オワコン、三人称視点改稿案0-1

オワコン、三人称視点改稿案0-1

でゅらはん

 ※はじめに

 こちらの内容はスレの>>50までにいただいたアドバイスを参考に改稿したものとなりまする。それを踏まえてお読みくださいまし。



作品名「オルタナティブ・ワールド・コーリング 略してオワコン」



序章 少女は再び世界に立って



第零話 黒歴史 忘れた頃に やってくる





「ん~と、確かこの中にあったはず……」




 靴、着物、トロフィー、バイオリン、参考書etc……

 古城柚葉は押し入れに詰め込んだ荷物の山を退かし奥を漁っていく。


「あ~! こんなことならきちんと整理しとくべきだったぁ!」


 部屋に積み上がる荷物の山。それらの大半は実家、もとい本家が出奔した彼女に送り付けたささやかな嫌がらせ。それをきちんと整理せずに押し入れに放り込み続けたことを柚葉は半ば後悔していた。

 ドレス、表彰状、道着、食器類、アルバムetc……


「あった!」


 柚葉が押し入れの奥から無事に発掘成功したのはとあるゲームのパッケージ。その名は「オルタナティブ・ワールド・コーリング」(通称オルワコ/AWC)。かつては世界の覇権を握ったとも言われた伝説のVRMMORPGだ。


「もうかれこれ3年以上触ってないけど大丈夫かな……?」


 パッケージの埃を払いつつ中からソフトを取り出し、自身の耳に装着したVRデバイスにソフトを読み込ませる。


「よし! 無事っぽい!」


 問題なくプレイできることを確認した柚葉は早速ベッドへ飛び込みこのゲームを起動した。


―――――――――


「れ、零門(※読み:レモン)……?」


 デバイスとゲームデータの更新や課金プランの設定等々を完了し、ようやくログイン画面にたどり着いた柚葉の目に飛び込んできたのは、何やら不穏な気配の漂うアカウント名だった。


「そうか……このゲームやってたの3年以上前だから中学生だった頃か……」


 中学時代、それは思いつく限り数多の手段を行使して忘れ去らんとした、柚葉にとっての暗黒時代。つまりは黒歴史である。その一端に触れることに柚葉はたじろいだ。


 しかし約束がある。今から1時間半後の18:00にこのゲームで親友と落ち合うという約束がある。初めてこのゲームで遊ぶという親友の案内するという約束があるのだ。


 柚葉は意を決してログインのコマンドを選択した。直後、身体がふわりと浮かび上がるような感覚と共に視界は眩い光に包まれ……





--- Welcome to Alternative World ---





 ゆっくりと地面に降り立つような感覚と共に目を開けてみれば、そこは現実とは違うもう一つの世界。零門は今、大きな門の前に立っていた。


 彼女が門を見上げると「ネヴァーエンド」と書かれた看板が目に付く。それはこの街の名前であり、零門が最後にセーブした地点でもあった。


 親友と落ち合うためにはまず「サーガワン」という最初の街へと移動しなければならない。幸いこの街には行ったことのある街へワープできる転移門(※追加課金プランもしくはキャンペーン必須)があるようなのでそこは安心だ。慣らしも兼ねて少しだけ散策しようと零門は歩きだす。


「それにしても相変わらずすごいクオリティだなぁ……」


 門からまっすぐ伸びる大通りを歩みながら零門は呟いた。

街の風景、陽の光の暖かさ、風が運ぶ匂い、遊び回る子供達(NPC)の声といった直接的な感覚情報。それに止まらず町行く人々(NPC)の視線のようなあいまいな情報さえもそれとなく感知できてしまう。


オルワコはリリースからかれこれ7年以上経つゲームだが、未だに技術分野では他の追随を許さないとされている。そもそも世のフルダイブ系VRコンテンツのほぼ全てがこのゲームを元に作られているからなのだが。


