エリシュバ
アル巫女ちゃんある個体が涙を流しながら走っていた。
胸の中からこみ上げる強い衝動に身を任せながら、かつて始まりの浜と呼ばれた場所へ走る。
雄大な海に向かいひざまずいて祈る。
「おかあさま!おかあさま!どうか私の話を聞いてください!」
『おかあさま』と呼ばれた存在は人の身に余る力とその巨体で時空を軽々と越え、大海の中から『子どもたち』の前に現れた。
「かわいい私の『子どもたち』…どうしたのです?」
「おかあさま、私を彼と同じように不老不死にして」
『おかあさま』は少し目を驚いたように見開く。
「私のかわいい子…よく顔を見せて」
差し出された巨大な手のひらに乗り、持ち上げられる形で母の顔に近づく。
「どうしてまたそのようなことを?」
『子どもたち』は涙を拭って続けた。
「彼の側にずっといたいの…彼が一人ぼっちにならないようにずっとそばにいて彼の孤独を慰めたいの…」
「お前はあの男が好きなのですね」
『子どもたち』は図星をつかれ顔を俯かせるが羞恥心から白い肌を紅潮させた。
「おかあさま…こんな強い気持ち私初めてなの…彼がふと見せるさみしげな顔が…かわいそうで…なんとかしてあげたい」
「私を抱いても、私が彼の子どもを産んでも、私達の子どもたちが増えても…どこか不安で満たされない顔をする彼を見るのが辛いの…」
「お願い…おかあさま…私を不老不死にして…」
母の手のひらに頭を擦り付け絞り出すように懇願する。
「私のゼルネアスの角をもってすれば、お前一人くらい不老不死にするのは容易いでしょう。」
「しかし、不老不死でいいのですか?」
「彼と同じように半永久の命でも良いのではないですか?」
「彼はアルセウスの加護があるとはいえ人に作られた身…いずれはなにかの拍子で朽ちてしまいます。彼がいない世界でお前は1人孤独で生きていけるのですか?」
「おかあさま、私…不老不死がいいの…彼より先に死ぬわけにはいかないの…彼のいつか来る最後を見送って彼が生きていた世界で生きていくわ…宇宙が終わる日まで」
「………お前はとても素敵な綺羅星を見つけたのですね」
母はそう言って我が子に口づけをした。