カミキヒカルは2児のパパ (原作者、脚本家)

カミキヒカルは2児のパパ (原作者、脚本家)




舞台『東京ブレイド』の稽古が始まって約10日、現場にかつて無い衝撃が走った。


「脚本……全部直してください」


──原作者直々の、脚本の全修正要請。


鮫島先生がそれを口にした瞬間は、まるで時間が止まったように全員が口を開けなかった。

いち早く事態を飲み込んで口を開いたのは雷田さんだった。


「ぜ……全部って!流石にそれは…。もうこの脚本でOK頂いて稽古にも入ってるんです!本番まであと20日ですし……」


そう、もう本番までの稽古時間に余裕があるとは言えない日数が経過している。今から脚本が全部書き変わるとなるとここまでの稽古が全て無駄になるだけでなく、新しく出された内容を再び読み込んでモノにしないとならない。

場合によっては、舞台そのものが白紙になりかねない話である。


「私は何度も直してくださいって言いましたよ。でも実際に動いてる所を見ればこの脚本で良いのが分かるって言うから、本当に良いならOKですけどって言いました。

でも良くないからOKじゃないですよね?」


「~~~~!!」


「先生…」


GOAさんが立ち上がり、鮫島先生の元に歩いて行く。しかしその表情に怒りはなく、寧ろ申し訳なさに満ちていた。


「ご希望に沿わない脚本を上げてしまった事をまず謝らせてください。勿論、今からでも直せる所は直すつもりです。

しかしですね…事前に何度かやり取りさせて頂いて、私としては最大限意図を汲んだつもりです。ここからどう直せば良いのでしょう」


「貴方がこの脚本書いた人なんですね……」


少し低めの声色でそう言った鮫島先生は、仇を見るような目でGOAさんの事を見据えていた。


「修正したい所は事前にお伝えしたはずですけど……読み取れてないんですね。どう直せば良い?本当に『東京ブレイド』読んでくれてますか…?」


「勿論読ませて頂いてます!その上で原作の魅力を引き出す為の脚本を……!」


「読んだ上でコレなんですか?貴方が上げてくる脚本…このキャラはこんな事言わないし、こんな事しないってのばっかり……

別に展開を変えるのは良いんです!でもキャラを変えるのは無礼だと思いませんか?うちの子達はこんな馬鹿じゃないんですけど!」


…なるほど、先生はその部分でここまで怒り心頭になっていたのか。作品に登場するキャラクターは自分の子も同然、それを自分の意図しない…言わば『別物』にされたとなれば、ここまでハッキリと怒りを示すのも分からなくない。

しかし、それは脚本を書いていて『東京ブレイド』のファンでもあるGOAさん自身もきちんと分かっているはずだ。


「それは演劇というメディアの性質上……

いえ、修正箇所を頂ければ対応も……」


「だから全部!どれだけ言っても直ってないんですよ…!

私がナメられてるだけなのかなと思ってたら、脚本家の方が純粋に理解出来てないみたいですね。ちゃんと原作読んだ上でこれって言うなら…この人創作者としてのセンスがモゴッ…」


「先生!アビ子先生、一旦ちょっと!」


鮫島先生が一線を越えた発言をする直前、間一髪の所で吉祥寺先生が口を塞いだ。

それでも鮫島先生の怒りは収まらないようで、未だに暴れている。


「ちゃぶ台返しかしら」


「今日は稽古バラシだな、帰る」


この様子は稽古中だった役者全員に目撃されており、不安そうな面持ちで様子を窺う者も居れば、中には大輝くんのように見切りをつけて帰る者も居る。何にせよ、今日はもうまともに稽古は出来そうに無い。


アイのマネジメント業や事務仕事においても同様と思われる事なので経験があるが、複数の人物を介する打ち合わせは殆ど伝言ゲームと同義だ。漫画の舞台化にて、原作者から脚本家までの打ち合わせや修正にどれだけの人物が仲介しているのかは、僕には想像もつかない。

鮫島先生がどういうタイプの人かは知らないが、もしも筋道や論理的思考に頼らないような感覚で物語を紡ぐタイプだった場合、この伝言ゲームは一気に地獄の様相を呈してくる。感覚的思考の言語化というのは、存外難しいものなのだ。


今ここまでの怒りを顕にしている鮫島先生も、突然湧き出てきたものをぶつけているようには見えない。一向に自分の意図が反映されない事に対する強い抗議の意味も含まれているだろう。


「正直、この脚本の人私の作品に向いてないんじゃないですか…?ほらココの修正とか、聡明さが消えてバカな女にしか見えない!

