エプロンエースとイチャラブしたい 前編

エプロンエースとイチャラブしたい 前編


※口調エミュが劇的に下手でごめんね

なんかエースが天然になったよ

おかしい部分があっても見逃してほしい




  テーブルの上にはニンジンとじゃがいもと玉ねぎが無造作に置かれている。主役である肉はおそらく冷蔵庫の中だろう。そして存在感のある大きな鍋、包丁、まな板、スパイスの類。

 そう、ここはいわゆる炊事場である。現在、そこにはふたりの人間がいる。20歳前のエプロン姿の男と10歳前の普段着の子供。素肌にエプロンを纏い、頭にはテンガロンハットを被った頓珍漢な恰好の男がおもむろにニンジンを手に取った。しげしげと眺めてから眉根を寄せ、ようやく重い口を開いた。

「野菜いため……?」

「カレーだよ!」

 前途多難である。エプロン男は両手に炎をまとわせており、戦場でもないのに臨戦態勢をとっている。今にでも、貴重なカレーという名の船に乗る予定のひとりであるニンジンを消し炭に変えそうな雰囲気だ。的中しそうな予感に子供は悲鳴をあげた。

「コンロならこっち! それよりもどうして手が燃えてるの?」

「体質」

 そうなんだ…子供は深みに嵌らないように自らを納得させた。そんな風変わりなナゾナゾよりも、今は本題を料理に戻さないといけない。煮込み時間を考えると夕刻に間に合わない。

「まずは一口サイズに切らないとダメだよ。火を通すのはあとでいいから」

「お、冷蔵庫の中にビールが」

「……いやビールが、じゃなくて」

 降ってきたレシピの助言を華麗に流したエプロン男は無造作に冷蔵庫を開き、いそいそとビール瓶を取り出した。今すぐ呑んでくださいと言わんばかりによく冷えているようだ。

「キッチンドランカーじゃん。そんなママなんかやだぁ」

「つまみでも作るか」

「いやだからカレー……カレーを作るのです……」

 コイツまだ飲み食いするつもりなのか、と子供はため息をついたが、すでに小気味よい音をたててビールの栓は抜かれていた。こういう時だけ手際がいい。

「ほらママ、まな板に置いてあげたからね。あとは食材を切るだけだよ、頑張ろう?」

「しょうがねェなぁ」

 未だママ呼ばわりに慣れないエプロンだったが、太もものホルダーから短剣を引き抜くとあっという間にニンジンの乱切りが完成した。剣の扱いはうまいんだな…とひとしきり感心したが、これでは用意した包丁の立つ瀬がない。

「さァ焼くか!」

ドンッ!のゴシック体が見えたのは幻覚だろうか。

「人の話聞いてた? 野菜いためじゃないってば!」

このような荒唐無稽な展開になった現在については、深いようで浅い理由があった。



―――時は数刻前に遡る


 この危険だらけの海でうそみたいな小船に乗って彷徨っていた男は、町に着くなり行動力の根拠である聞き込みを開始した。人伝によれば、とある人物を探しているのだと言う。ひげのある立派な体躯の男。己のけじめのために探し出さないといけないのだと、鍔を落とした帽子の影に理由を隠すように彼はそう述べた。

 だが有力な手掛かりが見つからなかったらしい。徒労に肩を落とすそぶりを見せていたが、そのまま近くの大衆食堂の匂いにつられて吸い込まれていく。時刻は昼前だった。


 ごく自然な流れで食堂の宴に参加していた男は、テーブルに運ばれてきた料理を平らげながら堂々と言い放った。

「この料理うまいな、なんて名前だ?」

「だろうだろう! じゃがいものパイユだ。揚げ焼きにしてるから食感でも味わうといい。パイユは麦わらって意味だな」

「へェ……」

 男はその言葉に料理を口へ運ぶ手を止め、フォークに一瞬の逡巡を乗せながら破顔した。

「そりゃいいな」

「で、アンタ誰?」

 至極まっとうな疑問である。見知らぬ男が食事に同席しただけならまだしも、許可なく料理を片っ端から食い荒らしているのだ。

「おれは海賊だよ」

「そうか海賊か。それならしかたねェ……は???」

「ごちそうさまでした」

「おい待て小僧」

 礼儀正しくお辞儀をするその彼の数珠のような赤い首飾りを掴む手があった。この大衆食堂の女将である。元海賊という噂に違わない貫禄を持つ女将は、決して食い逃げ行為を見逃さない。

「なんだ知らねェのか。ごちそうさまをすればいくら食い逃げしてもいい」

「そんなわけあるか!」

 どこの世界線の話だ、こちとら慈善事業じゃねェぞと食ってかかる者達にも、若い男は慣れた様子でいけしゃあしゃあと言い放つ。

「金ならねェよ、残念だったな」

「クソッ開き直りやがった! これだから海賊は……テメェはっ倒すぞ!」

「まぁ、あんたは金は払いたくない、こちらは支払えじゃいくら経っても平行線だ」

 依然として首飾りを握る手を緩めないまま女将が言った。

「それなら取引をしようじゃないか」

「取引?」

「明日まで、この子のママになってほしい」

 おずおずと女将の背後から現れたのは十に満たない若い男の子だった。綿毛のような柔らかい金髪に、まんまるの碧眼という可憐な風体。年の割には華奢な体つきだった。恰幅のある女将とは似ても似つかないな、という失礼な感想を抱いた。

 ただ、あけすけに投げられたママという肩書には疑問が残る。とてもじゃないが若い男が演じるには無理がある。せめて兄じゃないのか。

「おれが? ママ?」

 頭中に疑問符がとまらない。言いつけられるとしても皿洗いくらいだろうと楽観していたら、不意に海に突き落とされた気分だ。

「この子は甥っ子でね。先月、両親をなくしたばかりなんだよ」

「……」

「まだまだ母親が恋しい年ごろだ。ママになって世話してやってくれ」

「他人のごっこ遊びじゃ救われねェぞ。わざわざ記憶を掘り起こして構ってやっても辛いだけだ。いつまでも前に進めなくなるだろ」

「なんだ偉そうに」

「痛い目にあわせてやれ!」

「バカバカしいっつってんだ!死んだやつは戻らねェ、テメェの無力さを嘆いてる暇があんのなら忘れる努力でもしてたほうがマシだ」

「このガキ……!」

 昼間からアルコールを浴びているせいか、やけに血の気の多い周囲を窘めるように女将が言う。

「ごっこ遊びだっていいじゃないか、甘える場所があるっていうのはいいもんだ。それとも大人しく金を支払うかい?」

「……!!」

 ぐうの音も出ない。観念したように首飾りを掴まれたままの男――ポートガス・D・エースは言った。

「そこのお前…」

 エースは拘束されたまま、ママという温かい母性とは相反する据わった目線を子供に投げた。その鋭すぎる眼光に怯えた子供の肩がびくんと跳ねる。

「おれがママにでも何でもなってやるよ。甘えさせてやらァ!!」


 そうして物語は冒頭へとつながるのである。

__________

ブラックコーヒーがダメならビールもダメだったかもなどと思いました。







Report Page