オモチャの海賊団inシャボンディ②

オモチャの海賊団inシャボンディ②


ホビローさんinシャボンディbyベポ視点。

ルフィが天竜人ぶん殴った直後~キッドが煽って出てった辺りまで。










「悪ィお前ら……コイツ殴ったら海軍の”大将”が、軍艦引っ張って来んだって……」

「……お前がぶっ飛ばしたせいで……斬り損ねた……」

「ハチ! ……しっかりして!」

「ニュ~……お前ら……大変な事を……!!」

「……まー、ルフィだから仕方ないわ!!」

「さて……」

「――じゃやる事ァ決まって来たな」

「舞台裏のどっかにあると思うよ!! ケイミーの首輪のカギ!! おれハチの傷診なきゃ。頼むよ!!」




「……いや~~派手にやったなァ麦わら!」

「(いてて、『キャプテン』叩かないでください痛い)」

「どしたの『キャプテン』? あ、笑ってるんだね」


 この場で考えられる一番最悪な手。ミンク族のおれだってそれがどういうことか分かるのに、撃たれた仲間を守るためにとはいえ躊躇なく天竜人をぶん殴った麦わらと、それに応じてすぐさま目的を果たすために動き出す一味を眺めながら、おれ達は他の客が逃げ出す中その場を動かずにいた。何故かと言えば当然、『キャプテン』から逃げる指示が出ていないからだ。というか『キャプテン』はペンギンのマントの下でどう見ても笑っている(自分が出す音が全く出ないから、ただ叩かれてるペンギンの背が微妙に揺れているだけになってるけど)から、単純にそこまで頭が回ってない可能性もあるけど……。


 麦わら達はそのまま天竜人の護衛を殴り、撃たれた魚人の手当てを始め、集まってきた海兵をなぎ倒し始める。海兵が集まってくるとここにいるとまずくないかな、と思った辺りでペンギンの背が揺れるのが止まって、マントの隙間からピラ、と紙が出てきた。さっと取ったシャチの横から覗きこめば、『海兵が取り囲み始めてる。周囲だけ見ておけ』との言葉が書いてあって、そっと事態を眺めているだけのペンギンへ声をかける。


「『プロキシ』〜、外が……」

「ああ。まぁ、天竜人が来てるのに出張ってこない訳はないな」

「だね」

「できれば押しつけてぇけどなぁ」

「できるかなぁこれ……」


 『キャプテン』が『プロキシ』に言わせたい時は『プロキシ』にだけ紙を、おれ達から『プロキシ』へ進言する形にしたい時はマントの隙間から後ろに大抵いるおれ達へ、が暗黙のルールだ。ザッと見回してもまだ中へ入ってきている海兵はさほど階級の高くない兵ばかり、戦ったところで負ける気はしないけど、『キャプテン』が見られる事は避けなきゃいけないし……と逃走経路を確認し始めたあたりで、――一瞬だけクン、と手が引かれる感覚。ハッとペンギンへ視線を向ければ、紙だけが出ていた筈の隙間から、デフォルメされたオモチャの手が天井を指している。天井?


「――れ、飛ぶとも言ってないんですけど~!」


 ガシャァン!!


「ぎゃあああ!!!」

「きゃああああああ、お父上様~~~~~~っ!!!」

「あいたたた……げっ!! ごめん、おっさん!」

「ロズワード聖まで!!」

「また罪を重ねたな海賊~!!! イカレてるぞコイツら!!!」


 何事かと思えば人が降ってきていた。丁度真下に居た天竜人の1人が下敷きになったらしく女の天竜人が叫び声を上げているのにわぁ、と目を丸くする。麦わらは自分でぶん殴っていたが、落ちた先に天竜人が居るなんて運がない……いやそもそもなんで上から落ちてきてるんだろうあの人? と首を傾げれば、流石に耐えられなかったらしいシャチが(それでも小声で)ツッコミの声を上げた。