センス無し、修正も的外れ、エンタメを理解してると思えない」


そして鮫島先生の発言は、ついに一線を越える事となる。


「もう私に全部脚本書かせてください。じゃなきゃこの劇の許諾取り下げます」


「先生、それやったら色々と……。それに脚本家の立場が……」


「私、違約金なら払いますしギャラもいらないんで、名義もそのままで脚本家さんには普通にギャラ払ってください。


でも、もう関わらなくて良いです」


それは、GOAさんに対する事実上の戦力外通告だった。



「……子供みたいな人だな。良いんですか?好き勝手言ってますけど、このままだと降ろされますよ」


「…仕方ないよ、脚本家の地位って君等が思ってるよりずっと低いんだ」


「…………」


「上の人が何か言ったら簡単に首をすげ替えられる。こんなのはね、よくある事なんだ。

良いもの作ろうと真面目にやっても原作者の趣味と少し違えば憎まれ嫌われ……つまらなかったらファンから戦犯のように晒し上げられて、面白かったら全部原作の手柄。」


改稿作業(リライティング)とは地獄の創作だ、とGOAさんは言う。その顔に、一抹の寂しさを湛えながら。

ただの一役者に過ぎない僕には、創作という世界に身を置く上での苦悩は計り知れない。けどそんな僕でも、今回GOAさんが書いた脚本が悪いものだとは決して思えない。


「GOAさん…」


「カミキさん…。ごめんね、見苦しいとこ見せちゃって」


「いえ、そんな。…僕はあなたが書いたこの脚本、良いものだと思ってます。鮫島先生の意図には沿えなかったかもしれませんが、それでも脚本家としてだけじゃなく、ファンとしての熱意も込められてると感じました。なのにこんな…」


