カキツバタ不在のカキスグ
※後編スグリ捏造
憧れだった。
この学園で誰よりも強いあの背中が眩しかった。
ねーちゃんはあんな奴とつるむとロクな事が無いと何度も言っていたが、それでも強く惹かれた。
こんなおれに話しかけてくれたり、こっそりとチョコレートをポケットに入れてきたり気に掛けてくれて、そういう所も強く惹かれる要因だったのかもしれない。
ある日の深夜、眠れないで部室にいたおれを連れ出してカイリューの背中に二人乗りして駆けたポーラエリアの冷たく低い空も、秘密のサボりスポットだと小さな洞窟を教えてくれたのも、そこで淹れてもらった熱々の甘ったるいココアも、おれに挑戦権が無いにも関わらずバトルしてくれた事も、案の定ぼろ負けしたおれの頭を笑いながら撫でたあの大きな掌も、その後可愛がってやってくれと託されたミニリュウも、全部、全部、全部。
「弱い俺を見下してたんだろうな」
休んでる暇なんて無い。
明日にはカキツバタとの対戦が控えている。
糖分補給にチョコレートを咥えながらガリガリと対策を書き込む度に過るのはあの日の大きな掌と──。
「……今に見てろ」
あの笑顔も、どうせ弱い自分を嘲り嗤っていただけだったんだろ。
「むかつく…むかつく…!」
じわりと滲んだ視界の不快さを振り払う様、噛み砕いたチョコレートは塩ッ辛くて苦かった。