【エ駄死注意】楽園の蛇(前編)
「『レン、爪が伸びていますね』」
「……『確かにその通りです』『今夜お願いできますか?』」
レンとサクラコの間で何気なく交わされる会話。それは言葉通りの意味であり、そして特別な意味も持っていた。
『今夜』がやって来た。
レンはサクラコの部屋に入室し、何時ものようにミルクティーを振舞われる。
何時も美味しいですよ、なんて言葉すら要らず、レンが僅かに口角を上げればサクラコも僅かに口角を上げて応える。一種の儀礼にすら通じる光景であった。
「それでは、お願いします」
レンが椅子に腰かけ手の甲を上にして手を差し出すと、レンの前に正座したサクラコは両手でレンの手を取り、爪を磨いて短くしていく。
「……綺麗な指ですね」
「サクラコだって」
シスターフッドの中で裏を最も知り、最も生真面目な人間であるサクラコだからこそレンの指を綺麗だと呟き、そんなサクラコをよく知っているレンだからこそサクラコだって綺麗だと返す。
「ふふ……ありがとう。さて」
気がつけば、レンの爪は綺麗に整えられていた。
しかしサクラコは肌に優しいウェットティッシュ……いわゆるデリケートゾーン向けのシートでレンの手を拭いていく。
「『確認』、しましょうか」
サクラコの顔は何時もの様に穏やかだが、どこか鋭さも秘めていた。