エルフの宝物
やほー、みんなの苗床、エルフちゃんだぞー
あれから少し経ったけど、私は今もこの苗床ライフを過ごしている。
変わったことも人間の子が何人か新しくこの部屋の住人に加わったことぐらいかな?最近気づいたのだがここのゴブリンたちはおそらく自分たちの農園などで食料を自足自給ができない人数が近づくと私たちを犯そうとしないようになるらしい。
おかげで最近はこの部屋に繁殖目的でゴブリンが来ることがほとんどなくなった。 ゴブリンは性欲のままに行動する生き物といわれてるし、実際自分もそう思っていたけれどもしかしたらそれは少し違うのかもしれない。
確かに彼らは他の生物と比べて性欲はかなり強いし、人型の別種族の女を求めて様々な悪行に躊躇なく手を染める。良い女を手に入れるためならあらゆる手段を使い、武器だろうと財宝だろうと仲間だろうと…そしてその命でさえも差し出してしまう。そんな彼らの生き方から、彼らが自身の性欲に従って生きていると判断されてしまうのも無理はない。
だけど私はそれが彼らにとって一番ゴブリンという歪な種を存続させるのに最も効果的な方法だったからじゃないのかなと思う。
とにかく女を攫い、繁殖して、また攫い、繁殖する‥一般的に狩猟や略奪といった不安定な方法でしか食料の調達ができないゴブリンはとにかく数を増やし、新世代に跡を託し続けることでどうにかして自分たちの種族を守ってきたのだろう。彼らは女性個体がいないという種族特性上、種族単位で別の種族と共存することができない。常に命が脅かされる自然の中で彼らは最弱に近いにもかかわらず味方を持たないのだ。
奪う以外の方法を知らないゴブリンはねずみ算式に増えていく。群れを維持するためにはより大きな略奪を起こす必要があり、それを成功させるためにはより多くの数のゴブリンがいなければならず、その群れを形成、維持するためにはより多くの物資と苗床が必要になる。
ここだけ見ても顔を顰めたくなる負のスパイラルが起きているがこれにはさらに破綻している部分がある。苗床がすぐに使い物にならなくなることだ。自分たちでさえ食べるのに困っている中で、苗床に十分な栄養が与えられるわけもなく、彼女らの多くは数ヶ月で子供を産めないようになる。だからかれらは徐々に強みである数を減らしていき、しばらくすると小規模な群れに分かれて解散せざる得なくなる。ゴブリンには栄光をつかむことは許されていないのだ。
神は小鬼に早熟であることと、種の粘り強さを与えた。しかしそれ以外には力も知性も魔法も何も与えなかった。
…でも仮に何かを生み出せるゴブリンがいたとしたら…例えば人間のすぐ近くで彼らを観察し、自分たちでそれを試そうとし、はたまたそれを成功させてしまったのだとしたら…彼らは種を存続させることに力を注いでいる。だから私たち苗床の中で壊れてしまった子はまだ誰もいない。
…時間だけはあったのでこんなふうに無駄なことを考えていたが、これは私がゴブリンにむけている感情が複雑なものだからだろう。自分が彼らに向ける思いはなんなんだろう…恨んでいるのか、憎んでいるのか、それとも憐んでいるのか、慈しんでいるのか、それともその全てなのか。
私は彼らの被害者でもあり、母でもある。だからこそ自分の彼らに対するスタンスを決めないといけない。それが私の責任だから…
変わり映えもなく毎日を過ごしていたある日、久しぶりにゴブリンに犯されてると、巣の雰囲気がいつもと違うことに気づいた。武器を構えたゴブリンがこぞって出撃していく…私は呑気に何か強いモンスターでも倒しにいくのかな?なんて思ってた…
…たくさんのゴブリンが必要でこの近くにあって、そして何より物資も苗床も手に入れられる絶好の狩場
そんなとこ一つに決まっているのに…
「ひっ…や、やめっ…あああっっっ!」
「やだ…お父さん助けてよぉ!!ひっ…」
「あッ…あッ、あぁん!んっ…くあぁぁぁ!!」
「お嬢様!!やめろ、貴様らッ!お嬢様をはなっ…ひっぎぃぃぃっ!?」
「シエル!?やめてえええッ!来ないで!?あああ゛~~~~ッ!!」
「あなた!?お願い!その人をはなし…ああああぁぁぁぁ…」
「ひぐっ…もうやだよぉ…誰か助けてよぉ…」
「はぁ…はぁ…神よ…んっ…どうか私たちをお救いくだっ…ああああっっっ」
今まで私たち数人の喘ぎ声しか聞こえなかったこの巣は今数えるのも億劫になるほどの女性の泣き声と叫び声と喘ぎ声でみたされていた。
そこら中でゴブリンによる鹵獲した女へのレイプが行われている。その中には自分の見覚えのある人も混じっている。叫んでいる内容を聞くに突然町中に現れたゴブリンが町中に火をつけて襲ってきたらしい。戦ったものは皆殺しにされ、住民も虐殺されたようだ。
自分は今皆を犯しているゴブリンたちの母親だ。私の生んだ子たちが人を殺して、大事なものを奪っている…
奥を見る生き残った男達が殺され解体されている。それを見て悲鳴が上げた女をゴブリンは次々に犯している。
吐きそうだ…
ねえ待って…もしかして…私のせいなの…?
