『エピソードオブRED partEND』

『エピソードオブRED partEND』


あのあと、もう一度睡眠を取った『ウタ』が目覚めるのには少し時間がかかった。

起き上がると、次に目が覚めたのは船室だった。

昔暮らしていた部屋を思い出すその船室のベッドから起き上がり、扉を開けて進んでいく。

なんだか少し騒がしいように感じる。

この先は食堂か何かだろうか。


『おかわりィ!!』


実際騒がしかった。

目の前で自分とルフィが山程のパンケーキと肉を頬張っている。


「お、起きたかウタ」

横からの声に振り向けば、シャンクスが扉の横に立っていた。


「あいつらは先に起きてな…一時間位食いっぱなしだ」

そういってシャンクスが苦笑する。

今でさえ次々消えているのにこのペースで一時間?

胃袋が海に直結してるのではないか?


「お前も食うか?パンケーキ」

確かに、なんだかあれを見ていると腹が減ってきてしまう。

「うん…私も3枚」

「おう分かった!!」

皿を運んできたスネイクに伝えて、二人のそばに座る。

「お、おはほーウハ!!」

「ん、起きたんだ、おはよ!!」

「うん、一旦口の中のもの食べたら?」

とりあえず落ち着いてほしい。あとルフィは肉がこぼれてる。

「はいパンケーキホイップマシマシ!!」

そんなこんなで私のぶんが来た。早速いただいていく。

…うん、相変わらずルウさんのは美味しかった。

「おれも肉ー!!」

「パンケーキ!!」

「まだ食べるんだ…」

その後、私がご馳走様したあとも二人の食事は続いた。


〜〜


「…つまり…丸一日はこの船にいるってこと?」

『ウタ』が問いかければ、目の前のウタも苦笑しながら頷く。

「そ、あいつ多分そんくらいは起きない気がするからね…仕方ない」

どうやらあの力も万能ではないらしい。

「そっか…えっと…その…」

言いたいことや聞きたいことは山ほどあったはずなのに、口から出てこない。

「あ、そうだ!!あんたの歌のコツとか色々聞いてみたかったんだよ!!せっかくだし色々教えてよ」

言い淀んでいたところを、あちらから話を持ちかけられた。

「え…あ、うん。分かった」

「よっし!!それじゃとりあえず一日よろしくね!!」


〜〜

あっという間に時間は過ぎていく。


「…それでここ、ここの音は少し力入れて歌うともっと…」

「ふんふん…あれ、でもこっちは」

「お前ら何話してんだ?」

「ルフィどうせ分かんないでしょ」

〜〜

「う〜ん…こっちの勝ち!!」

「すげ〜、あっちのウタが三連勝してる」

「えー!?ウタカタララバイでも負けたー!!」

「だ、ダンスならそっちの私のほうが凄かったから…」

〜〜

「うほー、でっかいの釣れたぞ!!」

「よくやったルフィ!!今夜はまたでかいの焼くぞ!!」

「むぅ…ルフィに負けてられない…」

「なんであんなの釣り上げられるの…?」

〜〜

「ギャハハハ!!お前それどこで覚えたんだルフィ!!」

「ヨサクってやつに教わった!!」

「…よし!!」

「待って、流石に私の姿であれやらないで!?」

「おれもウタがあれやるのは見たくないぞ!?」

「いや落ち着いて!?シャンクスも!!歌うだけだから!!」


…あっという間に、夜が来た。

〜〜


既に皆が眠りにつく中、『私』は選手に来た。

そこで眠るルフィと、静かに鼻歌を奏でるもうひとりの私…それに、そばでそれを聞くシャンクスがいた。


「あ、来たんだ…ルフィならもう寝ちゃったよ?」

こちらに気づいた私が手を振っている。

「ウタ、お前はまだ病み上がりなんだ…あまり無茶はするなよ」

「大丈夫だよ、シャンクス…帰っちゃう前に、ちゃんと話したかったし」

そういって、二人の隣に座る。


「…ごめんなさい…今回のこと、二人にも迷惑かけちゃって」

ずっとなあなあになっていた謝罪を口にする。

「…明日にはちゃんと皆にも謝るけど、二人はもうすぐ言っちゃうんでしょ?だから今のうちにと思って…」

「別に、私もルフィも気にしてないよ…無事に解決したしね」

その言葉が本心からだとわかって、少し安堵する。

「おれ達も気にしてはいないさ…むしろ、こっちが謝らないとなくらいさ」

シャンクスがこちらに向き直る。

「…すまない、ウタ…もっと早く迎えに来てやれれば良かったな」

そういって頭を下げるシャンクスを慌てて止める。

「やめてよシャンクス…シャンクスが私のことを思ってやったのは…もう分かったから…ただ」

今でも脳裏に焼き付く、あの船の影。

