エース家の盆休み
トレエスに脳ミソ焼かれまん民※注意
1.トレエスというよりは、どちらかというとママエース日記みたいになりました。
2.お盆というより、ほぼほぼ、はじめてのおつかいがメインになってます。
3.結局エースに心配させてしまってます
4.長いです。
今年のお盆はどうしようか。
去年のお盆は、旦那が担当の子の合宿に付いている間に出産予定日を迎えていたから、義両親の所でお世話になりながら、二人目の子供を産んだ。
そしたら今年はその担当の子と、旦那の同期のトレーナーさんが気を利かせてくれたみたいで、合宿中にまとまった休みを取れる様にしてくれたそうだ。なので今年は旦那もお盆休みを取れることになり、その予定を家族で話してた。
娘はやっぱり「どこかおでかけした~い。○○ちゃんはゆーえんちいくって!」なんて言ってる。
あたしとしても、家族でお出かけしたいのは本当だが、下の子はまだ歩くことすら出来ないから、人混みとかは避けたいところだ。
それに、下の子が生まれてからは、一度もあたしの実家に帰っていない。だから、まだ父ちゃんと母ちゃんは下の子と写真や動画でしか見れていないので、出来れば二人にも下の子を抱かせてあげたいとも思っていた。
どうやら旦那もそう思ってくれていたみたいで、「じゃあ、今年はママのところのじいちゃん家に言ってみないか?」って提案してくれた。
娘は「じいじのおうちにいくの?やったー!」ってはしゃいでる。
娘もあたしの実家に行くのは2年振りだ。その時はまだ2才だったから、余り覚えてないかと思ったけど、どうやら杞憂だった様だ。まあデレッデレに甘やかされてたし、娘が生まれてから誕生日も子供の日もクリスマスもお年玉も散々色々と貰ってるからな。
しかも何かにつけて電話して声を聞きたがったりもしてたし。
良かったな父ちゃん母ちゃん、物量作戦成功してるぞ。
娘のこのはしゃぎっぷりだけでもあの二人は本望かもしれないな、なんて事を考えてると旦那が「エースは良いのか?それで」って聞いてきた。
「ああ!ありがとうな!父ちゃん母ちゃんと犬にもこの子の顔、見せたかったし。」旦那の気遣いに感謝して、同意する。ちゃんと家族皆で決めるのも、この家のルールだ。
とりあえず日程や持っていくものとか、向こうで何するかを話して、ある程度決まったので娘に電話させる。電話の向こうから母ちゃんが喜ぶ声と、その後ろで父ちゃんが酒を飲みながらはしゃぐ声も聞こえる。声でかいな。
母ちゃんは娘に「ご馳走作るからね~、食べたいものある~?」なんて聞いてる。
娘はそれに「おにく!あとママのやさい!」って返事してる。肉はまだしも後者は厳しいんじゃないかとは思うが、悪い気はしない。
そうして娘が話した後電話を替わったら、「あんた、野菜持ってきなさい。勝負よ。」なんて言われた。うるさい。
──それが先月の話。
そして、今あたしたちは車での長旅を終えて、実家に着いた。まず犬が吠えながら歓迎してくれてる。
娘は途中で飽きていたみたいだが、キレイな田園風景が見えたくらいから、わーって良いながらソワソワしていた。
車のドアを開けて、チャイルドシートから降ろした途端に、家と逆方向に走り出した。おいどこに行く。
「危ないからやめろ!」って怒るけど、娘は止まらず、そのまま家の前にある、畑の横の草むらに突入した。
「ほら、出てこい」って言ったら、娘が「ママ、ほらトンボさんいた!」と言いながら、飛んでる虫を凄く良い笑顔で見せつけてくる。いやトンボなんて向こうでも見てるだろ、とは思うけど。まあこの様子なら、この子はこっちにいる間退屈することも無さそうなのは良いことだ。
せっかくのおめかしした服を、両親に見せる前にひっつき虫まみれにしたのは許さないけどな。
旦那はと言うと既に両親に挨拶して、下の子を抱いて貰ってる間に荷物を降ろしてた。犬は旦那の足に引っ付いて構えと言ってる。相変わらず番犬してないな。
あたしも両親に挨拶したら、「あんたの声響いてたから、直ぐにわかったわよ。」なんて母ちゃんに笑われた。
・・・なんかもう疲れた気がする。
まあ初日は移動と荷卸で疲れたのと、後はご近所さんに軽く挨拶と土産を渡してある「お願い」をして終わった。
