カオス・エンゲージ0

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神世紀286年

深夜の某所とある研究所

普段は人がいるであろうその場所も深夜である故、静まり返っており人気もないのだがカツ、カツ、と足音が無人の空間に木霊する。


「…やっと見つけた、はぁここまで来るのにホント苦労したよ、さてとパスワードは…こんな感じかな、…よしビンゴ」


足音の主である黒い長髪の美しい女は机に置いてあったPCを開くとカタカタと打ち込みすぐさま起動させた。


「『迦具土因子を保有した新生児を発見』、何処に隠したかと思ったらここか、…ふむふむなるほど母体の出産の後にここの別室で保管中…ふーん…偉大なる種族の力を借りたのか、どう行った手段で交渉したのか気になるけどまぁいいだろう、道理でボクのワンちゃん達じゃ見つけれないわけだ。他には何があるかな、と

『神世紀72年に現在特級立ち入り禁止区域狂○○嶺にて乃木祝様がアメーバ状の物体を発見した協力者によるとウ○=サ○○という協力者達の世界にいた神の断片だと判明、引き続き解析する』

『○ボ=○○ラの細胞を火之迦具土様の精霊天火の分霊に移植、対神特化型擬似竜基盤の頭脳体として成長』

『神世紀282年、眩い光が高知の方角から放たれ大赦関係者数名で向かった所、○○年前に崩壊した○×村跡地にて何らかの神の依代になったと思われる少女を発見、保護を試みた研究員の一人からウ○=○ス○の細胞を奪取した後に逃走、直ぐに後を追ったが行方は不明。

追記。辺りに正気を失った数名の男女を発見それらは服装から神世紀72年に壊滅した風と羊飼いの教団だとみられる。』

へぇ人体実験とかやってるかと思いきやそこら辺はしてないのね、まぁ今のボクには関係ないしそれよりこっちだよね」


彼女はそう言ってパソコンから自身が閲覧した時間帯のデータを消し閉じると踵を返すように背を向ける。

彼女が目で捉えてるのは何重ものシャッターで閉ざされた部屋だ。


「えらく古典的で物理的な防御壁だね、…だけどボクの前では須く無力だ『門の創造』」


彼女がそう嘲るかのように笑い手を振るうと目の前に深淵を切り取ったような丸い穴が虚空に開き彼女はそれを警戒などせずに入る。



虚空を潜った先にあったのは目が眩むほど真っ白な部屋であった。

そこの中央に置かれているベッドの役割をしていると思われる機械に彼女は近づく。


「脆く儚く貧弱で人間らしくて可愛らしいね、ボクの''王様''」


その機械の中に入っていたのは産まれて間もないであろう赤子だった。

赤子は青い瞳を開いて彼女を見る、するとキャッキャッ、と笑いながら彼女にその小さな手を伸ばそうとする。

彼女もそれを微笑ましそうに見ながら機械を当然のように開け赤子の手に触れる。


「…我が魔王と同じ領域に至らんとする神子、神々の終焉たる黄昏の剣を振るう者、新たな未来を切り開く救世の王、君には無数の希望が、絶望が、幸福が、狂気が、祝福が、混沌が、数多の困難が待ってることだろうその道の半ばで折れてしまっても這いつくばってもいい、どんな無様を晒しても許そう、だが絶対に諦めるな、それはボクが望む未来ではない」


ソレは赤子の手を離すと赤子の額に指を当てる。

慈しむように嘲るように祝うように呪うように指で何かを描く。


「これはちょっとしたおまじないだ、善には善で悪には悪で返す、君にピッタリな仮初の性質、本当の自分を後々見つけれるといいね、さて、これでボクと君の少し早い出会いはこれで終わりだ。」


女はそう笑うと指を交差しパチンッと響かせる、その瞬間赤子は眠りつき機械は再び赤子を守るように閉じた。


「結界が持つのは後…12年、ってとこか、…天から、海から、橋を渡り襲来するは人を喰らい神樹の領域を侵さんとする怪物、対するは神樹に魅入られた一人の少年と三人の少女達、そしてその物語は一人の少女の死をもって悲劇で幕を閉じる、ボクの予想だとこんなものかな。ふふっこういう想像はしていて楽しくなってしまう。」


「そして今から14年後、そう彼が育つそれまでは…」


女がそう言葉を続けようとした瞬間、部屋の角から青黒い靄と不浄な腐敗臭と共に二匹の地球上で例えるなら犬に似た外見をした、とでもいうべきであろう怪物が粘液を滴らせ細長い注射針のような舌を蠢かせながら現れる。

だが女はそれに動揺せずに続ける。


「君らにこの子を守ってもらいたいんだけど……勿論構わないだろう?」


猟犬らはその命令に頷く事しかできない、何故ならば彼等ははぐれもの、角から追い出されてしまった存在、不死であれども居場所はなく、彼女に助けてもらった身であるからだ。

そしてそんな二匹の猟犬はグルル…と低い唸り声を上げると角の中へと消えて行った。


女は再び虚空を開くと最後にくるりと回り──


「──星の集いし異形が斃され、星辰が揃い、君が真実を知った夜にでも、また会いましょう」


そう言って虚空へ入り、女が居た形跡は消え去った。


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