エースの恋の目覚めはこうであって欲しい概念

エースの恋の目覚めはこうであって欲しい概念

トレエスに脳ミソ焼かれまん民


夏休み──

昨年、トゥインクルシリーズを駆け抜けたあたしは、今年は合宿に参加せず、トレーナーさんと一緒に帰省していた。両親が改めてトレーナーさんにお礼がしたいということだったので、お願いしたら快諾してくれたんだ。


とりあえず近所や昔の友達への顔見せも終わって、夕御飯を食べながらあたし達の思い出話をしたり、あたしのガキの頃の話とかを両親にされたりして、とりあえずもう今日は風呂入って寝ようって時に、母ちゃんから「そういえばあんた、明日の朝から近所でラジオ体操あるんだけど、どうせこっちにいる間、特にやることないなら行ってきな。あんたに憧れてる娘たちに顔見せてやんなよ。」なんて言われた。

確かに特にやることないし、別にいいか。

あ、そうだ。

「あたしは行ってくるけど、トレーナーさんはどうする?」

折角一緒に来てる相棒にもちゃんと確認しないとな。

「そうだな、確かに、たまには一緒に体を動かすのもいいか。」

なら決まりだ。

「よっしゃ、それじゃ明日の朝、早いからな!ちゃんと起きてくれよ!お休みなさい!」

そう言って今日は寝た。


んでもって次の日。

「「イッチ、ニ、サン、シ」」

二人で子供達や年寄りたちに混ざって.ラジオ体操に参加して体を動かす。


最初に会場に来たときは、結構騒がれた。

ウマ娘のチビ共にはサインをねだられたり、握手を求められたりもした。

トレーナーさんからは、「やっぱり君は皆の『エース』だな!」なんて言われたけど、こうやって喜んで貰えるとやっぱり気持ちの良いもんだな!

まあ年寄り連中からは、エースちゃんが旦那連れてきた~!なんて騒がれて、男子達もそれに便乗してたけど、何言ってるんだか。あたしとトレーナーさんは・・・うん互いが互いの『エース」。相棒だな。


まあそんなことを考えながらも、ラジオ体操の時間は終わり、子供達がスタンプを押して貰ってる時間だが、早く押して貰った子達の質問責めにあった。


あたしはやっぱりウマ娘として、トレセンに入りたての時とか、ジャパンカップの話とか、どういうトレーニングしてるとか。

トレーナーさんの方は年寄り連中から、またあたしのガキの頃の話されたり、大変でしょうとか気を使われたり余計な事を言われてるみたいだったけど、男子達はトレーナーになるための勉強とか、足が早くなる方法とかそういうことも聞いたりしていたみたいだった。

意外だったのが、ウマ娘のチビ共からもあたしにした様な質問をされていた。特に気になったのが、「私が大きくなってトレセン学園に入れたら、トレーナーさんが見てくれる?」っていう質問だった。

まあ、トレーナーさんもあたしと駆け抜けた3年間でかなり有名になったしな。そういう人に指導して貰いたいという気持ちは分かる気がする。

ただ──


「ああ、待ってるよ!」

そうトレーナーさんが返した時に、少しもやっとした気持ちになった、気がした。ちょっと考えてもその理由は分からないから、まあ気のせいかな?なんて思ってたら、男子達とトレーナーさんがあたしたちの話で結構盛り上がってるみたいだった。

まあトレーナーさんは、あたしと話してるときにも、熱くなれる人だから、やんちゃな男子達とは気が合うのかもしれない。そんなことを思いながら眺めてると、ある男子が大声で「兄ちゃんおもしれーなー!また来年も来てよ!」

なんて言い出した。

それは、って思わず言いそうになったけど、トレーナーさんがそれより早く、

「そーだなー。時間が有れば是非とも来たいけど、その頃にはエースのトレーナーじゃないかもしれないからな」って寂しそうに笑いながら返した。

そう、あたしたちはトレーナーとウマ娘だから、いつかは契約解除しなければならない。

きっとトレーナーさんはその後も今と変わらずに接してくれるだろうけど、トレーナーさんには次の契約した子とのトゥインクルシリーズが待ってる。だからきっと、今回みたいに一緒に帰省なんて事はできない──そんな事を考えてると、さっきの男子がまた大声で言う