娘は行く先々でおやつを貰ってご満悦な顔をしていたな。
その日の夜は、母ちゃんとあたしで作ったご馳走を食べ、旦那は父ちゃんと酒を飲んでほぼ宴会だった。あたしは、ご飯の後、旦那や母ちゃん達に子供達を任せて久しぶりに長風呂をした。やっぱ、実家ってのは良いもんだな。
次の日は朝から両親が畑仕事に出るので、旦那が「俺も手伝いますよ!」と言ったら、娘も「わたしもじいじたちのおてつだいする!」と言い出した。邪魔になるんじゃないかと思ったけど、父ちゃんは「お~、手伝ってくれるのか?ありがとう、良い子だね~」なんて完全に連れていく気満々だ。まあ、陽射しが強いけど、父ちゃんが麦わら帽子を借してたし、旦那と娘用の水筒に冷たい麦茶も入れてたし。最悪ただ眺めさせてることもできるだろうし、まあ良いかと思い直し、了承した。娘は旦那の車で、犬と一緒に乗って行った。まあ、農作業に飽きたらあの子と遊べるだろ。
皆がいないその間にあたしは下の子を背負いながら家の事をする。
邪魔してないかな、熱中症大丈夫かな?と少し心配ではあるが、まあ旦那もいることだし、任せておこう。
そしてお昼過ぎになって、皆が帰ってきた。
手洗いうがいをさせた後、素麺と家の裏手の川で冷やしたスイカを切り、労う。
娘は父ちゃんたちから色々な野菜や果物の話を聞いたみたいで、それを嬉しそうにあたしに話してくれる。どうやら楽しめたみたいで何よりだ。
旦那は久しぶりのガッツリとした畑仕事に少しお疲れ気味みたいだったので、午後は少し子供達とお昼寝してから、墓参りに行った。
娘はお墓の掃除中、犬と遊ばせてた。
線香を上げてお供え物をする際は自分でお土産の袋を開けて、お供えさせた。ずっと指に手を当てていたけど、良く我慢できたな。えらいぞ、後で食べよう。
また、1日が終わる。
そして次の日、今日は特に何も予定がない日、ということになっている。しかしながら、あたし達にとって、そして何も知らない本人にとって、おそらくこの連休中最大のイベントが待っている。
実は先月のお盆の予定を話した晩、あたしは娘が寝た後に旦那にある相談をしていた。
それはそろそろうちの娘も、おつかいに行かせても良いんじゃないか?という話だ。
当然旦那は反対していた。
「何かあったらどうするんだ!あんなに可愛いのに。変なやつに襲われたらどうする!」
正直それはあたしも心配だし、概ね同意する。かといって今のまま、甘えたい放題でいさせる訳にはいかない。なんといってもあの子はもうお姉ちゃんなんだから。
それにこの話をしたのは、タイミングが良かったのもある。
あたしの実家は田舎で周りは知り合いしかいないから、不審者なんて湧き様がないということ、また今考えてるお使いはテレビでやってるような複雑な道を歩いたりするような物じゃなくて、一本道を歩いて帰ってくる程度なので、迷子になる心配もないし、実家の近所に色々と協力をお願いできることを考えると、一番安全で理想的なタイミングだと思う。
それを旦那に伝えると、凄く苦しそうにしていたが、納得してもらえた。
まあ正直、反対している理由の殆どが、親離れして欲しくないから、だろうから仕方ないとは思う。あたしもそうだからな。
こっちに来た日の段階で近所の協力は取り付けてるし、さらに昨日、細部の打ち合わせは済んでる。
段取りはこうだ、畑仕事に着いていった娘に、旦那が畑仕事で使う道具を忘れたといって、家に取りに帰らせる。あたしは娘にそれを持たせて、ついでにお昼ご飯のおにぎりも持たせて、また畑へ歩かせる。ただそれだけだ。
本当はあたしもお使いの最後に出迎えたかったけど。仕方ない。
全行程2キロ程、歩けば一時間、ウマ娘なら、娘の年でも走ったら10分にも満たない。
テレビみたいなドラマもないだろうけど、それが当然だ。
ただ、一応の安全確保ということで、通り道の近所の知り合いに家の前を通るのを見守って欲しいのと、あと思い出用として写真を撮って欲しいとお願いしておいた。
あとはこの子がお使いに行くときにグズることと、それをあたしたちがはね除けられるかくらいしか懸念事項がない。
完璧だ!
