オリキャラスレ劇場版コ●ン編SS連作まとめ(中編)
「着いたわね、センタースクエア。確かにテラリウムコアの色変わってるわねー…なーんか…ちょっと紫がかってる?」
「周りの雰囲気も何やらおかしいようだね。警戒していこうか、フチベ君」
「言われなくても当然よ。…ねえ、そこの貴方。この辺で赤いフードを被った連中を見なかった…」
「…キ…」
「キ?」
「…キ、キビ…」
突然、フチベが声をかけた生徒が奇妙な動きで踊り出す。
「キビキビーーー!!」
「ぎゃーーーーーーーーーー!?!?」
一人が踊り出すと、堰を切ったように周りの人間もみな奇妙な踊りを踊り出す。
「な、なに!?なんなのこれ!?」
「これもマグマ団の策略か!?」
「キビキビー!」
「ぎゃー!こっち来んなー!」
「キミ、落ち着きたまえ!一体なにが…」
「キビキビーー!」
「くっ…!言葉も通じていないのか…!?」
ベンケイとフチベがパニックに陥りかけているところ。奇妙な見た目のモトトカゲに乗り、帽子を被った子供がこちらへ向かってくる。
「た、大変なんです!サンドイッチが、サンドイッチが…!」
「む、キミ!サンドイッチが何かね?この異常事態と何か関係でも…」
「サンドイッチが爆発して…!!」
「「なんて???」」
帽子をかぶった子供は申し訳なさそうな顔でボールからモモンの実に似た姿のポケモンを出す。
「この子、モモワロウってポケモンなんですけど…」
「モ、モモ…」
「モモワロウ?見たことないポケモンね」
「私も見たことがないな。この子、かなり珍しいポケモンではないかね?」
「たぶんそうなんだと思います…それで、この子の能力が毒入りの餅を食べさせて相手を操ったり、あんな風に…キビキビ?させたりする能力なんですけど…」
「まさかモモワロウが彼ら全員に毒餅を食べさせたとでも?」
「いや!そうじゃなくて!今朝、モモワロウの餅を使ってセンタースクエアで具材統一サンドイッチを作ろうとしてたんですけど…」
「のっけからツッコミどころ満載だけどとりあえず続けてちょうだい」
「でもちょっと欲張ってお餅を挟みすぎちゃって…パンを上から落とそうとしたらサンドイッチが爆発して、飛んで行ったお餅がテラリウムコアに…」
「パンをうえからおとそうとした…?」
「フチベ君、多分これは理解しようとしても無駄なパターンだよ」
「そしたらテラリウムコアの色がおかしくなって!コアの光を浴びた人達が…みんな、あんな風に…急いで大人の人に伝えようとしたんですけど、自分一人じゃみんなを食い止めるのにいっぱいいっぱいで…」
「…要するに、あのテラリウムコアが原因ということかね?」
「はい!…あ、あと!」
「まだ何かあるの!?」
「モモワロウの餅、人の欲望を増幅する力もあるんです!今ここでキビキビしてない人達も、もしかしたら何か影響を受けちゃってるかも…!」
「…そ、」
「それを早く言いなさいよーーーーー!!!!」
「ごめんなさいーーーーー!!!」
「要するに、あのテラリウムコアさえどうにかすればいいということだね?」
「たぶんそうだと思います!」
「普通にブッ壊しちゃっていいんじゃないの?」
「それでもいいが、コア内に危険な物質が含まれていると壊したときに内容物が漏れてしまって被害が出るおそれがあるね」
「むー…アンタ、テラリウムコアに何が入ってるのかは知ってたりする?」
「えーと、確かブライア先生が言ってたのはキタカミの土と水と…あ!あとテラスタル結晶も入ってるらしいです!」
「「壊す一択だな/ね」」
「私がボーマンダでテラリウムコアまで飛んで行こう。フチベ君はイルミーゼで援護を頼む」
