カッコ悪くても、それでも

カッコ悪くても、それでも


「ね、ショコラくんも従おう?大丈夫、怖くないよ。死なないから、絶対」



正直な話、ミニーニャ・マカロンは説得出来ないだろうな、と思っていた。恋人のショコラテは自分にとっても優しいが、しかし本質的なところでは「利」を取る人だ。反乱と、従属。恐らく彼が取る選択肢は反乱。彼の演算が、そして何より陛下の残虐な思想に技術開発顧問として加担し続けたその実感が、見えざる帝国は先細りだろうと結論づけているのだろうと。

仮に彼と殺し合うことになったならば……彼は優しいから、きっと、自分を殺せない。だから、そっと寄り添おう。麗しの姫君に惹き寄せられて、愛しの彼の心を蔑ろにした結果、報われない最期を迎えるとして、その最期を彼に看取ってもらおう。そう思いながら、返答を待つと………



「………うん、わかった。エス・ノトとヨルダくんには申し訳ないけど、ミニーの頼みだもんね。俺も、姫君と陛下に従うよ」



まさか、そんな。身体中震えながら、涙を瞳に浮かべながら、それでも、いつもわたしに向けてくれるような柔らかい笑顔で微笑んでくれるなんて思わなかった。だって、そんなことするほど“非効率”な人間じゃないと思ってたのに。先がない選択を選ぶだなんて、思わなかった。



「ショコラくんはそれでいいの?わたしが言うのもなんだけれど、あまりにも未来が……」


「そう、だね。でも、大丈夫。ミニーと一緒なら怖くないよ。ミニーは迷惑かもしれないけど、ミニーと一緒に死ぬなら俺は怖くない。……怖く、ないんだ」


「……嘘。本当のこと言って?わたしだってわかるよ。ショコラくんのそれは本心じゃないって。……わたしが死んだら、悲しい?」


「悲しいに決まってるよ!!だ、だって、俺が陛下に、ユーハバッハに反乱しようとしたのだって、全部、ミニーが大好きだから……っ」



また、ミニーニャは驚いた。ショコラテは自分の生存のためではなく、自分の利益のためではなく、愛する恋人のために、彼は反乱を決意したという。そして今、愛する恋人のために、その反乱の熱意を捨てようとしている。



「このまま陛下に従っても、きっとミニーは死んじゃうから。死ななくても、終戦後は酷い目に遭うから、だから俺、ミニーがそんなことになるのが嫌でっ……でも、ミニーが、それでも良いなら、俺はやっぱり大好きな人のこと裏切れないから……」


「わたしのため?わたしを心配してくれるの?………わたしと、離れたくないの?」


「離れたくないよ!……ひとりは嫌だ、ミニーが死んで欲しくない!ミニーが死んじゃうのはやだよぉ……俺だって、もっとミニーと一緒にいたい。ミニーと一緒にお菓子作ったりして、美味しいねって言いたいよ。そのためなら、俺は……」


「陛下の手で死ぬのが怖くないの?」


「怖いよ。死ぬのは怖い。だから、逆らったせいで最悪死ぬかもしれないと思うと怖い。……けど、俺はそれよりもミニーがいない世界が何よりも怖いから。ミニーのためなら、俺、ユーハバッハなんて殺してみせるからっ、………でも」



わかんなく、なっちゃった。ミニーが死んでも良いから一緒に居たい、だなんて酷いこと言うから!俺、どうしたらいいか……!



死ぬのは怖い、けれど恋人や親友が死ぬのはもっと怖い。だから戦う、命を賭けて、陛下や姫君と戦うと決めた。

なのに愛する恋人は、たとえ死ぬとしても従いたいと言う。自分は守りたいのに、守りたい相手はその必要はないと。そんな板挟みのジレンマに苦しめられたショコラテは、もう自分でも何を言っているかわからない。何をすれば良いかわからなくなってしまった。

ただ、子供のように泣きじゃくりながら、それでも嫌だ、死なせたくない、独りぼっちにしないでと訴えて………



ああ、なんだ。やっぱり自分は、この人が大好きなんだ。この人が、わたしを想ってくれるように、わたしもこの人を想っているんだって。


わたしの体は、わたしの知らないうちに、ショコラくんを抱きしめていた。



「ごめんね。わたしが間違ってたね。……こんなにもわたしを想ってくれる人がいるのに、その気持ちを蔑ろにしようとしてるんだから。わたしはショコラくんの恋人失格だね」


「そ、そんなことない!俺だって……いつもこんな、弱気で、カッコ悪くて」


「じゃあおあいこだね。……うん、わたしはショコラくんを裏切れない。最初からわかってたことなのにね。大丈夫、やっぱりわたしも従わないよ。ごめんね、優柔不断で。でももう大丈夫、ずっと一緒だから。二人で生きて、二人で幸せになろう?」


「…………ミニーぃ………」



わたしを想って泣いてくれる人。わたしを想って戦ってくれる人。わたしを想って笑ってくれる人。こんなに素敵な人を捨て置いて、得られるものなんて何もない。そんなこと、どうしてこの土壇場にならないと気づけなかったのだろう。世界一の可愛いくてカッコいい王子様は此処にいて、それが一番の幸せなのに。


Report Page