カミキヒカルは2児のパパ (恋愛リアリティショー)

カミキヒカルは2児のパパ (恋愛リアリティショー)




───前回のあらすじ


伝説の元アイドル様、やらかす。以上。


母さんがうっかり、有馬に俺達親子の関係性をバラしてしまった。どうやら場所が事務所であった事といつもの面子が揃っていた事に加えて、俺の容姿を誉められた事が嬉しくなってつい普段の調子で話してしまったとの事。

衝撃的な事実をこんなふざけた事故のような形で耳にした有馬は、情報の洪水を処理し切れずにオーバーヒートした結果、気を失ってしまった。ついでに母さんは


「おぉ~まぁ~えぇ~!あんだけしつっこく言ったよなぁ!?表面上アクアとルビーは俺ら夫婦の子供として扱うってよぉ!チャリのカギ落とすみてぇにポロッと溢してんじゃねえよクソバカ大女優様よぉ!!」グニィィィ


「いひゃいいひゃい!ごめんらさい頬っぺ引っ張らないれぇー!!」ミヨンミヨーン


向こうで社長からのお仕置きと説教を受けている。

ミヤコさんは頭を抱えたまま動かなくなってしまい、ルビーは明後日の方を見て放心してしまっている。阿鼻叫喚とはまさにこの事だ。

一方俺と父さんは周囲程は取り乱しておらず、今は気絶した有馬の介抱をしている。


「……地獄か?ここは」


「あはは……まあ知られちゃったものは仕方ない。有馬さんが目を覚ましたら口外しないようにお願いするしかないよ」


「…多分、有馬なら大丈夫だと思う。確かに口は悪いし性格もちょっとアレだが、事務所の内情を外に漏らすような奴じゃない」


「随分有馬さんの事を信頼してるんだね、アクアは」


信頼……まぁ、確かに一定の信頼は置いている。大事な妹を預けても良いと思える程度には、だが。


「ん……」


そうこうしている内に、有馬が目を覚ました。


「あれ…私……」


「目ぇ覚めたか」


「んぇ…?アクア…なんで見下ろし……!?」


驚いた有馬がキュウリを見た猫みたいに飛び起きる。介抱する際に膝枕をする形で落ち着いたのだが、それに気付いたらしい。

そんなに嫌だったか?確かに男のゴツゴツした足なんて嬉しくもないだろうが。


「なっ、ななななな!何で膝枕なんてしてんのよ!」


「お前が気絶したから介抱してただけだ。やましい事は何もない」


「介抱……。あ、そうよ!アンタ達あのアイの子供って本当なの!?」


ちっ、しっかり覚えてたか。


「ああ、世間には公表してないが事実だ。いちごプロの中でも最重要機密事項だから、外には漏らすなよ」


「言える訳ないでしょこんな話…。今の私だと嘘吐くなー、ってこっちの方がバッシング受けそうだわ」


口外しない約束の取り付けには成功したが、代わりと言わんばかりに事情を深掘りしようとして来た時には頭を抱えた。

そんな時、父さんが有馬の手を取って


「有馬さん。申し訳ないけど、まだ詳しい事情は話せないんだ。でもいつか、僕達家族の事を公表しても良いと判断出来る時が来たらちゃんと説明するから、それまで待っていてほしい」


と、真っ直ぐな目で煙に巻いていた。当の有馬は顔を赤くしながら頷くだけだった。大変だったのはそのやり取りを見た母さんで、


「あーー!ヒカルがまた女の子たらし込んでる!!」


などと盛大に勘違いをし、結果として詰められた父さんが軽い吐き気を催す程に肩を掴まれて揺らされていた。俺とルビーでなんとか母さんを宥めて落ち着かせたが、今度は父さんの介抱が必要になった。


ルビーの夢を叶えるための1歩を踏み出すために支払った代償は高く付いたが、めでたくいちごプロへ元天才子役・有馬かなを迎え入れ、騒がしくも賑やかな1日は過ぎていった。



◇◆◇◆◇◆



有馬さんがいちごプロへ加入して数日。早くもいちごプロに馴染んだようで、今日はルビーと一緒に次は誰を勧誘するかを決める小会議を開いている。

僕は書類を整理しながら、次にララライへ勉強をしに行く為のスケジュール調整をしていた。すると、僕の仕事用のスマホにメッセージが入る。その内容は有馬さんに関係のあるものなので、仲良さそうに話している彼女達の所へ向かう。


