『エピソードオブRED part10』

『エピソードオブRED part10』


胴体を貫かれた魔王が苦しさに呻く。

偶然と呼んでいい2つの攻撃は、しばしの猶予を生んだ。


「プリンセスウタがおれ達の仲間ァ!?」

「驚いた…何か変だとは思っていたが」

夢の中にいた者たち、特に麦わらの一味の困惑は大きかった。

あの世界の歌姫であり、そしていま自分たちが止めようとしている騒動の元凶が、

自分達の仲間としてもう一人現れているのだ。

「黙っててごめんね…ルフィとロビンには話したんだけど」

「嘘、ほんとなのロビン!?」

「えぇ、昨日サニー号で聞いてたわよ?」

ナミからの抗議の声にも、ロビンは冷静に当たる。


「…ウタさん、あなたのその覇気…それにその姿は…」

「これ?大体見ての通りだけど…まぁそういうことだよ、コビー」

親しげに呼ばれたことに驚いたような顔をしている。

こちらからすれば2年前からの知り合いだが、あちらからすればまぁそうなるだろう。

「話している時間はないぞ!!急がねェと現実に戻れなくなる!!」

「あっ…!!ウタさんも前衛で攻撃を!!」

「分かった!!」

コビーの言葉で全員が再び魔王に向き直る。

既に『ルフィ』も突撃しているようだ。


「さてどうするか…ねっ!!」

召喚した鍵盤状の腕と槍で戦士を蹴散らしながら進む。

はっきり言ってさっきのはまぐれだ。

ここから先はどうにかあちらと息を合わせないとだろう。

この中でそれが出来るとすれば…

「…頼んだよ…ウソップ、ヤソップさん」


その時、『ルフィ』の拳が再び魔王に傷をつけるところだった。


〜〜


「よし、またあっちと攻撃が重なった!!」

現実では、シャンクスの攻撃が魔王に正面から命中している。

「…どうやら、もう一人のルフィがやってくれたみたいだな!!」

「あっちのおれ?やるな〜」

巨大な鍵盤の上でルフィがそう呟く。

「おい麦わら!!お前が本当に二人なら、あっちのお前と繋がることは無理なのか!?」

隣に降りたカタクリが訪ねる。

「繋がる?何が?」

「見聞色だ!!魔王を倒す同時攻撃には、必ず見聞色で互いの位置を見る必要がある!!」


カタクリもまた、一瞬妹ブリュレの景色を覗くことが出来ていた。

しかしそこまで、しっかりと視認しても、あちらからこちらを見てもらうことは出来ない。

「う〜ん……なんかよく分かんねェな…」

「家族ならともかく自分は無茶だろう!!心配するなカタクリ!!」

上からシャンクスが答える。

「見聞色の使い手は、お前たちだけじゃない!!」

「だがあいつはまだ冷静になれてねェぞ!!」

先程から見聞色を張り巡らせている男が言う。

「心配するな…それよりルフィ!!こうなっちゃ仕方ねェ!!お前も協力してくれるな!?」

「当たり前だ!!行くぞシャンクス!!」

返事とともにルフィが飛び出していく。

「おい待て、その姿は結局なんだ麦わら!?」

「ん!?おれが自由になった証だ!!」

その奇怪な姿と能力に疑問を抱きつつも、カタクリもまた改めて魔王に向き直る。

「…考え事はあとだ…今は妹を助けるとき!!"無双ドーナツ"!!!」


〜〜

三刀流奥義…"六道の辻"!!」

「ゼウス!!"雷霆"!!」

「"熱山羊"<ヒートゴート>!!」

「"終焉続唱"<ラグナロクエクインツィア>!!」

ウタワールドでも、各々が魔王の攻撃をかいくぐりつつ攻撃を続ける。

斬撃、雷撃、熱、無数の拳が魔王に飛び交う。

が、いずれも戦士を蹴散らしこそすれど決定打に至らない。


「プリンセス…いや、ウタが加わってもこのままじゃ…いやいや落ち着けキャプテンウソップ!!こういうときこそ冷静に…!!」

離れて援護していたウソップが一度精神を集中させ、己の感覚を研ぎ澄ませる。


その感覚の中の覇気が、現実にいたその男とシンクロした。


「…!!親父!!」

『やっと気づいたか、バカ息子!!』


「ルフィ!!」

「おう、よし野郎共…ん?」

ルフィが発破をかけようとしたとき、妙な感覚に包まれる。

戦いの中で疲弊した体の奥底から、力が湧き上がってくる。

その理由は、考える前に2つの『歌声』が教えてくれた。

〜〜

「…ほんとに…出来るの…?」

「大丈夫…あなただって私なんだもん、きっと出来る!」

現実の魔王の中、四方からの声を無視する形で二人が話す。

本来修行の果に得た力でも…魔王によって世界の境目が曖昧な今なら、きっと出来る。

「…さ、始めるよ…『私達』の歌声で、皆を助けないと!!」

「…うん、分かった!!」

脳裏によぎるのはかつてのシャンクスの言葉。

私の歌は、世界中の人々を幸せにできる

やり方を間違え、魔王で多くの人を傷つけ…それで終われはしない。

歌姫として、「赤髪海賊団音楽家」として…己の始末になんらかの形でケジメをつけなければならない。

その思いと共に、ウタは現実で横にいる『もう一人の自分』と共に歌い始めた。


新時代はこの未来だ

世界中全部変えてしまえば 変えてしまえば


現実とウタワールド、両方に二人の歌声が響く。


「この歌…ウタか!!」

「…シシ!あいつの歌、やっぱ元気出るな!!」

体のそこから力が湧く。

本来以上の力が引き出されるのを感じる。

「…よし、頼むぞルフィ……野郎共!!気合入れろォ!!!

