オレンジ色の黎明

オレンジ色の黎明

おやつおいしい(15)


シルベ

次の主人公予定の女子

ポケモンスナップ主人公(パルデア出身)

現在14歳 アカデミー入学時は9歳


***



あの瞬間まで、私にとっての写真というものは世の中に溢れる玩具のうちのひとつでしかなかった。


オレンジアカデミーに入学して少し経った頃、伝統行事の宝探しが始まった。

ジム巡りを始める子、モトトカゲに乗ってパルデア十景を回ると意気込む子、明確な目標こそないけれど目を輝かせて冒険に出かける子…様々な想いを胸に生徒たちが散っていく中で、私はひとり、テーブルシティで立ち往生していた。


特にこれがしたいっていうこともないし、みんなが意気揚々と旅立っていく中で真面目に授業受けるのもつまらない。クラスで比較的喋っていた子はスター団とかいう変なサークルに影響を受けて「ビワさまの追っかけになる」と飛び出していってしまった。なんでだよ。


周りにぼっちだと思われたくないのでいかにも用事がありますよ風にテーブルシティをうろついていると、覚えのある姿を見つけた。同じクラスの男の子だ。

とても物静かなので一度も会話したことはなかったけれど、変な時期に編入してきたのと見た目が華やかなので印象に残っていた。


その子はスマホロトムをつい最近買ってもらったらしく、アカデミー前の階段で写真を撮ろうとして四苦八苦していたようだった。なんとズームやフィルターも知らないと来た。私は親が早い時期からスマホに触らせてくれていたので詳しいとは言えないまでもカメラ機能はよく使っていた。だから代わりに撮ろうか?と声をかけた。暇だったし。


『アギャス』

「わっ」「ぎゃあ!?」


…それだけだったのに。

突然その子のボールから飛び出してきたやたら派手なモトトカゲに驚いて、変なタイミングでシャッターを押してしまった。ピントは微妙に合ってないし派手なモトトカゲはブレまくっていて何のポケモンなんだかわからない。唯一その子の驚いた顔だけはちゃんと写っていた。


「ご、ごめん!ミスっちゃったから消すね!!」

「なんで?これはこれで面白いじゃん」


私が慌てて謝ると、写真を確認したその子は心底愉快そうにケラケラと笑いながらそう言った。いつもは魂が抜けたようにどこか遠い目をしているその子がそんな顔をするとは思っていなくて…考えるより先に、私は自分のスマホで写真を撮っていた。


「これが俺?」

「ごめんね、すごくステキな笑顔だったから…」

「ううん、ありがとう。この写真もらえる?」

「も、もちろん!!」


その子のスマホに写真を転送する。ついでに簡単な操作を教えると、その子は「ありがとう」とまた笑った。


「シルベちゃんカメラ上手いじゃん。面白い写真が撮れたらまた見せてよ」

「え。なんで名前…」

「だって同じクラスでしょ。…あ、俺そろそろ行かなきゃ」

「じゃ、またね」と言い残して、その子は派手なモトトカゲに乗って去っていってしまった。


それ以来、私の趣味はカメラになった。"クラスメートが笑ってくれて褒めてくれた。" 単純な理由だけど、とても嬉しかったのだ。

テーブルシティの外に出て、野生のポケモンの躍動感あふれる姿を撮った。ピクニックを楽しむポケモンたちの可愛らしい姿を撮った。真剣勝負をするポケモンとトレーナーの表情を、活気のある街の風景を、大自然の素晴らしい景色を、なんでもない日常を、特別なお祭りを、ちょっとしたハプニングを、とにかく良いと思ったものをひたすらに撮った。SNSに載せてみたところ、同年代の中ではそこそこ評価が高かったと思う。


ある日、ポケモンリーグからの紹介でレンティル地方の調査体験会の存在を知った。未開の土地の調査のためカメラの腕に覚えのある若者の手を借りたいらしい。パルデアでは見れない風景やポケモンを撮れる。私は少しだけ迷ってから思いきって飛びついた。書類審査は無事に通ったのであとは現地に行くだけだ。


荷物を準備していたら5年前に使っていたスマホが出てきたのでついつい昔を思い出してしみじみしてしまっていた。そろそろ再開しなくちゃ。今まで撮った写真は全部バックアップつきで保存してあるので飛行機の中で見返そう。あの子の写真も残ってるはず。


彼とはアカデミー卒業後は会っていないけれど…どこかで私の撮った写真を見かけて笑ってくれてたらいいなと思う。


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