「お疲れ様2人共。有馬さん、ちょっと話があるんだけど良いかな」


「あ、お疲れ様ですカミキさん。お話って何です?」


「たった今、有馬さんが加入した後に出演を打診していたPの人から連絡が入ってね。ドラマの仕事が入って来たよ、端役で申し訳ないけど」


「え!本当ですか!?ありがとうございます!」


「良かったじゃん先輩。今まで暇してた分頑張ってね」


「シバくぞ」


あはは、2人は仲が良い…んだよね?うん、軽口を言い合えるのは仲が良い証拠だよね。多分。


「僕は役者としてはまだ休業中で実態は事務員だからね、所属してる子に活躍の場を持って来るのが僕の仕事。だからお礼なんて良いよ」


「…それでも、です。仕事が全く無い時期だってあったんですから、端役だろうと仕事を貰えるだけ恵まれてるんです。だから、ありがとうございます」


「…先輩、なんかパパと話すとき妙にしおらしくない?」


「うっさいわよルビー!」


本当にこの2人は仲が良いなぁ、なんて呑気な事を考えていると、事務所のドアが開いた。


「たっだいま~!今日は撮影1発OKで早く終わっちゃった!」


アイが上機嫌で帰ってきた。さすがはいちごプロの誇る大女優、僕達の一番星。


「あ、ママおかえりー!」


有馬さんに僕達の関係を知られてから、ルビーは遠慮なく僕とアイをパパママ呼びしている。だがさすがに事務所内だけに留めているようで、それについてはみんなも了承している。


「ただいまルビー。あ、帰りにブドウ買ってきたからみんなで食べよ!かなちゃんの分もあるよ!」


「え、いいんですか?じゃあ、いただきます…」


「わーい、ありがとママ!」


アイが買って帰って来てくれたブドウを洗って皿に盛り付け終わった所で、奥の部屋で書類探しをしていたミヤコさんが戻ってきた。


「ん?おかえりアイ、帰ってたのね」


「ただいまミヤコさん。ミヤコさんもブドウ食べよーよ」


「あら、美味しそうね」


じゃあご相伴に預かりましょうか、と言ってミヤコさんも加わった。


みんなでいくらかブドウを堪能していた折、不意に有馬さんがルビーに尋ねる。


「ねぇアクアって次の仕事とか入ってないの?」


「ん…あるにはあるよ」


そう言うルビーはかなり渋い顔をしている。まぁ、確かに家族としてはその顔になるのも分からなくはないけど……。アイもちょっと微妙な表情になってるし。


「ちょっと待ってね…これよ」


「どれどれ……えっ!?」


[ 今からガチ恋♥️始めます   新シーズン、開幕 ]


「あ、アクアが恋愛!?」



[ 新しい恋の季節が始まる ]


[ 今回参加する6人のメンバーは… ]


『『『『こんにちはー』』』』


『えと…鷲見ゆきです。高1です』

[ 鷲見ゆき  ファッションモデル  高校1年 ]


『熊野ノブユキです。ダンスが得意です』

[ 熊野ノブユキ  ダンサー  高校2年 ]


『黒川あかね、高校2年生です。役者です』

[ 黒川あかね  女優  高校2年 ]


「うわ、出た…」


「あ、黒川さんだ。彼女もこの番組に出るんだね」


「知り合い?」


まぁ知り合いと言えば知り合い、かな。彼女、黒川あかねさんも僕と同じくララライに身を置く役者さんだ。彼女の演技には目を見張るものがあり、僕としてもとても勉強になる。性格はかなり真面目だが、気弱な部分があるためこの手の番組に出るのは少し意外だった。

そんな事を考えていると鋭い視線を感じる。視線の方を見やると、アイが嫉妬の籠った目を僕に向けていた。


「ヒカル、随分この…あかねちゃん?に入れ込んでない?今この子の事考えてたでしょ」


「うん、黒川さんの演技力はとても参考になるんだ。でも最近何やらちょっと焦ってるみたいで…」


「ふーん、へー、そうなんだ。そんなにご執心ですか。そーですかそーですか」ツーン


あらら、アイが拗ねてヘソを曲げてしまった。

アイはちょっと嫉妬しやすいところがある。僕と同じく家族を欲していたので、その家族の気が他所に向くのが面白くないのだろう。


仕方ない、『いつもの様に』機嫌を直して貰おうか。


「…アイ、僕が君や子供達の事を蔑ろにした事があるかい?僕はいつも君達を思ってるし、愛しているよ」顎クイッ


「ヒカル……」トクン…



「はいはい、恋リア以上のイチャつきは家でやってちょうだい。それに、年頃の子達にそんな濃厚なもの見せないで」


「「え?」」


ミヤコさんに注意を受けて振り向くと、ルビーはげんなりしているし有馬さんは顔を真っ赤にしながら隠し、しかし指の隙間からこちらを見ていた。

つい先ほどまでのやり取りを思い出し、僕とアイは顔を赤くしながら姿勢を正して座り直す。

さ、さぁ続きを観ようか…。


『高3のMEMちょです~。Youtubeで配信してます。よろしくねっ!』

[ MEMちょ  YouTuber  高校3年 ]


『森本ケンゴ、バンドやってます。よろしく』

[ 森本ケンゴ  バンドマン  高校3年 ]


「なるほどね。芸能活動してる高校生達が週末いろんなイベントを通じ交流を深め、最終的にくっつくとかくっつかないとかそういう番組。鏑木Pの番組ってだけあって皆顔は良いわねー」


「あの人メンクイだもんねー。私もアイドルやってた頃は色々仕事貰ったなー」


そう、この番組も鏑木さんがプロデュースしている。アクアがこの番組に出演する事になったのも、先の『今日あま』の一件で鏑木さんの目に留まったからなのだそうで。


ガラッ  『『『『『こんにちはー』』』』』


「あ、お兄ちゃん」


お、ようやくアクアの出番かな、どれど…れ……?



