『エピソードオブRED part12』

『エピソードオブRED part12』



ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᚷᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᛏ ᛏᚨᛏ ᛒᚱᚨᚲ


『Tot musica』の響き渡る異空間。

閉ざされた者たちがウタを見守る中、異変は空に現れ始めた。


「ね、ねえ…何この空…」

魔王が姿を表した瞬間、そこから広がるように空間が赤く染まり始める。

「彼女の歌が、この魔王の中になんらかの作用を…いえ… 空間そのものを得ようとしている…?」

ロビンが考察する間にも、周りは赤に染められていく。

やがて、顕現した魔王から眩く赤い光が放たれ始めた。


「うおォ、なんだこ……りゃ…」

言葉を紡ぎ終える前に、ウソップの目が閉じていく。

それだけではない。

周りにいた者達の意識が、次々と微睡みに落ちていく。


「……ウ…タ……」

『ルフィ』が最後に認知したのは、赤い逆光を浴びるウタの影だった。


〜〜


現実において、長いように思われた歌が終わりを告げる。

それと同時に、ウタの体が宙に浮かぶ魔王に向かい始める。

既に第三楽章と化した魔王の顔の前まで浮上したとき、トットムジカの体が渦巻き、ウタを包み込んだ。


「…?なんだ…?」

シャンクス達全員が見守る中、やがて渦は縮小し…

再びウタが姿を表した。

それも先程少しの間見せていた黒い装いから、更に変化した姿だ。

そのまま、ウタが地上に降り立ち─



「ワワ…あいたっ!?」

─バランスを崩したように、後ろに倒れた。

「………ウタ?」

「何も言わないでシャンクス」

「アッヒャッヒャ!!転んでやんの!!!」

「ぶっ飛ばすわよルフィ!!!」

割と颯爽と降りて最後の最後にこれである。

顔を真っ赤に染めたウタが二人に抗議する。


「もう…というか、何あんたも笑ってんのよ!!」

ケタケタと音を立てる髑髏を掴んでウタが叫ぶ。

「元はと言えばあんたの帽子がこんなデカいせいでしょ!!恥ずかしい思いしたじゃん!!」

知ルカ!!オ前ガバランス悪インダロ!!

「楽譜トイレ掃除に使われたい!?」

帰レナクナッテイイノカ?

「ぐぬぬ…」 


目の前で全ての元凶の魔王と娘が漫才のような喧嘩をしている光景に、ついシャンクスが苦笑してしまう。

「…ハハ…何やってんだか」

「あいつらおもしれーだろ?アヒャヒャ!」

未だ顔と腹を抱えながらルフィが笑い続けていた。

「ふう…そういや、上手く行ったのか?」

「ん?ええ…回り見てみなさい?」

そう言われてルフィが辺りを見渡せば、いつの間にか喧騒が消えている。

先程まで動いていた観客達は皆倒れ、再び眠りについていた。


「ブリュレの声が戻ってきた…どうやら確かのようだな」

妹を抱えながらカタクリが言う。

「そっか、良かった!!」


「…世話になったな赤髪、麦わら…おれ達は先に撤収する」

「ああ、来てくれて感謝する」

「じゃあな!!」

背を向け去ろうとしたカタクリが、最後にルフィを一瞥する。

「…その姿が何かは知らんが…また会うのを楽しみにしている」

その言葉とともに、カタクリが姿を消した。


「…ところでウタ、結局あっちの方も上手く行ったのか?」

「勿論!!ちゃんと力は貰えた…これでやっと帰れるはず!!」


〜〜

『魔王を取り込むゥ!?』

ソウダ

地下図書館での、ルフィとウタ、そしてトットムジカでの三人の会話。

そこで明かされた帰る方法は、あまりに発想が飛んでいた。

『なんだ?ウタがこいつ食うのか?』

『違うよ、こいつが、こっちの『こいつ』の力を取り込むの』

つまりはこうだ。

原因は不明だが、この世界の魔王が力を大幅に上げ、別空間にすら干渉できてしまった。

それが別世界でトットムジカを歌ったウタに反応し、ルフィ諸共次元を跨ぐことになってしまったらしい。

『…だから、今度はそれを私が再現するの』

まずあちらの『ウタ』が呼び出したトットムジカを倒し、その力をこちらのトットムジカに取り込ませる。

それで得た力でもう一度あの現象を再現するのが作戦だった。


『つまり不思議作戦ってことだな!!』

『そういうこと!!』

違ウワ猿ドモ!!!

分かってるような分かっていないような二人に対し、トットムジカの盛大なツッコミが響き渡った。


〜〜


何はともあれ、全てはうまくいった。

ひとまず観客達の魂たちも戻すことができた。

これで晴れて、二人を縛るものはないはずであった。


「よし、それじゃ帰るか!!」

「そうだね、みんな心配してるだろうし」

そう話す二人に、娘に膝を貸しているままのシャンクスが話しかける。

「なんだ…もう行っちまうのか?まだウタも目覚めていないのに」

ウタは未だ安らかにシャンクスの膝の上で寝息を立てている。


「うん…あんまり長くいてもあれだしね」

「そうか…そういやルフィ、お前との約束なんだが…」

「ん?それなんだけどよシャンクス」

話題を振られたルフィが向き直る。

「確かにシャンクスはシャンクスだけど、おれの約束したシャンクスは別だからな!!約束はちゃんとそっちで果たすよ!!」

「…そうだな…なら、おれもちゃんとこっちのルフィと果たすとしよう」

そう言って笑い合う二人を見届け、ウタが高らかに言い放つ。

「さ、それじゃ帰るために!!やるよトットムジカ!!!」

無理ダガ?