「……こんな事になってしまったのは残念だけど、役者の君にそう言って貰えたなら脚本家冥利に尽きるよ。ありがとう」


「僕も同意見だよ」


鮫島先生達の見送りから戻って来た雷田さんがそう言った。


「雷田さん、クレジットからは僕の名前消してもらえませんか?僕にも脚本家としてのプライドがあるので、先生が書き直したものをあたかも自分の脚本みたいに出すのは……」


「もう表にスタッフは発表しちゃってるし、ポスターもパンフも刷り直しでコストがなぁ…。

いや、そうじゃない。僕はGOAくんの脚本方針は間違ってないと思ってる、今回のも良い脚本だと胸を張って言えるよ。

どうか今回は…事故にあったと思って嚥んでくれないかな……」


「……」


雷田さんに頭を下げられてそう頼まれたGOAさんは、少し目を閉じて考えてから薄く笑って雷田さんの方に向き直った。


「分かりました、クレジットはママで構いません。今度メシ奢ってくださいよ」


「ほんと申し訳ない!なんでも好きなだけ食ってくれぇ!」


雷田さんの頼みを嚥んだGOAさんは、そのままスタジオを後にした。


─────────。


原作は…本誌で1話から読んでいる。他の仕事のスケジュールをずらしてまで受けた仕事、良い舞台になるように魂を込めて脚本を書いた。

どんな深夜にリテイクが飛んできても秒で作業した。

無茶な注文にも熱が出るほど頭を捻って対応した。

寝る間を惜しんでタイムリミットのギリギリまで粘った。


…頑張ったつもりなんだけどな。


『この人、創作者としてのセンスが───』


「……ちくしょう」



◇◆◇◆◇◆



「…というわけで一旦脚本が白紙に戻った。原作サイドとの交渉の後、新しい脚本が上がり次第連絡をする。それまで稽古は休止だ」


GOAさんとアビ子先生のゴタゴタがあった翌日、大事な通達があるとの事で俺達は全員金田一さんに呼び出された。そこで言われた事は大方の予想通りの話だった。

まぁあれだけ文句を付けられたんだ。そのままはい続きをやりましょう、とは行かないだろうな。


さて…稽古が休止になったのは仕方ないとして、今からどうするかな。


「なんか大変な事になっちゃったね……」


「原作者が許諾しないものを勝手にやる事は出来ないからねー」


「稽古中断は痛いなぁ……今回の舞台はステージアラウンドだし、稽古期間多く取りたいんだけどなぁ」


あかねと同じララライの…化野さんだったか、2人がこの事態に困惑しながら話をしている。


…………。


「そういやそのステージアラウンドって何?」


「えっ!知らないで稽古してたの!?」


「それ分かってなきゃイメージ出来なくない!?」


2人がかなり驚いた様子で俺に詰め寄る。つっても俺は元々カメラ演技専門の裏方で、演劇は門外漢というか興味が薄い。知識に乏しいというのもあるが、劇のステージなんて殆ど同じに俺は見える。


「……」プクーッ


「なんだよ…」


「アクアくん、そんなに舞台好きじゃないでしょ?」


「気付かれたか」


そら気付きますとも、とあかねがジトーッとした目付きで言う。正確に言わせてもらうなら、好きじゃないというよりは好んで観ないというのが正しいか。

俺の中での演劇というものは、場面転換の度にセットを入れ替える必要があるためテンポが悪く、その為に可動式となっているセットが安っぽい。そして何より劇特有の大袈裟な演技にいまいちノれない。これは完全に性格と好みの話だがな。


「同じ時間を使うなら、演出効かせられる映像の方を観…「大体想像通りの答えだね」


あかねが食い気味に言葉を挟む。そっちから聞いておいて……。


「確かにそれは長年言われ続けてきた演劇の課題の1つ、客足も遠のいて演劇は斜陽文化なんて声も出てる……。

でもアクアくん、その考えはちょっと古いかなぁ?役者がその認識じゃ困るよ」


ニマニマしながらあかねが俺の方を見てくる。確かにステージアラウンドで舞台を観た経験は無いが、それが何なのだろうか。

などと考えていると、いつの間に俺の荷物を持ってきたのか、それを俺に手渡しながら笑顔で1つの提案をしてきた。


「せっかく時間出来たんだからちょっとデートしよ?」


「デートか…。分かった、少し待っててくれ」


あかねからの突発的なデートの提案。どうせこの後の時間の潰し方は頭に無かったので、それ自体は構わない。だがそれだと帰りはいくらか遅くなるだろう。なら、それを伝える必要がある。


「ヒカルさん、ちょっとあかねと出てきます。帰りが少し遅くなると思うので、ルビーに伝えておいてもらえますか?」


「そうなんだ、分かったよアクアくん。ルビーちゃんには僕から伝えておこう、楽しんでおいで」


「お願いします」


俺と父さんは外で会話をする場合、同じ事務所の先輩後輩を装った話し方をする。間違っても俺達の親子関係を周りに悟られるわけにはいかないので、その辺は徹底しなければならない。

