『エピソードオブRED part3』

『エピソードオブRED part3』


「私」は、只今絶賛困惑していた。

明日はいよいよ待ちに待ったライブ当日。

皆が平和で幸せな新時代が始まる時。

その日を前に夕方の散歩にと海沿いを歩いていただけのはずだ。


この島には、自分とゴードンの二人だけだった。

12年間それは変わらなかった。


…では、目の前のこの男は?


「良かったァウタ!お前もこの島いたんだな!」

男はこちらを見て嬉しそうに駆け寄って来た。

…いや、私はこの顔を知っている気がする。


「…もしかしてル…」

「ところでよ、サニー号どっちか分かるか?おれ飛ばされてるとき周り見えてなくてよ!」

名前を言おうとしたが、阻まれてしまう。

「ち、ちょっと待ってルフィ!」

「ん?どうした?」

…やはり、目の前の男は間違いなく、あのルフィだった。

「〜ルフィ!」

「うわ!」

思わず抱きついてしまう。

また会えた。

明日のライブを前に、かつての幼馴染がここに来てくれていた。

こんなに嬉しいことがあるだろうか。

「おい!どうしたんだウタ!」

…感極まってる私と対照的に、なんだかルフィは困惑している。

「…何?ルフィは久しぶりに会えたのに嬉しくなかったの?」


「いや…朝とかもおれ達船で会ってるだろ?」

「え?」

「ん?」

……わたしの頭の中に、妙な違和感と嫌な予感がしていた。

「うーん…そういや少し違う感じすんな…」

突然ルフィが訳のわからないことを言い出す。

「またなんかの能力なんかな…うーん…」

「…ルフィ?」

「わりィ!ちょっとおれ行くわ!どうせあいつら探さないとだしな!」

「え、ちょっと…」

そう言ってルフィが背を向ける。

どこかに行こうとする。


その姿が。

麦わら帽子を被ったその背中が。

私から離れていく。


『シャンクスー!!置いてかないでー!!』


また、置いてかれる。


「──待って!!」

思わず声を荒らげて、ルフィの手を取る。

足を止めたルフィが、こちらを振り向いた。


「…ウタ?」

行かせてはならない。

明日、明日新時代が始まるのだ。

それまで、ルフィにはここにいてもらわないといけない。


「…明日さ、ここでライブが始まるんだよ!」

新時代が始まる。

「きっと楽しいライブにしてみせるからさ!」

みんなが笑える新時代に行けるのだ。

「きっとルフィも気にいるよ!だからさ…」

だから


「もう少し、ここにいてくれない?」

…置いて行かないでほしい。


「…分かった!」

伸ばされた手を握り返して、ルフィは笑った。



その後、ついてきてくれると言ったルフィを、

私達二人が住んでいた城に案内した。

とりあえずお腹が減っていたということで

夕飯用に用意していたものをいくつか分ける。

それでも足りなかったようで、余っていたチキンまで平らげてしまった。

流石にパンケーキは分けてやらなかった。

「こちら」で食べるのは最後なのだ。これくらい独り占めしたかった。 


「…ほら、あれがライブ会場!」

部屋の外のバルコニーから、島の端にある会場を指差す。

今はまだ暗いが、明日には華やかなステージに変貌するはずだ。

「へー、あそこで歌うのか?」

「そう!ファンのみんなが来てくれるんだよ!」

ここに来るファンだけじゃない。

世界で見てくれている人たちみんなに歌を届けるのだ。

そう、平和な新時代を願ったみんなに


『海賊だ!海賊さえいなければ!』


「…そういえばルフィ、聞きたかったんだけどさ」

「ん?なんだ?」 

「シャンクスって今どこにいるのか分かる?」

一目それを見てから、聞きたかったことだ。

「シャンクス?知らね。」

「じゃあその帽子は?」

「おれが預かったんだ。いつか立派な海賊になったら返すってな!」

「…っ!」

海賊。

みんなの平和を乱す海賊。

みんなが嫌いな海賊。

…私が──な、海賊。


「ねぇルフィ、か─」

「そういやウタ、ここ他に誰かいんのか?」

…話が遮られてしまった。

「…うん、一人いるんだけど、今は会える状態じゃなくて…。」

「ふーん、そっか!」

そう言うと、ルフィが手すりの上に上る。

「それじゃおれ、少し冒険してから寝るからよ!先休んでろよ!」

「え、ちょっと…」

そう言うと、今度は止める間もなく腕を伸ばして飛んでいってしまう。


「─ルフィ!明日のライブ、応援してくれるよね!」

「おう!お前の歌また聞きに行くから頑張れよ!」

暗闇に溶け込みながら、そうルフィは答えてくれた。


「…………。」

…この島から出る方法はない。

明日のライブ、この島全体に歌は届ける。

…ルフィも、必ずどこかで聞いてくれるはずだ。

…鍵の閉められた部屋を開けた。

「…ウタ!」

そこには、後ろで手を縛られたゴードンがいる。

「ウタ頼む!あんなもの捨ててくれ!私は…!」

「…納得、してくれてないんだね。」

残念ながら、こちら側にいるうちにわかってもらうのは無理そうだ。

この部屋においてある映像電伝虫をひと目見て言う。

「…明日には、ライブが始まる。…そしたら、また来るから。」

「ウタ!待ってくれ!こんなことは…!」

言い終わる前に、扉を閉じた。


もう止まりはしない。

皆のための「新時代」のためだ。

明日のライブは…絶対に成功させてみせる。


『シャンクス?知らね』


……最後に一度、もう一度、シャンクスに会いたい。


〜〜


「いやー、ほんとに誰もいねェな〜……。」

暗闇の中の廃墟を飛び回りながらルフィが言う。

「ウタ話なら、割と人増えてるってはずなんだけどな。………。」


『ねぇルフィ、海賊やめなよ』

『ルフィもさ、ライブに来て、ずっと楽しいことして暮らそうよ。』

見聞色が捉えた未来。

ルフィの知るウタならまずないはずの発言。

それを見たからこそルフィはあの場所を一度抜けてきた。


『─待って!!!』


「うーん………とりあえず、寝るか。」

山積みになった問題を前に…大海賊は、月の下寝ることを選んだ。


〜〜


月明かりが輝く中、サニー号はエレジアに進む。

一旦ルフィとロビン以外のみんなには

「アクシデントで離れることになってしまったからエレジアに戻りたい」と話した。

正直こちらの「私」にあってしまえば破綻しそうだが、それでも今はいい。

とりあえず目先はこちらのルフィと合流を考えること。

そして…。


「…世界へのライブ、か…。」 


…こちらの私が何を考えているのか、それを知る必要がある。

ウタウタの力を世界に向けて使うのだとすれば、まず海軍も政府も黙っていないはずだ。

…間違いなく、何か大きなことを企んでいる。


このライブの目的とは……この世界の私の新時代とは、なんなのか。

不安を抱えながら、時間と船は進み続けた。



音楽の島エレジアに、霧に隠れた朝が訪れる。

『NEW GENESIS』。

「世界の歌姫」のライブの始まりが、始まろうとしていた。


to be continued…

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