新年度になった。

私、星野ルビーとお兄ちゃんのアクアは、晴れて今日から高校生。私もお兄ちゃんも陽東高校の面接に合格し、今は体育館で入学式の真っ最中だ。でも小・中学校の時にも思っていたが、話を聞くだけなので基本的には暇。あくびをしないように必死に我慢しているうちに校長先生の話が終わり、解散となった。


体育館を出て各々の教室へと戻る途中、先輩に声を掛けられた。


「入学おめでとうアクア。あとルビー」


はー、私はついでですか。そーですか。


「ここ陽東高校は授業日程の融通が利く位のもので、普通の高校と大した違いはない。ふつーに赤点取ったり出席日数足りなかったら留年するし、カリキュラムもそんな違いはない」


赤点、赤点かぁ…。私はハッキリ言って勉強が苦手だし嫌い。高校選びだって最初は学力なんて参考程度で面接重視、受験勉強をしなくて良いって理由で芸能科を選んだくらいだ。

お兄ちゃんには「豆知識感覚で人生賭けたギャンブルすんな」って説教されたけど。


「でも勿論1つ、大きな違いがあるわね」


あそこを歩いているのは俳優。そこに居る2人は最大手アイドルグループの子。あそこの胸がでかい子はグラビアモデルと、目に映る範囲の人達を指差してはどんな人なのかを解説してくれる。分かってはいたけど…


「皆芸能人。ここは日本で一番観られる側の人間が多い高校。歓迎するわよ後輩。

──芸能界へようこそ」


この日、ようやく私は夢見た芸能界(アイドル)の道に一歩を踏み出した。


───1-F・教室


自分の教室へと辿り着く。先輩は普通の学校なんだから緊張する必要なんかないと言っていたけど、緊張するなと言う方が難しいだろう。

1つ深呼吸をする。意を決して、私は教室のドアを開いた。するとそこには…


(右見たら美人!左見たらイケメン!

芸能科って言っても意外と大した事ないかもとか思ってたけど、そんな事無い)


明らかに地元の中学校とは別物!

とはいえ……?パパとママの遺伝子受け継いでる私も『顔では負けてない』訳で……

呑まれてなるものか!と開き直って自分の席に座る。ふと隣の席の子を見たら…


(わっ!凄い子おる!)


バカでかい。何がとは敢えて言わないけど。

同じ女の子の私でさえ目が離せないモノをお持ちの子に驚いてガン見していると、向こうもこっちを見つめていた。


「あ…すんませんジロジロ見てもうて……。めちゃ美人おるやんおもて……やっぱり芸能科ってすごいわぁ」


いやいや、貴方も凄いです…。でかいだけじゃなくて、顔もめちゃくちゃ可愛い。モデルさんなのかと思って尋ねてみると、一応合っているとのこと。


「うち、寿みなみいいます。よろしゅー」


「寿みなみ……あっ!グラドルやってるんだ!」


「目の前でググるのは非人道的やない?」


みなみちゃんのプロフィールをよく見てみると、なんと驚異のサイズはG!!


「ひえーえちえちじゃん…」


やめてー!と恥ずかしがるみなみちゃんも可愛い。

それにしてもリアル関西弁なんて初めて聞いた。大阪の出身なのかな。


「いや生まれも育ちも神奈川。喋り方はなんていうか……ノリ?」


まさかのエセ関西弁だった!


─────────。


「っていう感じで友達になったみなみちゃん」


「どういう感じだよ」


休み時間になったので、中庭でお兄ちゃんと合流してひとまずの報告をし合う。


「まあ友達出来て何よりだよ」


「お兄ちゃんは友達出来た?」


私がそう尋ねるなり、お兄ちゃんは妙な間を空けてから「いや別に友達作りにこの学校入った訳じゃないし」と溢した。


あっ……これ出来なかったやつだ……。


「ごめんね辛い事聞いて……。もう教室での話しなくていいから……」


「いや別に話し相手位は出来たっつの!