そのクオリティーの高さを堪能しつつ、ふと零門は道沿いのアイテム屋の方に視線を向けた。店前の呼び込み(NPC)がとっさに顔を背ける。


「んむぅ……」


零門は少しだけ違和感を抱いた。自身に向けられる視線の多さ、そして目線を向ければ顔を逸らす人(NPC)の多さにだ。


「あ、ちょうどいい所に!」


通りがかった装備屋の壁に姿見が配置されていたので、零門は身嗜みをチェックすることにした。




そこに映った自身の姿を見て零門は硬直した。










黒歴史が私(柚葉)を殺しに来た










 まず目についたのは真っ黒な左目。白目の部分が黒い、いわゆる黒白目や反転目と呼ばれる目だ。瞳は青く、蛇の様に切れ長な瞳孔が人ならざるモノの邪悪さを醸し出す。目尻と目頭に施された鋭い縁取りと、引っ掻き傷のような赤い刻印が尚更それを加速させる。

 右目は六芒星を模した意匠の刻まれた眼帯に封じ込められてあるものの、その端から覗く縁取りや刻印から、中は左目のそれと同様であろうことが伺えた。


 肌は命の温度を感じさせないほど青く冷たい色。髪は少し灰がかった白のミディアムボブ。中央右寄りの分け目には乾いた血の色をしたメッシュが一房垂れ、死体めいた印象を覗かせる。

 そして頭全体のシルエットを大きく歪ませるのが頭頂部と側頭部の間から生えた紫黒の角。左の角は天を突くかのように捻じれ上がり、右の角は半ばで折れて断面からほんのりと紫の光を放つ。

 色味やタトゥーを除けば整った目鼻立ちであり、顔を構成するパーツは現実の柚葉のそれと共通している。が、全体的な輪郭や配置といった要所要所から抜けきれない幼さのようなものを感じさせる。それはまるで柚葉が中学生だった頃の生き写しの様。


 首には七つの星があしらわれた黒いスカーフ。

 左肩には山羊の骸のような肩当て。そこから伸びた三対の黒く細い羽根のようなものが現実よりも二回りほど小さな胸部を一周してワンショルダートップスのような形を成す。


 むき出しの臍を囲うように燃え上がるのは、丹田から生じた炎の紋章。

 小ぶりな腰のラインをはっきりと浮かび上がらせるタイトな黒いショートパンツ。その上から無造作に、そして幾重にも巻き付く蛇の様なベルト。


 両腕の肘から先は呪文の刻まれた包帯が巻かれ、何かを必死に封じ込めんとするかの様。包帯は真新しいものから茶色く風化したものまで新旧様々。少し解けた人差し指の先端からは禍々しい邪気のようなものが覗く。両手の人差し指と中指には黒い宝石があしらわれた指輪がギラリと光る。


 左脚には黒い鎖が乱雑に巻きつき、先端には楔のようなものがぶら下がる。

 両足のヒールブーツは黒革をひもで縛った一見オーソドックスなものだが、皮の破れた部分から内に宿る紅い何かが静かに脈動していた。




 そこにあったのは中学時代の己ベースの容姿に詰め込まれた中二要素の欲張りセットで…


「な、な…ななな…」


 声が震える。視界がぼやけ、全身が硬直し、心臓が激しく脈を打つ。


「な゛あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 街に絶叫が響き渡った。


 何事かと駆け付けたプレイヤーやNPCの警備兵達が見たのはログアウトの跡のみだった。





(キャラクター紹介用のページを新しく設ける)



第壱話 その世界 悪夢の扉が 開かれて




『オルタナティブ・ワールド・コーリング』

 公式略称「オルワコ」「AWC」は今から7年以上前に発売された世界初の超大作フルダイブ型VRMMOだ。

~~~~~


 舞台はエルフやドワーフといった亜人達が暮らしを営み、ドラゴンやゴーレムが大空を舞い大地を闊歩する「|もう一つの世界《オルタナティブ・ワールド》」


 剣と魔法が幅を利かせる王道ファンタジーなこの世界には、「呼び声」と呼ばれる未知の現象が度々発現する。

 「呼び声」とはこの世界と別世界とが繋がる現象であり、それによって別世界の存在が絶えずこの世界に流入してくるという。「呼び声」によりもたらされた新たな資源が国を繫栄させることもあれば、「呼び声」により発生した未知の魔物が町や村を滅ぼすこともあったという。「呼び声」に導かれた異邦人が知恵を授けることもあれば、「呼び声」に呼び起された邪神が世界を書き変えることもあったという。かく言うプレイヤーも「呼び声」の力によって別世界から召喚された存在なのだ。

 時に恩寵を、時に災禍を呼び寄せる「呼び声」によって、この世界は翻弄されていた。


 プレイヤーはそんな世界を探索し、亜人達と交流し、モンスターと戦い、「呼び声」の謎を追う冒険者としてその道を歩んでいくのだ。


