エレジアの悲劇を記録した音貝をルカが拾った話
ウタが配信を始めてから一年が経つ。以前と比べて明るくなっていく彼女に、ルカはうれしくも少し複雑な感情を持て余していた。
正直、ウタのする配信が苦手だった。ドジを晒してしまう(それもそこその頻度で)こともそうだが、彼女が表す表情が二人の時より豊かで、誰に向けてるわけでもない敗北感が心の片隅で主張する。
配信を終え、疲れからかうとうとしているウタを労う。
「おつかれ、ウタ。」
「ありがとうルカ、ちょっと寝るね。夕飯頃に起こして…」
「子守歌でも歌う?」
「……」zzz
静かに寝息を立て始めるウタ。作曲も始めてから生活のリズムが少々乱れていて心配だ。私の歌も最近は聴いてくれる頻度が減った。
「散歩に行こうかな…。」
ウタにブランケットをかけ、ゴードンに断ってから城から出る。前はウタと一緒に、あの電伝虫を拾ったときだってそうだったが、今ではひとりで行くことが増えた。そうだ、この浜辺で拾ったんだったな。たった一年前のことなのにとても前のことに感じる。
歌いながら、浜辺を横断する。
森の中はあまり来ないが、天気のいい日は木漏れ日が心地いい。ウタを引っ張って行ったピクニックはハプニングだらけだったが楽しい思い出だ。
散歩からの帰り道。ふと、あるものが目にとまる。見慣れない貝殻、物珍しさからか手を伸ばし、持って帰った。散歩の時珍しい何かを拾って帰るのは、ある種の娯楽だった。
「整った形の貝殻だ、ここじゃ珍しい種類だよね。ゴードンさんに聞いてみよ。」
貝殻を観察するさなか、殻頂を触る。触ってしまったと言った方がいいかもしれない。
貝殻(トーンダイヤルというらしい)から悲鳴や爆音が流れる。いやでも連想される、11年前の出来事。もはや忘れてさえいたのに、鮮明に蘇る記憶。しかし、好奇心からか続きを聴く。貝から出る音がたまたまそう聞こえただけとも思えたから。
だが、明確に聞き取れた人の声に、思わず能力で貝殻を黙らせる。
「…どうゆうこと?」
その信じがたい言葉を頭から振り払う。
ゴードンを頼ろうと夕飯の準備をしてるであろうキッチンに向かう。そういえば夕飯前に起こしてって言われてたっけ。先に起こしてあげよう。
ウタのところに行くとすでに起きていた。
「ルカおはよう、毛布ありがとう。」
「起きてたんだ。もうちょっとゆっくりしてていいよ。」
貝殻を持ったままだったし、軽く駄弁ってすぐ去ろうと思ったが。
「その貝どうしたの?」
「あっえと、さっき散歩してたときに拾って。」
「へぇ、ちょっと見せて。」
「う、うん。いいよ。」
能力で音は止めてるし大丈夫だろうと渡す。
「大きい、見たことない貝殻だね。ゴードンに聴きに行くところだった?」
「まぁそんなとこ。」
当てられて困ることではないが言い淀む、隠し事は苦手だ。能力を使うのに気をはる必要があるし、余裕がないせいもある。
「私も一緒に聴いていい?もう十分休めたし。」
「いや、私だけで大丈夫だから!ウタはゆっくりしてて!」
「?そっか…じゃぁちょっと作曲してから行こっかな。」
つい声を荒げてしまった。怪しまれたが貝殻はすぐ返してもらえたし、小走りでゴードンの元に行こうと一歩を踏み出すとき。足が滑り、見事にこけた。
そういえば今日はまだ転んでなかったな。などと達観めいた感想、気が緩み能力が解ける。
貝殻からあの日の音が聞こえる。ウタは私に気を取られて気づいていない
「もう、大丈夫?ルカ。」
あぁ、ヤバい!早く止めないと!
『───ウタという少女は危険だ!あの子の歌は!世界を滅ぼす!』
「なに…これ。」