エースとの別れ2
大粒の涙を流すアドの顔をエースが見つめる。
「ゆっくりでいい、何があったか、教えてくれないか?」
姉を探すことよりエースを止めることを優先しようと決めた直後、ティーチがルフィの首を狙っていることを知り、それを止めようと戦ったことを伝えた。
赤髪と白ひげが小競り合いを起こしたと記載されている新聞も見せた。
怪我のため強引に引き止めることができないアドは、これがどれだけ危険なことか、"もしも"があった時の事の重大さを必死で説明する。
エースは寄り添うように聞いていたが、覚悟を決めた表情で語り始める。
「俺は…ある大罪人の息子なんだ。」
「え…?」
「鬼の子と言われた俺を、オヤジは愛してくれた。何もなかった俺の背中に、このマークを背負わせてくれた。生きる意味をくれたんだ。俺は人生に"くい"は残したくねえ。」
「それに、ティーチに深手を負わせたのは分かったが、あいつがルフィのことを諦めるとは思えねぇ。お前も分かってるだろ?」
「なら私も一緒に――――」
「ダメだ。体の弱いお前が次無理したら死んじまう。」
「でも…。」
ニカっと笑ったエース。
「大丈夫だ。"俺は死なねェぜ"。」
「待っ―――」
峰打ちによって倒れこむアドをエースは優しく抱き抱えた。
「う~ん美味しそうな匂い…ってどうしたんですか!?」
「疲れて寝ちまったようだ。」
エースは近くのソファーにアドを下ろす。
「モーダすまねえ。俺はヤボ用があってな。もう行かなきゃいけねぇ。アドのこと、よろしく頼む。」
深々とお辞儀をするエースに、モーダは何か事情があることを察した。
「わ、わかりました!でも…アドさんにお別れは?」
「もう済ませてある。」
「本当に、これでいいんですか?」
「ああ…一つ伝言を頼めるか?」
■
次の日の朝
いつの間にソファーで寝てしまったのかとアドは思いながら起き上がった。
(鍋料理をエース君と作ってて…それから…)
ふと視界に入ってきたのは、綺麗に中身の無くなった鍋と、エースのものと思われるビブルカードだ。
(…!)
「モーダちゃん、エース君は!?」
「エースさんは、その…もう、ここには…。」
「そっか…分かった。ごめんね。」
モーダに気を遣わせないように気丈に振る舞う。
「あの…エースさんが、
『俺に"もしも"のことが起きても、お前は気にせず怪我を直して姉を探せ。俺の家族に俺のことは見捨てろと伝えてくれ』
って…。」
今のアドには、ただ俯くことしかできなかった。
■
(バロナ島か…。)
海軍基地でくすねた機密文書を読み、目的地に急ぐエース。封筒にしまおうとすると手紙が入っていた。
(ん?こんな手紙あったか?)
見慣れない手紙を開くと、そこにはアドが知る限りのヤミヤミの実の能力が事細かに記されていた。
(…ありがとよ、アド。)
白ひげの髑髏(しんねん)を背負い、エースは愛船ストライカーを走らせ大海原を征く。
バロナ島の決闘と呼ばれる事件。
それが引き金となった世界を揺るがす戦いは、もう目の前に迫っていた。