「勝手に指図しないでよ!」
「自分はキビキビしてる人達を食い止めます!コアのことは任せました!」
「ああ、頼んだよ」
言うが早いか、ベンケイがボーマンダを繰り出してその背に乗った。口ではぶつくさ言っていたフチベもイルミーゼのボールを出し、援護の体制を整える。
ボーマンダに乗ったベンケイは瞬く間に高度を上げ、テラリウムコアに近づいてゆく…が。
「そりゃ人間がおかしくなるんなら、ポケモンもおかしくなるわよね…!」
テラリウムコアを囲むように、とりポケモンの大群が列をなしている。その目は鈍い紫色に光り、どう見ても正気には思えない。
「エアームドの群れ…!この数ではコアに攻撃するどころか近付くこともままなりません…!」
ボーマンダに指示を出し、『かえんほうしゃ』を放っても倒せるのはごく一部分。これでは邪魔者たちを退ける前に自分たちの力が尽きてしまう。
どうしたものか。ベンケイが逡巡した刹那。
「ベンケイ!!」
フチベの声が届く。その瞬間、ベンケイは反射的に目元をふさいで身体を伏せた。
「ボーマンダ、目を瞑れ!」
ベンケイがボーマンダに指示を出したコンマ1秒後。
「カゲツ、『あやしいひかり』!!」
コアの周りで眩い蛍光色が乱舞する。イルミーゼの『あやしいひかり』によって混乱状態となったエアームド達は訳もわからず地に落ちていった。
「…今だボーマンダ、『りゅうのはどう』!」
『あやしいひかり』でエアームド達の間にできた僅かな隙間を縫って、ボーマンダの吐く光線がテラリウムコアに命中する。
龍の怒りをもろに浴び、紫色に輝くコアはなすすべなく砕け散った。
「やった…!コアが壊れた!」
テラリウムコアだったものから紫の液体がボトボトとこぼれ落ちていく。先程までキビキビ踊っていた者たちは正気に戻ったのか、狐につままれたような表情で立ち尽くしていた。
「これでセンタースクエアの異常は片がついたかね」
「ま、あたし達にかかればざっとこんなもんよ!」
「すごかったです二人とも…!あの『あやしいひかり』のタイミング!二人はすっごく良いコンビなんですね!…」
「……あれ?自分、なんか地雷踏んじゃいました…?」
「…なあ」
「…な、なに?」
電気石の洞窟に向かう途中。チドリとヒガンは目的地が近いからと二人一緒に歩いている最中だった。
「さっきオマエのハガネール見た時に思ったけどよ。オマエ、けっこー強いだろ。なんでそんないっつもビクビクしてんの?」
「う、あ、ごめんなさ…う、うち、まだ半人前やから…」
「怒ってねーし、その強さで半人前は無理あるだろ」
「ううん、ちがくて…どうしても、越えたかった人がいたの。その人に勝ちたくて、その人の生き方を否定したくて、いっぱいいっぱい頑張ったけど、どうしたって届かなくて…でも、今は違くて!今はただ…あの子に追いつきたい。あの子みたいに、うちも物語の主人公になれるんやって、自分自身に証明したい。だから、それまでは…うちはまだ、足りないの。いつまで経っても半人前なの」
「…ふーん」
「…ご、ごめん、いきなりこんな自分語り…」
「いや、いいよ。…俺も、似たようなことあったから。どうしても、ぶっ倒したい奴がいた」
「…チドリくんはその人に、今も追いつきたいって思ってる?」
「…おう。でも俺はそれ以上に……いや!やっぱなし!今の話ぜんぶ忘れろ!」
「え、あ、うん…」
「……。」
「……。」
「…ね、ねえチドリくん。スマホ持ってる?よ、よかったら、連絡先、交換したいなーって…な、なんかあった時のために…」
「…おん」