「……よくあそこから落ちて無事だな?」

「気にするところそこ?」

「や、だって今の完全に受け身の事考えてなかっただろ」


 確かにそうだったけど、と倒れ伏した天竜人を放置して立ち上がった……確か麦わらのところの狙撃手だったっけ? を見ながら椅子の背もたれに凭れ掛かり、『キャプテン』へ「まだ逃げないの?」と声をかける。『まだ』とだけ返ってきた返事に珍しいな、と思いながら視線を麦わら達に戻した。


 おれ達の海賊団が一番の目標として掲げているのはやっぱり『キャプテン』を元に戻す事だ。そりゃこの大航海時代、ワンピースを手に入れてみたいという意思もあるけれど、おれ達はそれ以前に『キャプテン』に降りかかっている能力を解除し、ちゃんと人としての『キャプテン』と共に進みたいという思いを持つ船員ばかりである。なので海賊らしい活動よりも、敵であるホビホビの能力者を有するドンキホーテ海賊団に『キャプテン』の事がバレないようにする方に立ち回る事が多いから、ここまで面倒ごとに巻き込まれる場所に留まる事は少ないんだ。何かが気になったのかな、と十中八九その対象である麦わら達を観察する。


「ルフィ、ケイミーは!?」

「あそこだ! 首についた爆弾外したらすぐ逃げるぞ! 軍艦と大将が来るんだ!」

「えェ!?」

「『海軍ならもう来てるぞ、麦わら屋』」


 お? と横のペンギン……ううん、『プロキシ』に視線を向ける。腕を組んで(背中側の『キャプテン』には影響が出ないように)背もたれに凭れ掛かる『プロキシ』は、怪訝そうな顔で振り返った麦わらにニッコリと笑ってつらつら言葉を紡いだ。


「何だお前……何だそのクマ」

「『海軍なら既にこの会場を取り囲んでるぞ』」

「えェ!? 本当か!?」

「『この諸島に「本部」の駐屯所があるからな。誰を捕まえたかったのかは知らないが、まさか天竜人がぶっ飛ばされる事態になるとは思わなかっただろうな』」


 あ、ペンギンちょっと『キャプテン』からの言葉意訳したなぁ、と『キャプテン』のいつもの言い回しと違ってペンギンの言葉が混じったセリフを聞きながらおれをチラチラ見る麦わらにこてんと首を傾げる。麦わらってミンク族見た事ないのかな。


「ハートの海賊団……『プロキシ』ね、あなた……!! ――ルフィ、海賊よ、彼ら」

「知っていたか、ニコ・ロビン。お蔭でうちの『キャプテン』も面白いもんが見れたとご機嫌だよ、『麦わら屋一味』?」

「クマもか?」

「おれ? おれは『キャプテン』が楽しそうだからうれしいよ!」

「いやべポ普通に答えてどうするよ……」




「――しまった、ケイミーちゃんが!」

「さァ”魚”!! 死ぬアマス!!」


 は、とおれに向いていた意識が瞬時に正面の部隊の方へ向く。気づけば最後の天竜人の女が人魚の女の子に向かって銃を向けていた。女の子が死んじゃう、と思わず少しだけ立ち上がろうとしたのと、麦わらの狙撃手、ペンギンがニコ・ロビンと呼んだ人、剣士が技を仕掛けようとしたのが同時で。ただ咎めるように一瞬だけ手が押さえつけられたのに気を取られた直後、天竜人は唐突にガクン、とその場に倒れこんでしまった。あれ、と思う中、再度静かになった中を一人の男の人が歩いてくるのが見える。


「……ークションは終わりだ、金も盗んだし……さァギャンブル場へ戻るとするか…」

「質の悪ィじいさんだな……金奪る為にここにいたのか……」

「あわよくば私を買ったものからも奪うつもりだったがなァ……」


 ……話聞いてる感じ奴隷として連れてこられてた人? と首を傾げたところで、ペンギンがぐっとおれの手を引っ張って顔を近づけてくる。どしたの、と素直に引き寄せられれば、「とんでもねぇ大物が出てきやがった……! 冥王だ、あのじいさん……!」と引き攣った言葉が耳に落ちてくる。冥王って、……あれが? とそんな雰囲気の全くない気さくそうな老人(と幕の後ろから出てこようとしているらしい巨人との会話)を観察する。にしては護衛達や海兵達の動揺は大物が出てきたというよりも奴隷が勝手に逃げ出してる方に対してじゃない? とペンギンに問いかけようとして、




ドン!!




