カジキとの決闘

カジキとの決闘


「カジキを見たぜ、ページワン」

「カジキ…ですか?」

幹部集会場の長机。

それを挟み2人の男が話し合う。

ページワンは到着早々に

ササキから後で話があると言われ

残っていた。

まごついて帰ろうとしない

ページワンを強引に連れて行こうと

うるティが駄々をこねていたが

何かを察したブラックマリアが

引き剥がしてくれたのだ。

神妙な顔で話があるとササキに囁かれた

ページワンはてっきり

何か重大な話と思っていたが…

「先週の事だ…」

極めて真剣にササキは話し出す。

「狂死郎と屋形船で飲んでいた。

蜥蜴港からゆっくりと鬼ヶ島を

往復していたんだが…」

こめかみを押さえる。

「蜥蜴港から見て少し東側だったか…

カジキの群れを見たんだ。

かなりデカイのも居たぜ。

狂死郎も見ている。

…眺めている内にふと釣りたくなってな」

ページワンの目を見据えるササキ。

「釣りと言えばお前だ。どうだ一丁、

今夜にでも釣りに行かねえか?」

「こ、今夜ですか…」

ページワンは返事に迷う。

カジキマグロが相手となると

強靭な釣竿や釣糸は勿論だが

設備の整った船等の準備が必要だ。

とても

一朝一夕で釣れるような獲物では無いのだ。

「ササキさん、カジキ釣りには準備が…」

今夜に釣るのは難しいと伝えかけた

時だった。

「…俺を抜きに面白そうな話してるなァ!」

ドアの入口を見るといつの間にか

ニヤつくクイーンが仁王立ちしている。

「俺をハブるとは連れねえぜ

ぺーたん、ササキぃ!」

クイーンはつかつかと歩み寄る。

ページワンにとって確かにクイーンは

釣り仲間だ。省く理由は無かったが…

「いや…クイーンさんは

カイドウさんから…」

当面の間、管轄エリアからの外出禁止。

そうお触れが出ていた。

「古い話してんなぁぺーたん!

つい一昨日から制限解除して

貰えたぜ!真面目にやったおかげだなぁ!」

陽気に笑うクイーンに

気難しい顔を浮かべるササキ。

その表情は

余計な奴は邪魔だと物語っている。

…いつの日か見た光景だった。

デジャブを感じながらも

ページワンは切り出した。

「クイーンさん…話の通りです。

しかし釣り道具や船が…」

「安心しろぺーたん!

俺を誰だと思っていやがる!?

そんなもんはすぐに用意してやるよ!」

鶴の一声に思わず笑顔になる

ページワン。

「ササキさん、クイーンさんと

一緒に今夜釣りに行きましょうよ」

顔を向けると複雑そうに頷きながら

ササキは言う。

「…道具が揃うのは丁度良いな。

よし、今夜だ」

男達はカジキを求め

深夜を待つ。


深夜3時。

ページワン達は

今夜は鬼ヶ島では無く

蜥蜴港に集まっている。

「よし、準備は良いな?」

用意した船に早速乗り込むクイーン。

本当に短時間のうちに道具を揃えるのは

流石だ。

「乗り込むぞページワン。

…俺はこの釣竿を借りる」

ササキがページワンの肩を叩き船へ。

ページワンも後に続く。

「東側でしたっけ?