「…もう、勝手に置いてくのはやめてね」

既に決心はついている。

もう一度、赤髪海賊団音楽家としてスタートする。

二度と、この仲間達と離れるつもりはない。

その心をしっかりと伝えた。

「…そうか…分かった、約束する」

シャンクスは静かに頷いてくれた。

「…お前はおれの娘だ…二度と放しはしない」

「…絶対だよ」

「ああ、絶対だ」

安心したおかげか、すっかり出し切った気もしたものが溢れそうになる。

「…良かったね」

横にいた私が微笑んで声をかけてくれた。

「…うん……あ、そういえばさ…一つ聞きたかったの」

「ん?何?」


「そっちの私とルフィって…どんな関係なの?」

正直な話、自分がルフィの船に乗っているというのがイメージが湧かなかった。

何故目の前の自分がルフィの仲間になったのか、それが気になっていた。


「うーん…まず船長と船員でしょ?それで幼馴染で…それで…」

そこで一度言葉を切った私がルフィを見て、笑った。


「……ライバル、でもあるのかな?」

「…ライバル?」


「…私の夢は、歌でみんなが自由で幸せな新時代を作ること…だからルフィは、新時代を作る仲間でライバル」

ライバル、好敵手。

なんとなくしっくり来る響きだった。

昔フーシャ村にいたとき、ルフィにシャンクスが取られるんじゃないかと張り合っていたのを思い出す。

今思えば、あの時からルフィはライバルだった。

…いつか、きっとルフィは大きなことを成し遂げる。

心の何処かでそう感じていた。

だから、私も負けたくなかった。


「それにほら、ルフィって駄目なとこ多いからさ?私が見てないと心配で心配で!!」

「あ〜…」

「そりゃ違いねェな!!ハッハッハ!!」

なんとなく分かる気もする。

昔からルフィはそういう男の子だった。

「………それに…」

「ん?」


「…あの時話したこと、覚えてる?」

あの時、そう言われて思いついたのは、あのトットムジカの中での会話だった。

「…最初はね、私もルフィと一緒に海に出たけど…あいつの仲間じゃなかったんだ」

「え?」

一緒なのに仲間ではないとは、どういうことなのだろう。


「赤髪海賊団音楽家…最初は私もそうだった…だからルフィと一緒に海に出て、いつか会ったらまたあの船に戻る…そう思ってたんだ」

でも、と、目の前の私は続ける。

「ルフィと、それに仲間のみんなと旅を続けて…いつの間にか、自分でも分からなくなっちゃってたんだ」

目の前の私が、色々なことを聞かせてくれた。

旅路、迷い、離別…そして、真実を知った日のこと。

その時にあった、ルフィのもう一つの事件のことも。


「…その時、シャンクスに助けられて…言っちゃえば、ずっと望んでいたことが叶って…嬉しいはずなのに、嬉しくなかった」


〜〜

『思い出すか……仲間たちのことを』


『うん……"赤髪海賊団"のみんなと会えて嬉しいのに……今は………"麦わらの一味"のみんなと………なにより……』

〜〜


「…ルフィの傍にいたい…そう思ったんだ」

そう言って、眠るルフィの髪を撫でている。


「なるほどな…そりゃそっちのおれは抜き取られちまうな」

そう言ってシャンクスが笑う。

「…そんなことがあったんだ…」

「うん…こいつがいつか、最高に麦わら帽子の似合う男になるのも、今の私の夢の一つ」

そう言って静かに私が笑う。

この二人の間には、それこそ言葉では言い表せない程の信頼と繋がりがあるのだろう。

それが、あの魔王すらも従える力になっているのだとなんとなく分かった。

…そんな二人が、少し羨ましくも感じた。

「んにゃ…肉ゥ……」

唐突に、場にルフィの寝言が響いた。


『………』


「プッ…ほんとルフィそればっか…」

「変わんねェな相変わらず…」

「…フフ…そうだね」


そのまま暫くの間、ゆっくり3人で話し…夜明けが来た。


〜〜

「…やっとあいつも起きた」

「お?じゃあ帰るのか?」

「うん、忘れ物ない?」

甲板に幹部たち皆が見送りに集まっている。

いよいよ二人が帰るときが来たようだ。


「さて…ほら、さっさとやるわよ」

…人遣イノ荒イ女メ…


再び彼女が魔王の歌を歌う。

その瞬間、彼女の身を闇が渦巻き始める。

「…!!この感覚、来た!!ルフィ!!」

「おう!!」

掛け声とともにルフィが伸ばされた手を掴み、闇の中に入っていく。


「…あ、おいウタ!?」

シャンクスの声をよそに、前に出て二人にあるものを投げる。

確かにそれを受け取ったような動きの二人に最後に叫ぶ。