『アクアです!なんかめっちゃ緊張するわ~。みんな、よろしくね!』キラッ

[ 星野アクア  役者  高校1年 ]



「「いや誰!!?」」


全員の口からブドウが綺麗な弧を描いて飛んでいった。

ほ、本当に誰…?確かに画面に映っているのは愛する双子の片割れであるアクアだけど、アクアであってアクアじゃないぞ。どうしたんだいそのキャラ付け…。

それにどことなく見覚えがあるような、無いような……。


「あ、なんか見たことあると思ったらヨソ行きの時のヒカルだ」


「「「あぁ~」」」


あー、なるほど僕かぁ。そっかそっか通りで覚えが……え、外での僕ってあんな感じなの?アイ、嘘でしょ?それになんで他の3人も「あぁ納得」みたいな顔してるの?


「え、僕ってあんなに胡散臭い?これでも相手には真摯に対応するように心掛けてるんだけど…」


「でもさ、こないだ後輩のゆらちゃんと話してるの見たけど滅茶苦茶胡散臭かったよ。笑顔とか」


「ヒカル…貴方は気付いてないかもしれないけど、端から見たらホストが口八丁に乗せてるように見えるから、いつか刺されないか心配なのよ…」


散々な言われようだ。ミヤコさんの言葉にルビーも有馬さんも頷いてるし、まさに四面楚歌だ。

僕に味方は居ないのかい……?


『え~カッコいい~♥️役者さんって、憧れるぅ』


「あーあ、お兄ちゃんこういうぶりっ子タイプにはキビシイからなぁ。この子はないなー」


『MEMちょも可愛いね。めっちゃ照れる…』テレッ


「「は?死ね」」


「「ルビー!?/有馬さん!?」」


あのアクアがキャラ付けとはいえ女の子にデレデレしてる様子を見せられて複雑な感情になるのは分かるけど、そんな事言うんじゃありません!後有馬さんも、実の親を前にしてその罵倒はやめてくれないかな!?


「なんだあいつ!私には可愛いなんて勧誘の時しか言わなかったくせにぃ!」ギリィ


「だってママ!お兄ちゃんが若い女の子に下心丸出しでデレデレしてるんだよ!?絶対浮かれてるよあれ!」


「そこは私もヒカルそっくりで気になるから後で『お話』するけど」


「待って。アイ、待って」


「アクアだってほら、役者さんだからメディア用の分かりやすいキャラ演じてるだけだよ。ヒカルそっくりで私も気になるけど」


アイ、もしかしてさっきの事まだ怒ってるのかい…?普段なら可愛いけど、今はそのジト目がとても怖いよ。


「みんな、これメディア用だから落ち着いて。そうしないと番組が成り立たないでしょ?身近な人間が女性ウケしやすいキャラをしてたから参考にしただけよ」


ミヤコさんからのフォローに見せかけた重い追撃を食らって僕は撃沈した。

おかしいな…愛する家族一筋でやってきたはずなのに、謂れの無い事を言われてる気がするぞ。


「…これ、最後本当に告白して恋人になったりするんですよね?」


「そうね。形式だけでも、そこの筋は通す事になるでしょうね」


有馬さんが話の方向を変えてくれた。

本当にありがとう有馬さん、頑張ってもっとお仕事持って来るよ…。


「告白成功したら、キスもするんですよね?」


「定番ね」


続け様に有馬さんはミヤコさんへ尋ねる。その答えを聞くたびに有馬さんの表情は少しずつ沈んでいく。


「……こんな番組、なんで受けたんだろ……」


もしや、有馬さんは……。


「貴女だって女優を続けるならいずれキスシーンとかも求められる。ここを割り切るのも仕事の内、この業界でガチガチの貞操観念持ったままだと後々辛いわよ?」


落ち込む彼女に、ミヤコさんは必要な事だとアドバイスを送る。それを理解はしているが、納得は出来てないといった複雑な心境の有馬さん。

ルビーは興が削がれたのか、ブドウを味わう方向にシフトした様子。


「アイ、有馬さんってもしかして……」


「うん。多分ヒカルが思ってる通りだと思うよ。ふふ…なんか嬉しいな。アクアが大事に思われてるって考えると笑顔になっちゃう」


その寛容さを少しは僕にも向けてほしいな、とは口が裂けても言えない。

そんな事よりも大事な話を、アイにお願いする。


「アクアがどう思うか次第だけど、あの子達には危なくない範囲で楽しんでほしいね。アイ、有馬さんをフォローしてあげてくれるかな。僕だとまた問題起こしかねないから…」


「ん、分かった」


アイはこちらにサムズアップをすると、有馬さんの方へ行って話し掛けていった。後はアイのフォロー力に任せよう。


こうして、後に大波乱を呼ぶ番組、『今ガチ』の放送がスタートした。



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