エプロンエースとイチャラブできたのか微妙 後編

エプロンエースとイチャラブできたのか微妙 後編


※続きです。ショタ目線になります。

口でしてあげてるからR15くらいかな。

辻褄を合わせるために前回の話をちょっと修正しました(姑息)






 僕のママは、まるで夜明け前の暗い深淵のような髪の色をしていた。僕の稲穂みたいな髪はパパ譲りで「パパが産んだんじゃない?」と本音かウソか、真実のあやふやな彼女の冗談はいつも優しかった。

 ママの髪は、おさげに括っていた麻紐を外すとウェーブがかかっていて、まるで絵本の中のお姫様のようだった。いつも日向にいた彼女の笑顔は太陽みたいで、そばかすの浮かぶ頬だけは野暮ったいから自分ではあまり好きではないと言っていたけれど、僕はそんなママが大好きだった。

 彼女は、料理上手な叔母とは違って料理もあまり上手ではなかった。得意だと自負していたカレーさえも、作っては火加減を間違えていつも鍋を焦がしていたし、ぶっちゃけビールとつまみさえあれば生きていける人だった。パパも、そんな自由奔放なママをとても愛していた。笑顔を絶やさず、愛嬌の塊みたいな彼女にいつも周囲は救われていたのだ。

僕とママとパパ。平和に暮らす毎日がいつまでも続くのだと思っていた。


 しかし、ある日突然、僕は世界から孤立してしまう。

 その日、頼まれた買い出しに向かうために、両親は近くの島へと渡る定期便に乗っていた。寒い冬の出来事だった。荒れた波に揉まれた船は座礁し、転覆したのだ。

 住みついていた海獣に食い荒らされた形跡の残る遺体の損傷は激しかった。

 それでも、と垣間見た最期の散らばった黒髪が脳裏にこびりついて忘れられない。好きだったはずのママの姿は、もう綺麗なお姫様じゃなくなって、呪いをかけられた魔女のようだった。乱雑に敷かれたシーツからぐにゃりと伸ばされた朽ちた手が、そばにおいでと手招いている気がしてゾっとした。大好きなママなのに、そんな畏怖を抱くなんてどうかしている。もう見なくていいと、僕の目を隠した叔母の手もまた、震えていた。

 叔母は、両親に買い出しを頼んだ自分のせいだとひどく己を責めていた。すっかり焦燥したその姿に申し訳ない気持ちが先立つ。

 僕はなんてことない顔をして言った。この世界では海賊に襲われて命を失う人だって沢山いる。よくあることだから。気にしなくていいよ。僕は大丈夫。大丈夫だから。



「で、どうすりゃいい?」

「切ったあとは炒めるけど、野菜いためじゃないからね」

 ここは念のために釘を刺しておくべきだろう。おそらく彼の中にある調理方法は火にかけるだけなのだ。

 現在、僕のママ代わりになっている彼の名前はエース。性別も、年齢も、もちろん名前も本物とはまるで違う。僕のママじゃない、ママなんかじゃないのに。

 なぜか上半身に衣服を纏っていなかった彼は、素肌の上から僕のママが愛用していたエプロンというよくわからない井出達だし、筋肉が浮く背中には海賊の入れ墨はあるし、そのうえ室内なのに帽子をかぶっているし。手から火は出すし。

 どうして叔母は彼に僕のママになってくれだなんて頼んだのか理解しかねる。

「なんか焦げてねェか?」

「火加減!!」

 違和感しかないのに、どうしようもなくママの姿を重ねてしまう。初心者向きの簡単レシピですら失敗していた姿が懐かしくてたまらない。手料理という名の炭を制作しても、自分のせいだとは微塵にも考えていない自信にあふれた態度は、いっそ清々しかった。そういえば、こういう時はかならずパパがフォローを入れていたっけ。料理は焦げていたほうが美味しいよって。