そして少年少女が洞窟前で別れた後。一人になったチドリが、電気石の光る洞窟の角を曲がった先。
突然、チドリの目の前に振り子が垂らされた。
「スリーパー、『さいみんじゅつ』」
「…は?」
場所はテラリウムドーム、キャニオンエリアにて。ヒガンは岩山に沿って道を歩いていた。
「チドリくんももういてへんし…うち一人で頑張らんと」
人知れずファイティングポーズで決意を固めるヒガンだが、そこに怪しい影が複数。
「そこまでだ」
「っ!?…誰なんあんたら!?」
気付けば学園の用務員に扮した男たちが十数人、ヒガンをぐるりと取り囲んでいた。
「先程からうろちょろと我々のことを嗅ぎ回っているようだな…ここでお前を野放しにしては少々都合が悪い、すまないがお前にはここで消えてもらう」
一人がそう切り出すなり、男たちが次々とポケモンを繰り出す。その数はざっと10は下るまい。彼らはヒガンを取り囲み、じりじりとその輪を狭めていく。
「ひっ…!?」
こんな大勢相手に勝てるわけない。逃げなきゃ。未熟な自分一人で戦うより、頼れる大人を呼んできたほうがずっといい。
呼吸が震える。恐怖が脳を支配する。敵うわけない、今すぐ逃げろと全身が危険信号を発している。…でも。
チドリに打ち明けた彼女の本心。『あの子に追いつきたい、主人公のような存在でありたい』。その願いがヒガンを踏みとどまらせる。
「(…こんな時、主人公ならぜったい逃げへん。諦めないで最後まで戦う!)」
被っていたベレー帽を外し、リボンを解いて長い髪をひとつに括る。震える両足を叱咤しながら、ヒガンは声を張り上げて叫んだ。
「望むところや悪党ども、うちが纏めていてこましたる!」
マグマ団残党捜索のため、ツルバミがやって来たのはブルーベリー学園の金庫。
「うーん、ここには残党はいなかったか…てっきりあの爆薬で金庫をドカン!と吹っ飛ばすつもりなのかと思ったけれど…おや?」
よく見ると、金庫のそばに小さいポケモンが鎮座している。宝石のような甲羅をもった、細身なゼニガメに似たポケモンである。ツルバミはこのポケモンに見覚えがあった。ブライアの著書『ゼロの秘宝』で報告された古代のポケモン・テラパゴスである。テラパゴスはどうやらぐっすり眠っているようで、出所のわからぬ謎の紫色の餅を抱き枕にぐうぐう寝息を立てている。その身体は随分と小柄だ。おそらくまだ赤ん坊なのだろう。
「…え?」
試しに鼻先をつっついてみる。起きた。まだ半分寝ぼけているようで、おしゃぶり代わりにツルバミの指に吸い付く。
「え?」
幼いテラパゴスはツルバミを母親とでも思っているのか、腕にギュ!としがみついてきゅうきゅうと上機嫌に鳴いている。紫の餅を抱いている意味は依然わからず終いである。
「…え、なんで?」
「いやあ、派手に暴れたのー」
「正直、私達が手出しするまでもなかったんじゃなくて?」
「マグマ団も大方はスグリ坊たちが蹴散らしてくれたしの。実力を考えればまあ当然の結果よな。こいつらも頭の足らんことよ」
ブルーベリー学園はリーグ部部室にて。そこでは腕と足を拘束されて芋虫のようになったマグマ団の残党たちがちょっとした小山を作っていた。
「動くな!このガキ共がどうなってもいいのか!」
リーグ部の部室に入った瞬間、そんな陳腐なセリフを浴びせられたレイリとヌルデの行動は早かった。瞬時にリーグ部員とポケモン達に指示を出し、残党たちに反応される前にものの数秒で人質を解放。混乱する残党たちを蹂躙する様はさながら鬼か羅刹女か。
「ぐ…ううう…」
「さあて、どう料理してくれようか。学園の異変の正体に事件の目的に、吐いてもらうことは山ほどあるが…」
