『エピソードオブRED part5』

『エピソードオブRED part5』


「…あれが…こっちの私……」


ライブ会場、きらびやかに輝くステージの上で歌う彼女を見る。

流石というか、歌の技術なら自分より上なのではないだろうか。

もし仮にこの島にずっといたなら、流石ゴードンというべきだろう。

彼女…もうひとりの自分の歌には、私とは別の力が宿っている。


力といえばこのライブもそうだろう。

ここまでの人数を入れて更にこの演出である。

かなりの負担はあるはずだが、顔色一つ変えてはいない。


…それも彼女の意思の力がもたらすものなのだろうか。

それほどにこのライブの裏にある計画を為そうとしているのか。


既にブルーノは客席に戻ってしまった。

残念ながら、今回CP0も薬らしい薬は持ってないらしい。そうなるとどうするか。

ひとまず私はしばらくここで様子を見ているべきだろう。


一曲目、『新時代』が終わりを告げる。

ひとまず歌が流れていないときはルフィの耳も塞がなくていいだろう。

現実でその旨を伝えて、またウタワールドでの様子を見守る。

こちらの世界のルフィ達は、ステージ前方の岩場の席を確保してるらしい。

割りと目立つ位置なのに大丈夫なのか?

そんなことを呑気に考えているとき、唐突に銃声がなった。

ライブ会場に、いつの間にか海賊が入り込んでいる。

…あの海賊、確か前ゴードンが連絡してくれたときに言っていたクラゲ海賊団じゃないか?

こちらの世界だとファンでもない普通のごろつきなのか?

しかもビッグマム海賊団まで乱入して、更にはルフィ達も参戦して…

一波乱あったところで、「私」が声を上げた。


『みんな私のファンなんでしょ?海賊なんてやめて、この楽しい新時代で暮らそうよ!』


良く言えば優しい、悪く言えば甘い言葉が飛び出す。

まぁ、そんなもの聞いてくれるビッグマム海賊団ではない。

クラゲ海賊団も止まる気はないらしい。


『残念…なら、歌にしてあげる。』

やばい、二曲目が来るととっさに現実のルフィに顔を向ける。

「ごめんちょっと耳塞いで!」

「ブヘッ!」

無理やり両手で耳を塞ぐ。

その直後、あちらの「私」の姿が変わる。

マントに冠、手足の鎧、そしてヒポグリフ。

間違いない、『私は最強』だ。


そこから先は圧倒的だった。

ウタワールドでウタウタの能力者に勝つ手段などほぼない。

こちらの世界でもそれは変わらないようで、あっという間にルフィ達以外の海賊が五線譜に貼り付けになっていった。


「うーん…どうしようかな…。」

とりあえず、まずはルフィだ。

いつまでも私が耳を塞いでいるわけにもいかない。

どこか音の聞こえにくい場所に一旦行くべきだろう。

そう思い、ルフィに耳を塞がせたまま一旦移動することとした。


エレジア城地下。

ここには流石に「私」の歌声は響かない。


「いいルフィ?ひとまず私が城の外でライブの様子見てるから、合図するまで出てこないで。」

「お、おう…でもどうすんだ?」

「どうするって…なんとかして止めないとでしょ。」

まだ「私」の全容は見えないが、確実にこのままはまずい。

私が世界やルフィ諸共心中するところなんて見たくもないし、帰る手段がなくなるの可能性もどこにあるか分からないのだ。

…さっきから黙ってるトットムジカが恨めしくなってくる。

「それじゃ、私一旦行くから…あ。」

「ん?どうした?」

「…こっちのルフィ達、捕まっちゃった」

「エェー!?」


どうやら、「私」と「ルフィ」がなんらかの口論になったらしい。

そのまま『逆光』とともに全員が捕らえられてしまった…。

が、どうやらロメ男君とトラ男によってルフィだけは助けられたらしい。

今「私」がファンの人達や音符の戦士達と共にそれを追っている。

今なら少し動けるかもしれない。

雨の振りそうな曇り空の現実と雲ひとつない晴れのウタワールドの両方で、一気に動くことにした。


〜〜

「…あそこか。」

ウタワールド内で「ルフィ」の気配を追った先は、朽ちかけた教会だった。

こっそり窓から中を覗くと、三人にベポ、そしてゴートンがいた。

やはりゴードンも既に取り込まれていたようだ。


盗み聞きする形で、こちらの私の人生を知れた。

12年間この島にいたこと。

思い出を懐かしみながら音楽を学んでいたこと。

この島で燻り続けていたときに見つけた電伝虫。

世界に発信する歌。

増えるファンと救世主としての名。


大体自分の中で、こちらの「私」の人生がかなり纏まってきた。

あと知りたいのは、「私」がアレを見たかどうかだが…。

丁度いいところで「私」が来てしまった。


『分かった…ルフィ、あんた「新時代」には…いらない。』


その言葉を最後に、またトラ男の能力で三人が消える。

ファンの人達がそれを追って…中には、ゴードンと「私」だけが残った。


『海軍や世界政府が黙ってないぞ!』

『大丈夫、これがあるから!』

磔にされたゴードンの前に、「私」が数枚の古びた紙…楽譜を見せつける。

…間違いない、あれは。


アレダ

「え?」

突如、それまで黙っていた中のトットムジカが語りかけてくる。

ヤットワカッタ…アレガ帰ルタメノ鍵ダ

あの楽譜が鍵だと?

本当に?

「…どうすれば帰れるの?」

頭の中によぎる嫌な予感を横にしつつ、問い詰める。

詳シクハ知ラン…ダガ分カル


帰ルタメニハ…アイツガアレヲ歌ウコトガ必要ダ


…どうやら…ルフィを現実に残しておいたのは正解だったらしい。

この先に起こる最悪の展開を予想して、嘆息してしまった。


to be continued…


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