カイドウと龍の求婚

カイドウと龍の求婚


 白い龍とウオウオの実モデル青龍は知り合いっていう脳内設定です。

 龍がかなり喋ってるので注意です。




白い雲の更に上。青い空だけが支配する世界を青い龍が泳いでいた。

 百獣海賊団総督、カイドウは今日も1人で本拠地を抜け出していた。

 散歩はカイドウの息抜きであり習慣にも近かった。1人には1人の気楽さがある。

 カイドウの巨体で移動すれば弱いやつらが騒いで喧しいから、龍になって悠々と雲を渡る。本日も快晴なり。あぁ酒が飲みたい。

 ちゃぽちゃぽと鳴る手に握った大きな瓢箪には酒をたんまりと入れてきた。空島でも見つけたらそこで飲もう。飲んだら、帰ろうか。あまり留守にするのは良くないだろう。

 くああ…っとあくびが出始める頃にその空島を見つけた。今までで見てきた空島で一番大きいかもしれないその空島は雲で出来ている筈なのに、何だか固そうに見えて不思議だ。こんもりした形は茶碗に盛られた米を連想する。違和感はあったが、強いやつがいて戦いになるなら本望だった。

「ぬ……!」

 はてさて、一杯やるかと降り立つとずぶっと足が沈みこむ。そのまま落ちればまた浮けばいいのだが、沈みきらず、はまりこんで手足も動かせなくなってしまった。ぐいぐい体を捻ってみるが効果がみられない。こんな雲初めてだ。

(困ったな…いっそ一眠りしてしまおうか…酒も掴んでたから飲めねェし)

 なんて考えていると突如「声」が聞こえてカイドウは顔を上げた。視線の先にはびりびりと大気を震わせ雲を割りながら白く長い体を持ち上げている何かがいた。紛れもない強者の気配。盛り上がって固そうな雲だと思っていた場所から、白く輝く鱗を纏ったカイドウよりも巨大な龍が姿を表したのだ。

 これが龍…?おれと同じウオウオの実の龍なのか…それともまさか…本物か?

 カイドウは少し楽しくなった。

 自分の獣形態は鏡で収まらないサイズだから写真や絵でしか見たことがなかったが、手足や胴体、尾っぽの形は己にそっくりに見えて、おれもこんな感じなのかな、なんて考えてカイドウは感慨深い気持ちになった。

 鱗が七色に光を反射して眩しいその白い龍は鎌首を持ち上げてこちらをじっと見ていたが、カイドウを認識したとたんにぶわりと毛を逆立てた。驚いているように見えるリアクションにカイドウは首を傾げる。

 瞬きを一つすると、白龍はカイドウのそばにいた。余りにも早い動き。カイドウも見逃すほどに。それにしては風が揺れないことが気にかかる。

「!!……ん?」

 これは想像以上に強そうだ…!カイドウは強い相手と戦うことが好きなので内心喜びながらも手足を引き抜こうとより力を込めた。するとその手足にやんわりと雲が絡み付いてくるではないか。

「逃げるのは、ひとまずよしてくれんか?」

「この雲、てめェが操作してんのか?…逃げねぇよ。だから、落ち着かねェから離しやがれ…ていうか喋れるのか」

「おお、お~返事じゃ、会話しておるぞ!…これが会話だの…あ、おはようじゃな、おはよう!」

「…お前のせいで会話になってないぞ」

「なに~?…確かにそうだのぉ」

「……」

 ルルルルと笑いながらぐるぐると捻れる白い巨体にカイドウはもうゲンナリしてしまって寝転びたくなったが、こんな会話でも相手は強者。油断は禁物だ。それにしても余りにも敵意がない。怯えも勇みもない。カイドウ相手にこんな態度をとる相手はなかなかいない。感じる「声」は、とても大きい、熱くて、なんだ、これは。

 カイドウが考え込んでいる内に白い龍はおもむろに顔を近づけてふんふんとカイドウの匂いを嗅ぎ、満足そうにゴロロロと喉を震わせた。

「待ちわびたぞ、我が番よ」

「は?」

「番じゃ!…およめさんと最近は言うのかの?どうなんじゃ?」

 つがい…およめさん???

