見知らぬエイリアン※オマケの4号視点
エランはたまに、スレッタ・マーキュリーが『エイリアン』のようだと思う時がある。
この場合のエイリアンは本来の『宇宙人』という意味だ。ニュアンス的には『未知なる存在』や『遠い存在』と表現した方が良いかもしれない。
姿かたちは同じでも、彼女の知識や常識、感性や考え方は独特のものがあった。
そんなエランの考えを裏付けたのが、生き物に対しての数々の反応だ。
地球で新しい命を見かけるたびに、彼女はとても嬉しそうに笑っていた。
一般的にはあまり女性が好まない虫も同じだ。蜘蛛、蜂、百足…そんな名前の彼らを好意的な目で眺めていた。
エランは明確な言葉にはしないが、漠然とこう思っていた。彼女はすべてのものに好意的で、誘拐した自分に協力してくれるのも、その他大勢に対するものと変わらない博愛の精神から来るのかもしれない、と。
そうして少し寂しくも感じていた。
ある日の事だ。
2人は道の途中で休憩を取っていた。スレッタは座り心地の良さそうな木の根に腰かけて、何かを見ているようだった。
彼女の視線を追ってみると、緑色の青虫が木の根をゆっくりと這っているのが見える。
「あ、青虫」
特に何を意識したものでもない、何となく声に出していた。いつもスレッタに動物や虫の名前を教えていたので、ある意味癖になっていたのかもしれない。
普段ならすぐにはしゃぐスレッタも、疲れているのかあまり反応がない。内心で首をかしげつつ、後ろの幹にも同じ青虫がいるのを教える。これも特に意味はなく、いたから教えただけである。
その瞬間「キャアァッ!!」とスレッタから聞いたことのない悲鳴があがった。驚きでぽかんとしていると、エランの目の前を全速力で走り去っていく。
どんどん小さくなっていく彼女の後ろ姿にようやく我に返り、こちらも全速力で追いかけた。
ようやく彼女を捕獲した所、さらに続けて大きい声で訴えてきた。
「あれはエイリアンです!!」
エランはぱちりと目を瞬かせた。彼女の言うエイリアンとは青虫の事だろうか。もしかして、スレッタは青虫…芋虫全般が苦手なのかもしれない。
頭の中にスレッタの悲鳴が繰り返される。あの瞬間の彼女は普通の女の子のようだった。今の理不尽な文句もそうだ。
「きみにも苦手なものがあるんだ。あんな悲鳴、初めて聞いたよ」
今までエランは、スレッタの事を『エイリアン』だと思っていた。
でも違う。…違っていた。自分の思い違いだった。
彼女は普通の人間だ。好き嫌いもあり、何もかも受け入れるわけでもない。よく考えればグエルの求婚を断った彼女は、最初からNOと言える人だったのだ。
目の前で涙目になっている彼女を前に、エランはいつの間にか笑っていた。なんだかとても、晴れやかな気分だった。
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