 ビリビリと自分を通り抜けた衝撃に目を見開く。今あの老人は、目を見開いただけの筈。なのに周囲の護衛や海兵達がバタバタと倒れていく。周囲に視線を向ければ、意識を保っているのは麦わらの一味と少し離れたところにいるユースタス海賊団、そしておれ達だけになっていた。


「その麦わら帽子は……精悍な男によく似合う……!!」

「!」

「会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ。ああ……先に外してあげるべきだな……」


 今のって、とマイペースにさっきまで銃を向けられていた女の子の方へ近づいていく老人――冥王、レイリーを視界に入れたままシャチにそう声をかける。ああ、と横で頷いたシャチに、初めて見た……と思いながら言葉が零れ落ちた。


「……覇王色の覇気って、あんな感じなんだ……」

「今のおれ達は耐えられたけど、あれが最大なのか?」

「どうだろ……他の覇気と似た感じなら、鍛えたりできそうだけど」


 ここに来るまでに知った、覇気という意思の力。敵の気配や感情を感じ取るために使う見聞色の覇気、見えない鎧を纏うように使う武装色の覇気。新世界に入ってからは使える事が前提というその覇気はどちらも鍛えておかないとこの先は大変だと知って以降、安定して使えるように海賊団のみんなで訓練しているが安定しているのは『キャプテン』ぐらいで、『キャプテン』も武装色の覇気がようやく思ったように使えるようになったぐらいだ。正直現状だと覇気が使えなくても敵を倒せるし他に覇気を使える海賊団も見かけないしで、覇気を実際に使っている者を見た事は殆どないに等しかった。


 そんな状態だから、見聞色と武装色の覇気よりも持っている者が少ないもう1つの覇気――覇王色の覇気と呼ばれる覇気は存在こそ知っていても見た事なんてなかった。存在を知らなかったらもっと動揺していただろう、知っててよかったと思いつつ、麦わら一味と冥王のやり取りを静観する。今は敵対してないけど、敵対する前に逃げるべきじゃない『キャプテン』? とこっそり問いかけるも、『まだ駄目だ』となしのつぶて。これ面白がってるというより何か目的があるのか、と気づいた辺りで冥王の視線がこちらを向いた。


「悪かったなキミら……見物の海賊だったのか。今のを難なく持ち堪えるとは、半端者ではなさそうだな」

「――『まさかこんな大物に、こんなところで出会うとは思わなかった』ですよ、"冥王"……!」

「シルバーズ・レイリー……!!! 間違いねェ、なぜこんな所に伝説の男が……」

「――この島じゃコーティング屋の"レイさん"で通っている……下手にその名を呼んでくれるな。もはや老兵……平穏に暮らしたいのだよ」

(……平穏に暮らしたいならなんで捕まってたんだろう……?)

「……べポ、多分想像してる事は言わない方がいいぞ」

「あっうん」


 静かにシャチにツッコミを入れられたのでそのままお口チャックし、ここを抜けねばと言っている冥王が居るなら問題なく逃げられそうだな、と思ったところで外からの海軍の声。聞いたペンギンが視線をちらと下げてため息を吐く。