「うむうむ体はまだ小さいが、我が小さくなればよいの。なかなか鍛えておるのだな~かわいいの~、いやぁ本当に待ちわびた……嬉しいのぉお前から会いに来てくれるとは感無量だ」

「わっ舐めんじゃねェ!まて!」

「味見じゃよ安心せえ……あ、我の名は…名は……んん?すまんの、ちと眠る時が長くて忘れてしもうた。お前の名前はなんという?」

「…カイドウだ…あと味見は安心しねぇよふざけてんのか?」

「んん~カイドウというのか!小生意気な態度もかわいいの~」

 角の根元をべろりと舐められカイドウは頭を振って抵抗した。名前を何故だか素直に話してしまったし、仕返しに火でも吹き付けてやろうかと思ったが体がさっきよりも動かない。物理的な拘束も然ることながら…一般的に例えるならばまるで、愛しい相手にとても久しぶりに再開して胸がいっぱい、という言葉が相応しい感情にカイドウは支配されていた。カイドウにはそんな経験は無かったからどうすれば良いのか分からなかった。

 どくどくと心臓がうるさいのは何故だろう。あの龍から目を離せないのは何故だ。姿を見て「声」を聞いてからだ。変な話だ。こいつとは滅茶苦茶に初対面な筈だし、催眠でもかけられているのだろうか?

 ふんっと息を吐いて心の機微をはね除けたカイドウは目前の龍を睨んだ。こんな動物と番とやらになっている暇は己にはない。

「番と言っていたが、おれは違うぞ。おれは悪魔の実を食べただけで龍という生き物じゃねェ。番になるってんなら同族の方が良いだろ?……いないのか?」

「ん~?そうなのかぁ…」

「…」

 白い龍はぼんやりとカイドウを見つめ続け、心ここに在らずとでも言わんばかりの生返事ばかり返す。眉をひそめたカイドウの耳元に龍はそろりと口を近づけた。

「それにしては、随分と熟れた体をしておるのぉ…お主、卵を産むようになってどれくらいたった?」

「なっ」

 ぞわっと走る痺れに毛を逆立てたながらカイドウは目を見開いた。なんでこいつがそんなことを知ってるんだ…!??

 カイドウにとって、あれは恥ずかしいこと、つまり弱点に分類されている。実際あの状態の時に攻撃されれば一溜りもないだろうし、誰にも話せていないほどには重要機密なのだ。知られたり見られたらもう相手を叩きのめす他にあるまい。しかし初対面の動物に見抜かれるような、そんなに分かりやすいのなら、大変まずい。

「……カイドウ、お主今失礼なこと考えてないかの?ま、安心せえ。お前のそのことが分かるのは我くらいのものじゃ」

 何故か得意気な顔をする白い龍の横面をひっぱたいてやりたかったが雲の拘束は範囲を増すばかりで、ついに胴体にまで巻き付いていた。動けないほど固いのに何処までも痛みがないのが不気味だった。

「…どうだか」

 たらりと汗が流れる。相手の目的が見えない。おれを捕まえて何がしたいのだろうか?戦う雰囲気でもねェみたいだし。人獣型になれば抜け出せるか?変身するにもタイムラグがあるから厳しいな…

「カイドウ、お主は我と出会うことが定められておったのじゃ。今宵、いや今からでも繋がり合おうではないか!この雲は我の巣じゃから安心せぇよ。誰にもお主のあられもない姿、見せぬからの~」

「?…繋がる?勝手なことを、うわっ、離せ!」

「優しくするからの…やっとじゃ…もう離さん、離さんよ…ずっと共に…」

 ズブズブと雲の中に引き込まれて行く中、白い龍はカイドウの体にぐるぐると巻き付きぎゅっと顔を押し付けた。近くなった顔に噛みついてやろうかと思ったが白い龍の声色が余りにも縋るように震えていたからカイドウはタイミングを逃してそのまま雲に沈んでしまった。


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