そして当日。
「やだ、ママといっしょがいい・・・」
やはりグズりだしてしまった。
畑仕事に行く前に。
「どうした~?パパやじいじ達と行かないのか~?」あたしは笑顔で娘を諭す。決して嬉しい訳じゃないぞ!
「昨日あんなに楽しかったって言ってたじゃないか、またお手伝いしてきたら?」
「やだ、ママが良い」
見ろ、旦那も父ちゃんも母ちゃんも皆この世の終わりみたいな顔してるぞ!
正直このままだとあたしがおつかいしなくて良いか!って言いたくなりそうだったので、寂しそうな大人3人組と犬一匹を無理矢理畑仕事に送り出して娘と残る。
畑に着いた旦那から電話がくる。
「・・・どうする、やる?」
本当に悲しそうで少し同情してしまう。
あたしも正直心が揺らいだけれど、実際にこの子の事を考えたら、今が良いのは間違いない。だから──
「ああ!取り敢えずあの子にはおにぎりを持たせる。ただ、帰りどうするかはまだ決めてないけどな」
そう、本来なら畑スタートの畑ゴールだったが家スタートの家ゴールだとこの子が帰り道をただ歩くだけになってしまう。
できれば頼まれた事をやる責任感とか、それをできた達成感とかも知って欲しいが、現状だと中途半端になってしまう。
そんなことを考えてると旦那が言い出した。
「いっそのこと・・・、お使いさせちゃう?本当に。お金は俺が出すからさ、経路の途中にあるお店でお買い物でもさせてみないか?」
確かに、ルート自体に大きな変更はないし、有りかも知れない。
「わかった、じゃあそのお使いはそっちで教えてやってくれ、一応お小遣い入れるポーチとかは持たせておくから。」
取り敢えずは良しだな。予定は狂ったけど、経路も変わらないし、大丈夫だろ!
あとは娘を説得するだけだ!
そしてお昼になって、娘を呼び、おつかいをお願いしてみる。さあ、どうだ・・・
「いいよ~!」
凄くいい返事をされた。
さっきまでグズってたのはなんだったんだよ!?
「いいか?父ちゃんたちにおにぎり持っていくんだからな?」
「うん!」
「父ちゃんたちどこにいるかわかるか?」
「じいじのはたけ!」
「どうやって行くかわかるか?」
「おうちでてみぎてにまっすぐ!」
うん、大丈夫そうだな。
「じゃあ頼んだぞ!父ちゃんたちお腹空かせちゃうからな!」
「はーい!」
「いってきまーす!」
娘がおにぎりとポーチの入ったリュックと水筒を揺らしながら元気良く飛び出していった。
その背中に声を飛ばす。
「寄り道するなよー!車に気を付けるんだぞー!」
娘が見えなくなってから、取り敢えずルートが変わったことを、協力してくれる家に電話で伝える。
そしたら一番近い家の人が、教えてくれた。
『丁度今娘ちゃん見えたんだけどね、畦道走ってるけど大丈夫?』
そうか、そうきたか。
とにかくお礼を言って電話を切り、旦那に電話する。
現状を伝えると向こうも若干パニックになってるみたいだった。
あたしは下の子のこともあって家を離れられないし、旦那が向こうにいなかったら、娘が着いた時に不安に思うかも知れない。
そしたら父ちゃんが「俺が変装して行ってくる」って言い出した。
おいおい、あんた自分の年わかってるのか?