「まあ焦げてたほうがうまいからいいじゃねェか」

 彼の、そばかすの浮かぶ顔が屈託なく笑った。僕の瞳のその奥で、魂が揺れた。「……」

「おい……?なんで泣いてんだ?おれが焦がしたから?」

「た、玉ねぎが……沁みちゃって」

 えへへと笑って誤魔化したつもりだった。それはとうの昔に切り終わり、すでに鍋の中にいるのだ。無理がある。

「お前の両親のことは知らねェが、男がそう簡単に泣くもんじゃないぜ」

「ごめんなさい……」

「……そういやおれはママなんだっけか」

 たった今、その設定を思い出したと言わばんばかりに僕の頭を大きな手が撫でた。しゃがんだ距離によって自然と顔も近づく、近すぎる。カレーのスパイスの隙間から海のにおいがする。彼は海賊なのだと言っていた。人はみんな海の子なのだとパパが教えてくれた事を思い出した。パパの妹の叔母も、昔は名のある海賊だったそうだ。それほどにも海は魅力的なのだろうか。

 世間では、海賊やそれを裁こうとする海軍や、反政府組織である革命軍が毎日小競り合いを続けているそうだ。どんな素晴らしい財宝でも、命の尊さには敵わないというのに。題目を掲げて争ってばかりで、果たしてそこで救われている人はいるのだろうか。彼だって、海賊なんかやめてずっとここにいればいい。命を洗って、ずっとそばで笑っていてほしい。まるでママみたいに。明日も明後日も、その先も。

 ふと頭をよぎった幻想を振りほどいて、僕は彼に質問を投げた。

「エースのママはどんな人だった?」

「あー……母親は覚えてねェけど、オヤジならいる」

「エースに似てる?」

「とてもじゃねェけど似てないな。偉大なひとだ……息子でいられて、おれは誇らしく思うよ」

「そうなんだ」

「おれはあの人を海賊王にしてやりてェんだ、そのために……」

 彼の瞳孔に熱がこもる、息がつまる。まるで周りの空気を焦がすようだった。これ以上彼の心を覗いたら、こちらの身が焼かれてしまう気がした。

「いやでもこうしてみると弟のことを思い出すな。そういやルフィもこんなんだったな。もう泣かなくなったろうが」

「弟……」

「アイツも立派に海に出て、もう仲間がいる。兄として心配くらいはしてやらねェとな」

 今、彼の瞳に映っているのは僕じゃなく、きっと海に出ている弟の姿なのだろう。その会ったこともない人間がひどく羨ましかった。僕の知らない彼のことを沢山知っている、ただそれだけのことがとても妬ましい。

 僕はただ、頭から離れていく手を名残惜しそうに見上げるばかりだ。

「あとはスパイスを入れて煮込むだけ。カレーができたら叔母さんにもおすそ分けしよう」

「このエプロン、お前の母親のだろ? 燃やしたら悪いから脱ぐぞ」

「ちょ、ちょっと待って」

「どうした?」

「お願いが…」

「なんだ?」

「後ろからぎゅってしていい……?」

 エプロンを脱ぐ前に。思い出を反芻しようと前から抱きしめても、柔らかいママの体とあまりにも違うのは容易く想像できる。でも、もしかしたら背後なら名残を見つけられるかもしれない。僕はほんの少しだけ期待をこめて懇願した。中腰の姿勢から立ち上がった彼は、こちらに背を向けて立ってくれている。

「ははっ甘やかしてやるって言っただろ。目をつぶったほうがいいんじゃないか?」

「ううん、いい……ありがとう」

 きっと叔母は、僕が最後に見たママの姿が呪いとなって、ずっと囚われていたことに気付いていたのだ。許可を得た僕は、縋りつくように腕をまわし、額を背中にくっつけた。それはあたたかい、血の通った人間の肌だった。生きている。手放してしまったママの命が、ここで生きていることに鼓動が高まる。このまま体を融かして、いっそ一緒になれたらいいのに。あくまで無意識なのだけど、エプロンと肌の隙間に腕を回してしまったので、指先が割れてる彼の腹筋に当たっていた。こ、これ触ってもいいやつ…?