ルビーと母さんに伝えるだけならスマホで十分なので、この場合は父さん本人に宛てた連絡だ。伝えるべき事は伝えたので、あかねの所に戻る。


「待たせた」


「おかえり、そういえばアクアくんもカミキさんも事務所同じだっけ。仲良いの?」


「ああ、俺にとっては小さい頃から世話になってる兄みたいな人だ。妹のルビーもよく懐いてるし、本当に俺達に兄貴ってのがいるならあんな感じなのかもな」


「ふーん、そうなんだ。……男の人なのにちょっと妬けるなぁ」ボソッ


「何か言ったか?」


「ううん、何でもない。じゃあ早く行こ!演劇は映像より上位の、体験型コンテンツだって教えてあげる」


あかねに手を引かれながら、俺達はスタジオを後にした。



「稽古休みなら用無いな、帰るか」


「あ、大輝くん。ごめん、この後少し時間貰えないかな?」


「カミキさん…?良いですけど、何です?」



◇◆◇◆◇◆



───IHI ステージアラウンド東京


あれから俺達は電車を利用して移動し、ステージアラウンドへ舞台を観にやって来た。といっても俺の意思ではなく、あかねに引っ張られる形で訪れたワケだが。


中へと入り、あかねが勧める舞台のチケットを2人分購入した。


「ほら、これで合ってるよな」


「本当に良いの?私が連れてきたのにチケット買ってもらって」


「デートで女性に金払わせる奴があるかよ。俺だって仕事で稼ぎはあるんだから、別に良いんだよ」


「ふふ、ありがとアクアくん。でもチケットあって良かった、結構人気の舞台だからさー」


そんな軽いやり取りをしながら、2人で客席へと向かう。

今から観る舞台は『SMASH HEAVEN』という、有名な卓球漫画が原作のもの。劇場に入ると、登場キャラを演じている役者がモニターに映し出されていた。というかデカいな……


「これ全部モニターなのか」


「そう、360°全面モニターになるの」


「360?」


「まぁ観てのお楽しみ」


周囲が全部モニターなのかと考えていると、開演を報せるブザーが鳴り響き、周囲の照明が消える。


(モニターが開くのか…)


俺の知ってる舞台とは既に異なっている事に少し驚く。役者が登場し、漫画に沿った舞台が開幕した。

暫く静かに観賞していたが、更に驚く事態が俺の全身に感じられた。


(なんだ…?風?4DX?いや違う……)


演劇は視覚で楽しむもののはず、なのに今は視覚以外にも影響を及ぼされている。


(いや、えっ……?嘘だろ…これマジか…!)


─────────。


舞台を観終わった俺とあかねは、ステージを離れて建物内にあるカフェへと移動した。


「どうだった?」


……まあ。


「正直言うと、想像の50倍面白かった……」


「でしょーー!?」


こちらを窺うような表情から一転、嬉しそうな表情になってあかねのテンションが上がる。


「まず幕がモニターなのに驚いた。あれなら劇に映像演出をふんだんに使用できる」


「そうなんだよねっ。よく『物語の幕が上がる』って言うけれど、これも古い言葉になったものだよ!」


確かにそうだな。今回の劇を見て、今なら物語のモニターが開くって表現が合うんじゃないかと感じた。


「何より驚いたのが360°回転する客席だ。これなら舞台そのものをあらかじめ幾つか準備しといて、場面転換を素早くシームレスに行える」


「うんうん、演劇が抱える構造的欠陥を物理的に解決してるの。それだけじゃなくて客席が回転するという仕掛けを演出としても使用出来るし、演劇として出来る事の幅も広がってるんだよ!」


珍しくあかねが饒舌だ。今回ステージアラウンドで劇を見る提案をしてきたのも俺が興味無さそうにしていたのを不満に思ったのが切っ掛けだったし、そんな俺が古い知識を更新して素直な評価をしているのを嬉しそうにしている。

