オレンジデーの贈り物

　お昼休み、私はゆいとこんな会話をした。

「つかぬことを訊くが、ゆい。…バレンタインデーはどう過ごしたんだ？」

「拓海がでっかいチョコケーキ作ってくれた！」

「……君は何をした？」

「一緒に食べた！」

「そっか〜……ホワイトデーは？」

「拓海がクッキーとマカロンとキャンディー作ってくれた！」

「そっか〜、全部盛りだな……」

「あまねちゃん、どうかしたの？」

「ゆい、この二つの日はどんな日だと思う？」

「へ？お菓子会社が企画したイベント日でしょ？」

「本質的な意味で正しい情報だな！」

　私は頭を抱えた。やむを得ない。無粋な真似だが、彼女に君の気持ちを伝えさせてもらう。

「ゆい、その二つの日は、好きという想いを相手に伝える日だ！　つまり！」

「チョコもクッキーもマカロンもキャンディーも大好きだよ！」

「そっちじゃない！いい加減気がつけ！でなきゃ私が品田をとって攫うぞ！」

「ダメでーす♪」

　笑顔で言い切られた。どうやら最初から気づいておちょくられていたらしい。彼女もたくましくなったものだ。

　しかし、おのれナチュラルに幼馴染を自分のもの扱いしよってからに。悔しいぞ。

　私にだって意地というものがある。

「いいか、ゆい。私はバレンタインデーに品田へチョコを贈り、そしてホワイトデーにキャンディーをもらった。コレはつまり両思いと言っても良い！」

　まあチロルチョコと金柑のど飴だが。

「それで？」

　意に介さないところを見るとバレてるなコレは。しかし今更引き下がれるものか。

「世にはオレンジデーというものがある。つまり今日この日、品田にオレンジにちなんだ物を贈られたなら、私たちは付き合ってることになる！」

　そしてコレが、と私はゆいに対して証拠の品を突きつけた。

「品田からもらった購買の卵サンドだ！お弁当を忘れたんで品田に奢ってもらったんだ！」

「理由が情けない上にオレンジというより黄色だよ、あまねちゃん」

「ぐぬぬ……しかしゆい、君は随分と余裕じゃないか」

　私がそう訊くと、ゆいは得意そうに胸を張った。

　……最近さらにたわわに育ったな。

「今日のお弁当は拓海特製のおむすび詰め合わせなんだよ！」

「だから？」

「拓海のことだからあたしの好きなシャケおむすびもあるはず。シャケはオレンジ。あたし大勝利！」

「本当に君は受け取ってばっかりだな！」

「そんなことないもーん。バレンタインデーもホワイトデーも、最後の一口は拓海にあげたもーん」

　ゆいはそう言いながらお弁当のふたを開けた。中にはおむすびが十個。多いな！？

「えへへ〜、どーれーがー拓海の想いがこもったシャケかなぁ〜💕」

　目の前で惚気られてムカっ腹が立ったので、一つ掠め取ってやった。ふふ、怪盗ジェントルーの手癖の悪さを舐めてくれるな。

　らしくないとは心外だな。これでも私はパート１の頃は泥棒猫と呼ばれた女だ。

　ふふ、すまないゆい。君の幼馴染のおむすびは私がもらって行く。

　気づいて居ないゆいがおむすびを大口開けて頬張るのと合わせて、私も背を向けておむすびを頬張った。

　ふっくらご飯に包まれた蜜柑の酸っぱくて甘い果汁が口の中に広がった。

「「蜜柑！？」」

　そういえばオレンジデーは愛媛発祥だった。

「…あまねちゃん。拓海、もしかして怒ってたりする？」

「いや、コレはコレで想いをどストレートに伝えてるというか……いややっぱりちゃんと素直に好きって伝えた方がいいんじゃないか？」

「うん、そだね。そうする…」

　意外だが、蜜柑ご飯は慣れると美味しかった。