「…ありがとう!!私も、絶対諦めないから、新時代!!…だから、あんた達も頑張ってね!!」


返事はなかった。

ただ最後に、隙間から二人の、確かに力強い視線が見えて…闇とともに消えた。


「…行っちまったな」

「……うん」

寂しくはない。本来ないはずの出会いだった。

…あの二人に、色んなことを教わったように感じる。


「…ん?あ、お頭、これ!!」

ルウが慌てて何かを持ってきた。

「ん、こりゃ…あちゃー…」

シャンクスが片手で顔を抑える。

どうやら新聞のようだ。

私も覗いてみると…。


『魔王か天使か!?人々を閉ざし、救った謎の歌姫UTA!!』

「…あちゃー…」

どうやら新聞に色々書かれてるらしい。


「どうするかベック…」

「あの鳥しめるか?」

そんな物騒な会話が飛んできたが、一つ私には思い浮かんだことがあった。

「……ねぇ、シャンクス─」


「─本気か?」

「うん、本気」

シャンクスは不安そうな目をしている。

それはそうだろう。私の言ったのはそういうことだ。

「…やらせてやれよ、お頭」

「……そうだな…おれ達も手伝うよ、ウタ」

「…ありがとう」

そう言って、部屋に置いていた「それ」を持ち出す。

どうやらモンスターが持ち帰っていたらしい。


もう一人の私とルフィにしかない繋がりがあったように、

私には私のつながりがある。

既にひび割れているであろうその繋がりがどうなるかは分からない。

それでも、やってみようと思う。

もう一度、0からでも始めようと思う。

今度は一人じゃない。シャンクス達もついてくれている。


もう一度、「夢」のために…今、できることをやろうと思う。


「フゥ………みんな、元気!?ウタだよ!!」


〜〜

「─どこここ?」

ルフィと共に闇に入ったあと、出てきたのは見覚えのない建物の中だった。

上から淡い光が差している。

またどこかに迷い込んだ…と考えるには、何か違和感がある。

それにルフィもいつの間にかいない。

どこに行ったのだろうと考えてる時だった。


「……あなたが、元凶?」

背後のそれに話しかける。

突如現れた渦巻く闇から感じる力は、確かに魔王のそれだ。

「…あっちのトットムジカが強くなったのはあんたのせい…みたいだね」


それに向き直る。

不思議なことに、敵意は感じない。

「…なんで、こんなことになっちゃったの?」


『寂シい』

闇からの声に、心臓が跳ね上がる。

今の声は、まさか。


『寂しイから、繋がリタかっタ、ゴメんなサい』


「…ここには、あなた一人?」

闇の中に見える影が頷く。


「…その寂しさを魔王につけこまれた…そんなところなの?」

再び頷く。

「…これからどうなるの?」


『…コこももうスぐ消える…そうしたラ、私も終わる』

静かに、闇の中のそれが答える。


『ありがとう』

その言葉を最後に、再び体が闇に包まれた。


〜〜

「あぶっ!!」

「ぶべ!」

気づいたら、二人揃って芝生の上に落ちていた。

「ウタ、ルフィ!!」

「お前ら、戻ってこれたのか」

ナミとゾロが駆けつけ、他のみんなも集まる。

顔を見てわかった。戻ってきたのだ。


「…2時間!?」

「うむ、お前さん達が消えてからそのくらいじゃが…」

どうやらあちらでの数日は、こちらで2時間しか立ってなかったらしい。

「不思議時間だな〜…」

「いやそれより、お前ら何してたんだ?」

ウソップの質問に二人で頭を抱えてしまう。

あれが現実だったのか夢だったのか、咄嗟に判断できない。

そんなとき、手に何かを握っているのを感じて…二人で笑った。

「秘密!!」

「秘密ゥ!?おいおいそりゃ…」

「腹減った!!サンジ、メシ!!」

「…たく、仕方ねェな」

ルフィの一言で、全員がそれぞれの日常に戻る。

「…ん?ウタ、それなんだ?缶バッジみたいだけど…」


「…内緒!!それより、気分いいから一曲歌いまーす!!」

「お、何にしますかウタさん?」

早速ブルックが楽器の準備をする。

「そうだね…あれで行こうかな」


「風のゆくえ」、一番の思い出の歌を準備する。

再び集うみんなの前で、マイクを準備する。

…ここが、確かな自分の居場所だと…そう思いを乗せ、歌を始めた。



─一度は交わり、二度と交わらぬ2つの歴史

それぞれの世界で、それぞれ時は進み人は歩む。

その中で二つ、少年の夢と少女の歌は、今日も等しく響き続ける─

fin

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