『エピソードオブRED part6』

『エピソードオブRED part6』


「………ウタ……!」

その男…ゴードンは、教会に磔にされていた。

ずっと共にいたはずの少女の計画を止めることもできず、

その少女に何も答えてやれなかった。

「…やはり私は…逃げているだけの卑怯者か…」


「そんなことないと思うよ?」

先程離れていったはずのその声に顔を上げる。

「…ウタ…!?」

「…久しぶり…って言いたいけど、こっちの私とは初対面だよね。」


目の前にいたのは、確かにウタだった。

ウタ以外の誰でもない。だが…


「…君は誰だ?ウタ…なのか?」

「…流石、12年一緒にいたって言ってたもんね、分かるなんて凄いや。」

そう言って笑う「ウタ」の背には、大きな槍が担がれている。

「…どういうことだ?何故ウタがもうひとり…君は一体…。」

「ごめんね、事情はゆっくり説明するから、とりあえずそこから離してあげるね。」

「アチョ、アチョー!」

「うーん……可愛いからいいんじゃない?」

「アイアイ!?」


〜〜

五線譜を戦慄を歌い、ゴードンは解放した。

軽く自分のことについても話した。

信じられないという顔だったゴードンも、流石にまじまじと私を見れば納得せざるを得なかったらしい。


「しかし信じられない…まさかトットムジカすら…」

「うーん…まあそのトットムジカのおかげでこちらにいるんだけどね。」

先程の会話を思い出す。

あのあと説明された、「この世界から帰る方法」はしっかり頭に刻んだ。

まずはその時を待たないといけない。

「…ウタにトットムジカを…使わせなければ行けないのか…」

「…残念だけどね。」

恐らく、私がここから出てももう一人の「私」がいるうちはウタワールドは消えない。

なれば、もう解毒かトットムジカの2通りしかないだろう。

「とりあえず、またルフィ君達と合流するとしよう…場所はわかるか?」

「うん、見聞色である程度は……っ!?」

「どうした?」


「……海軍が、現実で来てる。」


〜〜

一度意識を現実に集中する。

ライブ会場を始めとしたあちこちを捜索してるようだ。

一度私も身を伏せてバレにくくする。


どうやら今回の中心はあの大将藤虎と…あのモヒカンの人、モモンガ中将らしい。

二人の前に、籠一杯のキノコと…ルフィの麦わら帽子を持った「私」が現れる。

随分大胆な行動をしてるようだ。


「分カッテルナ?マダダゾ?」

「…分かってるよ。」

今はまだ動くときじゃない。

ひとまず彼らの会話を聞くことにした。


──


「ネズキノコ…食べれば眠りにつけなくなり、間もなく死ぬ。」

「なっ!観客全員道連れに死ぬつもりか!?」

「死ぬって何?大事なのは体じゃなくて心じゃないの!?新時代はみんな心の中で生き続けるの!」


そうだ、それが「新時代」だ。

夢の中なら、怪我も病気も、苦しみもない。

ずっと平和で楽しい世界がある。


「どうかやめちゃくれませんか、世界転覆計画を。」

「え、なにそれ?」

世界転覆?なんのことだ。

私はただ、みんなの望んだことを実現しようとしているだけだ。

…どうやら、目の前の海軍の人達は分かってくれないらしい。


「残念だったな、歌さえ封じればこちらのものだ!」

「残念、もう遅いの。」

だって、ここにいる人達はみんな私と一緒に戦ってくれる。

悪い人を追い払ってくれるし、夢の世界に呼ぶ手伝いをしてくれる。

…正義の味方の海軍の人達が、ファンを傷つけられるはずないんだから。


『ウタカタララバイ』。

雨の中、この曲を響かせ終わったあとには、夢の中に呼ばれた海兵の人達とファンの人達が立っているだけ。

「…みんなありがとうね。」

その言葉とともに、みんな戻っていく。


…邪魔をする人はもういない。

もうすぐだ。もうすぐ新時代が来る。

…その前に、一つだけやり遂げないといけない。

ネズキノコを食べながら、籠の中のナイフを確認する。


…ルフィは結局、私の新時代には来てくれない。

何を言っても、海賊をやめる気も、シャンクスを信じない気もないらしい。

…私とは違う。

ルフィは新時代にはいらない。だから、その前に終わらせないといけない。


『ねぇルフィ、海賊やめなよ』

……昨日言えなかった言葉を言ったときの、ルフィの顔が何故か忘れられない。

…何故、そんな悲しそうな顔をしたのかが、分からない。


「…!誰!?」

…視線の先には、誰もいない。

「…だれか、動いた気がしたんだけどな。」

…きっと、雨のせいだろう。

そう思いながら、またキノコを口にした。


──


「……オイ、何ヲキレテヤガル」

「…黙って。」

「私」の目をついて、一つ海軍のつけてた機械を得られた。

これがあればルフィも動くことができるだろう。

ライブステージ側を離れ、急いで城の地下に向かう。


「はいこれ…多分、これ着けてれば歌を聞いても大丈夫だから。」

「これ海軍のか?大丈夫なのか?」

「うーん…ま、大丈夫でしょ。」

どうせ一度退いたのだ。また来るのに間は空くだろう。

「分かった!よく見るとかっけーなこれ!」

そう言ってウキウキとルフィが着けた…あまり、似合いはしない。

「…ウタ?どうかしたか?」

ルフィがなにか感じたのか問いかけてくる。

やはりこういうところは敵わない。

「…ううん……ねぇルフィ。」

「おう、なんだ?」

「……ここから帰る前にさ、一つだけやりたいことが出来た。」


「…こっちのワタシと、話したい。」

出来れば自分である「私」とは会いたくなかった。

…だが、今は話が別だ。

どうしても、帰る前に一言話したい。

「別に、いいんじゃねェか?」

「…ありがとう…さて、それじゃ説明するよ。」

そう言って天井…怪しい光を放つ、あの石板を見る。

「この世界から帰る…その方法を。」



「ウタ」死亡まで、残り二時間弱


to be continued…


Report Page