 動揺が伝わったのか、僕の手の甲が彼の手で重なった。熱だ。彼の持つ命は熱の塊なのだと思った。煌々と燃え盛り、いつか灰に還ってしまう。ぐつぐつと煮える鍋の音だけが現実的で、頭の中はどこかふわふわしていた。夢の中で好きな子に会えたときみたいに、目を覚ましてしまうのが勿体なくてもどかしい。決まってその子はママと似ていて、愛おしそうに僕の名前を呼んでくれる。そういう時は起きたら

「お前さ、精通してんの?」

「せ……」

「ザーメン出したことあんのか?」

「ラーメン?」

「性教育もママの役目なのかよ、まぁいいか」

 何がいいの……? ひたすら翻弄される展開に眩暈が起きる。普段の台所なのに異世界にいるみたいだった。

 ふと地面に転がっているビール瓶が視界に入った。

 酔っぱらっている、このママ酔っぱらっている!!!だから支離滅裂だったのか。とりあえず水を用意しなきゃ…あたふたしている僕を尻目に、いつの間にか重なっていた手は離れ、振り向いたその流れで下着ごとズボンが剥かれる。彼の目は完全に据わっているし、紅潮した頬は酔っ払いのそれだった。

「ちょっと待って、どうして脱がすの?」

「なんか当たってたからさ。抜いてやるよ、口でいいか?」

「ぬく?」

「楽にしてやるってこと」

 言い終わらないうちに、彼の舌が僕の下肢に這わされる。かすかに隆起したそこに赤い舌が彩られるのは馬鹿みたいに官能的だった。どうにかしたくても根本的な腕力の差は如何ともしがたく、首を振るくらいの抵抗しかできない。子猫が黒豹に挑むようなものだ。ささやかでも抵抗など無駄なのだ。扇情をあおる顔から目を背けても、どうやったってママのエプロンの柄が目に入るし、ママとこんな行為をするなんて今まで考えたことがなかった。いやでも彼はママだけどママじゃなくて……

「……っっ、き、きき汚いから」

「おれはそう思わねェけど」

 言うなり躊躇なく、そこを咥えられる。唾液とまじった信じられない音がする。わざとらしく粘着質な音を立ててるのではないかと思う。たまらなくなって、女の子みたいな声が漏れた。

「…っう、」

「……む、っぐ」

「なにかでちゃうから、はなして……っあ」

 やっと解放された僕のそこから白濁が滴る。口元を拭う仕草をしながら、ごちそうさまでしたという甘い囁きに僕はどうにかなりそうだった。

 彼はいたって楽しそうで、自分の帽子を手に取ると、僕の視界をかくすように頭にかぶせた。

「続きは今夜な。誰にも言うなよ、忘れられなくしてやる」




 翌朝、町はずれの沖でエースは出航しようとしていた。そんな小さな船で大丈夫なのかと心配するくらいの素っ気なさだ。海賊旗はあるものの、いっそ船というよりボートに近い。

「昨日はカレーありがとうね。ママを押し付けたのは余計なお世話だったかい?」

 一緒に見送りに来ていた叔母が僕に声をかけた。

「あんなママも最高だった」

 詳しくは言えないんだけど……と思わず口ごもる。

「どっちのママもアンタにとっちゃ本物にすればいいさ」

 それは久々に見る心からの笑顔だった。つられて僕も笑った。もうひとりのママはぶっきらぼうな若い海賊で、いともたやすく僕の心を拐かしてしまった。たった一晩で全部を盗まれてしまった。改めて考えなくてもむちゃくちゃだ。


 空は快晴、遠くで入道雲も見送ってくれていた。どうか彼の進むべき航海が順風満帆でありますように。大きな夢が叶いますように。いつまでも、どこかの青空の下で笑っていてくれることを僕は願った。

「じゃあな!」

「エース!またね!!」

 少しづつ小さくなっていく背中に大きく手を振った。

 僕はいつか必ず海に出よう。そこでまた彼と会うために。



END



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この子、エースの処刑報道をきいたら絶対に曇るよね

行く先々で人をたらしこむ男…

読んでくれてありがとうございました。



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