いくら農作業やってて体力有ってもあの年の子供に付き合うのはしんどいだろ。
電話の向こうで母ちゃんも同じような事を言ってるのが聞こえる。
それでも父ちゃんは
「大丈夫だって!昔、虫を追いかけ回して迷子になったエースを、誰が何時間もかけて探したと思ってんだ!」
おい、いつの話をしてるんだ。旦那も興味を示すんじゃない。母ちゃんも「まあ、そうねえ」なんて納得するな。
そうは思うけど、他に手も思い付かないので。
「父ちゃん、お願いできるか?」
「任せろ!写真たくさん撮るからな!」
それが目的か。
車で行くとバレるかもしれないから、走るらしい。本当に大丈夫か。
まあ、取り敢えず今の娘の位置を確認するため、近所の人たちに聞いてみる。
さっき教えてくれた人に聞くとどうやらまだその家から見える位置にいるらしい。
父ちゃんに伝える、「じゃあ畑突っ切って行った方が早いな。」とのことだが、嫌な予感がする。
それから15分程度でその目撃情報があった場所が見える位置まで行けたみたいだ。
「居ないぞ!」ああやっぱりか。
次のお家に電話する。
「さっきうちの前を走ってたわよ。」
どうやら正規のルートに戻ってたみたいだ。ただ、このままだと父ちゃんの位置も追い越しちまうかも。
父ちゃんに言うと、「ええ!?じゃあ一回戻るぞ。」ドンマイだ、父ちゃん。
そして次の家に電話したら、「まだうちの前には来てないけど・・・あ、来たわ。カブトムシ持って歩いてる。」いつの間に捕まえたんだそんなもん。
取り敢えず父ちゃんにも伝えると、「おー、じゃあ合流できるかもな!道路出てみる。」
多分急いだ方が良いぞ。
「エースー?居ないぞー!」ほら来た。
次の家に聞くとまだ来てないとのことだったので、さっきの家に電話する。
「今ねー、うちの犬と遊んでるわ。ちょっと誘導するね。」
ごめんなさい、お願いします。
父ちゃんには道路で待ってるように伝える。
「あいよー」既にお疲れ気味だな。
電話がなる。
「畑の方へ向かって走ってったわよ」さっきの家の人がわざわざ教えてくれた。よしよし、このまま行けば父ちゃんと合流するな。
父ちゃんに伝えたら、「お、本当だ。来た来た。ほっかむりで変装してるけど、バレないようにするから、切るぞ。」
「ああ、頼んだ「あ~!じいじ~!!」」ピッ
どうやらバレたみたいだけど、まあもう良いだろ。ルート自体は大分短くなったけど、おにぎりを届けられただけでも、上々だ、そういうことにしよう。
そう思ってたけど、旦那から娘が着いたって連絡が有ったのはそれから20分後の事だった。
結局片道1時間以上かけてようやく辿り着いたんだな。
けろっとして、楽しそうな娘の後ろを、息も絶え絶えになりながら、父ちゃんが着いてきたらしい。
ただ、写真だけは忘れずに撮ってたみたいだから、後で見せて貰おう。
それよりも──
「帰りのおつかいさせるのか?」
そっちの方が気になっていた。
「多分帰りも同じくらい時間かかるぞ?」
そう、本来だったら、往復しておつかいが全部終わってる予定の時間だ。正直な話、不安でもある。
ただ、旦那は、
「折角だし、やらせてあげないか?」意外にも、そういった。
あたしがおつかいをやらせたい、って相談した時にはあんなに渋ってたのに、そう思ってたら、それを察したのか、
「あの子がおにぎりを届けてくれて、皆が誉めた時に、あの子凄く嬉しそうにしててさ。なんていうか、こう凄く成長してたんだなって、今さら実感してさ。折角だから、もっとやらせてあげたいな。って」そう続けた。
「それに──」
まだあるのか?
「エースにも、あの子のこと信じてあげて欲しいんだ。」
そう言われて、ハッとする。
確かに、あたしが今懸念してるのも、あの子にはもう『できないかも』って思っていたからだ。
そうか、旦那が最初反対していたのも、きっと『できないかも』ってそう思っていたのかもしれない。でも──
「今回おつかいして貰ってわかったよ。あの子は俺が、俺達が思ってるより、もうお姉ちゃんになってたんだな。って」
そうか、今回のおつかいで多分、成長したのは娘だけじゃない。旦那も、親として、子供を信じることで成長したのかもしれない。
思えば旦那は今回のおつかい中、一度も娘のことを聞かなかった。
普段は休みの日は1日中ベッタリくっついて甘やかしていた旦那が、今日は1度も。
きっとそれは信じて待つって決めたからだ。
だから、あたしにもそうなって欲しい。
それは多分旦那として、また父親としての望みなのかもしれない。
「ああ、わかった!あたしは、あの子を信じてる!だから、こっちであの子が帰ってくるのを待つよ!」