まずはカジキを探さないと」

日が登る時間に見ておけば良かったな

と後悔するページワンに

クイーンが明るい調子で言う。

「心配するな!俺の部下の報告で

間違いなく見たとよ!」

おお、と思わずササキが声を漏らす。

「よし、近場まで船を出そう」

心做しか軽やかな調子で

出港準備を始めるササキ。

-にしても…

ページワンはちらりと2人を見る。

-特にクイーンさんは…ここまで

釣りを楽しみにしてくれるなんてなあ…

満面の笑みを浮かべた男達を

乗せた船は夜の海を走り出す。


「デケェぞ!」

船の揺れと釣竿との

格闘をしながらササキは怒鳴る。

想像を上回るサイズの

カジキマグロにページワン達は

苦戦していた。

何しろ「大振り」と言われる

サイズのマグロから

象かと見間違うほどのサイズも居る

カジキが群れをなして

泳いで居るのだ。

地上では腕っ節のある彼らだが

船というフィールドは旗色が悪くなる。

引きの勝負は勿論

群れがおこす波に揺れながら

戦っているのだ。

「引いてるぜぺーたん!」

ページワンは自身の釣竿を

渾身の力で巻くと

見事なカジキを釣り上げた。

「やるじゃねえか!」

こざっぱりとした表情のササキが

讃えてくれる。

先程引いていたカジキには

逃げられたようだ。

「俺もカジキ釣るのは

初めてだったんですけど…」

目を輝かせるページワン。

「めちゃくちゃ嬉しいですね…!」

「嬉しいのは分かるが

こっち手伝ってくれねえかぺーたん!?」

視線を向けると

大柄で恰幅の良いクイーンが

前のめりになりながら

釣竿を引いている。

慌てて駆け寄り一緒に釣竿に

手をかけ引き上げた。

「うおおお!釣れたぜ!」

ページワンより一回り大きいサイズ。

大物だった。

「念の為デカイ船で来て良かったぜ

…嬉しいもんだなぁおい!」

ムハハと笑うクイーンに

ページワンも再び嬉しくなる。

「俺の所も来たぜ!」

ササキがまたもヒットする。

「かなり…デケェぞ!」

声を張り上げるササキ。

相当に苦しそうな様子に

ページワンも加勢すると

釣竿の重みが明らかに違う事が分かる。

「必ず釣りますよ!」

全力で持ち上げようとするページワン。

「おい、ちょっと待て!?

高波が近ぇぞ!一旦船を引き離す!」

クイーンが慌てて操舵室へ走り

パドルを起動させ走らせる。

「…離れなくねえか?」

高波が離れない。

波を見るクイーンが不思議そうに呟くが

何故かはすぐに理解出来た。

「…こんなのありかァ!?お前ら

陸に行くぞ!釣竿を離せ!」

「何でですかクイーンさん!?」

「冗談じゃねえ!離さねえぞ!」

「ぺーたんのアホ!

ササキの命知らずが!よく見やがれ!」

言われて高波に視線を向けると

釣糸が伸びている。

目を凝らして

様子を伺うと海獣が居た。

いや違う。あれは…

「「カジキ!?」」

思わず声を揃えるページワンとササキ。

波に揺れて

懸命に巨体カジキと

釣糸を引き合っていたので

気が付かなかったがよく見ると

巨大カジキの力で

船は傾き転覆しはじめた。

「このままじゃ転覆か高波に呑まれるぜ!?

釣竿を離せお前ら!」

クイーンは叫びに

ページワンは手を離すも

ササキは諦めない。

「ササキさん!?このままじゃ船が!」

「分かってるよ!俺に考えがある!

陸に近づけろ!」

耳元でがなり、

人獣型に変身しながら己の角に釣り糸を絡めるササキ。

幸い陸は近く

鬼ヶ島の砂浜がすぐに見えた

「ページワン!釣竿を俺の背中に

括り付けろ!」

「まさかササキさ「早くしろ!」

ページワンは

考えるより手が動き

背中に括り付ける。

恐竜に変身したササキは

釣竿を背負い釣糸はトリケラトプスの

角に巻かれカジキからは背を向けていた。

「恐竜の力なら…」

「ササキてめえまさか!?」

クイーンが止めるより早くササキは

あらん限りの力で走り出す。

雄叫びを上げて甲板を駆け

鬼ヶ島の砂浜目掛け大ジャンプした…


鬼ヶ島の砂浜。

どうにか彼らと獲物達は無事だった。

「デカ過ぎるだろ…」

3人はササキが釣り上げた

カジキのサイズに驚嘆の声を上げる。

遠目から見ると海獣と間違うサイズだ。

「東の海や西の海の辺境なら

近海の主を張れるんじゃねえか?」

クイーンの問い掛けに

無言で頷くササキとページワン。

「ところで…」

現実的な問題が彼らを悩ませる。

「ところで…どうやって帰りましょう?」

船は大破してしていた。


「それでこのマグロづくしか!」

ウォロロと笑い豪快に鮪を頬る

カイドウ。

「タニシの連絡で来てみれば

こんなのを釣り上げるとはなァ!

よくやったじゃねえか!」

運良く笑い上戸が続き

上機嫌なカイドウ。

…タニシがあったおかげで

連絡は出来たものの

とても3人で食べ切れる量では無かった。

そして、その日は鬼ヶ島で幹部達による

マグロづくしの宴会が開かれる。

喜色満面のカイドウと幹部達だが

うるティだけは不機嫌だ。

「ぺーたんが釣りに誘ってくれなくて

寂しいでありんす〜!」

「姉貴、声は掛けたけど起きね「無理にでも起こせよ!」

正確な頭突きがページワンにヒットする。

クラクラと目眩を起こすページワンに

うるティは再び駄々をこねる。

ニヤニヤと見つめる

フーズ・フー達の視線を浴び続ける

ページワン。

-無理に姉貴を起こすと

絶対荒れるんだよなあ…

声に出せない抗議をするページワン。

宴会を終えても

カジキは結局

一日では食べ尽くせ無かった。

Report Page