男子はいきなり友達認定とかしねえから。元より一般科はそっちと違って中高一貫だから、それなりに交友関係完成してて交友深めるの時間かかるんだよ。別に入学ぼっちとかじゃねぇし、分かる?」


お兄ちゃんが、アクアが凄く饒舌にしゃべってる……。それに内容が言い訳がましい感じ満載だし、聞いてるこっちがなんだか悲しくなってきた…。


「みなみちゃん、アクアとも友達になってあげて…」


「あはは、ええですよー」


「友達をお裾分けすんな。まぁ入学式見た感じ容姿の整ってる奴は多いけど、見た事ある人は殆ど居なかった」


…いや、1人居た。私達の教室で最初の授業が始まるタイミングで、凄い人が入って来た。

艶のある黒いロングヘアー、透き通るようなライムグリーンの瞳、ミステリアスな雰囲気を漂わせた美少女が…。


「不知火フリルが居たんだよ!!月9のドラマで大ヒット!歌って踊れるマルチタレント!美少女という言葉を聞いたら殆どの人がまず思い浮かべる不知火フリル!!」


うんうんと頷くみなみちゃんと一緒に力説する私、お兄ちゃんも当然知ってる表情をしてる。


「そこまでご執心だったのか?」


「今最推しだよ!」


ママは今までもこれからも私の最推しだけどそれはそれ、これはこれ!

などと言ってると視界の先に件の美少女、不知火フリルが歩いていた。はぁ~遠目でもかわい~~。


「まじでただのファンじゃん。クラスメイトだろ?」


だってぇ……と呟いた直後、お兄ちゃんが不知火フリルの所へ歩いていく。


「こんにちは不知火さん。俺の妹がアンタと同じクラスなんだ、仲良くしてやってくれ」


「ちょ!」


ちょいちょいちょい!お兄ちゃんいきなり何言ってんの!?なんで陰キャ側なのにそんなにコミュ強なのさ!知らない人からそんなこと言われても不知火さんも困…


「……貴方知ってる、『今日あま』に出てた人?」


(えっ?)


「……よく知ってるな。そんな話題にもならなかったのに……」


「ちょっと界隈で話に上ってて、観た。

良かった」


「……。ありがとう」


「あっ…そちらの方はミドジャンの表紙で見た事あります。みなみさんでしたっけ」


「はい!」


(すご……)


2人とも不知火フリルに認知されてる……!

雑誌の表紙を飾ったみなみちゃんはともかく、ネットドラマの最終話にしか出てないお兄ちゃんの事知ってるなんて…。

驚きと羨望の入り交じった感情に襲われていると、くるっと不知火さんがこちらに振り向いた。


「貴方は……。ごめんなさい、何をしてる方ですか?」


えと……私は、その……。


「今のところ、特に……」


「そう。えと……頑張って?」


─────────。


「ミヤえもーーーーん!早く私をアイドルにしてよーー!!」


「おーよしよし」


ママに頭をナデナデされながら、ミヤコさんに全力の催促をする。あぁ、ママの慰めが唯一の癒し……。


「せかさないで……。アイドルグループ作ります、はいオーディションってわけにもいかないの。ちゃんとしたグループ作るにはちゃんとしたスカウト雇ったり手続きがいるのよ」


「でもこのままじゃ……!」



『あの子特に仕事無いらしいよ』


『えっ、一般人じゃん』


『なんか一般人が紛れ込んでる~』


『やっかいなミーハーじゃん?』



「このままじゃいじめられる!」ヒェェェ!


「落ち着けルビー、そいつらもまだ同じガキだろうが。今のお前と大して変わらねぇよ」


壱護さんなりに慰めてくれてはいるが、それはそれとして焦るものなの!同い年と言っても本当に何もしてない私とは雲泥の差だという事を、私自身が一番実感している。


「そうそう可愛い子なんて見つからないのよ。意欲のある子は大手のオーディションに粗方持って行かれちゃうし」


「芸能科に寿みなみちゃんっていう胸バカでかくて可愛い子が居るんだけど……」


「「よその事務所の子だろ(でしょ)駄目!」」


夫婦でハモってダメ出しされた。そこまで言う?