「ああ、大分遅くなっちゃったけど、お昼ご飯のおにぎり食べてから、おつかいの話、してみるよ。」
旦那はそう言って電話を切った。
それから、あたしにとっての戦いが始まった。
一時間後──
ご飯食べてからって言ってたし、今頃出発したかな。
二時間後──
寄り道してたらこれくらいになるだろ──でもあの子がいつ帰ってくるかわからないから、家の前で待つ
三時間後──
日が傾き始める。それに合わせるように、遅くなる理由が嫌な方向に傾き始める。
それでも、あたしは電話をしなかった。ただ、娘の姿が見えるのを待つ。
──そして、もう夕日が山の影で隠されつつある頃になって、娘が帰ってきた。袋を引き摺ったのか残骸を手にぶら下げて、小さな手でトレーを持ってる。
娘の名前を呼ぶ。娘があたしに気づく。走りだした娘を受け止められるように、しゃがんで手を広げる。娘があたしを呼びながら飛び込んでくる。
娘もあたしも泣きながら、強く、強く抱き締め合う。
娘を抱き上げると、いつもより、大きく、重く感じた。その重みを感じてあたしはまた、強く娘を抱き締める。
──今日の夕飯は娘が買ってきたお肉を使って、バーベキューだ。
父ちゃんは変装のために近所から養蜂用の防護服を借りて、ずっと着いていたみたいで、今は物言わぬ体で縁側に寝っ転がってる。
でも娘にお肉を「じいじ、あーん!」ってしてもらって咽び泣いてるし、本望だろ。
お肉を食べながら、娘が、旦那が、母ちゃんがあたしに教えてくれる。
畦道にいた虫のこと。
近所の家の犬の名前。
旦那が畑仕事中ずっと上の空で、何度も転んだこと。
1人でお店に入るのが怖かったこと。
買うものを忘れて旦那の所に帰ってきたこと。
もう一度行くときに旦那に甘えてきたこと。
車に繋がれた犬にしがみついて、犬が困りながら顔をなめてくれたこと。
旦那は、娘が1人で歩きだすまでずっと待っていたこと。
旦那は娘を見送ってから、ずっと泣いていたこと──
それからもあたしたちは、今回お世話になった近所の人たちにお礼をしにいって、娘が色々やってる写真をもらったり、家の裏手の川沿いにテントを張って川遊びしたり、釣りをしたり、皆で横になって星空を眺めたり、娘の虫取に旦那が1日中付き合わされたり、娘が犬の散歩に行ったら何故か他所の犬も連れて帰ってきたり、なんとか下の子にじいじとばあばを言わせようとして泣かせた両親をしばいたり、まあ色々と、やれることをやった。
そして帰る日になった。昨晩から父ちゃんが犬に対して、「娘が帰るかどうかはお前にかかってるぞ、頼む」とアホなことを言っていたが、確かに効果はあったのかもな。
犬も連れて帰るってメチャクチャ泣き出した。
父ちゃん母ちゃんには一切触れてくれないから二人ともなんとも言えない顔をしてる。
犬は困った様な顔をして娘の顔をペロペロなめてる。
何とか娘を宥めすかして、車に乗る。
「ではお二人共、お世話になりました。」
旦那が両親にお礼を言う。
「次はいつになるかは分からないけど。また来るから。待っててくれよ!」
あたしもそういうと
「おお、楽しみにしてるぞ!」と父ちゃん。
「トレーナーさんも、お仕事頑張ってね。この子達のこと、よろしくお願いしますね。」と母ちゃん。
二人とも真面目にサヨナラするけど、娘が「じいじ、ばあば、バイバ~イ」って手を振ると直ぐに「バイバ~イ♥️」と猫なで声を出す、気持ち悪いからやめろ特に父ちゃん。下の子はもう寝てるんだぞ。
そんなこんなで、旦那が車を走らせる。
娘は車の後ろから、両親に。
両親は車の後ろに、手を振りながらサヨナラをする。
娘は、さっきまで泣いてたのもあってか直ぐに寝てしまった。
後ろに並ぶ寝顔を見て旦那とあたしは笑いあう。
「今回はこっちに帰ってこれて良かったよ、ありがとう。」
「あたしも、本当に良かった。ありがとう、トレーナーさん」
「おっ、久しぶりに聞いたな、その言い方。」
「あたしも親として、まだまだだったんだな。今回また、あんたに教えられちまったよ。」
「今回はたまたまだよ。俺の方が先に気付いた、それだけさ。」
「・・・次はそっちの実家で、はじめてのおつかいさせるか?大分先の話だけど。」
「どーだろうな~?こっちはここと違って車通りとかもあって危ないしな~。」
おいおい、もう忘れちまったのか?
旦那の肩を叩いて、言ってやる。
「大丈夫だって!あたし達の子供なんだから!」
静かな田舎道に笑い声を響かせながら、車が走る。
毎年とはいかないけれど、家族揃ってまたこの景色をまた見に来よう。なんて言いながらあたしたちは家路を辿る。