「えーっ!じゃあ兄ちゃん、エース姉ちゃんと結婚しちゃえば良いじゃん!」

おいちょっと待て。何を言ってるんだ。

「えー、姉ちゃんやっぱり結婚すんの!?」って周りも騒ぐし、年寄り達もまた囃し立てはじめて、面倒になったので

「あーもう!暑くなる前に帰れ!」と言って、その場からトレーナーさんを連れて逃げてきた。何でラジオ体操でこんなに疲れなきゃならないんだ。

とまあ、そんなこんなで今日も1日が終わって、夜。

両親とトレーナーさんが酒を飲みながら盛り上がっている中、あたしは風呂に入っていた。

湯船に浸かっていると今朝の事を思い出す。あたしとトレーナーさんの、これからの事を。

来年にはトレーナーさんも、次の担当を見つけて、またあたしと過ごした様な3年を過ごすんだろうな。

そうしたら、今頃トレーナーさんは次の担当と一緒に合宿に行って、あたしは一人で帰ってきて・・・そう思うと、凄く寂しくて、心細い気がした。

一度考えてしまうと、どんどん頭がそういうことで埋めつくされてしまう。夏だけじゃない、クリスマスも、正月もバレンタインも、全部。トレーナーさんがあたしと過ごした時間は、その子の為に使われるんだろう──

今なら、朝あのウマ娘の子が、トレーナーになって欲しいと言って、トレーナーさんが快諾した時のもやっとした気持ちが分かる。

嫉妬したんだな、あたしは。

今はまだ、あたしだけのトレーナーさんなのに、もう次の、将来の担当のことを考えているの?って

ダメだ、これ以上は自己嫌悪が酷くなる──そう考えて、そろそろ出るか。と思ったときにふと頭に大声が響く

『結婚しちゃえば良いじゃん!』

ん、ちょっと待てよ?そうか!確かに結婚しちゃえば、次の担当が居ても問題ないな!

合宿とかは無理でも、時間がある時でもいい。イベント事も、二人で家で過ごせばいいんだ!

でも結婚、ケッコンか──けっこん?

自分が何を考えていたのかに気付く。頭に血が上るのを感じる。

当たり前みたいに、トレーナーさんと結婚する前提で考えていた。嘘だろ。

誰にも見られていないのに、恥ずかしさで湯船に顔を沈めたくなる。ただ、一度考えてしまうと、今度はそういうことだけで頭が埋めつくされる。

うん、もう出よう。今日は疲れてるんだ、だから変なことばかり考えるんだ。そう思うことにした。


脱衣所を出て自分の部屋に向かう途中、よりにもよって、トレーナーさんと会ってしまった。心臓が高鳴る。ダメだ、まともに顔を見れない。

トレーナーさんはこっちの気もしらずに「おー、エース!もう寝るのか、明日もよろしくな。お休み!」そう言ってあたしの肩をパンパンたたく。

酔っているからか、いつもよりスキンシップが激しい気がする。でも触れられた所が何故か温かく感じる。

あたしはというと「あ、ああ!お休みナサイ…」としか言えなくて、逃げるように自分の部屋に入ると、その場にへたりこむ。


寝る前にお休みなさいを言って、朝起きたら直ぐおはようを言う。同じ家に泊まっているのだから、当たり前なんだけど、けど──

「夫婦みたいって思っちゃった・・・」

風呂上がりとは違う熱さが込み上げてくる。

そして心の中が温かい気持ちで包まれる。


今トレーナーさんに会って、今日1日の気持ちの理由が分かった。分かっちゃった。

ああ、きっとそうだ。あたしは、トレーナーさんの事が・・・


「好きなんだ」


──自分の気持ちを知って少し冷静になったうえで、目下の所、一番の問題は・・・明日の朝もトレーナーさんと顔を合わせて、ラジオ体操に行かないと行けないってことだな。


その日は当然寝れないし、朝になって挙動不審になったことをトレーナーさんからはメチャクチャ心配されたし、チビ共や年寄りからは怪訝な目で見られた。

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