「『おれ達は巻き込まれるどころか……完全に共犯者扱いだな』」

「"麦わらのルフィ"の噂通りのイカレ具合を見れたんだ。文句はねェが……「大将」と今ぶつかるのはゴメンだ……!」

「あー、私はさっきのような"力"は使わんのでキミら頼むぞ。海軍に招待がバレては住みづらい」

「わー……やっぱり美味しい話はなかったかぁ……」

「ハッ、長引くだけ兵が増える、先に行かせてもらうぞ」


 ユースタス海賊団が席を離れる。おれ達はどうする? と『プロキシ』に問うて、麦わら達は救った人魚と冥王の傍に集まり、今後の方針を相談する事にしたらしい。この様子だと『キャプテン』能力使う事考えてるよね……とその発言が出たら即座に否定するつもりで『キャプテン』もしくは『プロキシ』の指示を見ようとして、


「もののついでだ、お前ら助けてやるよ! 表の掃除はしといてやるから安心しな」


 カチーン!! 


 ……という文字が見えたと錯覚するほど、麦わらがイラっとした表情をして飛び出していく。わぁ好戦的ー、と現実逃避気味の感想が漏れたのはそれに『キャプテン』も触発されたのを感じ取ったからだ。おそらく差し出すつもりだったのだろう直前まで見え隠れしていた紙がマントの下に消えたかと思えば、おれ達を囲むぐらいの青いドーム――『キャプテン』のオペオペの実の能力によって作り出される"Room"が一瞬展開されてはおれ達の前に紙がパッパッと現れる。


 『キャプテン』はオモチャ化される前に悪魔の実の能力者となったらしく、この青いドームもその能力の1つだった。『キャプテン』が食べたのはオペオペの実、改造自由人間となる非常に希少価値の高い実で、この青いドームの中に居る間様々な追加効果を発動する事ができる。さっきまで時折おれの手が唐突に引っ張られたりしていたのも、一瞬だけ"Room"を展開した『キャプテン』が"タクト"という"Room"内の物体を操作する事ができる技でおれの意識を引いていたからだ。そして今こうして紙が突然現れるのも、技の1つである"シャンブルズ"で物体の位置を入れ替えているから。いくら能力を見られても何の能力か分からないようにと、一瞬で"Room"を展開したり消したりできるように訓練したからってこんな感じで使ってほしかった訳じゃないんだけどなぁ、と紙に書かれた『あいつを追え(意訳)』の言葉に思わずペンギンをシャチと一緒に見つめる。見つめられた『プロキシ』は、クシャッと紙を握りつぶしてニッコリ笑い、立ち去ろうとするユースタス・キッドの背へ向けて盛大に煽りの言葉を投げた。


「おう、「雑魚処理」宜しくな~"キャプテン"キッド!」

「……!」

「――おや、キミらは行かないのか」

「ま、おれ達は隠密主義なもんで」

「海兵減らしてくれるんでしょ?」

「無駄に手の内見せるのも、ねぇ?」

「ハハハ……噂に違わず、と言ったところか」


 被っている帽子の所為で口元しか見えない2人が口の端を吊り上げている横で純粋に大変な事をやってくれるってイイ奴だね、と首を傾げればハハ、と冥王からも笑みが飛んできた。ちなみにペンギンの背中で『キャプテン』がバシバシ叩いているのかわずかにペンギンの背が揺れているので、シャチと言葉を交わしているふりをしながら『キャプテン』を宥める事になった。戻ったらおれと昼寝しようよ、『キャプテン』何か目的があるんじゃないの? と問えば、しばらくの間の後にピラ、とペンギンへ差し出される紙。


 あれこっちにじゃないんだ、と思っていれば、『プロキシ』として振舞っているところを何度も見ているからこそ分かる動揺をペンギンから感じ取った。動揺を隠すためだろう、ぐるりと視線を巡らせたペンギンは「それじゃ、おれ達は『キャプテン』のところに戻んなきゃなんで」と言いながら出入口から離れた壁の方へ近づく。


「どこ行くの、『プロキシ』?」

「あぁ……『キャプテン』のご所望だよ」


 そうして告げられた言葉に、おれとシャチは思わず顔を見合わせたのだった。


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