オモチャの海賊団inシャボンディ①

オモチャの海賊団inシャボンディ①


ホビローさんinシャボンディbyシャチ視点。

原作初登場~オークション始まるまで。










「暴れたきゃあ”新世界”へ!!!」


ガキン、と争う大男とマスクの男を止めた胸元に大きくXを刻む男に、ピュー♪と口笛を1つ。


「ひゃー、よくあーんな大男との間にはいろうと思うなー」

「いいところだったのにね」

「確か2億超えだったか、”赤旗”は」


隣に立つ白熊のミンク族――べポの残念そうな言葉に他の船員も含めてうんうんと頷く。もうちょっと(億超え同士の戦闘を経験値にするために)見ていたかったのにな、という満場一致した意見が飛び交う中、唯一揃いの繋ぎの上にマントを羽織っているおれの幼馴染――ペンギンが懐から手配書を取り出して確認していた。覗きこめば手配書の中で先ほどの喧嘩をしていた2人も止めた方も1億を軽々超えていてわー、とのんきな声が漏れる。


「やっぱ億超えの奴が今このシャボンディに集まってるって本当なんだなぁ」

「仕方ないよ、必ずレッドラインにはぶつかるんだから……」

「でもこれだけ重なるのもすげぇだろ。あ、さっきこれとこの顔見たぞ、『プロキシ』」

「ああ、ボニー海賊団とホーキンス海賊団……さっきの殺戮武人が居るならキッド海賊団もいるだろ。他に見たのは?」

「えっとねー」


他の船員たちも集まってワイワイと調べた情報を精査していく。その最中、武器をしまいこちらの横をすり抜けようとする”赤旗”――X・ドレークに、ちらと『ペンギンの背中』を見てから声をかけた。


「おーいX・ドレーク! お前何人殺した?」

「……お前らは……ハートの海賊団か」


にぃ、とキャスケットの下で笑みを浮かべる。何か返すだろうか、と思って彼を見つめるが、ドレーク船長は何もせずそのまま立ち去ってしまった。つまんねぇの、と口を尖らせたところで、スパン! と頭を盛大に殴られる。


「いってぇ!!」

「当たり前だ。何喧嘩売ってるんだシャチ、おれ達は最近1億超えたばかりなんだぞ! しかも陸上!!」

「『キャプテン』からの指示ですーっだ」

「ならいい」

(いいんだ……)


『キャプテン』という言葉を出した途端手のひらを返したペンギンに周囲からの脱力したような言葉が漏れ聞こえ肩をくすめた。つん、とべポのわき腹を突けばくすぐったいよ、と言いつつ耳に口が近づく。


「……大丈夫だよ、『キャプテン』についての反応は今のところ聞こえないから」

「ん、ありがとうなべポ」

「『キャプテン』のためだもん。あ、ペ、じゃない『プロキシ』、マントはだけかけてる」

「あぁ、悪い。――『キャプテン』、大丈夫ですか」


顔を動かさないままのペンギンの問いかけに、ペンギンの羽織るマントの後ろ側、布が複数重ねられているために見えなくなっているその隙間から音もなく紙が差し出される。その紙は『大丈夫』と『助かる』と書かれた、よく彼が使っている所為で随分よれたそれで、思わず笑みが零れる。


「『キャプテン』、そこは『ありがとう』でいいんすよ」

「そうそう、おれらは『キャプテン』が最重要なんだから」

「当たり前ってやつだよ」


そうそう、と同調してこそこそと言葉を落とせば、出されていた2枚の紙がマントの中へ消えた。そうして入れ替わるように少しばかり性急に出された紙を覗きこんで、笑う。


『ありがとう』

「……っ素直! うちの『キャプテン』素直でよい子!!」

「かわいーんだけど『キャプテン』♡」

「なぁなぁ早くコーティング屋探して船戻ろうぜ? 『キャプテン』の姿が見れねぇじゃん……!」

『外見だけだろうが』『おれは24だガキ扱いするな』


これもまた勢いよく出される(しかし音はしない)いつものツッコミに更に微笑ましい気持ちになってニコニコと笑みが零れる。いやしかしマントの下の状態を考えればおれ達クルーがこの反応になるのは仕方がないというものである。なにせ『代理船長(プロキシ)』として振舞うペンギンのマントの下には、我らが『キャプテン』が隠れていて――その姿は、白いユキヒョウの動くオモチャとしか形容できないものなのだから。






『キャプテン』――トラファルガー・ローと名乗るその特異な存在と出会ったのはまだ子供の頃だった。おれの生まれた島は冬島で、一年の大半が雪で覆われているのがデフォルトだから、初めて『キャプテン』を見た時は本当にユキヒョウなんじゃないかと思った。それも傷ついた子供のユキヒョウ。


これは後で聞いた事になるが、『キャプテン』はその身に悪魔の実の能力を2種類受けていたから、視界に入った時は見間違いかと思った。確かに初見は動物だと誤認したがしっかり見ればオモチャだと分かる見た目だったし、それが全く音もなく動いてるんだぜ? 視認しなきゃ全く気づけないんだ。だから、白熊を虐めていたおれとペンギンの近くでいつの間にか白い帽子を被ったユキヒョウのオモチャがおれ達を見上げている事に気づいた直後に硬い蹴りを食らう羽目になったんだけど……。