「あら、尋問なら私に任せてちょうだいな」
「その物騒な拷問器具をしまわんかい。どっからんなもん出したんじゃお主」
「…ヌルデさん。マグマ団残党に、珍妙な装置の所持を確認。これは一体なんでしょうか?」
「…お主はネリネじゃったか。さあの、ワシにもさっぱり分からん。じゃがこいつらが持っとることからしてどうせロクな装置ではなかろうし、絶対勝手にいじるでないぞ?振りではないからな?」
「了承しました」
「わや…謎の装置…なんかアニメで見た悪の組織みたい…」
「みたいじゃなくてガチモンの悪の組織じゃからのー」
そのとき。適当なマグマ団を捕まえてさて尋問を始めようかというヌルデをよそにレイリがこっそり装置に近づいていく。
レイリの意図に気付いたネリネが止めようとするが、時すでに遅く。
ポチ。
「…えいっ☆」
「コラーーーーー!!!」
「わやじゃーーーーー!!何しとるんじゃーーー!?」
「弄るなって言うたよな?なあワシ弄るなって言うたよな!?」
「だって何が起こるか気になったんですもの〜」
「言うとる場合か!!」
言うとる場合か!とヌルデがレイリを叱りつけたその瞬間。
『…ピー…ガガ…ガ…』
突如、校内放送用のスピーカーから音声が流れ始める。
「…わや…?」
「いったい何かしら?」
「…!いかん!みな耳を塞げ!」
何かを勘付いたヌルデが警告を発するも間に合わず。
学園中のスピーカーから、催眠効果をもつ音声が大音量で流れ出した。
催眠抵抗🎲(低いほど催眠強度高、120超えたら成功)
チドリ…寝てるので一旦除外
ツルバミ…dice1d200=173 (173)
ベンケイ…dice1d200=160 (160)
フチベ…dice1d200=96 (96)
レイリ…dice1d200=34 (34)
ヌルデ…dice1d200=78 (78)
ヒガン…dice1d200=61 (61)
校内放送が流れた瞬間、スグリは凄まじい頭痛を感じて頭を押さえる。
「…っぐ…!?なんだべこれ、頭が…!」
「きっとあの装置が原因です…!ドリュウズ、『アイアンヘッド』!」
タロのドリュウズの攻撃を受けて装置は見るも無惨にへし曲がる。それと同時に校内中に流れていた異音は鳴りをひそめる…が。
「ヌルデさん、大丈夫ですか…ヌルデさん?」
頭を押さえてうずくまっていたヌルデとレイリがゆっくりと起き上がる。その目は虚ろで、一片の光も通さない。周りを見れば他の部員たちもみな一様に虚な目で何事かぶつぶつ呟いているようだ。スグリは思わず気圧され、一歩後ずさる。
「な、なんだべ…?一体なにが起こって、」
言い終わるより早く、レイリがポケモンを繰り出す。ボールから飛び出してきたゴルーグは躊躇なく目の前のスグリに攻撃を繰り出してきた。
「わやじゃっ!?」
間一髪でスグリが攻撃を避け、ゴルーグの拳が床に大きめのクレーターを作る。土煙越しに見えるレイリ達の表情は、完全に我を失った人形のようだ。
「どうやら悠長にお話しできる状態ではないようですね…!」
「くそ、やるしかないのか…!」
スグリにタロ、ネリネはボールを構え、目の前の洗脳された人々の群れに向き直った。
「(…ン…なんだ?ここ…さっきまで、おれ、なにしてたっけ……ああそうだ、マグマだん、さがしに、でんきいしの…どうくつにいって……そこで…?)」
チドリが目を開けると、視界に飛び込んできたのは角付きフードを被った集団。
「目が覚めたか、小僧」
「…あ"ぁ?」