本当に演劇が好きなんだな、あかねは。


「演出が刺さってるから役者の演技にも不思議とノれた。ストーリーもかなり出来良かったし…。

正直良かった、めっちゃ良かった」


「んふふふふ、んふふふふふふっふ…」


より一層あかねがニヤけた表情になった。顔崩れてんぞ。


「だって、アクアくんに演劇楽しんで貰えないかって不安だったから…。

アクアくんならこの良さを分かって貰えると思ってた!嬉しいな!」


「……」


「もちろんこれは日本にある中で最も豪華な劇場の1つ、他の演劇はアクアくんが思ってた従来のものが多い。

でもこれを切っ掛けに演劇の楽しみ方を分かって貰えたら良いな!」


楽しみ方、ね。まぁ何だかんだちょっとは前向きになったっていうのは認める。


「それで良いと思う。アクアくんは元々映像の人だし……「やあやあご両人!」ズイッ


注文したコーヒーに口をつけようとした瞬間、俺達の会話に割り込んでくる人物が居た。その人物とは…


「雷田さん」


「どうしてここに?」


「どうしてって、この舞台は僕の担当だからね。ちょっと落ち込んだ時は、出ていく客の顔を見るのさ」


出ていく客の顔?どうしてそんなのを……


「客の顔は素直だ。楽しんで貰えた時は笑顔だし、イマイチだった時は澄まし顔。見てたらやる気に繋がるからさ。

その点アクアくんの顔は良かったなぁ、おじさんも嬉しくなっちゃったよ」


そんな事をあかねが居る前で言わないで貰いたい、絶対せがんでくるから。


「えー見たかった!どんな顔してたの?もっかいしてよ!」


「……いやだ」


ほら来た。


「まぁ2人の顔を見つけたからさ、ちょっと挨拶がてらに追いかけてきたけど……お邪魔しちゃったかな?」


「いえいえ、とんでもないです!」


そうだ、この場に居るんだったらちょうど良いか。俺は気に掛かっていた事を雷田さんに尋ねる。


「雷田さん、脚本の件は大丈夫なんですか?」


「んー。今日も出版社側とやりあって来たんだけどね、やっぱり原作者の先生が頑なみたいで。

脚本のGOAくんは降りてくれ、と」


…予想通りかと聞かれたら、正直そうだった。あれだけ人目も憚らずに怒り散らしていたんだ、最悪のケースの1つとしては想像に難くない。


「先生直々に脚本を書き下ろすって言ってね」


「無理ですよね」


今日の劇を見て認識を改めた。今回の脚本は箱の強みをフルに活かす工夫が随所に組み込まれていた、少し臭い長セリフもこの箱だったら映える。

おそらく原作者のアビ子先生は舞台も、そこに仕掛けられている装置の事も何も知らない。ただの何もない壇上、高校の体育館なんかでやる事を想定した脚本が上がってくるだろう。


今日の舞台は、脚本と装置とが高レベルに噛み合っているプロの仕事だった。いくら売れっ子漫画家とはいえ、舞台脚本の素人にあのレベルのものが作れるはずがないだろう。


「まぁ……そのへんはこっちがフォローするけどね。気付いてる?今日の舞台の脚本もGOAくんが書いてたんだよ」


確かに、パンフのクレジットの脚本担当にはGOAさんの名前がしっかりと記載されている。


「優秀なんだよ、彼は。演劇が心から好きで勉強熱心で、リライトにも根気強く付き合ってくれるし。彼が書いた脚本の舞台はいつも客がニコニコしながらホールから出ていく。

本当に……」


降ろしたくなんてなかった……───


「どうにもならないんですか……?」


「きびしーよー!?大手出版社をどうこう出来る程僕等は強くないからね!」


「でも、どうにか出来るのは雷田さんだけですよ」


俺の言葉に雷田さんが目を見開く。しかしすぐに寂しさと悔しさに満ちた薄い笑顔になり、小さくこぼす。


「それはそうなんだけどね……」


─────────。


雷田さんとも別れ、徐々に空も暗くなりつつあったので俺達は劇場を後にし、少し肌寒い帰路を歩いて行く。そんな中、ふとあかねが呟いた。


「GOAさん……このまま降ろされちゃうのかな……。私も原作視点で見たらGOAさんの脚本に不満が無いって言ったら嘘になるけど、全体的に見たら良い脚本だと思うから従ってたのに…」


「まぁな、原作者にも脚本家にも主張がある。問題はそこに存在するディスコミュニケーションだ」


要するに、現場と指示役の連携・連絡不足だ。

原作者と脚本家が直接話し合うなら十分な相談や双方の妥協点も見つけられるだろう。だが今回の舞台化のような『企画』となれば、双方の間には複数の人間が仲介役として介在するのが常だ。人によって言葉の捉え方やその表現の出力が異なるのは当然の事なので、終わりまで辿り着く頃には歪曲した内容になりやすいのだ。これがディスコミュニケーション最大の理由、しかし。


「そこさえクリア出来れば、より良い舞台になる可能性すらある。まぁ今日は良い舞台見せてもらったしな」


そう言いながら俺は、とある人物にスマホで電話を掛ける。このままGOAさんが降ろされるのは流石に勿体無い。


「感動代に、ちょっと小突く位はしておくか。あかねも手伝ってくれ」


「?」



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