あ、なんで虐めてたのかって? ……その時のおれとペンギンは親が死んでクソみたいな親戚にいいように扱われる奴隷同然の状態だったから、そのおれ達よりも更に弱そうな白熊……まぁ白熊じゃないしミンク族だった訳なんだけど、当時のべポを虐めて八つ当たりしてたんだ。そのべポよりも更に小さい、しかもオモチャに昏倒させられるとは更に思ってなかったけどな。すっげぇ痛かった。目が覚めたらいじめ対象はいないし当然ユキヒョウのオモチャも見当たらないしで夢かと思っていた程である。


ただその後、おれとペンギンは生死を彷徨って――これも特に詳しく話すような事じゃないから軽くだがおれは腹から腸が\コンニチハ/したせいでペンギンは片腕がちぎれてたせい――そこを、『キャプテン』に救われた。意識が朦朧とする中見上げた手術に携わっていた筈の男は回復した後医療知識の欠片もないガラクタ屋として紹介されたし、その後に紹介されたオモチャが動いているしその音が全くしないというトンデモ現象に心底仰天した(ペンギンは静かにキャパオーバーで気絶した)し、その後聞かされた境遇に自分の事のように泣いてしまったのは仕方がない事だろう。


自分の何もかもを忘れられて、オモチャにされて、無音の守りが存在感を更に消す呪いになって、恩人とはぐれてしまって。絶望した筈だ、ヤケになったっておかしくない。それにも関わらず、ほぼ見ず知らずに近い相手、しかもベポを虐めていたという好感度マイナスだっただろう相手を助けてくれた、そんなの惚れこまない奴が居たらイカれてる。その後おれ達の境遇を聞いて、おれという親分に捕まった子分なんだからここにいろと、ガラじゃない言い回しをしてまで居場所をくれたから、余計におれとペンギン、ベポは『キャプテン』のために行動するようになった。今居る船員達も、似たりよったりな理由で『キャプテン』に助けられ、恩を返そうとついてくる者ばかりだ。全ては『キャプテン』を人に戻す。それがおれ達の航海理由だ。


ただ『キャプテン』は自分がオモチャにされる前に食ったオペオペの実の能力と、自身がホビホビの能力でオモチャになっている事がバレれば、死ぬよりも屈辱的な目に遭う可能性が高い。ホビホビの能力者でさえオモチャ化された存在を忘れてしまっているから、命令されていない(後で調べたらオモチャ化する時自由に命令ができるらしい!)オモチャが居るというのは諸刃の剣だ。本当にギリギリまでは存在がバレないようにする必要がある。


そこでおれ達が取ったのは隠れ蓑を作る事だった。普通、人はオモチャが動くなんて思わない、裏を返せば『キャプテン』の姿を隠してしまえばハートの海賊団のクルーの中に船長が紛れていると思いこんでくれる。『キャプテン』は能力にかかっている余波で音がしないし、背負ったところで上からマントを羽織れば違和感なく隠せてしまう――隠せるぐらいにおれ達の体が成長して、『キャプテン』との差が出てしまったと言う事だけど――だから『プロキシ』として対外的に船長のフリをする役割を作って、『キャプテン』の存在をひた隠しにしている。


……おかげで『キャプテン』を手配書に撮られていないけど、同時におれ達ハートの海賊団の船員も一律同じツナギに全員が帽子で顔を隠しているため、個人を特定できないからか他の海賊団のように誰かに懸賞金が掛かるのではなく、海賊団一纏めに懸賞金が掛かっている。対外的にどう思われてるかを調べて「情報がなさすぎて不気味」「強さが分からない」「神出鬼没」という評価が得られた時は皆で笑ったものだ。唯一ミンク族のベポぐらいはかかっててもおかしくないけど、掛かってないのはそれほど脅威に思われてないのかね。まぁおれ達のトップシークレットは『キャプテン』だ、『キャプテン』がバレていなければおれ達にとっては無問題なのである。






ひとしきり言葉を書いた紙をツッコミ代わりに次々出してくる『キャプテン』にほっこりした後、おれ達は『キャプテン』の要望に従って1番GRのヒューマンショップへと向かった。同行してるのは今回の『プロキシ』であるペンギンとおれ、ベポのいわゆる旗上げ組だ。『プロキシ』は基本的におれ達3人でローテしているから、大抵陸では行動を共にする事が多い。他の船員たちはツナギを脱いでしまえば一般人と見分けがつかないし、海賊だとバレていない方が買い物や情報収集がしやすい。「ハートの海賊団」としてでないと集められないものはおれ達が、それ以外のものは他の船員が行うのはいつもの事だ。実際おれたちが一番守らなきゃならないのは『キャプテン』だし、『キャプテン』を1人で行動させたら見失う可能性の方が高いからな……いやホント……。