声のする方向を見上げれば、そこには目深にフードを被った偉そうな態度の男。周りの団員の態度からするに、こいつが残党どもの頭っぽいな、と頭の中で当たりをつける。
普段のチドリならば、ここで話が早いと即座に彼ら目がけて喧嘩を売るのであろう…だが。
「(身体が思うように動かねえ…)」
チドリの腕は縄で後ろ手に拘束されており、自由に動かすことができない。おまけに手持ちのボールは捕まったときに奪われたらしく、チドリの持つボールはロックのかかったまま男の手の中で転がされている。
「抵抗しても無駄だ。君の手持ちはこちらで預からせてもらっている。生身の子供一人で我々に立ち向かうほど、君も愚かではないだろう」
男の台詞を鼻で笑い、チドリはあえて不敵な表情を見せてみる。
「…ハ、大の大人が情けねえなあ、田舎のガキ一人にこんなご大層な拘束まで用意してよ!そんなに俺が怖えのか?」
男は答えず、無言でチドリの鳩尾に蹴りを入れる。小さな身体が転がって、苦痛にチドリは思わず呻き声を上げた。
「(挑発も効果なし…か。クソ、やりづれえな)」
地べたに転がるチドリを見下ろし、男がおもむろに語り出す。
「…私は人類の繁栄のためには、多少の犠牲は仕方ないと考えているものでね」
「ゲホッ…なんだ?急に自分語りかよ」
「私の話を聞く気はないかね?」
「…いんや、ドーゾご自由に」
どこか変に醒めたような狂気を帯びた眼差しで、男は滔々と語り始める。
「人類の発展のためには陸地が必要だ。建設、農耕、工業…土地はいくらあっても足りん。土地が足らなくなれば、いつか人類の発展は頭打ちになる。…マツブサ様は、この現状を長年憂えていらっしゃった。だから我々マグマ団は、伝説のポケモン・グラードンを従え、この惑星に新たな大地を生み出そうとしたのだ。だが…」
「失敗したんだろ?」
「黙れ!…ああそうだ、マツブサ様は失敗した。もとより大自然の権化たるグラードンを意のままにしようなど、どだい無理な話だったのだ。所詮われわれ人間の力では、大自然の脅威に抗うことなどできぬ…」
「なら何のためにこんなとこでコソコソしてんだよ?オマエらが何を考えてるかは知らねーが、グラードンを操って陸地を増やすことが無理だったんなら、今ここでオマエらがやろうとしてることも全部無駄なんじゃねーの?」
「だからこそだよ少年。私はね、もともと自然の摂理を曲げるようなマツブサ様の思想には反対だった。人類の繁栄のため陸地を増やす、その方法はもっと『自然』であるべきだ」
「…自然?」
男が洞穴に生える電気石をちらと一瞥し、口を開く。
「この学園の電力がどこから供給されているか、考えたことはあるか?」
「電力だあ?オモダカさんからもう聞いてるよ、この学園の下には地熱発電のエネルギープラントがある。確か学園の地下にでけえ海底火山があるとかで……あ」
「学園地下の海底火山…それが噴火すれば、いったいどれほどの陸地が新たに生み出されるだろうな?」
「てめ、最初からそれが目的で…!」
チドリが拘束を外そうと躍起になってもがくものの、腕の拘束は固く簡単には解けそうにない。
「君にはこの拠点で人質役となってもらう。エネルギープラントを起爆するまでの時間稼ぎだ。上で例の催眠波が流れたようだから君のお仲間がここに来る心配は無いと思うが、念には念を入れておきたくてね」
「…ずいぶんよく喋るんだな。それ、結構大事な情報なんじゃねーの?」
「どうせ君以外は聞いてやいないだろう?」
男の発言を聞き、チドリの口角がにやりと吊り上がる。
「さーて、それはどうかな?」
団員たちの間に少しの動揺。その隙を縫ってチドリは肩の関節を外し、縄から抜け出した。彼はポケットから金属光沢を帯びたナニカをちらりと見せて、不敵に笑う。