「フリーの子ならまだしも…事務所間の揉め事は御免よ」


「下手しなくても賠償請求とか来るんだぞ」


怖。そっかぁ…さすがにいちごプロそのものに迷惑を掛けるわけにはいかないから引き下がるしかない。

どうしよう、他にメンバーになってくれそうな子の当てなんて……。


「……フリーなら居るじゃん。フリーランスで、名前が売れてる割に仕事が無くて……顔が可愛い子」



◇◆◇◆◇◆



(よく手入れされた艶々の髪。

あどけなさの抜けない童顔。

天然おバカっぽいキャラクター。

確かにそう、長年アイドルを追ってきた私の経験上分かる……)


「ああいう子はコッテリしたオタの人気を滅茶苦茶稼ぐ!」


「視点も分析もなんか嫌だな」


俺達は今、ルビーが探しているアイドルグループのメンバーの候補になり得る人物を分析するべく、2年生の教室がある階を訪れていた。


「人気出そうなら良いじゃん、誘うだけ誘ってみたら?」


「いやまあそうなんだけど……ほら、私とロリ先輩はただならぬ因縁があるじゃない?」


あったか?有馬がルビーに対して感じ悪いのは、大体が何度も重曹だのロリ先輩だの言うからだろ。


「ムゥ……」


「とにかく、呼び出しておくから話だけでもしてみろよ。その上で仲良く出来ないと思うならナシで良いし」


スマホのメッセージアプリを起動し、有馬にメッセージを打ち込む。


ポロンッ♪


[大事な話があるんだけど

放課後ちょっと時間作れない?]


「……!」


────放課後・公園


(なんだろ……なんだろ……大事な話とか改まって……

ええ~っ?もしかしてそういう?困るなぁ……ええ~っ?)


「お待た……」


「待ってたわ。遅いじゃない」


「あ"?永遠に待ってろ」


「大事な話があるんじゃないの?なんで妹の方も居るの?」


「話があるのはルビーの方だからな」


事情を聞くなり、有馬は溜め息を吐きながらベンチに足を組んで座り、スマホを弄り始めた。


「で……どんな話?私もヒマじゃないんだから20秒で済ませて」


態度が露骨だな。その光景を見てルビーがギャイギャイと文句を言い始める始末。何やらここでアイドルの誘いをするとアイドル級に可愛いと認めるようなもので癪だと。

なんのプライドなんだよ。


「一刻も早くアイドルとして活動始めたいんだろ?意地張ってる場合なのか?」


「……」


軽く発破を掛けてやると、確かにそうだとようやく決心をしたらしいルビーが有馬の所へ行く。


「有馬かなさん、私とアイドルやりませんか?」


いきなりアイドルの勧誘を受けた有馬は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でルビーの事を見つめる。


「アイドル?何よ急に……」


「うちの事務所でアイドルユニット組む企画が動いてるの。そのメンバー探してて、有馬さんフリーって聞いたから。まぁ……有り体に言うとスカウト?」


「……これマジな話?」


「大事でマジな話」


ちょっと考える時間を頂戴と言い、有馬が考え込む。

当然だろう、普通に考えたら間違いなくナシだ。アイドル枠の仕事というのは新陳代謝が激しい。若手役者としての仕事を代償にしてそちらの仕事を取った場合、まともに花開かなかった時に降りかかるリスクが大きすぎる。

子役時代からこの業界に居る有馬がその事を理解していないはずがない、十中八九断るだろう。だが、俺はルビーから『アイドル・アイ』に匹敵する可能性を感じる。兄としての贔屓目も無しに、側で長年見てきた末に感じた可能性だ。