~~~~~


 それは行き詰まる時代。そして息詰まる時代。誰もがそんな時代に身を置く中で、彗星のごとく現れたのがこのゲームだった。

 ある者はこことは違う世界の冒険を求めた。

 ある者は現実では味わえない刺激を求めた。

 ある者は鬱屈した人生のやり直しを求めた。

 皆が一様に現実では味わえないものを求めてこのゲームに手を伸ばした。

 結果、オルワコは史上稀に見る大ヒット。そしてオルワコの大ヒットをきっかけに様々な業界がVRへと参入。エンタメの主流は現実からVRの世界へと移り変わった。


 オルワコがもたらした影響はゲームに止まらず、「仮想現実」という文化を世界の標準装備に加えてしまうほどの衝撃。柚葉が今耳に装着しているVRデバイスが2020年代のスマホのような普及率を誇るのもひとえにオルワコのお蔭なのだ。


 しかし運命の悪戯はかくも残酷なもの。他のVRコンテンツの台頭や、プロデューサーの交代劇、それに伴う旧スタッフ陣の追放を皮切りにオルワコはそのサービスの質をどんどん落としていき、人々はオルワコから離れていってしまった。

 全盛期と比べてすっかり廃れてしまった現在の惨状を見て、人々はいつしか口々にこのオルタナティブ・ワールド・コーリングを「オワコン」と呼ぶようになったのだ。


――――――――――


「あれは! いったい! なんなの……!」


 柚葉はそう問うた。

 洗面台の鏡を見る。返事はない。


「ああああぁぁぁ~~~もう!」


 柚葉がここまで取り乱すのには理由があった。


 VRが世界標準となったこの時代、アバターはゲームの操作キャラクター以上の意味を持つようになった。それは「仮想現実」というもう一つの「現実」における「自分自身」だということ。

 従来の非ダイブ系のゲーム(この世界におけるレトロゲー)であれば、自分と違う性別を選んだり、露出度の高い装備を纏うことに対する忌避感は全くなかっただろう。

 だがオルワコはフルダイブ系のVRゲーム。プレイヤーは自分自身の目で世界を見、自分自身の耳で聞き、自分自身の口で話し、自分自身の足で世界を歩く。極端なことを言ってしまえば、それは現実と相違ないこと。

 そんなフルダイブにおいて下着並みに露出度の高い装いをすることは、現実において下着姿で街中を歩くことに等しい。つまりは変態扱いもやむなしということである。


 そしてもう一つは柚葉の個人的な事情にあった。


 中学時代の姿を模したアバター。それは否応なしに柚葉の黒歴史の扉を開きかけた。ひとえに黒歴史とはいっても、柚葉のそれは非常に深刻なものだ。一時は真剣な治療も受けていたほどに。


「忘れろ……忘れろ……」


 柚葉は必死に自分に言い聞かせる。洗面所にうずくまり、吐き気を堪えつつ「あれは自分じゃない」「あれはただのアバターだから」と自身に言い聞かせた。どれだけの時間うずくまっていただろうか? どうにか自身に暗示をし直し柚葉は起き上がった。


「くぁ……くぅ……」


 トラウマの虫は収まれど、羞恥心の虫は未だお腹の中を暴れ続けているのを感じつつ時計を見る。16:37。約束の時間は18:00。集合場所への移動を考えると残された時間は70分強。チュートリアル諸々のことを考慮すると一からキャラメイクをしてる時間的余裕は無い!


 この猶予時間の間にアバターの外見をどうにかしなければならないのだ……!


―――約束の時間まで残り83分

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