「盗聴機能付きの発信機だ。油断して何でもかんでもべらべら喋りやがって、さっきまでアンタが話した情報はみーんな外に筒抜けだぜ?」
「なっ…!このガキ!」
男がチドリのポケット目がけて手を伸ばす。チドリはそれを紙一重で躱し、男の手からボールを引ったくった。
繰り出されたポケモンはオーダイル。このタイミングで水タイプか、悪くない。
「これで形成逆転だな」
金庫での調べ物を終え、ツルバミが他のメンバーの援護に向かおうとしているところ。
「!きゅい!きゅ!ぴきゅいっ!」
「わ!急になんだいテラパゴス、何か見つけたのかい?」
ちいこいテラパゴスはツルバミの帽子の上に乗って、ドームの方を指し示しているようだ。
「…ドームの方に、何かがあるんだね?」
「ぴきゅ!」
「…そう。案内をお願いできるかな?君が見つけたもの、それを僕にも見せてほしいんだ」
「きゅっきゅい!」
ツルバミは頭の上に乗っていたテラパゴスを両手に抱え直し、帽子のツバを引き上げて歩き出す。
「さあて、鬼が出るやら蛇が出るやら。これこそ冒険の醍醐味というものだね」
テラパゴスの先導に従って、ツルバミはキャニオンエリアの山道を歩いていた。テラパゴスと雑談しつつ呑気に歩いていたツルバミだが、ふと何かを見つけたように立ち止まって地べたにしゃがみ込む。
「この辺りで大規模な混戦が行われた形跡があるね。地面が焼け焦げている」
「きゅい?」
「この焼け方からするに使われたのは全体攻撃型のでんき技かな?これほどの規模となると技を使ったポケモンは相当強力だろう…そう、ヒガンちゃんのストリンダーのような…」
そのとき、ツルバミの頬を紫電が掠める。
「…っ!?」
「…母なる大地を…繁栄を……海を滅せよ…いまわしき海を…いまこそ……」
見上げた先にはヒガンの姿。ただしその姿はまるで抜け殻のようで、虚な表情をしたまま意味の分からない言葉をぶつぶつと呟いている。
「ヒガンちゃん!?急にどうしたのさ!僕はマグマ団の連中じゃなくて君の味方の…」
「…滅せよ」
背筋に悪寒を感じてツルバミが飛び退いた刹那、ヒガンがストリンダーに指示を出す。ストリンダーの放つ『オーバードライブ』が先程までツルバミの立っていた場所を焼き焦がした。
「どうやら話し合いは通じないようだね…!仕方ない、手荒ではあるがここは無理矢理にでも大人しくなってもらうよ」
ツルバミvsヒガン(出目が大きい方の勝ち)
ツルバミ dice1d100=53 (53)
ヒガン dice1d100=7 (7) -20(催眠デバフ)
どこか様子のおかしいヒガンは拍子抜けするほど弱かった。それもそのはず、ヒガンの手持ちポケモンたちは催眠にかかっていないのだ。様子のおかしな主人に困惑し、まともに戦えていない有様なのだからツルバミ程度の実力であれば圧勝するのも無理はない。
「く…うぅ…」
「勝負ありだねヒガンちゃん。これで少しは大人しく話を聞く気になってくれたかい?…おっと」
ヒガンの戦意はまだ潰えてはいないらしい。手持ちのポケモンがみな戦えなくなったと見るや、今度は己の身一つでツルバミをぶちのめそうと向かってくる。
「う、うわあああああ!」
だが、元来ヒガンは少しばかり鈍臭い節がある。おまけに催眠の効果でその動きはいつにも増してすっとろく、今のヒガンの俊敏さはキャタピーのほうがまだましレベルの有様である。
そんなヒガンがなりふり構わずツルバミに殴りかかろうとすれば…
「…あうっ!?」
