カイドウとねこ加筆

  カイドウとねこ加筆


 朝。カイドウは自室で寝ていた。起きたはいいが、起き上がるのも何だか気が乗らない。ぼんやり天井を見ながら微睡む。昨日もしこたま酒を飲んで泳いでいた魚を焼き魚にしたりしたような、してないような。気のせいかもしれない。


「にゃあ」

「ん?」


 自分以外の生き物がいない筈の部屋に奇妙な鳴き声が響いた。ああ、そうだ。思い出した。カイドウは昨日偶然見つけた奇妙な生き物を思い出す。あんまり自分に似ているものだから実験動物が逃げて来たのかと思ったんだったか?引っ付いて離れないから連れて帰ってきてしまったのだ。こいつは夢じゃなかったか

 カイドウは妙に温かい胸元を首を傾けて見やると、そこには黒い毛並みが豊かな猫みたいな何かがいた。カイドウからすれば小さくて丸い体をのしりと乗せて、いや、前足をしきりに動かしている。その生き物が動く度にカイドウの胸筋が僅かに形を変えた。


「なんだ。そんなに踏んでも何も出やしねェぞ」

「にゃう…にゃあ」

「…腹減ってんのか?」

「に~~」

「お前は何を食うんだ」


 カイドウはそいつの首を摘んで持ち上げる。されるがままのそいつはゴロゴロと喉を鳴らすばかりで何も言わない。しょうがないから取り敢えず酒を飲み始めたカイドウを見ると、そいつは急にうにゃうにゃ鳴き始めた。


「なんだ、酒が欲しいのか?変わってんなァ…」

「うにゃにゃ」

「注いでやればいいか?」

「う"にゃ~」


 杯に注がれた酒をちびちび飲むとそいつはゴロゴロ転がった。喜んでるのだろうか?自分にすり寄るぬくもりを見ていると庇護欲に近いものが沸き上がる。指先を寄せるとスンスン嗅いで顔を押し付けてきた。しばらく撫でたり酒を飲んだりを繰り返した。


 カイドウは自分のことは棚に上げ、流石に酒ばかりではダメだろうと猫みたいなやつを抱き上げて食堂に向かった。


 

 ======フー視点======


 フーは朝までしっぽりやっていたから遅めの朝食を食べていた。こんな朝には茶漬けが旨い。鯛茶漬け旨い。欲を言えばカニが良かったが無理は言うまい。向かいにはササキがアスパラの肉巻きを食べている。あれ、あいつにお熱なやつがわざわざメニューに入れているらしい。今度からかってやろうか。頭の中で計画を立て始めたフーだったが、猫みたいな生き物を抱いたカイドウが視界に入った途端ずるずる啜っただし汁を吹き出してしまった。


 え?カイドウさんが知らねー猫を抱いてる!?え!?おれというものがありながら!?……何考えてるんだ…おれは……???


「汚ねぇな!!何すんだフー!?ふざけんなよ…あ、カイドウさん。おはようございます」

「ウォロロロ…あぁ。」


 ゲホゲホむせるフーを置いてササキとカイドウは何やら話していたが、どうにか呼吸を正常に戻そうと必死だったフーにはあまり聞こえなかった。


「フー。おい。フーズフー。聞こえるか?そんなに噎せるなんて珍しい」

「ぅ、げほっ…か、カイドウさん…はい…大丈夫で…ごほっ」

「ウォロロ。ならいい。お前に聞きてェことがある」

「何ですか?」

「こいつ…ねこは何を食うんだ?」

「ぶにゃ~~」

「え…」


 カイドウは抱えていたそれの両脇を両手で支えてフーの目の前に寄せた。頭を覆う黒いウェーブ状の癖のある毛。ふてぶしい目付き。なんともカイドウによく似たねこだった。いや、猫にしては流石に大きくないか?ページワン二人分以上ありそうだ。


「そうですね…猫は肉食べますよ」

「肉か」

「魚でも大丈夫です。味付けはなしの方がいいんじゃねぇかと思いますが…こいつが猫なのか分からないんで何とも…」

「まあそれを言っちゃァ終いだからな。ありがとよ。おれは魚が食いたいから、お前も今日は魚だ」

「うにょ~」


 魚と言われて嬉しいのか、そいつはカイドウの体に頭をこすり付けた。それに特にリアクションせずにカウンターに向かうカイドウの腕の中から、去り際にそのねこはフーを見て笑った。あれは勝者の笑みだ。少なくともフーはそう感じた。


 あ、あのねこ~~~~!!!調子に乗りやがって!!!!


「あの猫みたいなやつ、中々強そうだな…お前はどう思うよ?フー。…どうしたんだ?」

「どうもしねぇよ!まあ、それなりにはやれそうだな。だが、おれの方が…おれの方が…!」

「…動物に張り合ってるのか?」

「張り合ってねーよ!」

「なんだよ…悪かったって」


 いつにも増して情緒不安定なフーに若干引きながらもササキは最後の肉巻きを頬張った。



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