その妹の願いを叶えるためには、俺自身も動くしかない。


「……悪いけど「頼む、有馬かな」


「妹とアイドルやってくれ」


有馬の前で膝を付き、真っ直ぐに有馬の目を見つめながら頼む。


「……でも、私そこまで可愛く…」


「いや可愛いだろ。俺も酔狂でアイドルやってくれなんて言わない。有馬はそこらのアイドルよりずっと可愛い、有馬になら大事な妹を預けられると思ってる」


「えっ、でも……」


……あと一押しだな。


「頼む、アイドルやってくれ」


「む…無理!」


「頼む」


「やらないって!」


「有馬の事信頼して頼んでるんだ」


「もうっ!何度言われても無理なものは無理!絶対やらないから!」



───いちごプロ・事務所


ポンッ     [印  有馬]


「いちごプロへようこそ、歓迎します」


「頭では分かってるのに!何で私はいつもこう───!」


「一緒にがんばろね、先輩」


よし、堕ちたな。


「まさか本当に引っ張ってくるとはね…。どんな手を使ったの?」


「別に、ただの人読み。有馬かなは共感力が強くて圧しに弱い。性格上、泣き落としやゴリ押しが有効かなと思って試したら案の定だっただけ」


「あんたね……。こんな事してたらいつか酷い目見るわよ、夜道には気を付けなさい」


俺は悪い事をしたとは思ってない。確かに隠したままの事はあるが、嘘は吐いていない。


「そうよアクア!アンタねぇ、所属先がいちごプロなんだったら早く言いなさいよ!」


「昔共演した時に言ったろ」


「そんな昔の事覚えてないわよ!」


ギャーギャーと騒ぐ有馬をルビーが宥める。今じゃそこそこ実力と実績のある事務所だから、『有馬かな』のネームバリューとしても文句は無いと思うが。


「あー疲れた……。あ?ミヤコ、ありゃ有馬かなじゃねぇか。何でウチに居るんだ?」


「ヒィッ、や、ヤクザ!?」


「違げぇよ!俺はいちごプロの社長だ!」


「そうよ有馬さん。こっちがウチの社長の斉藤壱護、私は肩書き上だと副社長よ」


ああ、そういや斉藤社長に会うのは初めてだったか。確かに見た目は金髪でサングラスな上にそれっぽい髭の貯え方してるから分からなくもない。

有馬が社長に平謝りしていると、父さんと母さんも帰ってきた。


「ただいま戻りました」


「ただいまー。あ、かなちゃんだ!何々?ウチに遊びに来たの?」


「あっ!アイ…さん。お、お久しぶりです…」


あの有馬が母さんに対してへりくだってる。カントクには昔みたいな敬意の欠片もない態度だったが、さすがに今を輝く大女優が相手ともなれば学んだ接し方が顔を出すのか。


「お帰り、アイ、ヒカル。そうそう、今日から有馬さんがウチの事務所に所属してアイドルユニットの一員になるから、よろしくね」


「そうでしたか。初めまして有馬さん、僕はカミキヒカル。一応いちごプロには役者で籍を置いてますが、まだ勉強中です。これからよろしくね」


「は、はい。よろしくお願いします」


挨拶を終えると、有馬が怪訝そうな顔をしながら父さんを見つめる。


「…カミキさん、でしたよね。なんだかアクアと顔がそっくりに見えるんですけど、親戚か何かですか?(どっちも美形だし…ゴニョゴニョ)」


「あー、えっと……」


父さんがどう返答しようか迷っていた所に、母さんが満面の笑みで割って入って来た。なんだか途轍もなく嫌な予感がする。


「へへー、アクアカッコいいよね!さすがは私達の息子!ねっ、ヒカル?」



「えっ」


「「「「あ"っっっ」」」」


「ア、アイ……」ハァー…


「へ?………………あっ!!」



……この日、アイが特大級の爆弾(無意識)を投下し、同時に有馬の爆音絶叫が事務所内に響き渡った。



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