崖下

崖下


ホラーSSを書こうとして何かよくわからなくなった産物。カクが語る昔体験した心霊話です。







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あれは、わしがまだグアンハオで修行していた頃の話じゃ。

グアンハオの中には、子どもだけで行ってはけないと決められている場所があった。島には危険な場所が多かったんじゃ。まれにそうでない理由で入れん場合もあったが。

その立ち入り禁止の場所の一つに、幽霊がでると噂の場所があった。当時のわしはどうしてもその幽霊を見てみたかった。だから、夜中に抜け出したんじゃ。

噂の場所は切り立った崖じゃった。随分と高い場所で、あの頃のわしなら落ちればひとたまりもなかったじゃろうな。あいや、むしろ今の方が落ちたらどうにもならんな。能力者は泳げんからのう。

ともかく、わしはそこについてすぐに幽霊探しをはじめた。いうても四半刻もない間じゃったが。いくら周囲を巡っても幽霊どころか虫の一匹もおらんかった。今思えばむしろそれが不気味じゃが、その時のわしは落胆のほうが強かった。

つまらんなと思って、崖の下を覗いてみたんじゃ。波が打ち付け取って、とがった岩が並んでいる以外変なところはなかった。もちろん幽霊の姿もなくてのぉ、そこでようやく諦めて帰ろうと後ろを振り返った。その瞬間じゃった。誰かがわしの腕を引っ張ったんじゃ。さらに運悪く落下防止のために建てられた柵が壊れた。

わしはそのまま崖から落ちると思った。じゃが、伸ばした手をつかんでくれた奴がおった。わしが居なくなったのに気づいて探してくれていたカリファじゃった。

おかげでわしは助かった。それでな、引き上げられる時に、後ろから声がしたんじゃ。

「あなたじゃない」……とのぉ。

話はこれで終わりじゃ。ん、そのあとはどうしたかじゃと? そうじゃな、まずカリファに叱られ先生に叱られ丸一日食事抜きで掃除をさせられて大変じゃったわい。む、違うのか。

ああ、幽霊の方か。それがのぅ、わしが崖から落ちかけたその日からぱたりと幽霊の噂が消えたんじゃ。不思議なこともあるもんじゃなぁ。

おお、そういえばこの話には続きがあった。忘れとった。

わしがCP9に入ってすぐの頃、今のように雑談しとって、さっきの話をしたんじゃ。そしたら珍しくルッチが話に乗ってきてのう。こんなことを言ってきたんじゃ。

『確かおれが10か11の時、先生に言われてグアンハオで一緒に修行してた奴を殺したことがある。殺したあと崖から死体を捨てて、事故による落下ってことで終わらせた。まあ何で殺さなくちゃならなかったかは聞いてねぇが、余程の理由があったんだろ。政府のために働く諜報員になる子供を殺すくらいのな。……そういや、あそこの崖にあった柵、ありゃあそれから立てたやつだ。雑な作りだったから壊れたのは災難だったな』

わしは色々言おうとした気がするんじゃが、不思議なことにその話を聞いてからの記憶が曖昧なんじゃ。

気づけばソファに横になっとって、目の前にクマドリの顔があった。起き掛けであれが目に入るのは恐ろしかったのう。え、そういう話じゃないじゃと? ふむ、確かにそうかもしれんな。

ともかく、わしは気を失う前に思ったことをルッチに言ってやったんじゃ。『お前か』とな。そしたらルッチの奴、なぜか苦笑いしおった。全く、苦笑いなのはこっちのほうじゃわい。


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