「でも珍しいっすね、こういうの嫌いでは?」

「『見ておいて損はないだろ』」

「行ったところで胸糞悪いもん見るだけな気もしますけどねぇ……」

「あ、あそこ空いてるみたいだよ」


先ほどはおれ達でペンギンの背中側を隠していたから普通にマントの後ろにある布の境目から紙を出していたが、通常は『プロキシ』役のみが見えるように紙を差し出してもらうようにしている。差し出された紙をチラ見して代弁したペンギンに合わせつつ、べポの指さす席へペンギンが腰を下ろした。おれとべポはその後ろに立ちつつ、ザッと周囲を見回す。どいつもこいつも開始を楽しみにしている様子しか見受けられなくて隠れてうぇ、と舌を出した。


「……何が楽しいんだか」

「シャチ、しっ」

「……ま、『使えそうな奴が居たら買うのもいいんじゃねぇか』」

「えぇ……『キャプテン』の役に立つ奴じゃなきゃ認めねぇぞ……?」

「はは……あれ、あそこに居るのって」


言外に「(医者として)使えそうな奴が居たら取り込むぞ」との意だろう言葉を代弁したペンギンに本心が漏れつつ、べポの声にちらりとその視線を追う。それとほぼ同時にマント越しですぐ後ろに立っていたおれの足が叩かれ、『誰だ?』と紙が見えた。それを口にするよりも先に、相手の方の声が耳に届く。


「……達は悪気がある分かわいいもんだなキラー」

「違いない…………」

「面白ェ奴がいたら買って行こうか、ハハハ……あ?」

「……」

「へぇ……”北の海”の1億の賞金首、ハートの海賊団じゃねぇか」

「……”南の海”の3億1500万のユースタス・”キャプテン”キッドさんがおれ達に何のゴヨウで?」


隣の、先ほども見かけた殺戮武人と会話しながらこちらに歩み寄ってきた相手に視線を向けた事に気づかれたのだろう。『プロキシ』は黙っているが話しかけられた以上何かしら返すべきだろうと当てつけのように懸賞金額を言ってきたユースタスに口元だけにっこり笑ってそう告げれば、興味をひかれたのかジロジロとこちらのメンバーを見て口元を吊り上げる。


「ずいぶん悪ィ噂を聞いてる……相も変わらずテメェらの船長は居ねぇらしいな、『プロキシ』さんよ」

「……」


ペンギンは答えない。『キャプテン』からの指示がないからだろうな、と思いつつ、マントを見てそう言ってきたのだろう――代理船長として振舞う者だけがマントを付けているという事は知れ渡っている――ユースタスにそろそろ始まる事を告げて追い払おうと思ったところで、おもむろに顔をそちらに向けたペンギンが、いや『プロキシ』がしれっと……中指を立てた。え、『キャプテン』そんな指示したの??


「……行儀も悪ィな……」

「……そろそろ始まるけどユースタス海賊団は席についていなくていいの?」

「ハッ……テメェら、行くぞ」


いや天竜人が遠目で入ってきてるのが見えてて互いに騒動を起こさない方がいいだろうと判断がつくからってよくそんな指示出しましたね『キャプテン』!? と思いながら、こてんと首を傾げ気の抜ける声音で(この状況においては褒めてる)問いかけたべポの言葉で離れていくユースタス海賊団を見送る。はーヒヤヒヤした、と息を吐いたところで、呆れたような声が前から飛んできた。


「気圧されててどうする、シャチ」

「んな訳あるか。いや一緒にいるならともかく、陸上のここで戦闘になった面倒だろうが」

「へぇ……じゃあ他の格上が居る場で『プロキシ』役は回さねぇようにするな」

「うそうそうそ武者震いに決まってるじゃないっすかー!」

「でもホントに臆しちゃうんなら駄目じゃない? 『キャプテン』がそんなじゃ威厳ないよ」

「大丈夫だって! ……あれ、あいつら……」


宜しくない方向に進みかけた話を軌道修正しながら(『キャプテン』までマントの下から『プロキシ役から外れるか?』と書いた紙を出していた、慌てて否定した)、滑り込んできた奴らに目を細める。どこかで見た顔だな、と脳内検索をしていたら、ペンギンが背負っているカバンの中から手配書を取り出したらしい『キャプテン』(『キャプテン』はいつもそのカバンの上を陣取ってる)がピラ、と数枚の手配書を渡してきた。それにあれ、とベポが声を上げる。


「麦わらのとこだよね? こんなところに来そうになさそうな評判だったけど……」

「意外と実は、って感じかもだぜ?」

「……後は『それか何か目的があるか』、だな」

「……でも麦わら居なくない?」


何となくイヤーな感じがして口をへの字に曲げる。ちょっと耳を傾ければ今回は目玉商品があるだの、外に海兵がいるだの、天竜人が1人到着してないだの……宜しくない情報が聞こえて。


「『荒れるな』」

「ですよねぇ」

「巻き込まれないといいけどねー……」


三者三様でそう口にし、始まった悪趣味なオークションにそれぞれため息を吐いたのだった。











なお、この後乱入してきた麦わらによってその予感が的中するところを目にする事になる。


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