エピローグ:Is girl's eden(nomal) really destroyed?

エピローグ:Is girl's eden(nomal) really destroyed?







chapter.  そして少女は、カーテン越しに




「杏山カズサーーーっっ!!!」


「………へ」


トリニティ学区の一角。

仮設テントが立ち並ぶ、噴水広場。

その中の一つのテントに向かって歩くカズサは、昨日あそこまでボコボコにした相手が元気に挨拶してきたのを見た。

フードを外した少女の動きが止まる。


「え、なんで…………」


その言葉に、星型ヘイローの少女の動きが、ピシリと止まり。


「……ありがとうございました!」


次に、直角に頭を下げた。


「…………えっと、え?」


「……その件は本当に、迷惑を……」


いや。はい?


「いや、待って。てか……あっリュック!リュック開いてるから!」

「うわーっ!?」


ドササササッ、と彼女の学生リュックから予備の銃弾や筆箱や爆弾が雪崩れた。


「あーもう……ちゃんと閉めなよ……」

「あはは……すみません……」


カズサはしゃがんで、その場に落ちたレイサの荷物を拾っていく。

同じように拾う宇沢が、同じ目線になる。

目を、逸らす。


「はい閃光弾……」


「あっ、ありがとうございます……」


「……えっと、宇沢。……痛く、ないの?」


するとレイサは、大きな瞳を、左右に揺らす。


「大丈夫です」

「いや、あの、本当に、正直に言ってよ?」

 本当酷いこと、したから……ごめん……」


感謝される理由がまったくない。あそこまで撃ちのめしておいて、平気でない理由はない。

そのはずなのだが、レイサは、


「私がお礼したかったのは、その件です」

「……え、ええ?どういうこと」


私のせいで頭がおかしくなってしまったのだろうか。

そんな風に困惑するカズサは、大きな瞳で、こちらをまっすぐ見る少女に、続いて言われる。


「あの飴玉が、なんだったのか、後になってゲヘナの人から聞きました。それに、スイーツ部の方達のことも。

 ……本当に、本当にごめんなさい。それで済むわけ、ありませんが」


「……宇沢は、砂糖中毒じゃないの?」


「違います。砂糖がなんなのかは、まだ余裕があった時、団長の話で知っていましたし。

 そういうのを渡してくる人も、昨日の飴玉の人が初めてでしたからね……アビドスの腕章をつけている人は、砂糖そのものを持っていましたし……」


ああ。

レイサの、あれは。

……そっか。

本当に、ただの、歪んでない、善意なんだ。

カズサは、心臓の血管が、ゆっくりと広がるような心地になる。


「……ちょっとは疑いなよ?」


「……返す言葉もないです。本当に、すみませんでした」


 ……そして、


「ありがとうございます。

 私は、あなたに、助けられました。

 この恩は、できるだけ、早く返します。

 今度こそ、絶対に、『平凡な』あなたを守ります』


レイサは、しゃがんだまま、真っ直ぐに。

いつもみたいに笑わず、騒がず、真剣に、同じ目線のカズサを見据えて言ってくるので。

その苦手な気質が、やっぱり、気恥ずかしくって、やはりカズサは目を逸らして、しかし笑う。


「……でもま、いいか」


「?何がですか?」


「いや、こっちの話……はい。ちゃんと閉めときなよ、リュック」


「あ、はい」


カズサは、「もう行くね」と言って、あるテントの方へと向かう。


「杏山カズサ」


「なに?」


「えっと、その……ご武運を!」


閃光弾を渡される。


「……なにこれ?」


「お守りです!何かしらの!」


……そういえば、走る閃光弾が団長だったか。


少女は、「ありがと」と言って、歩いてゆく。



「……この突き当たりです、杏山さん」


「ありがと」


「……団長にも聞いたのですが、カーテン越しが、許容範囲いっぱいだそうです」


申し訳なさそうにするピンク髪の彼女は、カズサの笑顔を見て、少し安心した。


「うん、それが良い。……その方が、私も、冷静でいられるし。

 ……もう一つ、ありがとね。

 あのとき、私に、ヨシミが起きたって、教えてくれて。私に、会いたそうにしていたって、言ってくれて。

 あれがなかったら私、だめだった」


セリナは、困り眉の笑顔で、指を一本立てた。


「……秘密にしてください。

 本当は、言わないでって頼まれたことなので」


「そっか。……それじゃ、いってくる」


「はい」





「久しぶり。聞こえてる?」


言葉を返す。


「……うん。良かった。生きてて」


言葉を返す。


「そっか。……じゃ、顔合わせるのは、まだ先だね。たぶんヨシミはその方がいいだろうし、ナツも、その方がロマンあるって言いそうだもん」


言葉を返す。


「………アイリは?」


まだ、と言う。


「……うん。じゃあ、起きたら、『チョコミントのアイス、食べられるようになってて』って、言っておいて。

 これ、ヨシミもだからね」


わかった、と噛み締めながらうなずく。


「……あのさ。

 私、まだ言いたいことがたくさんあるけど、それは、今、取っとくよ。

 だって、みんなの前で、言いたいことだし。

 ……覚悟、しておいてよね?」


またね、と言って去っていく。



小柄な少女は、泣きながら笑った。

猫耳の少女は、穏やかに微笑んで、行く。


鷲見セリナは、この後、カーテン越しに交わされた会話を知らない。

正直な話、聞きたいという気持ちはけっこうあったのだが、やめた。


でも、帰ってくる彼女の顔は覚えている。


「言いたいこと、言ってきた。

 みんなが元気になった時に、また来るね」


穏やかで普通な、笑顔だったのだ。



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