今この街全体で起きている悲劇…そのすべての理由は私にある…周りの泣き声や恨み言が全て自分に向けてそう言っているかのような錯覚をおぼえる…
自分のところにいつものあの子がやってきた。そして自分も周りと同じように犯され始める。
「ひゥ"…ぇ"っく"…!」
「グギャギャグガ…ギャギ…ギャガガ…」
泣く資格なんてないのに涙が溢れてくる。…
不幸の原因なのに…
地獄を作ってしまったのに…
自分の中で大事な何かが壊れてしまった気がした。
「おっ…うぐぁぁぁ…」
「!?グギャガ-----------------
新しいゴブリンを産んだのと同時に世界が遠くなっていく…
どうやら自分はようやく終わることができるようだ…
最後に産んだゴブリンはどうなるのだろうか?やっぱり他の子と同じように生まれながらの略奪者になるのか…もし叶うのなら優しくて思いやりがあって…人間にも優しい子だと良いのにな…無理に決まってるけど
私は天国…にはいけないよね。うん、わかってる…いくとしたら地獄なんだろうな‥
もしまた目を覚ますのならエルフの里の自分の家で覚めたいなぁ‥
…そうだ、ここから目を覚ますと自分の家の天井が見えるんだ。それで今までのことが全部夢で自分はまだエルフの里だと気づくの! それで起きたらすぐに里長のところに行ってやっぱり旅に行くのやめますって言うんだ!
そのあとは久しぶりに森林浴をしたり、川を泳いだりしよう
その後みんなと一緒におしゃべりをしよう。旅の話じゃなくて森の話を。
あとは…あとは…やりたいことがたくさんあるなぁ…いろいろやりたかったなぁ…
きっとそうなると信じて…たとえこれがただの逃避なのだとしても最後くらいはご都合主義が起きることを願っても良いだろう…もう自分は疲れたのだ…
ごめんね、みんな。おやすみなさい
[ゴブリンヒーラーが誕生しました]
[ハイゴブリンが誕生しました]
私の意識が再び覚醒する。倦怠感や疲労がきえており、心地よく目覚める。
目を覚ますと見慣れた「岩」の天井が目に入る。
…なんで…どうして…まだ終わらないの
自分でもわかってたよ…もう死ぬんだなって…
死んで逃げるのは許さないってことなの…?
周りにいつもの彼と見慣れないゴブリンがいる。会ったのは初めてのはずなのに不思議とこの子が自分の子であり、癒してくれたことがわかった。
いつもの子が私の髪に何かをつけようとしている。見てみるとそれはハーピーの羽で作られた髪飾りだった。…彼がこれを一生懸命作ってたのは覚えてる。
これをつけると彼らはそのまま離れていってしまった。
今いる部屋には誰もいないようだが外からは今も喘ぎ声が聞こえる。
「なんで…こんななんだよぉ…普通に恨ませてよ…憎ませてよ…」
それでも自分はこの髪飾りを捨てる気にはなれなかった…