おう!!!


〜〜

「この歌…ウタ…ウタなのか!?」

ゴードンが前方の魔王の中にいるウタに問いかける。

返事はない、だが内側から響き続ける声が答えを示している。

「…ウタちゃん、これも君の力なのかい?」

サンジが自分の横で同じように歌うもう一人のウタに問いかける。

「うん、力が入るでしょ!」


"快速な詠唱曲"<アレグロ・アリア>、そして

"強き詠唱曲"<フォルテ・アリア>。

ウタウタの力によって、歌を聞いたものの力を引き出すウタの能力。

本来修行で他者へかけられるようにしたそれを、もう一人の『ウタ』はこの場で使ってみせた。


「トットムジカの中とはいえ天才だねあの『私』…行こう!!ルフィ!!」

「ああ!!…野郎共!!気合入れろォ!!!

おう!!!』


そこからは一気に攻勢が始まった。

ウソップとヤソップ、見聞色で視界を繋げた海賊の親子が攻撃する場所に指示を出す。

その指示のもと、互いの世界で強者達が一撃を加えていく。

息のあった連携に、魔王の体は次々と粉砕されていく。


「ヤソップのやつ、仲良いじゃねェか!!」

そして最後の腕もまた、指示を出し続けた二人のを中心とした攻撃によって粉砕された。

それを見届けたそれぞれの世界の中心人物、シャンクスとルフィが打って出ようとする。


「…まずい赤髪!!やつが飛翔するぞ!!」

カタクリが警告をする。

魔王が背中の翼を広げ、空に逃げようとする。


「あのクソ魔王、まだ足掻くつもりか!!」

「待て、サンジ!!」

サンジが飛び出して行こうとするのを、ルフィが止めた。

「…頼んだ、ウタ!!」

「了解、『ルフィ』!!」

同じ黒の翼を羽ばたかせ、ウタが魔王以上のスピードで飛び出す。


「任せるぞ、『ルフィ』!!」

「任せろ、シャンクス!!」

ほぼ同じタイミングで、ルフィが宙を焦がしながら空をゆく。


ウタウタで本来以上の力が引き出された二人がそれぞれ進む。

行く手を阻む戦士は、他の者たちが蹴散らしてくれた。

勢いを落とさず、二人は魔王の背中、翼の付け根に到達した。


「…やるよ、ルフィ!!!」

「…行くぞ、ウタ!!!」

見てはいない。だがあちら側には確かに相手がいる。

その確信の元、二人が腕に力を込める。

膨れ上がった腕が黒く染まり、音を立てて圧縮される。

呼び出された無数の鍵盤の腕が、一つの巨大な腕になっていく。


「"ゴムゴムの"ォ……!!」

「"魔王"<エルケーニッヒ>……!!」


覇王と武装、2つの覇気が込められた拳が、赤黒い稲妻と金色の輝きを放つ。


「"覇"<オーバー>……!!」

「"歌唱"<ソング>……!!」


─最大限の力を込められた、2つの『王』の拳が


─魔王の翼に、放たれた。


『銃<ガン>!!!!』


まっすぐ、放たれた2つの拳は魔王の護りを破り、

魔王に直接触れることなくその翼を打ち砕いた。

魔王が唸りながら落ちていく。


「今だ、『シャンクス』!!」

「やっちゃって、『ルフィ!!』」


周りの者たちの声と共に、力を最大まで溜めた二人の男が進む。

最後の抵抗とばかりの魔王のビームを突き破り…

海の皇帝の一閃と、目覚めた解放神の拳が繰り出される。

金色の鷲獅子のオーラを纏った攻撃が魔王に正面からぶつかり─

─断末魔の叫びと共に、魔王は消滅していった。



「……ウタ!!」

シャンクスの目の前で、魔王の中から二人の娘が現れる。

もう一人のウタに肩を支えられる形で落ちていく『ウタ』は、隣の自分に問いかけた。


「…ねぇ」

「…どうした?」

「……あいつも、寂しかったのかな…」

「……そうかもね」


「ウタ」死亡まで、残り10分


to be continued…


〜〜

『"ゴムゴムの魔王覇歌唱銃"』

<ゴムゴムのエルケーニッヒオーバーソングガン>

ルフィとウタの連携技。

覇猿王銃と終焉鎮魂歌の合わせ技であり、

2つの覇気を纏った全力の拳を叩きつける。

名称は覇猿王銃にあやかったもの。

魔王と解放の神の2つの拳に打ち破れぬものなし。

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