ヒガンは足元の石に蹴つまずき、スッテーン!と盛大にすっ転んだ。当然の帰結である。うずくまって頭を押さえるヒガンに心配になったツルバミが駆け寄る。
「ヒガンちゃん!?大丈夫かい?」
涙目でゆっくりと起き上がったヒガンは、先程までの様子が嘘のようにあどけない表情でこてんと首を傾げた。
「…あれ?ツルバミさん?どうしてここに…?さっきまでうち、何を…」
「ええっ、うちがツルバミさんを!?ご、ごめんなさい!なんとおわびをしたらええか…」
「いやいいよ、気にしないでくれたまえ。君の様子を見るにどうやらあのときのヒガンちゃんは正気ではなさそうだったしね。それよりヒガンちゃん、ポケモンたちを休ませたら少し僕についてきてくれないかい?」
「え、ええですけど…何か、爆弾っぽいもんでも見つけたんですか?」
「正確にはその途中さ。そうだろう、テラパゴス?」
「きゅいっ!」
「わ!何なんこの子?見たことないポケモンや!かわええけど…」
「説明は後だ。この子が何かを見つけたようでね、これは僕の探検家としてのカンだが…マグマ団に関する大事なナニカが、この子の向かう場所に眠っている気がするんだ」
「ほ、ほぇ〜…探検家ってすごい…!」
〜ベンケイ視点〜
「どうしたんだフチベ君、いきなり襲いかかってきて!?私達のことが分からないのか!?」
「…すべては…我らの未来のため……海よ干上がれ…新たし楽土を……」
「ダメです、こっちの話が全然通じてません!」
「くっ…!いったい何が起こっているというのだ…!」
フチベは答えない。ただ意味不明な言葉をぼそぼそと呟きながらポケモンを操り、無差別に攻撃を繰り返している。
「完全に我を忘れているな…一種の催眠状態にでもなっているのか?おそらくあの放送が原因だろうが、いったい何のために?…っと!」
ラグラージの『マッドショット』が顔面に当たりそうになってベンケイは慌てて身をよじる。フチベはひとつ舌打ちして、手持ちに次の指示を出す。普段のフチベの戦い方とはかけ離れた、相手を倒すためだけの芸も華もない戦い方。
「…今は余計な考え事をしている余裕はなさそうだね」
ベンケイvsフチベ(出目が大きい方の勝ち)
ベンケイ dice1d100=67 (67)
フチベ dice1d100=96 (96)
フチベの猛攻に耐えかねて、ベンケイのバルビートが力尽きてボールに戻る。これでベンケイの手持ちの残りはゼロ。フチベの勝利だ。
「フチベ君…本当にキミは、どうしてしまったというんだ…」
放送によって操られたフチベは修羅のような強さだった。マジシャンとしての意識もあり、『魅せる』バトルに特化していたフチベはこれまで本気で誰かを打ち倒そうとする戦い方はしてこなかった。ベンケイはそんな彼女の性質をよく知っていた。それが仇となった。いつものフチベの戦い方に慣れていたベンケイは普段とまったく違うフチベのバトルに対応しきれなかったのだ。
バトルに敗れ無力化されたベンケイを冷たい眼で一瞥し、フチベは踵を返してどこかへ歩いてゆく。
「…待てフチベ君!いったいどこに行くつもりだ!」
「……。」
フチベは答えない。ただふらふらと覚束ない足取りで、ここではないどこかに向かっていく。
「フチベ君…フチベ君!」
去ってゆくフチベに、ベンケイは取るものも取りあえず駆け寄ろうとするが。
「わわ!?大変ですベンケイさん!他にもおかしくなった人達が…!」
「…邪魔立てをするな…」
「豊かな大地を…殖やすため…」
「くっ…!」
同じく催眠を受けた生徒たちが行く手を阻む。ベンケイは生徒たち越しに見えるフチベの背中を、ただ見送ることしか出来なかった。