『は?』

イヤ無理ダガ??

あまりになんてことないように、トットムジカ無理と繰り返していた。



「ハァ!?何言ってんの!?この作戦考えたのあんたじゃない!?」

現れた魔王の首をぶん回しながら問い詰める。

アホ!!オ前今日何回オレヲ使イヤガッタ!!

それに抗議するように首だけ魔王が続けた。

確カニ力ハ奪レタガ、ソレ以上ニオレノ力使ッテンダ!!少シ寝ルカラ休マセロ!!

「何いってんの!!あとちょっとなんだから根性見せろ!!」

知ルカ!!ジャアナ!!

「あっちょっ……」

途中でさっさと切り上げ、魔王が引っ込む。

返答がないあたり、本当に眠ったようだ。


「あいつ覚えてなさ…いぃ……」

抗議の声を上げようとしたウタだったが、その時身を包む装いが消えると同時にその場に倒れ込んだ。

「あ……これ…私もちょっと疲れ…」

「おいウタ!!大丈ぶううぅ〜……」

駆け寄ろうとしたルフィも色が戻ったかと思えばその場にヘナヘナと倒れていく。

「おいおい、お前ら何やってんだ?」

「ふ、不眠薬なしでずっとあの力は疲れるの……」

「お…おれも…つかれた…めちゃくちゃ……」


ワノ国と比べ、二人共万全で発揮させた全力。

しかし、それにしても長い間力を使い続けた体は悲鳴を上げていた。

「あー無理…パンケーキ食べたいし……眠……」

「肉…に……………」

「…たく…強くなってもまだガキだな」

苦笑するシャンクスの元に赤髪海賊団が集い…その周囲を、海軍が囲んだ。


「さて、そろそろ最悪の犯罪者ウタと…そこの二人もついでにもらおうか〜?」

銃を構える海軍の後ろから歩いてくる黄猿が宣告する。

それに返答するように、赤髪海賊団幹部達が武器を構える。

「ほう、お前さんら…」

「歯向かおうっていうのかい〜…?」

大将二人がそれぞれ構える。


「やば…おいウタ、ちょっと立て…」

「ま、待って……」

なんとか肘で体だけ起こしたルフィがウタを起こそうとする。

が、それを座ったままのシャンクスが制止する。

「ルフィ、ウタ…お前達は既によくやってくれた、今は休んでろ」

「で、でもよシャ」


「おい海軍」

先程までと違う低い声が辺りに響く。

その声にルフィも声を止める。


「…こいつは、おれの娘だ、おれ達の大事な宝だ…そして」

シャンクスが二人を見る。

「こいつらは、娘を助けてくれた大事な友人だ…それに手を出すってんなら…」



「死ぬ気で来い!!!」

その言葉とともに、赤髪のシャンクスの覇王色が放たれる。

周りの海兵が次々と倒れていき、終いにはモモンガ中将すら膝をついた。

「中将の一部も持っていくとは…これが四皇赤髪の覇気か…」

「…やめときやしょう…市民の方々もいる場で戦争は」

「…そうだねェ〜…」

大将二人の判断により、海軍も撤収の準備を始めた。

「…ハハ…やっぱり凄いねシャンクス…」

「ああ…でもおれだってすぐ…すぐ……ぐー…」

「…寝ちゃったよルフィ……うん…私…も……」

海軍が去る姿を確認しながら、二人もまた眠りについた。


〜〜


「ん……んん…?」

『ウタ』が目覚めたとき、最初に見えたのは空と、広げられた帆とマストだった。

「…ここ……」

「起きたか、ウタ」

「……シャンクス…ホンゴウさん」

そばに控えていた二人を見る。

どうやら今シャンクスの膝に頭が置かれているらしい。

「…ここは」

「おれ達の船だ、既に出航している」

「…そっか……あ、ルフィは!?それに…」

慌てて飛び起きようとしてバランスを崩したウタを、ホンゴウが支える。

「無茶するなウタ…まだ体力は戻ってない」

「二人ならそこで寝ている…訳あって少しの間共にいそうだ」

シャンクスが指した方向に、寄り添うように眠る二人が見える。

『ウタ』が一息つくものの、すぐにまた向き直る。

「…もう一人のルフィは?」

「ああ、それなら……」


〜〜


「…あれ」

「よう、起きたか」

『ルフィ』が目覚めたのは、サニー号の甲板だった。

そばには先に起きたゾロがいる。

「ゾロ、ウタは?それにシャンクスと…」

「おう…」

ゾロが顎で指した方向を向き直る。

そちらを見れば、既に小さくなりつつあるレッドフォース号が見える。

既に遠くにあるその船の甲板を注視し…




「ルフィーーー!!!」

思わずのけぞりそうな声が飛んでくる。

よく見れば、船尾に立つ人影が見える。


「今日は本当にごめん!!あと、助けてくれてありがとう!!」

寝起きと思えぬ大声で『ウタ』が叫ぶ。


「私、シャンクス達とまた!!またいろんなこと知って!!それでもう一回頑張るから!!だから…」

人影が、左腕を掲げるのが見える。


「─────!!!」


その言葉を聞いたルフィが、メインマストの上に飛ぶ。

そのまま、水平線の彼方のその影に笑みを浮かべ、手を振りながら答えた


「……おう!!またな!!!」


2つの船は、それぞれの進路を進む。

離れゆくレッドフォース号から、懐かしき歌声が聞こえる。

暁の輝くエレジアに、『世界のつづき』が響き渡る。



再び交わされた二人の約束。

それを聞き届ける赤髪海賊団と共に、未だ眠る二人は笑みを浮かべていた。


to be continued…

Report Page