『エピソードオブRED part4』

『エピソードオブRED part4』


「ありがとう、ルフィとみんな!今日のライブ楽しんでね!」

「おう!あとでなプリンセスウタ!」

「UTAちゃ〜ん!」

「おう、頑張れよウター!」


みんながそれぞれ励ましの言葉をくれるのを聞きつつ、サニー号を降りて港に立つ。

みんなはライブのための衣装に着替えてから向かうらしい。

ルフィとロビンの二人を最後見て、私は駆けていった。


…やはりここはエレジアだ。

しかし、私の知るエレジアとは随分違う。

人もいなければ建物も寂れたまま…なにより、シャンクスの旗がない。

こんなところでライブなど本気なのかと今でも思いたくなる。

…だからこそ、こちらの「私」の真意を確かめたいが…。


見聞色で辺りを探る。

…見つけた。やっと見つけられた。

なんだか懐かしい気すらするその気配のもとへと急いだ。

…背中に、サンジから貰った沢山の食糧を背負って。


やっと見つけたルフィは、大の字で草の上で豪快に寝ていた。

何もない外でこれだけのいびきをかけるのは流石だろう。

…いや、せめてそこらの廃墟に入ればよかったのではないか?

浮かび上がった疑問を一度振り払って、寝ているルフィに声をかけた。


「おーい…ちょっとルフィ?起きて?」

「ん〜…肉ゥ…」

やはり声だけでは起きない。そのくらいは想定済みだ。

サンジに分けてもらった骨付き肉をバッグから取り出し、顔の前に近づける。

「ほらルフィ〜?起きないとこれ私がいただくよ〜?」

「ん〜……肉!」

流石サンジの肉。瞬く間に飛び起きたルフィが目の前のそれにかぶりつく。

「んん…んめえ!…あ、ウタ。」

「何その反応!?私への感動肉以下!?」

流石にもう少しなんか反応してくれてもいいだろう。

仮にも約一日ぶりの仲間だというのに。

…いや、私は確かに別世界のルフィに会ってるが。

「ま、いいか…ルフィ、とりあえず食べながら話聞いてくれる?」

〜〜

「別世界ィ?ちゃんとみんないるのにか?」

「全員いるから問題なの!あんたがもうひとりいること含めて!」

目の前のルフィとさっきまでいたルフィは明らかに別人だ。

改めて見ればよく分かる。

覇気の感じからして、私のよく知るルフィの方が強さで言えば上をいってはいるようだ。

「ふーん…だからあのときのウタが様子おかしかったのか。」

「は!?あんた私にあったの!?」

「ん?おう。」

そこからルフィの昨日のことを聞いた。

「私」との会話も、「私」が言おうとしたことも。 


「うーん…そういえば、ゴードンは見た?」

「ん?いや、お前としか会えてねェな。」

それはそれで不審だ。いくら前日とはいえ、客人に対し

ゴードンが動かないなんてことがあるとは思えない。


「…ずっと楽しいこと…ね…」

こちらの私が何を考えているのかまだ見えない。

だがやはり、普通のライブではない。

それだけはなんとなく確信がある。 


なにより…

「そんでどうすんだ?おれ達どうすりゃ帰れるんだ?」

「そこなのよね〜…」

そう、なにより帰る手段がいまだ見つからないのである。

恐らくトットムジカがなにかの問題を起こしたことでこちらに来たのだから、

トットムジカが関わってることは確かなのだが…。

こいつは何も言わない。

「あーもう頭痛くなってきた!」

そもそも私もルフィもこう考えるタイプではないのだ。

こういうことは基本ロビン達に任せていたのに、

ルフィと二人ではこちらが考えるしかないじゃないか。

「ん〜…とりあえずライブ行ってみるか?」

「却下!というかそんな暇ない!」

この期に及んでこの脳天気である。

この際海軍でもいいから助けてはくれないか。



「どういうことだ?」

「うおォ!?」

「ひゃっ!?」

突然の声に思わず背中が飛んでいくかと思った。

そちらを振り向くと、そこにいたのは懐かしい顔。

「あ、牛。」

「ドアのやつ。」

「……ブルーノだ。」

思い出した。

かつて戦ったCP9、ドアドアの能力者ブルーノ…だと…思う。


「その服装、何だ?」

「……潜入用だ。」

「何よそのチョイス…潜入?」

服にびっくりしてしまったが、気になるワードが出てきた。

「世界政府は、今回のライブを監視している。…それで、何故ウタがもう一人いる?」

どうやら、世界政府すら動いているらしい。

CPを派遣するとはどれだけ警戒しているのか。

「…あ〜…どうするルフィ?」

「言っちゃっていいんじゃねェか?」

「うーん…ま、めんどくさいしそれでいいか。」

背に腹はかえられず、結局別世界から来たことを説明歯た。

「なるほど…一つ聞くが、お前はやつの世界に干渉可能か?」

「ウタワールド?多分できるけど。」

試してはないが私も同じ能力者で同じウタなのだ。

おそらくあちらの作ったウタワールドに入れてもおかしくはないだろう。

「…なるほど。ならばこちらも都合がいい。協力しろ。」

「協力?なんの?」


「やつの世界転覆計画の阻止だ。」

「は?」

世界転覆?なんだそれは。

こっちの私はどんなことを考えているのだ。

そう思う私に、目の前のブルーノが何かを見せてきた。  「ん?…これ、ネズキノコ!?」

かつて空島で実物を見かけたあのキノコだ。

一口食えば眠りにつけず、そのまま……。


「…嘘でしょ?」

「ん?どうしたウタ?」

頭の中に、最悪のシナリオが浮かび上がる。

「そうだ。お前と別のウタは、世界中の人間を自分の能力で歌の世界に閉じ込め…このキノコで自殺するつもりだ。」

「自殺ゥ!?なんでウタがそんな…!?」

どうやらいよいよ笑い事ではないらしい。

思いついたからと言って本当にそんなことをするやつがあるか。

…うん、自分でも若干否定しにくい。 

「…もう食べちゃった?」

「ああ、あと少しでライブも始まるだろう。」

そこは止めてほしかった。

いや、命令外なら仕方ないのかもしれないが。


「ひとまずルフィ!私がいいって言うまで耳塞いで!」

「お、おう!」

「全くもう…どうしよっかなこれ…!」

今からライブを止めるのは流石に不可能だ。

一度はみんな夢の中に閉じ込められるだろう。

問題はその後、どうやってあちらの開いたウタワールドを閉じさせるかだ。

「…最悪トットムジカかな…。あんたも準備しといてよ?」

そう釘を刺す…が、返事がない。

「……?ちょっと?」

「おい、始まるぞ…。おれもあちらに行く。」

「はいはい…。」

世界すべてを巻き込んだ心中ライブとはまた凄いことをしてくれたものだ。

流石私の行動力と褒めてあげたいが、今はそれどころじゃない。

流石に私も別世界とはいえ自分やルフィの死に様など見たくないし。

そっちも止めて帰る方法も探す。

いずれにせよ…先あるのは恐らくウタワールドだろう。

「おれはあっちじゃなくて大丈夫なのか?」

「うん、とりあえずまだ起きてて。」

ルフィは一応の保険としてこちらに残せばいい。

「さて…ちょっと頑張らないとかな。」

心の準備を決めた私の耳に、馴染み深い音楽が流れ始めた。

…自分ではない自分の曲など、聞くことになるとは思わなかったな。



海賊、政府…果てには別世界すらも巻き込んだ、

最大最凶のライブが、始まった。


to be continued…

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